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クルミ 50 灰色の狐

前回

母の生き様を知ったお順、一夜にて灰色となる。


はじまり、はじまり


挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
haiironokitune.jpg

「悪口をつく元気もなさそうですね」

「あたい、、、あたい悔やんでます...母親に会って謝りたいッ
謝りたいッ!・・・唐カンさんにもぉッツ・・・」

「お由はまた狐として産まれたいと申しておりました。そして多分、唐カンもそうなるでしょう。今度はあの二人が障害なく結ばれるような生き方をすることになるでしょう」

「あたい・・・あたいはあの二人の子になりたいッ!
子になって今度こそ、親孝行をしたいッ!!

「今のお前ではその願いは叶わぬ」

「どうしたらいいのですか?どうすればいいのですか?
どうか教えて下さいッ!!

「お前は唐カンと会うまで母親を思い出す事なく生きてきた。他方ではお前憎しで母親を忘れぬ者がいる、、、其れは誰であろう?」

「....そ、それは...コノミとクルミだと思います」

「その通りよ。己の非道は親を忘れ、子を忘れてきた事に尽きる。双方共にお前を必要としてきたと云うに、哀れではないか。

お由はお前に恥じぬ生き方をしたのに、お前は泥に塗(まみ)れていた。親とは名ばかり、まともに子育てもしないお前を恨む事なく、仲良く生きていた。なのに姉妹の仲を裂き、コノミを僅(わず)かな銭で売り、またクルミを売ろうとした。

コノミの哀しみは暗く深い。なれど愛情深き娘はお前の母親の看護を知らずにしている」

えっえぇーー!?それって母が看護してもらった豆腐屋のおかみさん?・・・」

「これも天の計らいなのであろう。お由は最後に己の孫に面倒を看てもらえた。そうとも知らずに感謝して、、、」

「ぅッ、ぅうううっ、、、うわぁああーーーーんッツ

「お順。お前がこの世で為さねばならぬことは、コノミに心の底から詫びることではないか?そして唐カンの遺言通りに櫛をコノミに届けること。だが、すぐに許されることはないだろう」

「でも、あたいのこと恨んでいるのに会ってもらえるのでしょうか?」

「お順、何故分からぬ?恨みが深いと云うのは愛情がそれだけ深いと云える。愛憎とは裏返し、クルミの母にもなろうとした情愛深きコノミが、産みの母を憎まなくてはならぬ、その身の不幸を哀れとは思わぬか。

心にそんな闇を抱え、この先を生きさせるのか?お前があの子の闇を払わずに誰が払える!!

あたいです!あたいがする事ですっ!」

「この櫛を持ち、今から粒傘村に向けて出立するがいい。信竹に支度をしてもらいなさい」

「はい!」

「心晴れる生き方をしてみなさい」

はい!ありがとうございますッ!」

「紫狼、紋次の糸を解いてお上げ」

「はい」

紫狼は呪文を唱え、尾に付いた糸を切る。お順は体が軽くなった気がした。

「これでお前の尾には糸はない。逃ぐる気があれば雑作もないであろう...するもしないもお前の勝手」

「わかりました!行って参ります!

母の形見の櫛を持ち、お順は旅立つ。

「ふふ、岩平も信竹もご苦労様でしたね」

「とんでもございません」

「あたしは何もしてませんから」

「岩平は一般病棟の院長も兼務しているのだからいいのですよ。それに信竹、いつもありがとう」

「そんな勿体のうございます!あたしのような只の医者にこんな大役を仰せつかりまして、身に余る光栄です」

「信竹は只の医者ではありませんよ。ここには生涯を終える為に来る者ばかり、そして看護する者は曰(いわ)くつきの者ばかり、、、生半(なまなか)の者にできる仕事ではありません。それを事故一つ起こさずに、今日まで成し遂げています。大したものですよ」

「本当に立派ですよ」

「紫狼様まで、お恥ずかしいことです」

「それから源吉は学校にきちんと通っています。中々に良い筋らしいですよ」

「そうですか!こ助も喜びますね」

「そう云えば、こ助の魂はもう一度狸になりたいと夜し吉に願ったそうです。あの家族も今度は事故なく平穏に暮らせる様になるでしょう」

「ありがとうございます」

「紫狼、心配そうな顔をしてますね」

「お順に糸がないので・・・」

「ふふ、あれもクルミの親。こうまでしてお順を構うのも全てクルミ可愛さから、クルミもこのままでは寂しすぎます」

「そうだったのですか!?」

「あのお順は恵み子様の母親なのですかっ?」

「二人には言い損ねていたがそれ故、蟻牢の者でないにも関わらず、ここに来させたと云う事です」

「成るほどー!合点しました」

「クルミに会えるような母親になって欲しいですね」

「なるしかないでしょう、お由の子に今一度なりたければ」

「そうですね」









つづく






木曜日にアップするつもりでしたが、熱が下がらず、
ボーっとしていて頭が働かないのです。
終わりも近くなり、ホッとしたのか、気が緩んだのか
しつこい風邪をひいてしまい、治りません。
一日延ばしにするのは申し訳ないので、
来週の水曜日にアップをしたいと思います。
コメ返も遅れてしまって、本当にスミマセン。
お許し下さい。


ぴゆう

クルミ 49 母の生き様

前回

唐カンから母が既に亡くなったことを知ったお順。


はじまり、はじまり



お順が出て行った後、お由は悲観し死のうとしたらしい。唐カンに止められ何とか踏み止まったが、元に戻るのにはかなりの刻が必要だった。そんなお由がシャンとしたのには理由がある。

唐カンは生来のお狐良しから詐欺師にころりと騙され、気が付いた時には蔵が何棟もあったと云うお大尽の身から、一気に無一文になってしまう。唐カンは戸惑い慌てる!考えてみれば自分には何の手に職なく、先祖の遺産に胡座(あぐら)を掻いているだけだったと悔やみ嘆く。

今まで世話した者に相談しても手の平を返したように冷たい返事、どうにもならなくなって泣いていると、お由に『しっかりしろ!』と背中を叩かれる。お由は持ち前の負けん気で『今度はあたしが恩を返す番ですよ』と云い、しゃにむに働き始めた。

借金は昔、唐カンの世話のお陰で成功している者と交渉し銭を引き出させ、あっという間に返済する。そしてその後、お由が働いて唐カンを食べさせてきたと云うのだ。

『自分は只の木偶の坊だった・・・』と泣く。ショックから立ち直って働いても、微々たる稼ぎ、それでもお由は『旦那様はお坊ちゃんなんだから無理しないで下さい』と慰める。

そんなお由に『こんな自分でも一緒になって欲しい』と懇願するが、『娘の許しを貰えないから駄目です!』ときっぱり拒絶された。唐カンはお由に報いる術(すべ)無く、一つだけ残っていた立派な紅葉の蒔絵の櫛を贈る、お由は生涯、大切にしてくれた。今、その櫛は唐カンの手元に在る。

「その後どうしなさったの」

「はい、少しだけ余裕ができ、二人で温泉に参ろうと云う事になりました。お由さんが珍しく『五黄様温泉に行ってみたい』とは初めて云われました。

五黄様温泉はガス病院にあります、少し胃の腑の調子も良くないから、次いでに診てもらおうと軽い気持ちで旅に出ました」

「狐国からは遠いいのに」

「狐国はとうに出ていました、あたし達は東街道沿いにある旅籠で下働きをしていたのです。お店からお暇を頂戴してわずか十日余り、粒傘村に差し掛かった辺りで、お由さんは急に苦しみだしたのです。その苦しみようと云ったらとても辛そうでした。

あたしが途方に暮れていると丁度、引き売りの豆腐屋さんと出会いました、そのお方は桶の豆腐をその場に置いて、苦しむお由さんを荷車に乗せて下さり、店まで連れて行って下さいました。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
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そこのおかみさんも大変に、ご親切なお方で身内のように看病して下さいました。都合三日程、お世話になりました。お礼に少しばかりのお銭を渡そうとしましたが、何としても受け取って下さいません。

あたし達は何度もお礼を云って旅立ちました。お由さんはその後、一週間もしない内に亡くなりました。お由さんは最後に『親切にしてくれた豆腐屋のおかみさんにこの櫛を上げたい』と言ってました。あたしも受け取って頂きたいのですが、こんな情けない有様になってしまい、どうにも仕様がなくて・・・」

お順は唐カンの話しに衝撃を受ける。

母親を今まで一度たりとも思い出す事もなくきた、己の非情に言葉もない。それなのに、こんな自分と会いたがっていてくれた、母親の生き方は徹頭徹尾、愛情に溢れていた。そして、狐としての道を踏み外す事もなくどこまでも美しい。

それは己の生き様と比べる事すら非礼な程、立派だった。唐カンと心底、添い遂げさせてやれば良かったと今更、後悔しても詮無い事。又唐カンも心清き狐だった、二人が労りあい、思いやりあいながら生きてきた姿が目に浮かぶようだ。

お順の岩のように冷たい心の氷が溶ける、だがお順の罪は深い。

唐カンは話すだけ話すと、心の重荷が取れたかのようにがっくりと項垂(うなだ)れてしまう。既に虫の息だ、急いで院長の岩平の診療を受けたが、そのまま回復する事もなく逝く。お順は何をする事もできないままに終わる。唐カンの遺体に取りすがって泣く。

「唐カンさん!唐カンさーん!
お順です、お由の娘のお順ですッ!どうかお許し下さいッ、お許し下さいぃ・・・・」

後悔した、後悔と云う言葉の意味を初めて知る、悔やむ心がお順を変えた。お順は一夜にして全身灰色になってしまう。クルミやコノミのように耳や尾が赤い、美しい狐が燻(くす)んだ灰色になったのだ。

信竹は岩平と相談して茂吉に来てもらう事にする。茂吉は紫狼も連れて来た、お順は信竹に呼ばれ、部屋に行く。そこには忘れもしない二人がいた、以前なら平気で悪たれもついたろうが、今ではそんな気も根性もなくなっていた。

しょぼくれた姿を見せるお順。余りの変わり様に驚く、曾(かつ)ての面影更になく、歳までとった様にさえ見える。

「お順、久しぶりですね」

「・・・・」








つづく






今回はお由の為に、華やかで温かな雰囲気を描きたかった。
温かい雰囲気に描けましたが、華やかさが足りませんでした。
そこで、園長さんがきっかけでリン友になりました
○●◎サツキ盆栽通信◎●○
園主さんに海ほたると蓮月をお借りしました。
とてもよい雰囲気になったと思っています。
快諾して下さった園主さんに心より御礼を申し上げます。


ぴゆう

クルミ 48 知ってしまった

前回

源吉の話に何かを感じるのだろうか?


はじまり、はじまり



源吉は大声を上げ、泣いて泣いて泣き抜いた。そして、よれよれしながら立つとお順が差し出す手を振り払い、ふらふらと花畑の中をどこまでも歩いて行く。

お順はぼーっとしてしまった...源吉の話しを考えたり、信竹の言葉を思い出す。ここは罪人が万分の一でも罪滅ぼしする場所...そして源吉の『時間がねえんだよ』と云った言葉。

もしかしたら自分が看護してる爺狐は関わりあいの在るものなのか?名前さえ訊いていなかった。急いで女郎花の部屋に取って返す、ちょうど爺狐は目が覚めていた。吸い口を飲ませてから、初めて名前を訊く。

「今更、尋ねるのも何なんだけど、名前は何て云うのさ」

「ああそうでしたね。あたしは唐(から)カンという者です、あなたは?」

その名前を聞くと真っ青になり、部屋を大急ぎで出て行く。忘れようとしても忘れられない名前だ。喉に引っ掛かった骨のように・・

その昔、母とお順を引き取ってくれた篤志家の狐。長じるまで世話になりながら何の恩返しもせず、挙げ句の果て、母との仲を邪推し、罵り、銭を盗んで出奔した相手だった。

でも唐カンはお大尽だった筈。どうしてこんな所に?それに母親は?、、、考えれば、考える程分からなくなった...何をどうすればいいのかもわからずに歩く。ふと気付くと信竹が目の前にいる。

「唐カンの具合はどうかな?」

「あッ、あの・・・唐カンって、あの唐カンなんですか?」

「他に唐カンはおらぬ。お前の償いを受け止めてもらえるよう、尽くすしかないわな」

「あの、、、ご存知なのですか?」

「知らぬでどうする、その為にここはある」

「あの・・・」

「唐カンより聞く事よ」

信竹はそう云うと去って行く。お順はとにかく話しを聞いてみようと思い直し、部屋に戻る。

「どうしたんですか?突然部屋を出られて」

「ああ、すまなかったよ、気にしないでおくれよ」

「そうですか、それじゃ少し休みます」

唐カンは余程、具合が悪いのであろう。顔色が青い。その日は到頭、訊かずじまい、頭の整理ができてはいなかったからだと言分けをする。

翌日になり、又その翌日になっても訊けない。逡巡をしている時に部屋の戸を叩く者がいた。出てみると源吉が立っている。

「どうも。俺はここを出て行く事になったんでそれで挨拶しとこうと思ってね」

「それはご丁寧に。でも一体どこへ?」

「へへ、これ見ておくんなよ」

源吉が差し出したのは何の飾りもない小箱だ。古びてはいたが作りが確(しっか)りしている、何よりも木目が美しい。

「すてきな小箱だね」

「そうだろう!これはこ助さんがこさえたもんなんだよ。かみさんへお作りなすった物なんだが、今じゃたった一つの形見だよ。俺にって頂いたんだ」

「いい物貰ったね」

「ああ。これを見ていると、こ助さんの丁寧な仕事の一端でもわかるよ」

「わかるようなことをお言いだね」

「へへ、俺さあ、指物師になろうと思ってるんだ。今からじゃ遅えけど何事もやる気だろ?
信竹様が口聞いてくれて、職人の学校に入れてもらえるようになったんだよ。こ助さんが憧れていた桑師(くわし)になれるように頑張るんだ」

「何だい、桑師って?」

「指物師の中でも桑って堅い木材を扱う特別なお方だよ。生半の者には出来ねえそうだ。俺もいつかはそんなお方に成れるように頑張るんだよ」

「へー、頑張りなよね!」

「ああ。それでお前さんはよ、訊けたのかよ?」

「・・・」

しっかりしろよ!これだけは言っといてやるよ。こちらに来る御病人さんは、間違いなく良いお方達なんだ!俺達みてえにあら探しや裏切り、深読みなんてすることはねえんだ。

そんな正直者だから貧乏くじをお引きなすったんだよ。素直に訊けば、包み隠さずお答え下さるよ。とにかく言ってみな、愚図愚図してる暇はねえんだよ!」

「う、うん、ありがとう」

「へへ、少しは素直になったな。じゃあな!」

源吉はそうして病院から去って行った。その後の源吉は血の滲むような苦労の末、学校を卒業すると有名な桑師に弟子入りし、修業を重ね、到頭、立派な桑師となる。お順は源吉に後押しされるよう、思い切って唐カンに訊く事にした。

「今日は気分良さそうだね」

「ええ」

「中庭に行ってみようよ。鈴蘭百合が綺麗だよ」

唐カンは初めて中庭に連れて来られ、酷く感激したようだった。

わーー!なんて素晴らしい事でしょう!天国みたいですよ。お由(よし)さんに見せたかったなあ」

【お由】とは紛れもないお順の母親の名前だ。お順はとぼけて訊いてみる。

「お由さんってどなたです?」

「あたしの終生変わらぬ友達でもあり、同士でもあり、好いたお方です」

「おかみさんですか?」

「いいえ、結局、添えませんでした。お嬢さんの許しを貰えなかったのでね」

「え?・・・でも、一緒に暮らしていたのでしょう?」

「家は一緒でも、あの方はまるで下僕のようにあたしに使えて下さいました。あのくらいの事を死ぬまで恩に着て、、、」

「あの、、、それじゃ、亡くなったんですか!?」

「はい、ついこないだに、、、到頭、一人娘と会えず終いでした」

「・・・・」

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つづく



クルミ 47 雪の夜

前回

無理やり座らされたお順、源吉は何を話すのだろう。


はじまり、はじまり


「耳さえ聞いてりゃいいって事さ」

「ふん、さっさと話しなよ」

「俺は掴まるまで大盗賊だのと云われていい気になっていた...墨吐きなんて二つ名も烏賊が墨吐いて逃げちまうみたいに鮮やかに盗みに入っていたからさ。

家人を殺めるなんて一度もないし、盗みに入ったお店(たな)が潰れたなんて聞いた事もねえ。まっ、其れが盗人の俺のちっぽけな誇りだったと思いねぇ」

「・・・」

「掴まって『魂沈めされても悔いなき!』ってな。それが有無も云わせず蟻牢だ!魂沈めじゃねえ。命あるだけ、まあいいかって片っぽじゃそうも思っていたさ...それで三年経って病人の世話だとよ。

何かあるのかと最初はびくびくしていたが、一向にそんな気配もねえ。その内に暇なもんで、病人と話すようになった・・・適当な奴もいなかったしな」

「あんただって適当にしていたんじゃないか!」

「そうさ。こ助さんも最初は手も懸からねえで、どこが病気なのかと思う程元気だったんだ。だけど、お前は聞いた事あるかい?こんな言葉。[治る病は卍宿、見込みあるならガス病院、死んで帰ろう裏卍]」

「何よ、それ」

「ここはその【裏卍】なんだよ。普通の者には縁がねえ、訳あり者の居る場所さ」

「そしたら、あんたの病人も罪人なのかい?」

とんでもねえッ、とんでもねえ話しさッ!
お天道様が逆さになっても有り得ねえ話よっ!!」

「そうなの?」

「ああ、そうさ!お前はお世話しているご仁の事を、何も知らねえままで済ます気か?」

「あたいは来たばかりだし、そんな暇はないよ」

「何が来たばかりだ!愚図愚図してりゃあ、泣きを見るのはお前さ・・・今のうち、今のうちに話さなきゃ駄目なんだよっ」

「え?・・・」

「こ助さんは俺に気を許してくれ、話すも辛い過去を話してくれるようになったんだ・・・あのお方は腕のいい指物師(さしものし)だったんだよ。その日はご贔屓の旦那に頼まれ、こさえた箪笥を届けに出掛けていたらしいんだ。

旦那にえらく喜ばれて、つい話し込むうちにすっかり遅くなっちまったらしい。その晩はひどく雪が降って来て足下も悪いって、気が進まなかったが旦那に無理に止められ、結局お屋敷に泊まる事になったそうだ。雪深い夜で一晩で驚く程降り積もったらしい。

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朝になって旦那から過分にお代を頂戴して、雪を掻き分け、掻き分け家路に急いだそうだ。其れと云うのも、おかみさんが足を怪我されていて、松葉杖なくては歩く事も出来ない上に、乳飲み児もいるんで朝飯に間に合うようにと急いだ。

だが雪がひどく積もっていたから難儀して、どうにか家に辿り着いた時はすでに昼過ぎだったらしい。戸にまで降り積もっていた雪を退かして漸(ようや)く家に入ると、えらく家の中が寒かったそうだ。

戸の近くに不思議にも炭が置いてあった、、、まだ燻(くすぶ)っていたのもあったらしい。こ助さんはおかみさんが気を利かして家に入ったら暖かいように、玄関の土間に炭でも置いていたのかと思ったそうだ。

とにかく寒いから囲炉裏の火を点けようと、ふと開いてる襖の先を見たらおかみさんがまだ寝ていたらしい。こ助さんは少し腹が立った『亭主が仕事から帰って来たのに起きてもいいんじゃないか?』ってな。

『いい加減に起きろ、昼過ぎだぞ!』って怒っても知らんぷりしてる。その内、変だなと思い、かみさんの顔を見ると息をしていない焦って隣の赤子を見ると、その子も息がない

後でわかった事だが、玄関の土間で焚いた炭が原因だったらしい。運悪く、雪が家を包むように降り積もったから、悪い煙が抜ける事なく家中に充満したらしい。

その内に炭が不完全燃焼とか云う変な状態になってどんどん悪いものを出した。かみさんも赤子もそんな事とは知らずにお亡くなりなった・・・」

「あんたと関係ないじゃない」

「いいや、間違いなく俺の所為なんだよ。俺はあの日、博打で摩(す)っちまって銭がねえわ、雪が降ってきやがったから野宿も出来ねえ。それで歩いていたら丁度お誂(あつら)え向きに一軒家があったのさ。様子を伺ってみると家人はもう寝ている。

そっと戸を引いてみたら、なんと開いた、心張り棒をかっていなかったんだ。今思えば、こ助さんの帰りを待っていたからなんだろうな...俺は『しめた!』と思って家に入り、家人にバレないように注意して竃(かまど)に火を熾(おこ)した。

だけど竃を向いていたら、いつ誰かが起きて来てもとっさにはわからねえから、いつでも逃げる事が出来るように引き戸のそばに薪を置いて、暖を取りだした。しばらくそうしていたよ。

その内、もう少し先に行けば朝太郎っていう知り合いの野郎の塒(ねぐら)が近所だった事を思いだした。何もこんなとこでしょぼい真似してなくたって、そいつのとこに行けばいいんだって。それで俺は焚き火の後始末をする事もなく出て行ったのさ」

「それがこ助さんの家だったの?」

「ああ、俺の考えなしがあのお方を不幸のどん底に蹴落(けお)としたのよっ。こ助さんは恋女房と初めての子供を一辺に亡くされた...それからは荒れなすって酒に、博打とあっという間に身を持ち崩した。肝の臓をやられるのも無理のない程の酒浸り、それで結局、ここに来られた訳だよ」

「だけど、それって事故じゃないの!あんただって好きでした訳じゃないし」

「そうかね?態とじゃなかったら良いのかよっ?やるとてやったわけじゃねえってな。そんな事はてめえに言い聞かせる慰めにしかなんねえよ。

だけど俺は一瞬、あの時、水をかけようかと思ったんだ!だが面倒だから『いいや』って、そのままにして行ったのよ。俺はてめえがした行動がこ助さんを不幸にした事だけはわかった。

少しでも気働きをすればこう成る事は分かり切っていた筈、、、俺の心ない行為がこ助さんの一生を台無しにしちまった、
もう取り返しがつかねえッ

「その事をこ助さんは知っていたの?」

「どうしようかと迷った、、、あの方の狸柄に触れると居たたまれなかった・・・だけど卑怯者の俺にはどうしても言えなかった。喉まで出かかったが言えねえ・・・

その内にあの方は目が見えなくなり、耳が聞こえなくなりと段々、弱りなさってきた。俺はこ助さんの聞こえない耳に話したよ...聞こえないとわかっていたから・・・何とか言えた。

そしたらあの方は・・・心で聞いて下さったんだな、泪を流しながら、『いいよ、いいんだ、これも運命だったんだ』って、、、」










つづく



クルミ 46 源吉とお順

前回

嫌だと言っても重病人の世話をさせられるお順。


はじまり、はじまり



お順は仕方なく部屋に戻る。折角ものを尋ねているのに、何て不親切なんだろうと腹が立って仕方ない。そのままふて寝しようと畳に横になってみたが、腹が空いて来た。

「ちょいと爺さん!食事はどうなっているんだい?」

「あたしはよく知りませんが、お昼にはいつもお粥を頂いています」

「違うよ、どこで食事を貰いに行くんだよッ、あんたのはわかるけどあたいのだよ」

「さあ、、、それは...げほげほっ」

「ああー、たまんないよッ!仕方ないや信竹に訊きに行くよ」

迷いながらも何とか信竹の居る部屋に辿り着く、中腹で尋ねると信竹は先程より一層、冷たく言い放つ。

「お前は一体何様のつもりよ?ここは罪人が万分の一の罪滅ぼしの為にある場所。お前は部屋にある帳面を見たか?部屋の帳面に決まり事が事細かく書いてあるわ!それでも尚、分からぬ事を尋ねるのはわかるが、そんなこともしていない、、、呆れたものよ、
下がるがいいわ

取りつく島もなかった。お順はガス病院と全く違う事を沁みじみ感じる。ガス病院では不貞腐れていてもレレ達が何やかんやと声を掛けてくれた...

今思えば親切に何でも教えてくれた。何よりも明るかった。笑い声がいつもしているような病院だったが、ここはまるで違う。何かが張り詰め、空気まで違う気がする。

すごすご部屋に戻り、帳面を探すと確かに畳の上に置いてある。古びている帳面には院内の地図も時間割も何もかも書いてあった。此の部屋は女郎花(おみなえし)という名前らしい。

其れから二週間余り、病人とほとんど話す事もなく淡々と仕事をこなしていた。病人は手間も懸からずに至極大人しく、食事をさせ寝かせると手持ち無沙汰になる。

ふと『あの鈴蘭百合の花畑に行ってみよう』と思った。廊下を歩いても誰とも会わない、相変わらず静か過ぎてもの悲しい。花畑が近づいてくると堪らなく良い薫りが漂ってくる。

腹立ち紛れで中庭を通った時は、薫りにも気付かなかった...考えれば勝手なものだ。中庭と云っても広く、どこまでも花畑が続いているように思えた。どんどん歩いて行くと先の方に誰か居る。座り込んでいるようで 、どうかしたのかと思って急いで駆け寄る。

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「どうしたんだい?加減が悪いのかい?」

声をかけたのを後悔した、、、振り向いたのはあの不親切な猫だった。どうやら嗚咽を漏らしていたようだ。涙を拭いもせず、振り返る。

「とんだとこを見られたぜ、墨吐きの源吉も形無しだぜっ」

「えっ?あんた、墨吐きってあの盗人で有名な?」

「今じゃ只の下働きだ、だけどそれも終わっちまった・・・」

「どう云う事だよ?」

「ふん、俺の大切なお方が今朝方、亡くなっちまったのよ。もっともっとお世話したかったのによ・・・あんなに喜んで下さってよ、俺の無骨な手に体を預けなすって、逝っちまった、、、」

「まあ、あんたが気を落とすのも無理はないさ、世話してる病人が死ねば誰だってね。だけどあたいらが面倒見ているのは余命が無い者なんだから仕方ないよ」

てめえ!呆れるぜっ、お前は何にも知らねえみたいだな。あのお方の余命がなくなったのも全て俺の所為なんだよ!不幸な一生にしたのも全部俺の所為なんだ、俺が命を縮めたんだ!」

「え?何でだよ?・・」

「これも俺のしてのけた罪なんだろう、、、おめえも同じ捕縛糸の有る身の上、満更、縁がねえ訳じゃねえしな、話すのも辛えが仏の供養にもなるだろ」

「・・・」

「俺は蟻牢に三年入れられていた。根性が治らねえから逆らってばかりで、蟻酸も散々かけられたよ。見てみなよ」

源吉の体の至る所に残るやけどの跡を見た、声もない。

「その内に逆らう気が失せて、大人しくなったふりをしてみたと思いねえ」

「ふりだったのかえ?」

「ああそうさ。だけどそんな事は御係所のお役人様はお見通しだったよ。後で気が付いたんだが、こ助さんがこちらに来るまでの間の繋ぎに収容されていたのかも」

「こ助さんって?」

「俺のお世話したお方だよ。俺はまんまと役人を騙したと思ってほくそ笑んでたさ。なあに病人の世話なんて云ったって、適当にこなしてりゃいいし、何よりも見張りもなければ、院内なら出歩くのも自由なんだ。

こんな願ってもねえ事はねえ!端から大人しくしてりゃ良かったってよ!ってな。傷跡嘗めながら思ったもんだぜ」

「ふーん」

「おめえもそうだろうよ、適当にしているだけだろ?」

「えっ?あっ、あたいは誠心誠意、真心尽くして面倒見てるよ」

「ふん、嘘つけ!そんな玉かよ、そんなご立派なお方の尾に捕縛糸は付いてねえよ」

「何さッ」

「第一、てめえは面倒見ているお方の名前くらいは知ってんだろうな?」

「えっ?・・・そっ、それは、、、」

「やっぱりな!名前も知らねえご仁に誠心誠意だってよっ、笑わせるぜ」

「ふん!もういいやね、こっちが大人しく聞いてりゃ、ずけずけと、もういいよッ!

腹が立ってその場から去ろうとしたが、源吉に手をがっちり握られた。

「何するんだよッ、離しやがれ!

「離さねえよ!てめえには時間がねえんだよっ、俺っちの話しはどうでも聞くんだな」

源吉に無理矢理に座らせられたお順はそっぽを向いた。






つづく


プロフィール

 のくにぴゆう

Author: のくにぴゆう
猫国の住民達の物語を書いています。
作者はコメを食べて生きてます。
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