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時雨のお波 2 べ一

前回

世の吉から耳寄り情報を聞いた五斗吉はノリノリになる。世の吉はと言うとお陽を騙し耳毛を染めてもらい準備万端だ、菰傘の阿呆コンビは何処に行くのやら?


はじまり、はじまり



「お種~父ちゃんはよ?」

「いないょ、あたい達に飯は喰っとけってさ」

「なんて男だろッ、こんなちびを放っといてさ!」

「居ない方が清々するも~ん」

「お種ったら」

「だってー、いれば五月蝿いだけでしょ?あたいは、よ吉とひらがなのお勉強してる方が好いもの」

(よ吉は三吉が旅立った後に生まれた次男坊である。まだ赤ちゃん猫)

「まったく!呆れたスットコドッコイだよッ」

「母ちゃん、あたい味噌汁温めてくるよ」

「亭主より役に立つよ」

「父ちゃん、いらないね」

「本当だ」

「にゃははは」

「ははは」

「ニャ~ニャ~」

世の吉は浮き浮きしながら静かな通りを歩く。五斗の店の前に着くと、小粒の石を投げる。

ゴゾゴソ・・・

「兄ぃ・・・」

「早く来いよ」

「へい」

二人は疚(やま)しさもあるのか、何故か駆け出す。

兄いってばー何で駈けるんですよー!」

「あっ、そうか!汗かいたら臭くなっちまう、
お~いけねえいけねえ、汗臭いなんて近頃流行らねえ」

「こんな先でしたっけ?」

「いいから付いて来な」

「あれ?兄い、なんか耳毛が綺麗ですよ」

「ふふーん、わかる?」

「わかりますよ」

「お陽にね、やってもらったの」


汚ねえーッ、

そりゃあんまり汚ねえよ!



「何でよ?」

「あっしには『行くな』って言ってたのに、自分だけ、、、
狡(ずる)過ぎる」

ジロッ


ギョッ



「お、お陽がさ『練習したい』って言うから無理矢理されちゃったよ~云わば実験台だよ?ったく参ったよー」

「そうなんですか?」

「当たり前だの引っ込んでろだよ、俺が可愛い五斗ちゃんを裏切る訳ないでしょ?」

「そうですかね?」

もう~何言ってんの?只でさえ、男振りが好い俺がよ、そこまでやっちゃいけないだろ」

「・・・」

「だってそれじゃあ五斗があんまり可哀相だよ、だろ?」

「へぃ・・・」

「なら行こう!」

五斗吉は納得いかなかったが、舌を出す世の吉はサッサと行ってしまう。店が近づくにつれ、段々賑やかな太鼓の音が聞こえて来る。

「あれ?あれは佐吉の太鼓じゃねえか?あの野郎ー、油断がならねえッ」

お囃子(はやし)も混じっている。

ちっきしょー!一吉の野郎もいやがるッ、
おう、五斗!こうしちゃいられねえ、行くぞ!

「へっ?へいッ!」

騒々しい音が洩れている。赤提灯に【べ一】と書いてある、どうやらこれで『ベッピン』と読むらしい。

「お波ちゃ~ん、来たよ~」

後から暖簾(のれん)を掻き分けた五斗吉は驚いた、村中の男達が居るようだ。

「あら、世のさんいらしゃい。あら素敵なお方、お連れさんなの?」

「そんな代物じゃないよ、五斗って云う干物臭いの」


兄いッ


「うそ、うそ、五斗さんてこんな素敵な方だったの~?あたいお波です、宜しくご贔屓に」

「でへへ、そんな素敵なんてえ、、、」

「お波、こんなの放っといてさ、俺との約束どうなってるのよ~」

「もう知りませんよ」

「座敷は空いてねえのかよ」

「あいすいません、一杯なの」

「しょうがねえや、適当に座るわ」

「すみません、それじゃお銚子をお持ちしますね」

お波ちゃ~ん、こっち充てがないよ、なんか見繕ってよー」

「はぁーい!梅さん、ちょんの間、お待ちを」

「おい、ここに座んなよ」

「へい」

どうにも狭い店内に膝付き合わせて男達が呑んでいる。世の吉と五斗吉が座ると、押された端の亀爺が落っこちた。

ドタッ


いてえッ、何すんだ!


「爺、威勢が良いな」

何をッ?世の吉ッ、表に出ろぃッ!

中からお波が急いでやって来る。

「もう亀さんたら~怒っちゃイヤですよ、それより呑んで下さいよ」

「だってお波ちゃーん、世の吉が、、、」

「ごめんなさいね、こんな手狭で。あたい皆さんに申し分けなくて、、、」

「いいんだよ、なっ?爺も我慢して座れるから」

「そうだよ、お波ちゃん、ほら、こうしてこうして」

亀爺さんが無理矢理、長椅子に座ると今度は端の五斗吉が飛ばされる。

あひゃー何すんだよー」

「五月蝿いね、五斗は黙ってなってぇの」

「あらあら、五斗さんにまで、、、あたい・・・」

「いいって、いいって、あっしは兄いの上に座りますから」

「ぶーー」

「さあ、兄い達も賑やかにやろうぜ!」

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります

beichi.jpg


一吉のお囃子、佐吉の太鼓が『デンデン』『ピーヒャララ』と騒がしい。


♪寄せてぇ返すはぁ波の常ぇえ~~♪

押してぇ引くのがぁ~恋の常ぇええ~~♪


酔っぱらい共が大合唱をしている、閉まっていた障子が開き、大きな白猫が顔を出す。

「お波、こっちにも酒を」

見ていた世の吉と五斗吉が驚いた。


つづく
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