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いただきもの ポール・プリッツ様より

落語「一六」


 えー、申し上げるまでもありませんが、われわれ猫族というのは神様ではございません。である以上、それなりの楽しみというものがないと生きていけないわけでございますな。

ことニャン間の三大悪徳とでも呼ぶべきものといったら、飲む、打つ、食うの三拍子でございまして、酒を飲んでばくちを打ち、うまいものを食ってすごせたらどれだけいいだろう、とは一度くらいは誰でも思うことでございます。

まあ、これも天下泰平のおかげでありまして、この天下が傾きでもしたら、ニャン間、「食う」こと以外に何も考えられなくなってしまうものであります。遠く人界では、なにか大変なことが起こって、まさにそういう状態になってしまったそうでありますな。

わたくしもよそから聞いただけなのでよく知りませんが、人界の騒動が早くおさまってくれる事を、向こうに住むわれらの親族である猫たちのためにも神様に祈る次第でございます。

 さて、ここからしばらく離れたところにある平傘村というこれといったこともない村に、コロ吉という猫が一匹住んでおりました。

 この猫、腕のいい畳職猫なのですが、名前からもおわかりのとおり、三大悪徳のうちでなにが好きといって、さいころを転がすのが大好き、というやつでございます。もっとも、三度の飯が食えなくなったらさいころを転がすこともできない、ということくらいは心得ていましたから、賭場へ行っても深入りはしない。

さいころを振って楽しく遊んだら、ほどほどに負けたところでさっと帰る、という、このままでは落語の主役にもなれないような猫でございます。

「ふら吉兄貴、団栗銭がなくなっちまったんで、あっしはそろそろ帰りますぜ。最後に残ったこの銭で、あっしのかわりに、みんなに酒をふるまってやっていただきてえんですが」

「おっ、それじゃ預かっとくぜ、コロ吉。おれは今日は馬鹿みたいにツイてるから、もうちょっと勝負する。月が出ているたあいえ、夜道は暗えから、気をつけて帰るんだぜ」

 帰り支度を始めたコロ吉にそう答えたのは、目の前に団栗銭を山のように積んだぶち猫、ふら吉でございます。この猫も腕のいいふすま職猫で、コロ吉の三軒隣の家に暮らしておりました。

昔、コロ吉がさいころ遊びに夢中になり、借りちゃいけないようなところから金を借りようとしたときにぶん殴って止めた男でもございます。それ以来、コロ吉はふら吉を兄貴と呼んで、猫生の師のように慕っておりました。

 賭場で飲んだ酒の酔いに、春の風が心地よい。空には月が白々と輝き、勝手知ったる田舎道、帰るのにもなんの心配もございません。

 いや、ひとつだけ心配事がございました。

「お幾……」

 コロ吉の隣の家に住んでいる、幼馴染の娘猫、お幾のことでございます。小生意気な子猫と思っていたところ、いつの間にやらたいそう美しい娘になっていたお幾に、コロ吉はすっかり惹かれていたのでございました。

 それとなく言葉を交わしてみたものの、どうもその思いがわからない。自分にまんざらでもないような気もするし、ほかに誰か思っている猫がいるようにも見える。どうやら、お幾は、結婚相手を誰かほかの猫とどちらを選ぶか、迷っているらしいのでございます。

「ああ……お幾と添い遂げられたらなあ……いいんだけどもなあ……」

 月を見ながらため息をつくと、ふとその耳に、なにやら音が聞こえてきた。

 ちりいん……。

 ちりいん……。

 何かと思ったら、なんでもない、ついさっきまで、自分がやっていたさいころ遊びの、丼にさいころを投げ入れるときの音でございました。

 はて。月夜とはいえこんな夜に、いったい誰がこんなさびしいところでさいころ遊びを。

 面妖に思ったコロ吉は、音がするほうへ足を向けました。

 ちりいん……。

 ちりいん……。

 音はまだ聞こえてきます。

 コロ吉が目を凝らすと、古びた小屋の軒先で、筵を敷いて座っている真っ黒な老猫が、目の前の丼に、さいころを投げ入れては拾っていたのでございます。

 その背後には、大きな字で、「一天地六」「無損勝負」と書いた白いのぼりが立ててありました。

 コロ吉は、怪しいと思うより先に面白くなりまして、

「おい爺さん、こんなところで賭場を開いたって、誰も来やしないよ。賭場は、もっと向こうの、蔵の中でやってるんだからな」

 老猫は、ちりいん……と丼にさいころを投げ入れながら答えました。

「お前は来たではないか」

 コロ吉は、ちょっと言葉に詰まりましたが、

「でも、あっしは、すかんぴんだ。団栗銭一粒たりとも、持っちゃいないよ」

「わしも持っとらん」

 老猫は、ちりいん……と、丼に、拾ったさいころを投げ入れました。

「じゃが、わしは別に、団栗銭などほしくはない」

「じゃ、爺さんは、なにが楽しくてさいころ遊びをしてるんだい」

「願いじゃ」

「願い?」

「さよう」

 老猫はうなずきました。

「わしは、道行くものと、『願い』を賭けてさいころの勝負をしている。わしに勝ったら、願いをかなえて進ぜよう」

「負けたら?」

 コロ吉は、ちょっとぞくっとしたものの、聞き返しました。

「なに、わしはしがない爺じゃ。お前をとって食ったりはせん。金もいらんし、物もいらん。そしてすべてはなるようになる。お主はなにも損することはないのじゃよ」

 コロ吉は、老猫の背後ののぼりを見ました。

「爺さん、願いをかなえてくれるというのは、ほんとうだろうな」

「もちろんじゃ。勝負してみるか?」

 コロ吉は、老猫の前に座り込みました。

「いいだろう。爺さん、あっしは、お幾って娘に惚れている。あっしが勝ったら、お幾と添い遂げさせてくれ」

「ほう。そのようなものでよいのか。では、さいころを取れ。わしが振ったら、いかさまを疑われるからな」

「どうすればいい?」

 コロ吉は、受け取った三つのさいころを手に、尋ねました。さいころに、なにかが仕込んであるようには見えません。

「この三つのさいころを振り、六の目が出たら、わしの勝ち。一の目が出たら、お前の勝ちじゃ。どちらも一つずつ出るか、一も六もまったく出なかったら、勝負なしでもう一度振る。ただし、六六一は、わしの勝ち。一一六は、お前の勝ちじゃ。いいかな?」

「いいとも」

 コロ吉は、威勢よく、丼にさいころ三つを投げ入れました。

 ちりいん……。

 老猫は低く笑いました。

「二二五か。もう一度振れ」

 空に浮かぶ月には、ゆっくりと雲がかかりつつありました。

 コロ吉は振りました。

 ちりいん……。

 ちりいん……。

 何度振っても、なかなか一も六も出ません。たまに出たとしても、一と六が一緒に出て、勝負なしになってしまいます。

 ちりいん……。

 ちりいん……。

「そういやさ、爺さん」

 ちょっと苛立ってきたコロ吉は、老猫に話しかけました。

「お幾のやつ、あっしと、だれを天秤にかけているんだろう」

 老猫は、くつくつと笑いました。

「なに、お前、知らんかったのか。ふら吉だよ」

 コロ吉は、ぎょっとして、さいころを取り落としました。

 ちりいん……。

 さいころは、丼の中に落ちたようです。

「ふら吉兄貴……?」

「二三四か。これ、さいころを振らんかい」

 コロ吉はさいころを取りました。

「ふら吉兄貴が……」

「さよう。お幾はふら吉のことを好いておる。そのまま行けば、似合いの夫婦になったじゃろうなあ」

「知らなかった……」

 コロ吉はさいころを振り入れました。

 ちりいん……。

「お幾がお前に教えなかったのも、ふら吉とお前との仲を考えてのことじゃ」

「それじゃあ、あっしは、こんな勝負やってられねえ。ほかならぬ兄貴と、お幾ちゃんが幸せになれるのなら、あっしが横から入っていい筋合いはねえ」

「いや、お前はこの勝負を始めてしまった」

 老猫は顔を歪ませて笑いました。

「もう遅い……」

「こんなもの!」

 コロ吉は、さいころを後ろの茂みに投げ捨てました……。

 ちりいん……。

 投げ捨てたはずのさいころは、丼の中に落ちていました。

「一五六。まだ勝負はつかんな」

「爺さん! あんた、なにが楽しくて、こんな勝負をやっているんだ!」

 老猫はふっと遠い目をしました。

「わしは、猫の想いを食って生きておる……もし、お前が負けたら、お幾とふら吉の心から、お前を思う気持ちを食う……そうすれば、お前に対する思いやりなどなにも考えずに、お幾はふら吉と結ばれる」

「あ、あっしが勝ったら?」

 コロ吉は、さいころを丼に投げ入れました。

 ちりいん……。

「お幾とお前の心から、ふら吉を思う気持ちを食う……そうすれば、ふら吉のことなどどうでもよくなって、お幾とお前は結ばれる。簡単な話じゃろう?」

「そんなのどっちも嫌だ!」

 コロ吉は、さいころを老猫にぶつけようとしました。

 ちりいん……。

 さいころは、丼に落ちました。

「まだ、出ないのう……なかなか、面白い勝負ではないか」

 コロ吉は、顔色を真っ青にしながら、さいころを振り続けました。

 ちりいん……。

 ちりいん……。

 ちりいん……。

 ちりいん……。

 もう、何十度振ったかもわかりません。コロ吉が震える手でさいころを振ったとき、、雲が月をすっぽりと覆い隠しました。

(客席と舞台の明かりがふっと消える)

「あっ……出たっ……」




「クリスタルの断章」ポールからの戴きものでございます。
猫国を取り入れつつは中々難しいと思いますが、ちょっとゾッとして楽しい作品を戴きました。
怪談ものも楽しいなぁ~~
彼の作品はバラエティーに富んでいます。
紅蓮の街(長編)も終了したばかりなのに創作意欲はまるで衰えない。
すごいの一言でございます。
皆様も是非、遊びに行って下さい。
ゾッとしたり、笑ったりのショートショートも沢山あります。
私的にチョーお薦めは「輪ゴム」でございます。「ゴムひも」じゃなかった・・・へへ
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猫国の住民達の物語を書いています。
作者はコメを食べて生きてます。
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