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第八章 お蜜再び お蓑と呼ばれて1

前回

お蜜は且つて狐国の妹女王だった。本来は、姉のお風を手伝い、二人して狐国を守立てて生きていく事を定められていた。

しかし、勝手気侭(きまま)な性格はそのことを善しとせず、自分の我が儘(わがまま)を押し通し、乳母であるお熊と共に猫国入りした。五黄はお風との話し合い通りにお蜜を猫にする。

それから九百年もの間、その性格は変わる事なく、ますます酷くなっていた。貞吉達子分の窮状、乳母のお熊の必死の諫言(かんげん)を重く見た五黄に、お蜜は到頭、姿を変えられ放逐されてしまったのだった。(第五章、九尾のお蜜参照)


はじまり、はじまり


お蜜は五黄に村境まで飛ばされた。
暫く意識を失っていたが、モソモソと起き出した。

「まったくぅー!あたしの事をなんだと思っているのよッ、失礼しちゃうわッ!!」

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
kousuke1.jpg



♪ヒョイとひょいとヒョイとな~♪
銭さえあれば何でも買える~♪
何でも屋の甲介が~♪揃えられない物はない~♪
ヒョイとひょいとヒョイとな~♪


浮かれた声を上げながら、何でも屋の甲介が歌いながら歩いてる。

「あら甲介だわよ」

お蜜は霞(かす)む目を擦りこすりしながら、甲介の元に駈けって行く。

「ちょっとぉ~、甲介!甲介ってばぁー!」

甲介は聞き辛い濁声(だみごえ)に振り返った。

「ん?誰かな、俺を呼んでいるのは?」

「あたしよ、甲介!」

ひどく醜い猫に気が付くと、あからさまに嫌な顔をする。(ウェー)

「誰だいッ?」

「あたしよ!わからないの?」

「悪いが全くわからないね」

「何、言ってるのよッ!散々買ってやったじゃない!客の顔も忘れたのかいッ?」

「失礼だが、俺は一度でもお客になったお方の顔を、忘れることなど有りはしないんだ!何をふざけた事を言いやがるッ」

「このお蜜を・・・九尾のお蜜を忘れたのかいッ!?」

「お蜜様だとッ!?とんでもない事を言いやがる!たまげたメス猫だねッ!」

「まぁーッ!ちょいと、メス猫ってどう言う事よッ!?」

「悪い事は言わねえが、お前さん鏡を見た事ないのかい?それともお頭(つむり)がいけないのかい?」

「何を言うのよッ!あたしの日課は鏡を見て始まるのよッ!そう言えば埃(ほこり)も払ってなかったわ」

自分の横腹にあるポケットを探ると、美しい手鏡を取り出した。鏡を覗く。くもっているようで、じっーと見た。(ジィー)段々と焦点が合ってくると、、、叫んだ。


「きゃーッ!誰よ!誰なのよッ?この醜い猫はぁーーッ!?」


「自分で自分を醜いって言うメス猫も中々いないよ、変な猫だ。構ってる暇は俺には無いから、行かせてもらうぜ」

「ちょっとーッ!ちょっと待ってよッ!今はこんな姿をしているけど、正真正銘にお蜜なのよッ!!」

「懲りない猫だねー。そんなこと此の先の荳傘村(まめかさむら)で言ったら、お前みたいなメス猫でも子分さん方に袋叩きにされるよ。いい加減に世迷い言を言うんじゃないよ!」

言い張るお蜜を甲介は持て余した。

「そういや、あんたは大分目が悪そうだね?眼鏡でも掛けたらどうだよ。はっきりと見えるようになれば、自分の惚(とぼ)けた頭もすっきりしてくるかもよ」

目が見ずらいのは、鏡を見て気が付いていたので、仕方なく頷(うなづ)いた。

「そうか?そうだよ!眼鏡を売ってやるからよ、銭を寄越しな」

「幾らなの?」

「フン、そうさね~お前みたいに見窄(みずぼ)らしい柄の猫に、売るにはもったいないような人国製だが、、、
大して銭もないだろうから負けてやって、五団栗だな」

「えっ!そんなにするの?だって貞が買った時は二団栗だったわよ!」

「貞の兄貴まで懲りずに呼び捨てにしやがってッ!身の程知らずもいい加減にしな!!気に入らなきゃ買わなくて結構なんだよッ」

「わかったわよぉ、、、わかったから頂戴」

「はなからそうすりゃいいんだよ」

団栗餞を毟(むし)り取ると、甲介は背中に背負っている篭から桐箱を出した。

「ほらよ、一番高級な代物だ。この眼鏡を掛けりゃ、その惚けた目がきっとすっきりするぜ」

甲介は桐箱を押し付けると、逃げるように去って行った。

「なんだいッ、あの野郎は!あたしはお蜜だって言ってるのにッ!そりゃ姿はかなり違っているけど・・・・・」

桐箱を開けると女物の眼鏡が入っている。試しに掛けてみると途端に視野が広がった。

何もかも鮮明に見え出す。見えると自分の毛が泥色している事が良く分かった。


ギャッ、畜生めッ!五黄の奴といい、甲介といい!どいつもこいつもふざけやがってーッ!まっ、いいさ。こうして尾っぽを一振りすりゃ、いつもの奇麗なあたしに戻るんだ」


(フ、フフン)

縮こまっている尾っぽを振ろうとする。いくら振っても、いつものように体に尾が振れる感触が無い。何回も振る内に、いい加減に気が付く。

「何?どういうことなの?少しも柄が変わらない。そう言えば尾の感触が・・・」

恐る恐る尾に触れながら、背中を見てみる。


「ぎゃーーーッ!あたしの尾っぽがないッ!ないッ!!なんか汚く縮れてるのが付いてるぅぅーーッ」


激しく泣いた。自分の美しさがなくなったのだ。泣いて泣いて泣き疲れるまで泣いた。


「あたしはどうすればいいの??どうやって生きていけばいいのよぉぉーーーっ!」






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第八章 お蜜再び お蓑と呼ばれて2

前回

姿が変わったことを忘れ、何でも屋の甲介に声を掛ける、知らないと云われたり、醜い猫だとあからさまに言われる。腹が立ったが、目の悪さを指摘され、高い値段の眼鏡を買う。そして、気がつく。自分のあまりの変わり方に愕然とした、お蜜が出来る事は泣き叫ぶことだけだった。


はじまり、はじまり



お蜜はいつでも誰かの庇護(ひご)を受けて来た。
狐の時はお風に、猫になれば五黄に。何の心配もしないで我が儘(わがまま)を通して来た。

猫国に来た時もお熊に頼り切り、何の助けもしないで浮かれていた。
だからお熊が五黄に言った事は悉(ことごと)く当たっていたし、図星だったから尚更、腹が立った。

「そう言えば、お熊はどうしたんだっけ?
あの婆、あたしをあんなに悪し様に罵りやがって!
五黄が居たから魂抜きなんてこれ見よがしな真似をしたんだよッ、そうよそうに決まってる!

なんだいッ、、、あっ!でも・・・五黄が助けられなかったって言っていたわ。
もしかして・・・お熊ぁ、、、嘘だよ!お熊が死ぬわけないよ!あたしを置いて、、、

お熊ーッ、お熊ーッ!何してんだぁーい?あたしを、、、あたしを置・い・て、、、」

泣き叫んでも誰の返事も無い。
いつもならお熊が元気な声で『聞こえてますよ、全くお嬢の声は大きいのだから』と小言を言い乍(なが)らそばに来てくれる。

だけど今はお熊の声はしない。シーンと静まり返っている・・・
どこまでも続く、薄紫のスミレの景色が現実に戻す。

お熊が居ない事を初めて身に沁みて感じた。
気が付けば、辺りは夕刻になって来ている。自然と足は、屋敷がある荳傘村(まめかさむら)に向かっていた。何も考える事も出来ずに、とぼとぼと歩いていた。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
toku.jpg


お蜜は声を掛けられている事に気がつくが、自分ではないと思い歩き出す。

「すいません、ちょいとそこの方!そこの方ったら」

何度か呼ばれ、やっと自分が声を掛けられていたのだと分かり、振り返る。
声を掛けた相手は、お蜜の醜い顔を見てギョっとする。

相手の様子に気を悪くし、知らん振りして行こうとしたお蜜。

「ちょっと待って下さいよ、お願いですから。」

「いったい、何の用だい?だいたい、あたしの顔を見て驚く事はないだろう!」

「す、すみません。余り見かけた顔じゃなかったもんですから、、、」

「ふん、確かにどこにもないよ、こんなに顔が醜い猫はねッ!」

「へへ、そう言われたら身も蓋(ふた)もねえや。あんたを怒らすつもりで声を掛けたのじゃないですから、腹を納めて下さいよ」

「わかったよ!それで何だよ?」

相手は道に座って足を投げ出している。
その足には痛々しく包帯が巻いてあり、そばに松葉杖が転がっている。

「あっしはご覧通りの有り様でして、松葉杖が石に挟まって転んじまったんです。それでちょうど通りかかったお方に、起こすのを手伝って欲しいと頼みたかったんで、、、」

「それなら初めからそうお言いよ!」

邪険に相手を起こして、松葉杖を脇にあてがってやる。

「いててて、、、」

「男なんだから辛抱おしよ!」

「へい、有り難うございます。助かりました!」

「まっ、いいさ」

「あっしは徳と云いやす。姐さんは?」

「えっ?おみ・・・っ、、、【お蓑(おみの)】だよ。蓑虫みたいに汚い柄のお蓑だよ!」

すっかり捻くれてしまった。
ここで名前を言った処、貶(けな)されて悪し様に言われるがおち。とっさに【お蓑】と名乗った。

これからはお蜜でなくお蓑と呼ぶ事にする。

「へっ、あそうですか!ぴったりな名前!あ"っ、すみません、、、」

「いいよ、別に・・・仕方ないさ」

「あの~、処でお願いついでに、あっしを家まで連れて行っちゃくれませんか?」

「どうしてだい?松葉杖があるからもう歩けるだろが!」

「へい。それが、その松葉杖が折れてるようで・・・」

徳がすまなさそうにしている。確かに松葉杖は折れているようだ。
お蜜が邪険に扱ったせいもあるのか?徳が体重を掛けるとミシっと音がする。

なるべく体重を掛けないようにしているのが精一杯で、一歩も踏み出せないでいる。

「わかったよ、面倒な事だよ!」

徳の腕を自分の肩に回すと歩き出す。

「いててイテテ。あの、、、もう少しゆっくりお願いします」

「わかったよ」

生まれて初めて相手の歩調に合わせた。
今まで一度もした事がなかったので、こんな些細(ささい)な親切も大変なことだった。

「あのぅ、、、そういやお蓑さんはどこにお出でなんですか?こちらから先は荳傘村とお蜜姐御のお屋敷だけですぜ」

「知ってるわよ。だからあたしはお蜜様に用事があって・・・・・」

徳はお蓑の返事を聞いて考える風だった。

「あの、、、残念ですね」

「何がよ?」

「内緒の話なんですけど・・・」

「何よッ?勿体(もったい)ぶらないで言いなさいよ!」

「へい。お蜜姐御とお熊婆は、もうここにはいらしゃらねえんで」

確かに自分は屋敷にいないわと思った。





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第八章 お蜜再び お蓑と呼ばれて3

前回

姿の変わったことに戸惑いはあったものの、もしやしてお熊が居るかもしれない、貞吉はわかる筈だと、自分に言い聞かせながら、荳傘村へと急ぐ。途中で座り込んでいる徳に声をかけられた。面倒くさいと思いながらも肩を貸す、名前を訊かれ、その場の思いつきで「お蓑(みの)」と名乗る。


はじまり、はじまり



「だけどすぐに帰って来るのでしょ?」

「いえ、そうじゃないんで、、、お蓑さんはご存知ですか?姐御が銀毛九尾のお狐だって事」

「えッ、知らなかったわ」(恍(とぼ)ける)

「でしょーッ?おいらも驚いたんでやんすけど、とにかく詳しい理由はあっしのような下っ端には皆目見当もつかねえが、無責任にも狐国に帰っちまったんですよ」


「え"っ、えぇーーッ!そうなの!?」


自分は狐国に帰った事になっているその話には驚く。

「まっ、良かったですよ。あの色狂いの姐御の所為で、あっしはこうなったんですからね」

「どう言う事よ?」

お蓑(お蜜)にしてみれば、徳のような子分が居たのさえ忘れていた。

「だってあの姐御ときたらあっし達に、お屋敷の大屋根の色を赤に変えろって無理難題!御陰でこの様ですよ。あっしなんか家でウンウン唸っていたって、見舞いにも来やしない!

本当に冷たいお方ですよ、、、貞の兄貴なんかもっと可哀相ですよ。豆腐屋の仕事もこなして、その上にあの女狐の我が儘も聞かなきゃならなかったんですから、、、

あっしは居なくなったって、亀から聞いてどれほど喜んだ か知れませんよ。
貞の兄貴に豆腐作りを習いに弟子入りしたのに、こんな様にさせられて、居なくなって清々してますよ」

「何てこと言うんだい!散々に世話になっていながら、とんでもない恩知らず揃いだよッ!」


なんだとおーッ?テメエみたいなブス猫に何が分かるって言うんだ!
俺様がいつ世話になった?えッ?いつ世話になったと言うんだよッ!二度と治らねえ足にされなきゃならねえ程、

あの色狂いの女狐にどう世話になったって言うんだよ!?

ふざけんじゃねえーよッ!!
こっから先は這ってでも家に帰るわ!
テメエなんかニャ世話にならねえよッ!

お蓑は、『ハッ』として徳を見る。
徳はお蓑から勢いよく離れると、片足でケンケンしながら歩き出す。詫(わ)びて手を差し出すが、凄い顔で睨(にら)み返して歩いてる。

村の方から、やってくる猫影がある。
徳は大声を出して、声を掛けると相手は急いでそばにやって来る。

「徳じゃねえか?今、お前ん家行ったら居ねえから、急いで探してたとこだよー!」

「すまねえ、、、伊佐の兄貴」

「だめだよ!無理しちゃいけねえって医者に言われてるだろ?さっ、帰ろう」

「そんじゃ、兄貴、肩貸してくんねえか?」

「いいともよ!」

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
isatoku.jpg


伊佐は徳から理由も聞かずに、そっと肩を貸してやる。
松葉杖を徳からソーっと離すと脇に抱え、ゆっくりと徳の歩調に合わせて歩き出す。

何も言わなくても伊佐は相手を思いやって行動している。
伊佐はジっと見ているお蓑に気が付いた。

「徳、知り合いか?」

「知らねえよッ、あんな不細工なメス猫!」鋭い視線を浴びせる。

ジィーッ

「お前、聞こえたらどうすんだよ?」

「いいんだよ、姿も醜ければ心も醜いんだよッ。さっ、兄貴行こうよ」

「そうか、じゃそっと行くからよ」

伊佐に支えられて徳は歩き出す。お蓑は声を出す事も出来なかった・・・
徳に罵(ののし)られた事や、伊佐の相手を思いやる優しい仕草に、自分の居場所の無い事が一辺に頭の中を駆け巡り、呆然とするしかなかった・・・

一時間もそうしていただろうか、辺りはすっかり暗くなっている。
村の家々には明かりが灯っている。温かな家族達の笑い声が聞こえてくる気がする。

道の先に目をやれば、黒いシルエットの自分の屋敷が見える。
主の居ない屋敷には明かりを灯す者も居ない。歩きかけて思わず首を振る。

「あたしを待ってる者は、もうあそこには居ない・・・」

眼鏡を掛けていても泪で霞むのは仕方ない。
お蓑は溢(あふ)れる泪を拭いもせずに力なく歩き出す。自然と足は荳傘村とは逆方向に向いた。歩くうちにどんどん早足になっていく。

最後には大声を上げながら駈けって行った。力の限りに走り抜くと、道から外れたスミレの中に倒れ込んだ。

精も魂も尽き果てていた・・・そのまま泥のように眠った。
翌日、眠りから覚めたのは昼近くだった。起きて周りを見回すと遠くに一本道が見える。

お蓑は自分の体の下で潰(つぶ)れているスミレを見つめた。

「夢じゃないのね、、、」




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第八章 お蜜再び お蓑と呼ばれて4

前回

徳の愚痴にむっとしたお蓑の言葉が、逆にもの凄く怒らせてしまう。徳はお蓑から勢い良く離れると、鋭い目で睨みながら罵る。そこに迎えに来た伊佐に支えられ、振り返りもせずに行ってしまう。

お蓑はなすすべもなく立ち尽くしていた。暗くなっても屋敷に灯はともらない。お蓑は闇雲に駆け出し、どこまでも走り続け、ガクガクに疲れた身体を野原に横たえたのだった。


はじまり、はじまり


空腹に気づいた。昨日、五黄の食事の世話をお熊としていて、自分は何も食べてはいなかったのだった。気が付くと堪(たま)らなくお腹が空いて仕方なかった。 喉もカラカラで引っ付いているようだ。

ポケットを探るが出て来る物は櫛(くし)だの鏡。腹の足しになるような物は一切なかった。銭が二十五粒もあるのだから、どこでも食べに行けるのに、そんな事すら気が回らない。

力なく立ち上がると道に向かって歩き出す。スミレは柔らかくて気持ちがいい。道に出るとつい荳傘(まめかさ)村に足が向く。無理矢理に体を逆に向けて歩き出す。ふらふらと力なく歩く姿を誰が想像したろう。

今のお蓑は哀しさと辛さで頭が一杯だった。涙が次から次へと溢れて来る。鼻水も垂れる。拭くものもない。埃(ほこり)だらけの道を歩き続けるうちに、土や埃まみれの顔になっていく。

そんなお蓑を興味深げに見ている二人連れの河童。何やら話している。お蓑はイヤな視線に気がついた。また何か云われては堪らないと早足になる。

早足になったとしても行くあてがある訳ではない。その内に疲れてしまった。二人の足音は聞こえる。それでもどうでもよくなっていた。今さら、何があると云うのだ。半分ヤケな気分になると、徐(おもむろ)に立ち止まった。

ちょいと!一体なんなのさッ?後なんかつけやがって!」

相手は突然振り向いたお蓑に驚いたのか、声もないようだ。

「何なんだ?って、聞いているんだ!このスットコドッコイ!

「へっ?へへ、、、へへのへへ。まあまあ、そう怒りなさんな~、なあ?ツリ」

「ああ、カン。そうだとも」

そう言うと薄気味悪い顔でニヤついている。

「?・・・フン!」

お蓑は薄気味悪くなり早足で歩き出し、その内に駆け出した。駆けても駆けても後ろからペタペタとした河童の足音が追いかけて来る。

待ってくれーッ、話を聞いてくれーーッ!」

「はぁッはぁッ、醜いお方ぁーーッ」

その言葉に反応した。

「なんだってぇーーッ?このうすら河童ッ!!」

「へへっ。うすら河童はひでぇや、ドブス!

「む"ぅっ・・・」

「下出に出りゃいい気になってんなよ!」

「なんだってーッ!」

「ケっ、向こうッ気も強みてえだぜ。なあ、ツリよ」

「なんだよ、カン」

「七面倒だ、引っ括(くく)って連れて行こう!」

「それがいい!先の狸みてえに駄々捏(こ)ねられてもよ。逃げられたら終いだ!」

二人の河童は目を合わすと、一辺に襲いかかって来た。今までのお蜜ではない、お蓑となってから間もなく、そして身体も心もボロボロだった。

あっという間に当て身をくらい、手もなく気絶した。カンとツリはお蓑を抱えると、道からそれ、間道を行く。
暫(しばら)く行くと、カンがなんとお蓑を投げた。


ドサッ!


お蓑は痛みで目が覚める。覚めたが目を閉じていた。

「けっ!」

「何すんだよ?」

「どうもこうもねぇ、イヤになった」

「なんでだよ?」

「幾ら何でもこんなに醜い猫を池まで運ぶナンざ、やってらんねぇ」

「やってらんねぇってよ、川太郎様のお言い付けなんだしよ」

「触るのもイヤになるような猫だぜ?なんか、埃っぽいし。あー、いやだ!てめえだけで抱えて持って行けよ」

「俺だってイヤだわ」

「だいたいなぁ~、【醜いものコンテスト】ってなんだ?その発想がわからねぇ」

「てめえがチンチクリンだから、自分よりも醜いものを見て、安心したいんじゃねえの?」

「違いねえ。だからと言ってよ、イヤだね」

「俺だってイヤだよ」

ツリがキラッとした光りに気がつく。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
kantoturi.jpg


「あッ!あんりゃーーーッ!!」


「どっ、どうしたんだよッ?素っ頓狂な声あげてよ!」

「へへ、見てご覧な」

「おッ?うっはぁーーーッ!」

二人の目がキラキラしてくる。そこら辺に団栗銭が落ちているのだ。

「おいおい、これは何だよ?」

「何だよ~、うんうん。こんだけありゃ、王様だぜ~!」

「なあ、ツリ!間違ったことはしちゃあいけねえのよ」

「何が?」

「なっ、いけねえから止めろと、、、その代わりのご褒美よ」

「なぁーーる。さすがのカンだぜ!」

「お陽の店で甲羅をキレイに染めてもらおうぜ!」

「そりゃいいや~、休暇にぴったりだ!」

「善は急げだ!」

「やっほーーー!」

団栗銭はお蓑のポケットから、こぼれ出た物だった。

(くそーーッ!あたしの団栗銭をッ!だけどここで動いて、奴らの気が変わったら、、、今のあたしじゃ、こいつらには勝てない)

お蓑が堪えていると、カンとツリの二人はお蓑に一瞥(いちべつ)もくれることなく走り去ってしまった。





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第八章 お蜜再び 歩き始めた道1

前回

手もなくカンとツリと云う川太郎の手下に、当て身をくらい拉致された。薄汚かったお陰なのか、急にカンはお蓑を投げ捨てる。醜いお蓑を抱え、遠い川太郎池に連れて行く事に嫌気がさしたらしい。

その衝撃でポケットの中から団栗銭がバラバラと散らばった。二人はその団栗銭を天からのプレゼント等と都合良く解釈すると、さっさと拾い行ってしまった。



はじまり、はじまり




カンとツリが去り、ようやく起きだした。

「いッ、痛たたた、、、ここが草で良かったわ。いきなり放りなげるなんて!腰が痛いわ・・・
あのくそ河童めッ!川太郎の奴、どんな躾をしているんだッ!あいたたた、、、」

お蓑は悪タレをついている時は元気だったが、周りのあまりに静かな様子に自然と心が沈んでいくのだった。どこに行くあてがあるわけではない。

生い茂る草の上に痛む身体を横たえると、そのまま寝てしまった。
翌朝になっても、体中が痛くて起き上がれない。

どうしようと悩んでは寝てしまう。
起きたのは深夜だった。

とにかく歩き出す。こんな所にいるわけには行かないと、、、しばらく歩いてから気がついた。

「そうだ!団栗銭があった筈だわ。何か買えばいいのよ。腹なんか空かしてることないじゃない!馬鹿だわ~」

ポケットを探ると十粒ほどが残っていた。

「あー、良かった!全部落ちなかったんだ。それにしてもあの河童共には呆れるよ。団栗銭が天から降って来たとでも思ったのかね?」

歩き出して、ようやく道に出た。
どっちに行けばいいかは決まっている。

荳傘(まめかさ)村には行けない、反対に行くしかなかった。
歩いても、歩いても、店一つない。

夜になっては道ばたに座り込む。雨が降った。
ヒリヒリの口を開けて喉を潤(うるお)す。

それだけだった。何もない。見渡す限りの一本道。誰にも会わない、人っ子一人いない。
ふらふらと歩き続けるしかなかった。

歩き疲れては道端に座り込む。そして又歩き出す。今のお蓑を歩かせるものは、わずかに残っている意地と腹の底から沸き上がる五黄への怒りだけだった。

疲れた身体を引きずるように歩いていると、遠くからせせらぎの音が聞こえた。
聞き間違いかと思ったが、確かに涼やかな音がする。

力を振り絞って音の聞こえる方に向かう。
清らかな川が流れていた。何も考えずに川に頭ごと沈めた。

水の中で息もしないで、ごくごく飲んだ。顔を水面から勢いよく上げる。
深く深呼吸をすると生き返った気がした。身体の細胞の隅々まで潤っていくのがわかった。


「あぁ~~~」


思わず声が出る。独り言も喋っていなかった。
話すのが苦痛に成る程、喉が渇いていたのだった。

今度は空腹に苛(さいな)まれた。辺りに生えてる草を掴(つか)むとむしゃぶりついた。
苦さに舌が痺(しび)れたが、水を飲んで誤魔化した。草でどうやら腹が満たされると乾いた場所を見つけて眠った。

今のお蓑はどこでも寝れる。薄汚れ土の堅さにも 慣れてしまった。あれほど飽きずに見ていた鏡も一切見なくなった。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
kappanawabari.jpg


「ちょいと、起きなね」


ぐっすり眠り込んでいるお蓑を起こす者が居る。起きないので揺さぶられる。

「はっ!」

「いい加減に起きなよ」

慌ててそばにあった眼鏡を掛けると、目の前にスカートをはいた女河童がいた。

「なんですかッ?」

久しぶりに眠れた至福を、邪魔されてひどく腹が立った。
突っけんどんに返事をした。相手も中腹なのかケンカ腰で言ってくる。


なんですか?だってぇ?ご挨拶だこと!いいかい?ここはあたいの島なんだよ!縄張りなんだッ。それをあたいに断りも無く、暢気に鼾(いびき)なんか掻いて、
ふざけんなってんだよ!


「すみません。知らなかったものですから、、、」

「ふん!旅の心得一つ知らないのかい?

川を利用するなら『使わさせてもらいます』って、挨拶くらいはするもんだ!いきなり川の水をごくごく飲んだかと 思えば、土手が崩れないように、あたいがせっかく植えた草をムシャムシャ食べて、その上すぐに大鼾だ!」

女河童のあまりの剣幕に言葉もなかったが、昔、お熊が河童は礼儀のない者には酷く怒るので注意するように念押しをしていた事を思い出した。

「本当にすみません。ここ何日も飲まず食わずで歩いて来たもので・・・」

「ふん、そんなことはお前の勝手だよ!ふーん、、、お前は腹減ってるのかい?」

「はい、堪(たま)らなく」グウグウ鳴るお腹を擦(さす)る。

「それなら、魚を売ってやるよ」

「頂けないのですか?」

「何を言ってんだよ!挨拶してから川を利用するのはいいさ。二、三匹の魚を自分で獲るのもいいさ。だけどあたいが獲った魚を、なんで礼儀知らずの お前に、それもタダでやるんだよ!馬鹿な事を言うよッ」

「すみません、それなら売って下さい」

「初めからそう言いなよ、あたいの魚はとびきりさ!」

女河童の値段は相当高いのだが仕方ない。言われるがままに干した天魚(あまご)と川蝦(かわえび)を買った。その場でむしゃぶりついた。





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第八章 お蜜再び 歩き始めた道2

前回

お蓑は歩き疲れ、喉も乾き切っていた。そこに三笹川の涼やかな流れが聞こえる。何も考えずに水を飲み、手頃な草を食べた、どうやら腹が満たされると久しぶりに良く眠れた。

しかし、その場所が島だと言い張る女河童に、スゴい剣幕で起こされてしまう。お蓑には反論する気力もなかった、見透かすような女河童は、やたらと高い魚を売りつけた、それでも何でも良かった、お蓑は言い値で買い、無我夢中で食べた。



はじまり、はじまり



言い値でお蓑が買った事に、気を良くして機嫌も直る。

「本当に腹ぺこらしいね」

一気に食べてしまうと、態とらしく挨拶をして、川の水をごくごく飲む。久しぶりの食事だった。さっきの草より余程美味しかった。

「あんた、名前はよ?」

「お蓑です」

「ふふ。蓑虫みたいな泥色してるし、あんたにぴったりだ」

「・・・」

「本当の事じゃないか!あたいは嘘は言わないよ。あたいは【メメ】って言うのさ」

「はい、宜しく、、、あのメメさんに一つお尋ねしたい事が有るんですけど」

「何だい?」

「あの、ここからどう行けば菰傘(こもかさ)村に行けるんですか?」

「菰傘村?ああ、それは五黄様の村の事だね。あそこに行くには二通りある。一つは荳傘(まめかさ)村を抜けて先だ、百里は憂に有るよ」

「そんなに遠くなんですか?」

「もう一つはこの川の上流からだけど、山越えだから並のキツさじゃないよ。最初に三剣山、お次は無く子も黙る五剣山だ。

登り出したら少しも休めるとこがないんだ!地獄のように辛いよ。後は嘘のように楽な道になるけど、そこからだって一週間はかかるよ。どっちも近くはないね」

お蓑は荳傘村に一瞬で連れられて来たので、そんなに遠方とは知らなかった。これだけ長い間、猫国に住んでいながら、村から離れた事も無く生活していた。

メメに説明されてがっかりしてしまった。(ショボーン)

「そうだよ、あそこに行くのは大変だよ。ここは猫国の端っこだもの。あそこには、きれいな清流の鈴音川が流れているんだ。穏やかで魚は沢山獲れるし、河童達の憧れの川だよ」

「憧れって、、、誰も住んでいないんですか?」

「そうだよ、あそこは誰の川でもないんだ」

「へぇー、珍しいですね」

「そうでもないよ。ここはお許しをもらって、住ませてもらうから大変なんだ。他国は、まま子様か川太郎様に許しをもらえば良いんだけど、ここは違うんだ。

五黄様のお目がねにかなう河童以外は住めないのさ。心根の真っ直ぐな河童だけに許可するんだ。
その代わり許可をもらえば、何代も住み続けられるし、川が氾濫(はんらん)して家が壊れると無償で修理もしてくれる。

干上がれば他の川を世話してくれるらしいのさ。
まっ、もっとも他国のように川が干上がった事など猫国には一度もないけどね。

だからあたいら河童は普段から川の管理をきちんとする。石やゴミで川の流れが滞(とどこお)ったり溢(あふ)れないように、こまめに掃除をして奇麗にしてるんだ。

だから何もしない他国の河童と違って縄張り意識が殊更強いんだよ」
「そうなんですか?あたしったら本当に何も知りませんでした、、、」

「ふん、良い歳した癖に恥ずかしいね。でも【聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥】って言うものね」

本当にそうだと思った。これからは、わからなければ誰かに尋ねればいいし、意外に親切に教えてもらえる。少なくとも他の者は自分よりは親切だった。メメに丁寧に礼を言い、上流に向かって歩き出す。

元来た道を戻って荳傘村に行くのは嫌だった。

「ちょいと、お待ちよ!」

メメに又声を掛けられた。振り向くと笑ってる。

「あんた、普通の道で行かないのかい?」

「はい、なるべく早く行きたいものですから」

「豪気(ごうき)なこったよ。見れば旅支度もしてない様子、あたいの爺じいが使っていた品だから、大分古いけど無いよりはマシだよ。これ持って行きなよ」

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okurimono.jpg

「えっ?」

メメは急いで家から持って来てくれたのだろう、旅に必要な品が細々と入っている風呂敷包みに干し魚を差し出した。

「こんなにたくさん・・・あたし団栗餞そんなに持ってないし」

「馬鹿だね~、タダでやるよ。気にしないで持って行きなよ、達者でね!」

そう言うと『アっ』という間に三笹川に消えた。経験したことのない辛い日々を送っていたので、心底メメの優しさが嬉しかった。

風呂敷包みを抱えて、踞(うずくま)ると嬉し涙で震えた。しばらくそうしていると大分落ち着いた。
感謝をしながら風呂敷包みを開ける。

水筒・雨合羽・火打石・小刀・小さな鍋・塩、、、それに河童の不思議膏も入っていた。そして、地理に疎(うと)いお蓑にとって何より嬉しかったのは猫国の大雑把(おおざっぱ)な地図があった事だった。

押し頂いて風呂敷包みを背負うと、腰に干した魚をぶら下げて歩き出した。






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第八章 お蜜再び 歩き始めた道3


前回

機嫌の直ったメメに、菰傘村までの道を尋ねた。あまりの遠さに愕然(あぜん)とする。それでも行かねばならない。お蓑は重い足取りで歩き出す。するとメメが声をかけてきた。

祖父の物だと云う風呂敷包みと天魚の干物を渡す。包みの中は旅には必要な物ばかり、お蓑は初めて他人様の優しさに触れた。


はじまり、はじまり



半日も歩いた頃、足に痛みを感じ始める。足の裏を見ると肉球は所々剥(は)がれて赤剥れになっている。不思議膏をそーっと塗ると飛び上がる程痛かった。


ギャーッ


激しく沁(し)みるので唸る。

ウゥッ・・

痛みが激しい程、五黄に対する怒りが増した。子分達にも腹が立った。


ふざけやがってぇーッ!今に見てろよぉーっ!


声に出すと余計に怒りが増す。妖力まで奪った五黄をとり殺してやりたかった。だけど、今の自分には何も出来ない。それが堪らなく悔しかった。五黄を呪っていても、身体は云う事を利かなかった。

結局これ以上は一歩も歩けないので、そこで寝る事にした。雨合羽を取り出して、掛けると何かしら落ち着いた。
醜い姿を晒(さら)していない事に、安心したのかも知れない。

石ころが体に当たって痛かったが、その内に寝てしまった。
眩(まぶ)しい朝陽で、目が覚めた。

起きると足の裏の状態を見る。うっすら皮が出来ている。不思議膏の効き目に驚く。喉が渇いたので、そーっと歩きながら川縁に進む。

「お蓑です。川を使わせて頂きます」

「おーよ!」

川の底から返事が有る。メメとは明らかに違う河童だ。挨拶して良かったと思った。貰った水筒に水を入れると、ごくごく飲んだ。水がこんなに美味しいものなんて今まで考えた事も無かった。

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futari.jpg

「そう言えば、貞が『豆腐は水が命でげす』って言ってたわ。貞の豆腐食べたいわぁ・・・お熊の白和え食べたいわぁ・・・あたしったら、何を馬鹿な事を!あいつらはあたしを裏切った恩知らずよッ」

こんな風に悪たれをつかないと泣けてくる自分がいる。
振り払うように勢いよく、天魚の干物をむしゃむしゃ食べる。もう一匹食べた。又、食べようかと手を伸ばして止めた。

「あッ、こんなに食べたらすぐに無くなっちゃう。後何匹あるか数えてみないと、、、」

ひぃ、ふぅ、みぃと数え、全部で二十匹あった。メメは気前が良い河童なのだろう。

「これじゃ、一日二匹で十日しか持たないよ。五剣山を越えてからだって一週間も掛かるのに・・・どうせ呉れるなら、もっと呉れれば良いのにケチ河童」

罰当たりにもメメに八つ当たりしている。仕方なく立ち上がり、そろそろ歩き出した。なるべく平らな石の上を選びながら歩くのだから時間ばかり掛かってしまう。

「そうだ!風呂敷の端を裂いて、布きれを足に巻けば、難儀しないかも」

小気味よく裂いていくと十本程の布切れができた。
さっそく足を川で濯(すす)ぐ。余り沁みる事も無い、逆に熱が冷めるようで気持ちいい。

暫くそうしてから、足を自然乾燥させる。手ぬぐい一つ持っていないのだから仕方ない。鏡と櫛は必ずポケットに入っていても、ハンカチや手ぬぐい等 持った事も無い。

顔を洗えばタオルが差し出されるし、手を洗えば手拭を差し出される。自分は何一つしなくて良かった。することと云えば鏡を見て顔を眺める事くらい。

「あの生活に、美貌、絶対に取り戻してやる!第一に、このあたしが何でこんなに醜い猫にならなきゃいけない訳なの?

もぉーーッ!考えると腹が立ってしようがないよッ!」

五黄は醜い猫に変えた訳ではない。心を引き出したに過ぎなかった。聞く耳を持たないから耳が折れたり、捩(よじ)れているのだ。

目が霞んでいるのは、何も見ようとして来なかったからだ。口が裂けたのは、罵る事を大半にしてきた口だからだ。

泥色したその柄は、心の色なのだ。大事な九本の尾が醜く縮れたのは、持っていても必要ないからだ。

毛を使用したのも、貞やお熊に体裁が悪いからしていただけの事だった。元々、九尾はそのように使うものでもない。ましてや自身の為に使うものではない。全て他者に使う為に存在しているのだ。

だからこそ、姉のお風は尾を使って痩せるような苦労している。病いが流行る、旱魃(かんばつ)がある、水害がある。その度に尾の妖力を振り絞って使うのだ。

お蓑の尾は本来の役目を果たす事もなかったのだから、実際全く必要のない尾である。五黄は何を期待したのだろうか、、、

今のお蓑は怒りにしがみついて 生きている。





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第八章 お蜜再び ガスと云う河童1


前回

思わぬ親切をメメから受けたお蓑であったが、苛立ちが治まることはない。
詰まらぬことでも、怒りだす。そんな行為が自分を追いつめているとも思わない、心はささくれるばかり、お蓑に明日はあるのだろうか。



はじまり、はじまり



足がそよ風に吹かれて乾くと不思議膏を薄く塗り、布切れをそっと巻いていく。時間は掛かったが、きちんと巻け気を良くして歩き出す。

注意して歩いたからか、痛みは感じなかった。歩き続けて行くうちに、川の様子が変わってくる。川幅も少しづつ狭まってきている。

浅瀬があった。お蓑は冷たい水が飲みたくなったので川に入る。十里も歩いていないのだから、先程の河童の縄張りが続いているのだろう。

浅瀬には黒い蜆が顔を覗かせている。大きいのも小さいのもある。

「これって、もしかして蜆かしら?お熊がよく作ってくれた蜆汁の元になる貝よね?」

今までみそ汁の一杯も作った事がないのだが、試してみたくなった。蜆を鍋に溢れるほど手で掬って、川岸に戻る。

座りの良さそうな石を並べてみる。違う気もするがよくわからない。枯れ木を集め、火打石でカンカン!と威勢良く打ち付けてみる。

火花は散るが一向に火が点かない。何度やっても出来ない・・・いい加減に疲れて座り込む。今までなら簡単に諦める処だが、どうしても蜆汁が飲みたかった。

「そうだ!お熊は薪に火を付けるのに、最初は燃えやすいものに火をつけていたわ、、、それに風よけもしないと!こんなふうに平じゃなくて・・・」

枯れ草を拾い、もう一度やってみると火が点いた。急いで枯れ木に燃え移す。火を消さないように注意しながら、鍋を置けるように工夫する。

鍋を置くと一安心した。膝を抱えジっと焚き火を見つめている。

ジィ-

その内に鍋が煮立ってくる。

グツグツ・グツグツ

「わーッ!どうしよう?どうしよう?」


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shigimigiru.jpg

鍋が勢いよく吹きこぼれた。焚き火の火も消えてしまう。がっかりした、、、鍋底に少しだけ白濁した蜆汁が残っていたので、笹の葉で作ったスプーンで掬(すく)ってみる。

「美味しいーッ!とっても美味しいわ~ぁ!五臓六腑に染み渡るわッ」

二回も掬うと無くなってしまった。

「もっと食べたいわ~、、、やり直してみよう!」

時間はたっぷりあるのだ。

今度は蜆を鍋に半分だけ入れる事にする。二度目の焚き火は上手く出来た。ジっと鍋を見ていると、貝がコトン・コトンと鍋の中で踊る度に口を開け、透きとおった湯が段々白濁してくる。

ワクワクして見ていると全ての蜆が口を開いた。白い汁に黒い蜆が美しく映える。出来立てを急いで口にもっていく!熱さと旨さで口が綻(ほころ)んでしまう。

ウ~ン!

そして試しに塩を入れてみた。旨味が増すと同時に味が締まった。蜆の身も残さず美味しく食べた。前のお蜜なら「出し殻」と云い、手も付けなかったのに今は違う。

汁一つ作るのにも大変な苦労をしたからこそ、中身を捨てるという勿体ない真似は出来なくなっていた。少しはお熊の苦労もわかった気がした。

いつも我が儘を言って食事を残していた事を思いだす。色々と工夫していてくれた、、、思い出すと悲しくなって来たので、振り払うように後片付けをした。ここに泊まる事にした。

だが、幾ら美味しい蜆汁も、三日もそれだけで過ごしているとさすがに飽きてきた。細くて撓(しな)る木を丸く輪にした物に、芒(すすき)の様な細い葉を適当に編むとそれを括(くく)りつけた。

不格好だが笊(ざる)になった。その笊擬(ざるもど)きで川を何度か掬っている内に川蝦や小魚も獲れた。

早速、鍋に入れて煮てみると蜆汁とは違う美味しさに溢れ、幸せな食事になる。御陰でこの場所から離れられなくなり、結局一週間も過ごしてしまった。

その日も川の恵みを獲る事に夢中になっていた。

「何を獲っているのかのぉ?」

ふいに声を掛けられて驚いて振り向く。かなりの年寄り河童が居る。頭の皿から見窄(みすぼ)らしい毛がヒョロヒョロ出ていて、柄も汚らしい薄斑(うすまだら)の緑色。

腰は曲がって藜(あかざ)の杖をついていた。お蓑は河童を見て失敗したと思った。少しの魚を獲るのなら許されると言っていた、メメの言葉が頭を過ぎる。


アッ!


自分はここで生活しているように蜆や小魚を獲っている。言葉も無く突っ立っていた。

「どうしたのかの?わしに驚いたのかの?」

お蓑は濡れるのも構わず、年寄り河童に膝をついて謝った。

「すみません!勝手に魚を沢山、沢山獲りました。すぐにお暇しますのでお許し下さい!」







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第八章 お蜜再び ガスと云う河童2


前回

生まれて初めて、蜆汁を作ったお蓑。
久しぶりに飲んだ温かい蜆汁は、心も身体も温めてくれた。
それからのお蓑は毎日、蜆を獲ることに夢中になる、飽きて来ると、小海老や小魚を捕まえた。
まるで旅を忘れたかのように、その場所に居続けた。ある日、川の主である年寄り河童に声をかけられた。


はじまり、はじまり


「顔を上げなしゃいよ、わしは怒ってましぇんよ。わしは【ガス】と云うもんじゃよ。ここの川の主じゃあよ」

この川はガス夫婦の縄張りだそうだ。今は連れ合いに先立たれ自分だけで暮らしている。子供はもっと下流に住んでいて、孫娘メメは可愛いし年頃なので、婿を見つけてやりたいから、近くに住まわせている。と、ニコニコしながら話してくれた。

お蓑はメメに世話になった事を話すとガスにお礼を言った。

「あんたの事はメメに聞いてたよ。ここから三剣山に登る者など、まずおらんから『どんな猫じゃ?』と楽しみにしておったよ。

足を引きずりながら歩いているし、メメや誰かに悪たれつくわ、、、けしからん猫だと思っていたよ。でも、焚き火の点け方一つ知らないお前さんを見ているうちに、わしは何だか面白くなって来たのじゃよ」

「あのぅ、、、全てご存知でした?」

「当たり前じゃーよ、わしの縄張りなんじゃもの」

「返す返す申し訳ありませんでした・・・」

恥ずかしさで居られなくなり、急いで逃げようとする。

「これこれ、逃げんでいいから、わしに蜆汁を馳走してくれんかの?」

ガスの思いもよらない申し出に驚いた。

「エッ?」

ガスは相変わらずニコニコしている。
お蓑はガスの腹の内がわからずビクビクしていたが、この川の主に逆らったところで今のお蓑は妖術一つ使えない。勝ち目など全くないのだ。諦めた途端に心が決まった。


「えぇーぃ!あたしだって九尾のお蜜だ!

そうそう河童に頭を下げてばかりはいられるもんか!

今はこの有り様だから仕方ないッ、焼くなり煮るなりしておくん なッ!」



久しぶりに威勢よく啖呵(たんか)を切ると清々した。ガスは呆気にとられていたが、お蓑を見る目はあくまでも優しい。

「困ったのお~、なんで怒ってんのかのぉ?わしは蜆汁を飲みたいだけなんじゃけど、、、」

「飲みたかったら、てめえで作りゃいいだろぉよッ!
あたしの蜆汁は、はっきり言って他所(よそ)さんに飲ませる自信がねえのよッ!自信がッ!作る度に味が違うし・・」

ハァ...

威張っているのか、泣き言を言っているのかわからない返事にガスは笑い出した。お蓑もつられて笑い出す。二人とも久しぶりに笑ったのだろうか?いつまでも笑っている。

笑い疲れた二人はどちらともなく蜆汁の支度をする。お蓑は大きめな蜆を手製の笊に入れてガスの元に行く。

「何してんの?」

「お前さんが焚き火をしていた場所は土がよう乾いとるから、もう一工夫して使うのじゃよ。こうしての、、、」

ガスはなるべく角の無い石で円を作る。真ん中は少し掘ってあるので、枯れ木が置きやすい。最後に太い枝を四隅に斜めに埋め、四方から交差させ、真ん中を蔓(つる)で結わく。

お蓑に持参した鍋に水を入れて来させると採った蜆を入れる。
枯れ木に手慣れた様子で火をさっと熾(おこ)す。お蓑は感嘆の声を上げた。


わぁ~


鍋の取っ手を木に引っ掛ける。お蓑はガスの様子を膝を抱え、ジっと見ている。自分とは明らかに違って手際が実に宜しい。仕草の一つ一つに感心している。

煮立ってくると丁寧にお玉で灰汁を掬(すく)い、頃合いを見計らってガスは巾着から大きな蜆を出す。お蓑が驚いて見ていると蜆の蓋を開けた。たっぷり味噌が入っている。

掬って味噌を入れ鍋を平らな石の上に置く。プ~ンと味噌汁のかおりがする。次は持参した岩魚を串に刺し、塩をふって焚き火の周りに突き刺していく。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
gastoomino.jpg


巾着からお椀とお箸を出してお蓑に差し出す。かおり豊かな味噌汁をよそって呉れる。お蓑は黙っていた。

・・・・・

「ええから、飲みなしぇ。お前さんよりは自信があるからのぉ」

お蓑は頷(うなず)きながら飲んだ。久しぶりの味噌汁が美味しくて美味しくて泪が出てきた。泣きながら飲んだ。蜆の身まできれいに食べた。

「旨いかのぉ?」

「こんなに美味しい味噌汁は初めてだわ!あたしの蜆汁はなんか雑味があったけど、この味噌汁には何にも無い。すっきりとした味で美味しい!!」

「ふああふ、それは灰汁(あく)を取らなかったからじゃよ」

「なあに?灰汁って」

「ふああふ、何も知らんのじゃなあ~。蜆を煮ていると白い泡が出てたじゃろ?あれじゃよ」

「あれが?あれっていけないものだったの?」

「まっ、いいものではないわな。わしが掬って捨てていたの見ていたじゃろ?」

「うん。不思議に思っていたわ」

「あふふあ、面白いのお~。もっと食べなしゃい」

お蓑が三杯目のお代わりをした頃だった。岩魚が美味しそうに焼けてきた。一番太くて立派な岩魚を差し出されるとむしゃぶりついた。

ガスは少しの味噌汁と岩魚を一匹食べただけで、後は全てお蓑の腹の中。本当に久しぶりにお腹一杯に食べた。啖呵を切り、悪たれをついた事が申し訳なくて平謝りした。

ガスはそんなお蓑を笑っている。




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第八章 お蜜再び ガスと云う河童3

前回

お蓑は三笹川に来てから、メメに、そしてガスに、思わぬ親切をされた。
それは、ささくれる心を和らげるには、十分過ぎるものだった。
御馳走になり、久しぶりに満腹になる。満たされた顔をしているお蓑をガスは優しい穏やかな目で見ていた。


はじまり、はじまり


元々メメから旅慣れてない猫が三険山に向かった事を聞いていたので、川に嵌(は)まったらいけないと思って用心し見守っていたそうだ。
最初は放っておいたが段々と痩せて来たようなので、心配になって姿を現したそうだ。

みんなに嫌われる不細工な自分を心配してくれた事が嬉しかった。溜まりにたまっていた思いをガスに包み隠さず話した。
ガスは『ふあふあ』と変な相槌(あいづち)をうちながら、要領の得ない話を辛抱強く聞いてくれた。

話すだけ話すと疲れて放心してしまった、ガスは何も言わずにニコニコしている。

「何も言ってくれないの?あたし、どうしたらいいのかしら?」

「ふあふあ、九尾のお蜜ともあろう者が五黄様からの謎掛けがわからんのかの」

「えッ?どういうことよ」

「ここでわしに会ったのも何かの縁じゃろなぁ~。良ければわしと暫(しばら)く暮らすがいい」

「えっ!なんで?」

「ふおふお、何でじゃろなぁ~。何も知らないお蓑に色々と教えたいからかのぉう」

訳が解らなかったが、確かに何も知らないのは本当だ。これから旅をするのにも不安だらけだった、、、

メメに貰った大事な魚も既に食べ尽くし、グズグズしてここに留まっていたのも、他で食料を調達する自信が全く持てなかったからだ。

今だって何も解らない。わからなければ遠慮しながら尋ねなければならない。他人に聞くのは一時の恥だとわかっていても、自分より下の者に頭を下げて聞くのはやはり嫌だった。

それに旅先でこれ以上自分の醜い姿を晒(さら)すのも我慢できなかった。嫌な事しか思い浮かばないお蓑の明日には夢も希望もなかった、、、

ガスが教えてくれるというのなら、願ったり叶ったりの話だった。
少しでも教わって、生活の知恵を身につけようと思った。

「どうするかな?」

「お願いします!あたし、何でもやりますから教えて下さい!」

「ふふおふ、そうか?わしは【お蜜】には教えとうないが、お蓑には教えたいんじゃのお」

不思議な事を言いながら、ガスはお蓑に食事の後片ずけをさせた。お蓑に芒(すすき)を何本か取らせるとそれをきれいに纏(まと)める。鍋を洗う即席の束子(たわし)である。

これで鍋を洗う事を教えられ、素直に従って鍋を洗うと鍋底もきれいに洗えた。お蓑の鍋は手でさっと洗っていただけだから、まわりがぬるついている。自分の鍋も一緒に束子で洗うとキュッキュッと音がするようになった。気分がいい。

次にガスは焚き火に水を撒いて、完全に消火したのを確認してからその場を離れた。

「火は大事なものだが、怖いものでもあるからのお。ここで泊まらないのじゃから、きちんと消しとかなくてはのぉ」

お蓑に自分の風呂敷包みを持たせると歩き出す。ガスは河童なので川を泳いで行くのが得手なのだが、お蓑に合わせて歩いている。歩くのが苦手だから、のそのそと杖をついて歩いている。

そんな事にもお蓑は気が付かない。ガスが年寄りなので歩くのが辛いのかと思い、手を組んで速度を合わせて歩き出す。ガスはお蓑がする 精一杯の親切を黙って受けた。いつの間にか伊佐が徳にしたように相手に合わす事が出来ている。

それからずっとガスと歩く時は、お蓑は必ず腕を組んでそろそろ歩くようになった。

「楽じゃのお~、お蓑は親切じゃのお~」

「そんな事ないわよ、おだてたって何も出ないわよ」

二人は暫く歩いた。何度か休憩してようやくガスの住まいがある『連傘の滝』に辿り着いた。素晴らしい瀑布だ。滝は何段にも渡って豊富に水を流している。

何本もの傘を連ねた様に滝が流れている処から付いた名前だろう。岩にぶつかった水は勢いよく周囲に飛び散っている。
ガスは川に入ると滝壺の方に案内する。

お蓑は水の冷たさが火照った足に気持ちよく、ずっとそうしていたい程だった。ガスと一緒に滝壺に行く。歩をゆるめる事なく滝に入って行こうとする。

「ちょっと~、水浸しになっちまうよ」

「少し濡れるだけじゃよ」

仕方なく一緒に付いて行くと引き摺られるようにして強い勢いの滝の真ん中に入った。水圧でおかしくなると思ったのも一瞬、目の前には広い洞窟が見えた。

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「あら?奇麗だわ!」

「気に入ったかのお?」

光苔(ひかりごけ)がびっしり生えていて、洞窟一面が妖しく光っているのだった。高さは十メートル近くある。高い天井にも隙間無く光苔が覆い尽くしている。妖しい輝きに目を奪われた。

「キレイだわぁ~」






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第八章 お蜜再び ガスと云う河童4

前回

何も知らないお蓑を不憫に思ったのだろうか。
ガスは付いて来いと言う。お蓑は先行きの不安から付いてくことにした。
連傘滝は美しく、ほてった足には心地よい、ずんずんと先に行くガスに誘われるまま、滝の中に入ると、そこは別世界だった。光苔が、壁一面に輝いている。



はじまり、はじまり



「こっちじゃあよ」

ガスに促され先に進む、奥行きが大分あるように思えた。木のドアが沢山あり、その内の一つに案内される。リビングのようだった。

ガスは櫨(はぜ)の蝋燭(ろうそく)に明かりを灯す。この部屋には光苔は生えていない。

「さあ寛ぐがいいぞ」

「なんか、あたし驚いてしまって、、、光ってる壁なんて見た事もないから」

「そうか?あれは光苔と言うんじや。とても繁殖力が弱い苔なのじゃあよ。何十年も掛けてあそこまで広げたんじゃあよ」

「ふーん。ここの洞窟って広いの?」

「そうじゃな、わしは先まで行った事が無いからわからんなぁ」(とぼけてる)

「暢気ね。自分の住まいなのに」

「本当じゃあのお~、ふあふあふあ」

ガスはお蓑に温かい甘茶を入れてくれた。久しぶりの甘さに思わず喉がゴロゴロした。

「幸せぇ~」

「良かったのお~。さてお蓑は、ここの隣の部屋を自分の部屋にするとええ」

「えっ!部屋を貰えるの?」

「当たり前じゃ。お蓑は一体どこに寝るつもりだったのじゃあ?」

「その辺で、、、」

「ふあふあふあ、面白いのお~。さあ、一眠りしておいで。起きたら食事にすればよい。わしも少し寝るかな」

リビングを一緒に出るとガスはお蓑の部屋を指差し、自分はトボトボ先の廊下を歩いていく。

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お蓑は言われた通りに部屋に入る、美しい部屋だった。壁には漆喰(しっくい)が塗ってある、窓には大きな紅石英(べにせきえい)が嵌(は)め込んである。

光が差し込むように工夫されているのか、紅石英を通した光が柔らかく部屋を満 たしている。壁の所々に『孔雀(くじゃく)石』『水晶』『虎目石』が花模様を作っている。

温かそうなベットがあり、嬉しくてベッドに転がり込むと、久しぶりの気持ちよさと疲れですぐに寝てしまった。(スヤスヤ...)どれ程寝ていたのだろう、、、ノックの音に気が付く。

「あッ!今起きますから」

「ここで待ってますから、慌てなくていいですからね」

お蓑は大急ぎで起き上がると部屋の隅に覆(おお)いが掛けてある鏡台で、本当は見たくはないのだが、ひどい寝癖でも付いていたら恥ずかしいので鏡を見た。すると鏡はくもっている。

そんな筈は無いと思ってもう一度良く見ると、眼鏡をしていない自分がボンヤリ映っている。慌てて、枕元の眼鏡を掛ける。

今度はいやにはっきり見えた。忘れていた醜い自分がこちらを見ている。身だしなみを整える処か鏡に覆いをしてしまった。

ドアを開けるとヒラヒラのスカートを履いた若いメス河童がいて、お蓑を見るとニッコリ微笑む。つられてニコリとするが不気味に見える。

「こんにちわ。よく寝れましたか?」

「はい、あたしぐっすりと寝てしまいました」

「良かったですね。あたいは【レレ】と言います。宜しくね」

「あたしはお蓑です。こちらこそ宜しく」

「先生から食堂に案内するように言われてます。どうぞこちらに」

「あのぉ、、、先生ってガスの事?」

「いけませんよ、お蓑さん!先生を呼び捨てになさるなんて」

「そうなの?あたしは連れられて来ただけだから、何も知らなくて・・・」

「先生は河童の《不思議軟膏》を発明された立派な方なんです」

「えぇーっ!そうなの?」

「そーです。先生がお待ちですから、とにかく食堂に行きましょう」

レレが廊下を先にずんずんと行く。いくつものドアを通り越すと階段を上がる。一気に視界が広がると明るい大広間に出た。明るいのは大広間の壁が普通と違うのだ。

南側の壁が滝になっていて明るい陽が滝から差し込んでいる。

『美しい!』と感嘆した。一階の玄関ホールには妖しく輝く光苔、、、その美しさにも溜め息が出たが、こちらは違う明るさと美しさに満ちている。

ぼーッとしているお蓑をテーブルにレレが案内をする。テーブルはいくつも並んでいる。狼族がいたのが不思議だった。その中のテーブルの一つにガスがいた。

「よく寝れたかのぉ?」

「はい。あたしとても気持ちよくて、夢も見ないで寝ました」

「それは良かった。気に入ってもらえんと困るからのぉ」

「あのぉ先生、、、お食事持って来ていいですか?」

「無論じゃ、わしも食べるかのぉ」

お蓑も手伝おうとする。

「お蓑は、まず体力を付ける事から始めるんじゃ。ええかのぉ?」

「はい!ありがとうございます、先生」

「なんじゃあ?嫌じゃのお~、お蓑までそんなこと言うとる」

「だってレレちゃんに聞いたもの。ガスは《不思議膏》を発明したって」

「ふあふあふあ、偶然じゃよ。発明なんて大それた事はしとらんよ」

「先生、僕たちにも紹介して下さい」





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第八章 お蜜再び 木平(もくべい)1

前回

ガスはお蓑の素性を聞いても、態度が変わる事はなかった。其れどころか、楽しそうにしている。
お蓑は久しぶりにベッドで、ぐっすり眠った。

レレと云う可愛らしい河童は、ガスが高名な医者であることを教えた。そして、お蓑を大広間に連れて行く。
美しい狼族がいることを不思議に感じた。お蓑は、ガスと同じテーブルに付く、相変わらずニコニコしている。


はじまり、はじまり


狼族がいつの間にかテーブルの周りに来た。村に居なかった所為もあってか、あまり見た事が無い。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
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とても美しい鬣(たてがみ)と筋の通った鼻筋、目は大概深い紫色をしている。頭の良さは『ぴか一』と云う。知性が美しさを奥深いものにしていた。

お蓑は美しい狼族を見ると凹んだ。

「おお!気が付かんかったのぉ~、すまなんだすまなんだ。お蓑じゃ、暫(しばら)くここに住む事になった。宜しく頼むのお~」

「お蓑です。宜しくお願いします」

「僕は研修生の月狼(つきろう)です」

「あたしはシャナよ」

「俺は海狼(かいろう)です」

「今んとこはそのくらいじゃな?こいつらは勉強しに来とるんじぁよ」

「へぇー!何の勉強?」

「何のって、、、医学ですよ」

「そうなの?」

「僕もシャナも海狼も先生に弟子入りしてるんです」

「へぇーッ!やっぱ、ガスって、、、(アッ)先生って凄いのねー!」

「もちろんです!先生のような名医はいらしゃいません!!」

「すぐにこれじゃあもの、照れくそうていかんのお~。お前達はもうあっちに行きなさいよ」

月狼達は残念そうだっだが、ガスに言われて仕方なく自分の席に戻った。レレが食事を運んで来て、手際良く二人分を並べる。

お蓑にとって久しぶりの豆腐が出てきた。

豆腐料理というものではない、ただの冷や奴に薄くごま油が垂らしてあるだけだ。
醤油を少しかける、パッと油の上に散る、口に運ぶと胡麻の薫りと豆腐の甘みが口一杯に広がる。

ジュワァ~

お蓑は今まで冷や奴は食べた事がなかった。豆腐にうんざりしていたから、冷や奴なんて...と馬鹿にしていた。

お熊は趣向を凝らし、お蓑(お蜜)が好くように作っていたのに、それでも文句を云っていた自分が恥ずかしいと今は思う。

ただの冷や奴がこんなに美味しいものとは知らなかった・・・食べながら泣いているお蓑に、ガスは優しく声を掛ける。

「旨いじゃろ?貞の作る豆腐は世界一じゃ!」

「えっ!?これは貞の豆腐なんですか?」

「そうじゃよ、九味豆腐じゃ。わしが好きなもんだから、態々こんなとこにまで、運んで来てくれるんじゃ」

「知らなかった、、、」

「これから、知ればいいじゃろて」

食卓には天魚(あまご)の甘露煮、カタクリのお浸しにお汁の実は川海苔。ご飯もツヤツヤして、とても美味しい食事だった。お茶を飲んでほっとしていると、ガスがレレを呼ぶ。

「お蓑を案内してやっておくれ~。迷うと可哀相じゃからのぉ」

「はい、先生」

「お蓑、、、『知る』という事は、楽しい事もあれば辛い事もある。お蜜に負けないお蓑にならなくてはいけないのじゃよ」

「どう言う意味なの?」

「その内わかるじゃろよ」

ガスは不思議な事を時々言う。いつもお蓑には理解できない。『ご馳走様』と言って席を立つ。月狼達にも挨拶して大広間から出て行く。レレは楽しそうだ。ガスに用を言付けられるのが嬉しくてならないらしい。

「レレちゃん、あたし恥ずかしいのだけどお風呂に入りたいの。こんな泥色柄だからわからないだろうけど、、、あたしとても、ばっちいのよ」

「それなら、五黄様温泉に入りましょうよ!」

「五黄様温泉?」

「その昔に病人の面倒を先生ご夫妻でなさっていたの。五黄様が先生にお会いになった時に『温泉があれば病いの回復も早かろう』って、そして先生の好きな場所から温泉を出してやるとおっしゃって、先生の願い通りの場所から湧き出させたの。だから凄い効能があるのよ。

それからは温泉と先生のお薬の御陰で大抵の病いは、劇的に治るようになったの。あたいの父ちゃんもここで治してもらったのよ。それからは家族でずっとここに住んでいるの。父ちゃんは薬草園のお世話して、母ちゃんは賄(まかな)いをしてるのよ」

「へぇー、そうなのッ?近くに住んでいたのに知らない事ばかりだわ」

「お蓑さんは近在の猫なの?」

え"っ?ち、違うわよ。気にしないで、、、」

レレはお蓑の素性が段々気になって来た。先生の扱いも普通と大分違う。特別なお客様にだけ使う『宝石の間』を、この汚らしい猫に与えている。

何かありそうだとレレは思ったが、お蓑に訊くのには何かしら阻(はば)むものがある。レレは若いのにきちんと弁(わきま)えている。その事をガスは良く知っているからこそ、大事なお客様はレレに世話をさせる。

レレは余計な詮索をしてガスの信頼を裏切りたくないので、お蓑に対する興味は心に封印をすることにした。利口な子である。レレはお蓑を地下に案内する。





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第八章 お蜜再び 木平(もくべい)2


前回

美しい狼族が、ガスに医学を習っているという。
このニコニコしている爺河童が、そんなにエラい先生かと、信じられない気もした。

久しぶりのご飯、何より豆腐が嬉しかった。
貞吉がガスの為に、ここまで運んで来てる事を知る。何も知らないことが恥ずかしかった。
これから、知ればいいと云うガス。

一体、何を知ればいいのだろうか。


はじまり、はじまり


地下に通じるドアを開けると暖かい空気が流れて来た。微(かす)かに硫黄の匂いがするので温泉が近くにあることがわかる。

そのまま進むと脱衣所があり、タオルや石鹸、洗面器等が沢山置いてある。レレに好きなのを選ぶようにと言われたので適当に選んだ。

引き戸をガラガラ開けると湯気で眼鏡が曇り、急いで拭いて掛け直す。洗い場には温泉が溢(あふ)れている。
足を濡らしながら温泉に入ると何とも言えない心地好さ・・・

ふぁ~ぁ

洞窟の天井にぽっかり穴が開いている、陽が燦々(さんさん)と降り注いでいるので温泉の乳白色が良く分かる。
レレと入って行くと先客が居た。

頭の毛が所々禿(は)げている狸だった。目をショボショボさせている。

「あれ、カイカイ爺さんじゃない?」

「またあ~、レレちゃんはそったら事言って、、、わすの名前は【木平(もくべい)】だって言うとんのに」

「へへ。だって来た時は『痒(かゆ)い~の、痒い~の』ってそればっかりだったから、カイカイって覚えちゃったの」

「ひでえべさ~。ほれ、潰瘍(かいよう)も大分良うなったんだから」

木平は背中を見せる。体毛が大分(は)禿げていて赤剥(むく)れになっている。所々に瘡蓋(かさぶた)が出来ているが、レレは平気で瘡蓋に触れる。

「本当だ!膿(う)んでるとこも無いし良かったね!」

お蓑は木平の姿に驚いて声も無い。

「この猫さんはどなたで?」

「お蓑さんだよ。しばらくここに居るんだって!」

お蓑は薄く笑う。(ニャ...ニャコッ)

「わすは【木平】ちゅう者です。こちらでご厄介になって一月にもなります。今は痒みもねえし、毛も少しづつ生えて来たし、わすは本当に幸せ者ですだ」

一方的に喋り出す木平の勢いに圧倒されているとレレが口を挟(はさ)む。

「この木平爺さんは、ここにやっと来たのよね」

「へい。思いだしたくない事ばかりですだ、、、こんな姿になっちまったばかりに、、、」

「どうなされたの?」

お蓑は何となく木平の話が聞きたくなった。木平はお蓑の醜い姿を見て、自分の昔話しをする気になったのだろう。

「わすは昔は狸族の中でも、ええ男衆(おとこしゅ)ですた」

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
mokubei.jpg


「嘘ーーーッ!?」


二人共声を上げる。レレも木平の昔話は聞いていなかったらしい。

「そんなに驚くのも仕方ねえ、、、今のこの有様じゃ信じてもらえねえだす。わすは小さい頃から女子衆(おなごしゅ)にチヤホヤされて育ちますた。『可愛い~可愛い~』って。長じるとわすの男振りは、近在の者では知らぬ者がねえ程の色男で有名ですたよ」


「うッ、嘘ーーッ!!」


「わすが歩けばぞろぞろと若い女子衆が付いて来る。家に居れば色々な品を女子衆が持ってくる。働かなくても暮らして行けたんで、唯一やる事と云えば、鏡を見て櫛(くし)で毛並みを整えることくらい」

お蓑はその言葉に『ドキリ!』とした。且つ(かつ)ての己がそうだったのだから・・・何かしら木平にシンパシーを感じると真剣に聞き入った。

「わすは心底いい気になっていたんだす。女子衆を酷い言葉で傷つけたりしても屁のタヌキ(カッパ)。気に入らなきゃ殴る事も朝飯前。取っ替え引っ替えに付き合う女も変えてますた」

「若い女子衆がぞろぞろいてその上、女と付き合っていたの?」

「へい。女子衆には家の雑用をさせたり、働いて貢(みつ)がせたりして、その銭で好い女と遊んでいたんだす」

「ひど過ぎるわーッ!」レレは怒り出す。

「本当にひどい男でした、、、わすは正真正銘の下衆(げす)な野郎ですたよ。わすの評判がいつの間にやら狸兵衛様のお耳に入ったんだす。

お屋敷に呼ばれますた。狸兵衛様は大層お怒りになっていて、おっがなくておっがなぐて・・・わすは縮こまっていますた。

《一つ》わすが働きもせずに遊んで暮らしている事。

《二つ》女子衆に働かせて貢がせている事。

《三つ》女子衆の中には、わすの言葉で傷ついて死のうとした者が居た事。

わすのやってきた事を並べ立てなすった。それでもわすは『厳しいお小言を頂戴するくらいだろう』と、腹の中じゃ嘗(な)めて掛かっていただす。

狸兵衛様は、わすの腹の中を見透かすようにジっと見ていただす。そして静かに話し出したんだす。

『木平よ。お前は【姿】と【心】が一つになっていないのおぉ。さぞや辛かろうて、、、わしにはお前の【姿】と【心】は別に見えるのじゃが、どうじゃ?』

わすはよく解らなかったが、優しく言われたので思わず頷(うなづ)いた。

『そうか、それでは今からお前の【心】を姿にしようぞ』そう言われなすっただけで、そのまま帰されますた。『何だ~、大した事も無い』と、せせら笑って帰りますた。






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第八章 お蜜再び 木平(もくべい)3


前回

レレに案内された温泉で驚くほど醜い木平と知り合う。体中が膿んでいたり、体毛が抜けていたり、それは酷かった。

そんな木平はお蓑を見ると、なぜか、自分の昔話を始めた。昔は近在でも有名な美狸だったと云う。聞いているうちに自分と似通(にかよ)っている事に気づく。


はじまり、はじまり


歩いているといつもなら、しがみ付いて来る女共が何故か嫌~な顔をする。わすを見る女は必ず笑顔だったもんだすから、今まで見た事も無い女達の顔に驚いただすよ。

???

んで、家に入ると女子衆達に叩き出されたんだす!驚いて怒ると、『ここ は木平の家なんだ!お前みたいな薄汚い醜い狸の来る所じゃないよッ!』

自分が木平だと言っても誰も信じてくれませなんだ。罵倒されるわ、箒(ほうき)で叩かれるわ、石までぶつけられて、、、その内、村の男達にまでこずかれて・・・襤褸襤褸(ぼろぼろ)になって村を追い出されますただ。

しばらくは放心状態ですた、、、『フッ』と気が付いて鏡をポケットから取り出し自分を見たんだす。余りの醜さに失神したんだすッ!」

「あたし、もう駄目!逆上(のぼ)せちゃうぅ」

レレはお湯から出て行った。興味も失せたのだろう。だが、お蓑は違った。木平の話には一々頷(うなづ)けた。しかし、レレのお陰で木平の話が途切れてしまった。

木平は先を続ける事無く黙っている。何かしら気まずくなっていたが二人もやはり逆上(のぼ)せてきたので湯から上がり、体を拭いて風呂場から出ると既にレレの姿はなかった。

仕方なくしているお蓑に木平が『屋上に行きますか?』と誘う。

「そんなのがあるんですか?」

「へい。気持ち好いだすよ~」

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
okugyou.jpg

木平が先に行く。三階まで上ったのは骨だったがその甲斐はあった。石段を上がり切ると視界が急に開けた。蒼い空に棚引く白い雲。霞(かす)みかかる山々。

足下はふかふかした緑の苔で覆(おお)われている。千畳敷きの大きな岩を穿(うが)つように川が流れて滝になっている。木平はポケットからコップを出して、川の水を掬(すく)うとお蓑に差し出した。

「飲みなせぇ」

「ありがとう」

清らかな水は湯上がりで火照った体に染み渡る。


オイシィ~


お蓑は何杯もお代わりをした。ようやく、木平が一滴も水を飲んでいない事に気が付くと、コップを濯(すす)いでから新しく水を掬って差し出す。

「ごめんなさい。あたしって自分の事だけになって、、、恥ずかしい、、、」

「気にする事ないだすよ。わすなんかもっと酷かったんだすもの」

「さっきの話の続き、良かったら聞かせて欲しいんだけど」

「いいだすとも。わすはお蓑さんには不思議と自分の話は聞いてもらいたいと思っているだす。わすの昔を聞くと皆さん、嫌な気持ちになるんだすよ。当然なんだすけどね、、、『そんな碌(ろく)でなしはもっと苦しめばいい』と、お思いになるんだすよ」

「あたしは違うわ!」

「でしょう?わすの経験したことは、多分お蓑さんは少しは違うだろうけど、似てるんじゃないかな?と思っただす。間違っていたらお許し下せぇ」

「似てるわ!あたしも高慢ちきだったもの。自分さえ良ければ好い口だった」

「わすはね、鏡に映っているのが自分だと理解できるのに大分掛かりましたよ。いっそこのまま野たれ死んでやろうとも思いますた。だけど、持って生まれた根性なしにそんな真似など出来やしないんだすよ、、、

村に戻る訳には行きませんですたから、そこから近くにある【足掛け村】に行きますた。そこで物乞いをして食べ物に有りつきますた。

わすは何も出来ない【木偶の坊(でくのぼう)】だったんだすよ。手に職一つない、、、誇れるものと云えば、美しさだけですた。わすの居た【呼び子村】では寄せ木の職人が沢山 いたんだすわ。

親父は名の通った職人ですたから、わすにも教えようとしてますた。なのに、わすは『手が、ガサガサになる』って、見向きもしませんですたよ。

親父が死に、くそ可愛がりした母親が死ぬと、まさに自分の好き放題ですた。わすには一人も男友達が居なかったんだすよ。

女に囲まれて良い気になっていたから、友達なんて必要ないと思っていたんだすよ。女には王様のように威張っていたから、友達を作るなんて面倒臭いと思っていたんだす。

たまに男と話しても、そいつらはわすの横柄な態度に閉口するらしく、その内に挨拶も交わしてくれなくなっていただすよ。一人でも男友達が居れば、例え自分の姿が醜く変わっても、話し相手くらいにはなってくれたと思いますた、、、

女は美しい姿のわすが好きなのであって、醜いわすには何の用もないんだすよ」

「木平さんもそうだったんじゃないの?」

「へい、その通りだすよ。たまに不細工な娘がわすに好意を寄せて告白してきたり、品物を呉れたりしたんだす。そうすると、わすはその娘達に『鏡見てから出直しな!笑わせるよ』って・・・」


酷いッ、酷いわよッ!


「そうです、、、本当に心底腐っていますたよ。だからこうして皮膚が【爛(ただ)れ】たり【膿(う)んだ】りしたんだすよ」

「それって、どういう意味なの?」

「わかりませんか?わすは狸兵衛様に【心の姿】にされただけなんだすよ・・・」


え"っ!?





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第八章 お蜜再び 木平(もくべい)4


前回

木平の過去に多少の反発はあったものの、自身を見ているようで身に詰まされる。
屋上の清々しさとは別に、木平の話は重く暗く辛いものだった。


はじまり、はじまり


「この醜い姿はそのまま、わすの心なんだす」

「・・・」

「わすは、そのことに中々気が付きませんですた。世間を逆恨みして死のうと思い、襤褸布(ぼろきれ)のようになりながら、何ヶ月も掛けて【身魂抜(みたまぬ)きの宮】に行ったんだす。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
mokubeitomokichi.jpg


その時、高名な【茂吉様】がちょうど居らしてたんだす。わすの余りに汚くて醜い姿を見たお役人様が『只事ではない!』と、茂吉様に言われて、特別直々にわすの事を担当してくれたんだす。

茂吉様はこうおしゃいますた。

『木平さん、ここでは普通私たちは皆様と口は聞きません。皆様の生き様を【この世鏡】に映したものを黙って見て、魂を切り取るだけです。

ですがあなたの場合は、例え生まれ変わってもそのお姿になるだけです。あなたには大変な苦痛が繰り返されるだけなんですよ。』


『嘘だぁーーー!!』


わすは驚きますた!生まれ変わりさえすれば、又元の美しい姿に変わると思っていたんだすから、、、

『こんな苦しみから解放されたくて、襤褸布のように なってもここに来たのに、、、』


『あなたには狸兵衛様の術が御掛かりになっていて、この術を解く術(すべ)は無い。解く事が出来るのは木平さん、あなた自身です。』

『だけど狸兵衛様なら解けるんでないですか?』

『木平さん。狸兵衛様はね、あなたを醜い姿にお変えになったのではないのですよ。あなたの心を引き出されただけなのです。』

わすは二度びっくりですよ!理解できませんですた。

『【この世鏡】に映るあなたの生き様は、決して誇れるものではありません。あなたがあなたなりに、誇れる生き方が出来れば自ずとその姿は変わって行きます。

【他者への思いやり】・【感謝する気持ち】・【償う心】...今のあなたには何一つ無いものですね?』

わすは茂吉様に言われてようやく得心すたです。項垂(うなだ)れるしかなかっただす、、、

『どうですか、もう一度新しい木平さんをやり直してみませんか?狸兵衛様はあなたの命を奪う事無く、あなたをそうしたのは木平さんに生き直す機会を与えてくれたのですよ。出来ますか?狸兵衛様の期待に応えられ ますか?全てあなた次第なのです。』

わすは『やってみよう!』と思いますた。生まれて初めてまともに生きようと思いますた。茂吉様にお礼を言って出て行こうとするとおしゃいますた。

『木平さんはどちらにお出でになろうとしているのですか?』

『それは・・・わかりません。どこに行けばいいのかも、、、』

『木平さん、それはいけませんよ。【希望無く】【目的無く】生きる事は辛いだけです。私の考えが良ければなさってみませんか?』教えて欲しいとお願いすますた。

『ここから大変に遠いのですが、【荳傘(まめかさ)村】と云う村があります。そこから東に向かうと三笹川が流れています。

その川の上流に向かってひたすら歩くと連傘(れんがさ)滝に辿(たど)り着きます。そちらには【河童の不思議軟膏】を発明された高名なガス先生がおられます。

徳の高い慈愛に満ち溢(あふ)れた先生でいらっしゃいます。そちらに行く事をお薦めします。』

『行きます!わすは何としても行ってみたいだす!!』

『そうですか、それは良かった。それでは特別に私が連れて行きましょう。直ぐにも行きたいでしょうからね。』

わすは断りますた。それこそいけない事だと思ったんだす」

「なんで?楽じゃないの!」

「楽したらいけないんだすよ。わすは散々、他の者に苦労させて自分は楽してきたんだすから」

「そぅ・・・か・・・」

「茂吉様はわすが断ると逆にお喜びなされますたよ。

『あなたはすでに変わってきましたね、嬉しい事です。狸兵衛様もきっとお喜びになります。あなたと今度、魂納(たまおさ)めの宮でお会いするのを楽しみにして いますよ。』

茂吉様は、旅支度(たびしたく)をして下さり、その上、団栗餞(どんぐりせん)や木の皮銭も過分に頂戴し、わすは身魂抜きの宮を後にしたんだす」

「なるほどね、、、木平さんが頑張って生きて寿命を全うして、魂納めの宮に来ることを期待してくれたのね」

「へい、有り難い事だす。それからのわすはここを目指してひたすら旅をすますた。自分の飯代は日雇いの仕事をして頑張りますた」

「どうして?もらった銭を使えばいいのに」

「自分の事は自分で稼げばいいんだす。姿は醜いが体は丈夫なんだすから。頂いた銭は河童の不思議膏を買うのに使いますた。旅先で困っている者にあげる事ができたからだす。不思議膏すら買えない者もいるんですよ。

わすより、辛い人は幾らでも居るもんだと旅して良くわかったんだす。それなのに大概の者は、捻くれもせずに明るく生きているんだす」

「そうなの...耳が痛い話ばかりだわ、、、」






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第八章 お蜜再び 木平(もくべい)5

前回

木平が身魂抜きの宮に襤褸布(ぼろきれ)になりながら、訪ねた気持ちが痛いほどわかる。

自分も間違いなくそうしたと思った。茂吉に諭された言葉はそのまま、自分に云われたような気がする。

それはそれは大きく深呼吸をして、木平が力強くガス病院を目指し旅立った姿が目に浮かぶようだった。



はじまり、はじまり



「ある日、粒傘(つぶかさ)村に行った時ですた。足を挫(くじ)いてしまって難儀していたんだす。その時には不思議膏も持っていなくて、痛くて道端に座り込ん でいたんだす。だけど誰も声も掛けてくれません。

禿(は)げていたり、膿んでいたりして、そばに寄るのも憚(はばか)れる様な今より酷い有様ですたから、、、
そしたらね、声を掛けてくれた女狸がいたんだすよ。
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挿絵参照↑↑↑  絵をクリックすると大きくなります

その狸は私を家に連れて行くと、怪我の手当をしてくれ、その上ご飯まで食べさせてくれたんだすよ」

「良かったわね」

「へい。わすはとても嬉しくてお礼をしたいって言ったんだす。その狸は『そんな気遣いしなくていい』って。だけどわすには、その家は決して豊かには見えなかったんだす。子供も沢山いたすね。そしたらその狸が嬉しそうに言うんだす。

『あたいは今とても幸せなんだ。優しい亭主に可愛い子がいる。食べていくのは大変だけど、毎日張り合いがあって楽しくて仕方ないんだ。あたいに礼する金があるんなら、もっと自分に使いなよ!』

わすは言葉も出ませんですた、、、こんなに優しい者も世の中にはいるんだって。それなら忘れたくないから、せめて名前を聞きたいと言うと、その狸が【稲子(いねこ)】と名前を教えてくれたんだす」


うわァぁぁぁ~~ん・・・うわァあああ~~ん・・・


木平は急に泣き出した、お蓑は驚いた。

「どうしたのよ?木平さん!悲しい事を思いだしたの?」

「いいえ・・・違うんだすよ、ヒック。お蓑さん。わすはね・・・その狸の名前を聞いて思い出すたんだす。酷い事を言って傷つけた狸だったんを・・・うっう・・・」

「似てる名前じゃなかったの?」

「いいえ、まちがいなく本人ですたよ。笑いながら昔話をしてくれたんだす。自分はここに嫁に来る前にとても好きになった色男がいた。その男は皆の憧れの的だった。

見向きもされなねぇのはわかっていたけど、一生懸命に銭を貯めてようやく美しい鼈甲(べっこう)の櫛(くし)をプレゼントをすた。そすたら、その男は目の前で蓋(ふた)を開けて、鼈甲の櫛を見ると鼻でせせら笑って投げ捨てたと、、、

『こんなもの掃(は)いて捨てるほどあんだよ!もう少し頭を使いな!それに、よくもそのご面相で俺に告白出来たもんだッ!お前は鏡も持ってねぇのか?』」

「そ、そんな事言ったの?」

「へい。わすは確かに言いますた。稲子さんだけじゃなくてね。プレゼントの中身に寄って言い方を変えてるだけで、器量が大したことねえ娘には必ずそう言って傷つけてますた。

捨てた品は後でしっかり手伝いの女に拾わせて質屋に売りに行かせてますた」

「呆れた・・・」

「へい、、、稲子さんは酷く傷ついて死のうとすてフラフラと村外れまで歩いて道端に座り込んじまって、これから遠い身魂抜きの宮に行くより、この場で死にたくなって喉に刃物をあてようとすた処を旦那さんに救われたそうだす。

旦那さんは様子がおかしい稲子さんが、気になって村から後を付けていたらしいだす。声を掛けようかどうしようかと、迷っている内に稲子さんが、とんでもない真似をすんで、慌てて止めたそうですだ。

稲子さんから事情を聞くと旦那さんは大変怒ったそうですだ」

「当たり前よッ!あたしだって許せないわよ!」

「わすはあのままで居れば村の者に殺されていただす。偶々(たまたま)、その日に狸兵衛様に呼ばれていたから命が助かったんだすよ。旦那さんから、稲子さんの話を聞いた村の者は手ぐすね引いてわすの帰りを待っていたそうだす」

「前から憎まれていたのね?」

「へい。今までは酷い事を言った女は他の村の者だったりすてたもんでね。だけど今回は村で一番の愛敬者で通っていた稲子さんを、自害したくなる程傷つけた訳ですから」

「とんでもなかったわね」

「へい。わすが待てど暮らせど帰って来ないもんで、実際は醜い姿で戻っていたんだすけどね。旦那さんは稲子さんに一緒になって村を出る事を申し出たそうだす。

稲子さんも村に居るのは恥ずかしかったので、結局二人で村を出てこの粒傘(つぶかさ)村に来たそうですだ」

「そのお方に木平さんはお世話になったのね?」

「へい。わすは己の所業に反吐(へど)が出ますた。稲子さんが神様のように見えますたよ。稲子さんはわすには気が付いていらしゃらない御様子ですたから、わすは何も言いませんですた・・・言えなかったんだす」

「確かに言えないわよね」

「へい、それからはどんな事も辛く感じなくなりますた。追い剥(は)ぎに遭っても『汚い!気持ち悪い!』と、どんな言葉を言われても、わすには励みになっていたんだす。そうして、ようやく一月前にここに辿(たど)り着きますた」

「でも、木平さんて悪いけど、随分と歳取ってるように見えるけど?」

「少しは苦労すたからですよ」

「そうだったの...あたし、とても良いお話を聞かせて頂きました。有り難うございます」

「何を言うだすよ、わすのつまんねえ懺悔(ざんげ)話ですよ」





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第八章 お蜜再び お蓑の悔悟1

前回

木平は大声で泣き、醜い顔を歪(ゆが)め、心を絞るように稲子の話をした。
稲子の優しさに触れた木平のいたたまれない気持ち、今のお蓑にはわかる気がした。
長い懺悔(ざんげ)話が終わった時、お蓑の心に何か生まれた。


はじまり、はじまり



「あたし、、、お願いがあるの」

「何だすか?」

「あたしの友達になって欲しいの・・・いいかしら?」

「もちろんだすよ!嬉しいだすよ!」

「あたしには一人も友達がいなかったの・・・」

「今はわすが友達だすよ!」

「そうね、そうよねッ。ありがとう!いつか木平さんにあたしの懺悔話を聞いてもらいたいわ」

「いつでもいいだすよ。わすも楽しみにしてますよ」

お蓑と木平は友達になった。お互いの生き様に共通するものが、二人を結びつけたのであろう。
それからのお蓑は木平に聞いた事が頭から離れなかった。

ominokaigo.jpg

挿絵参照↑↑↑  絵をクリックすると大きくなります

狸兵衛が木平にした心を引き出すと云う術は、自分が五黄に掛けられた術と同じものだとしたら...?認めたくなかった。自分の心がこんなに、こんなに醜かったのだと認められなかった。認めたくなかった・・・

木平の様に他人を泣かせた事などないと・・・そうだろうか?徳はどうだろう、、、お蓑をあんなに恨んでいた。生涯足が治らないと言っていた。

『見舞いにも来なかった冷たい女狐だ!』って。確かに知らんぷりしていた。屋根から落ちるような猫なんて、聞いて呆れると言っていた。

源助爺が死んだ時など、余計な真似をするからだと・・・貞達は?お熊は?思いだすだけで頭が痛くなって来た。姉様は?姉様は今頃どうされていることだろう...お勢がお熊に送った手紙の通りだとしたら、あの美しい九尾を痩せさせる程の苦労をお一人でなさって いる。

馬鹿なあたしでも居れば違ってたかもしれないのに、、、わかっているのにあたしの好きにさせてくれた。一つもそんな事を考えもしなかった。どうしてこうまで愚かで居られたのか。

どうしてこんなに、こんなにもあたしは馬鹿だったの?あたしは一体何をして来たの...?皆に迷惑ばかり掛けて来たのに、そんな事にも気が付かないで、、、いくら後悔しても二度と姉様に会う事もできない。

こんなに心も姿も醜い自分がどんな顔して会えるというのだろう。お蓑を深い絶望が襲いかかった。身も世もない悔悟(かいご)に苛(さいな)まれた。絶望したお蓑は一人、屋上に佇(たたず)んでいる事が多くなっていた。

食事もほとんど取らないでいた。傍目(はため)にも分かる程痩せて来た。心配した木平やレレが何を言っても耳には入らなかった。
不思議な事にガスはお蓑に声すら掛けてくれないまま、その内に出掛けてしまった。

お蓑は到頭、寝込んでしまう始末。わずかな水分を取るだけで、終(しま)いには床から起き上がる事も出来なくなってしまった。
月狼達が代わる代わるに様子を見に来る。本復(ほんぷく)していない木平も付き添っている。

レレは木平の世話をしながら、お蓑の心配もしている。一月もそうしていると、さすがのお蓑にも死相が現れて来た。
そんなある日、ドアをノックする者が居る。木平はウトウトしていたが、ノックに気が付き、ドアを開けるとガスがいた。

一度も様子を見に来なかったが、さすがに危ないと思い来てくれたと木平は思った。木平は疲れた顔をしていた。

「大変じゃったのおぉ。木平は寝てないのじゃないかあ?」

「先生わすは大丈夫だす。これでも芯は丈夫だすよ。それよりお蓑さんを診て欲しいだす。わすは心配で心配で、、、」

「木平の友達じゃものなあ」

「へい。生まれて初めての友達だす。たった一人の・・・」

「ふあふああふ。木平は可愛いのお~、どれ、我が儘(わがまま)姫の顔でも見ようかの?」

木平は暢気(のんき)な事を言うガスを不信に思った。今にも死にそうなお蓑が可哀相過ぎる。木平の座っていた椅子にガスはのそのそ腰を掛けて、お蓑を起こした。

「中々死ねないのお~、お蓑よ」

目を閉じていたお蓑がキッとして目を開ける。

「ふあふあふ。怒るか?このガスに図星を言われて腹が立つかの?」

「先生!そんな酷い事をおしゃったらお蓑さんが余りに可哀相だす」


「木平、余計を言うでないッ!」


木平はガスの剣幕に驚いて黙ってしまった。

「お蓑、、、いやお蜜よ。なぜそうも楽をしたいのじゃ?主が何年、何百年そうしていても死ぬ事などできぬわ。主の命を絶てるのは天の神様より他はないわ!」


「えっ!?」


驚いたのはお蓑だけでなく木平も同じだった。





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第八章 お蜜再び お蓑の悔悟2

前回
木平の話を聞き、お蓑は身も世もないほど悔悟(かいご)した。
その先がわからないお蓑は食を断ちやせ細り、遂には床から起き上がれなくなっていた。
ガスはそんなお蓑を一喝した。


はじまり、はじまり


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木平はお蓑を普通の猫としか思っていなかったから、お蓑の本当を知らない...

「どうしてよ?」

「わからぬお方じゃ、当たり前じゃろが?【銀毛九尾のお蜜】は天より命を授かった尊いお方。あなた様がどのように足掻(あが)いても、天の神の許しが無ければ死ぬ事も叶わないのじゃ」



お蓑さんが銀毛九尾のお蜜様!?美しさで知らぬ者がいない程知れ渡っているあのお蜜様?そんな、、、」



「ふあふあふ。木平に知られてしまったのお~、恥ずかしいのお~」



ガスが言うからじゃない!



「ふあふあふ。さ、これを飲んで起きるがいい」

甘茶を差し出され、一気に飲むと起き上がる。

「お蜜様、そんな急に起きたりしたら、、、」

「大丈夫なのよ、木平さん。ガスの言う通りなの。あたしもちっとも死ねなくて不思議に思っていたのよ。やっぱりね、美人薄命(はくめい)は出来ないのね」

「ふあふあふあ、何を言うかと思えば、わしらよりずんと長の年月を重ねておる癖に、それだけでも薄命になりようもないわ」

「本当ね。今は美人でもないしねーッ」


キャハハハハハ

ワッハハハハ

ふあふあふ


三人で大笑いしてしまった。

「あたしは又、馬鹿な事をしたみたい」

「ほんに付ける薬がないのお」

「すんませんですた」木平は平伏して謝っている。

「どうしたのじゃ?木平」

「あら本当、何してるのよ?」

「わすみたいな小汚い狸がお蜜様に畏(おそ)れ多くも友達等と大それた事を言って・・・その上みっともない昔話まですて、お許し下さいませ」

「何を言うかと思えば、どいつもこいつも仕方の無い奴らじゃのお~。木平、立ちなさい。ここに居るのはお蓑じゃよ、間違いなくお蓑じゃ」

「だって先生がお蜜様だっ・・・」

「ふあふあふあ、お蓑の皮を被(かぶ)ったお蜜かな?」

「へっ?」

「お蓑や。なぜお前がこの様になったのかを木平に話すが良かろう。やっと、できた友達に真実の己を知らせぬのは友達とは言えんよ。どうじゃ?」

「はい。あたし、、、こんなあたしでも木平さんに友達で居て欲しいから話します。洗いざらい己の生き様を話してみます」

「木平や、聞いておあげ。わしも今のお蓑から聞いてみよう」

木平に椅子に座るように促(うなが)す。お蓑は大きく深呼吸して話し出す。

「あたしは確かに【銀毛九尾の狐】でした。でも、あたしは姉様の美しさを妬(ねた)み、姉様や乳母のお熊を騙(だま)して猫国に参りました。五黄に猫にしてもらい、それも姉様のお計らいと後で知る程、あたしは愚か者でした。

五黄はあたしに荳傘(まめかさ)村に大きな屋敷と子分達まで用意してくれました。それから九百年もの間、狐国の事を顧(かえり)みることも、姉様を思いだす事も無く過ごしてきました。

鏡を見て己を着飾る事に明け暮れ、男遊びに現(うつつ)を抜かし、挙げ句に子分達を酷い目に合わし、大事な乳母のお熊を死に至らしめる有様、、、

五黄に戒(いまし)められてこの姿にされるも、恨み辛(つら)みの日々を暮らし、ここに至っても、皆様にご迷惑を掛けているどうにもならない大馬鹿者です」

「どうする木平?こんなんじゃよ」

「わすと似てるような気もすますが、わすには待ってくれてる狸一人居ませんが、お蜜様には姉様がお待ちになっている様な気がするだす」

お蓑は木平に言われて、『ハッ』とする。

「ふあふあふ。木平でもわかるのお」

「へい。わすは本来なら狸兵衛(りへい)様に命を取られても仕方のない奴なのに、『生き直す機会を頂けたのだ』と、茂吉様にそう教えて頂きますた。

わすのような普通の狸でさえそうなのだから、ましてや狐国では大切なお方のお蜜様に生き直す機会を与えぬ訳は無いと、ボンクラのわすでもわかりますだ」

「でも生き方変えたって、こんな姿じゃ狐国にも戻れないわよ」

「口では分かった風な事を言う癖に、何一つ生き方が変わらぬお前が言う言葉かの?恐れ入った馬鹿者じゃ!治しようがないのぉ。さすがのわしでも お手上げじゃ」

「どうしてそんなこと言うのよッ」

「今の醜い姿が本当のお蜜なのじゃから仕方ないじゃろ。なぜ認めぬ?」

「認めてるわよ!認めるしかないじゃない、、、ひっくり返っても、もっくり返ってもこんな不細工でッ」

「わからん奴じゃのお~。わしが言っておるのは生き方を変えろと言っているのじゃ」

「えっ?だから何よ」

「わしはお前のその捻(ひね)くれた心を変えろとは言っておらぬ。お前の様な馬鹿者には無理な話じゃ。なれど生き方を変える事は今からでも出来る事じゃ。だらだら寝腐っておらずに、今からでも病人の世話でもして来るがいい」

「あたしが?何をすればいいの?」

「病棟の場所は知っておるじゃの?わからなければレレにでも聞けばよかろう。早く行きなさい!」

お蓑はガスにベットから引きずり出され、部屋から追い出された。





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第八章 お蜜再び お蓑の悔悟3

前回

お蓑は木平に正体がばれ、今までの自分を語る。だが反省はしてもその先がわからない。ガスはそんなお蓑に病棟に行きレレの指示を仰げと云い、部屋から追い出してしまう。



はじまり、はじまり



「先生、、、余りな仕打ちをなされるだすよ」

「木平よ。お蓑いや、お蜜様には何が何でもわかってもらうしかないのじゃよ」

「どう言うことなんだす?」

「あのお方は狐国にはなくてはならぬ方なのじゃ。今までお一人で頑張って来られたお風様もこの頃は大変なようなのじゃ」

「どうすて先生がそのような事をお知りなんだす?」

「わしは菰傘(こもかさ)村に行って藤平様にお会いした。五黄様は狐国にお出ででお帰りになっていなかった。わしが事情を話すと藤平様がお話下されたのじゃ。

お風様がお一人でなされる事にも残念ながら限りがある、、、どうしても目が届かない処が出てくる。そうなると良からぬ事を企(たくら)む奴も出て来るのじゃ」

「なるほど、、、」

「今回は五黄様が助けているので心配は無いとの事。なれどいつまでもそういう訳には行かぬだろ?五黄様には猫国があるのじゃもの」

「そうだすなぁ」

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「わしは藤平様に聞いて大見得を切ってしまった。『このガス、五黄様には返しても返しきれぬ恩有る身。じゃじゃ馬ならぬ、じゃじゃ狐を見事なおして見せまする。そして、お風様のお役に立てるお妹様にきっとガスめがいたします!』ってな」

「そーなんだすか」

「ふあふあああ。これぞ名医の見せ処!な~んてな」

「先生?・・・」

「ふあふあふ。勢い余って言ってしまったのじゃ。わしもまだまだ若いのおぉ」

「へっ?」

「ふあふああふ、冗談じゃよ」

「あのぉ~、先生はお蜜様に生き方を変えろとおしゃってますたが、心を変えなきゃ駄目なのでは?」

「お前は狐国のお風様の評判を聞いた事があるかな?」

「へい、そりゃもう。お美しくて、お優しくて神様のようなお方と聞いてるだす」

「ふあふ、そうじゃろそうじゃろ。そんなお方のお妹様があれでは不思議じゃのおぉ」

「へい、言われてみればそうだすなあ」

「おかしいじゃろ?なんであんなにご立派なお方のお妹様が《遊び好き》、《男好き》、《捻(ひね)くれ者》では変じゃろ?」

「確かに変だす」

「なんでそうなのかの~、ま、それはそうあらねば成らぬのじゃよ」

「どう言う事だすか?」

「天の神々様がそうなされたのよ。

兄弟(姉妹)で相手の足らぬ処をお互いが補いながら国を治める。だからこそ、お風様のように神様みたいに慈愛満ちたお方には、普通以上に世間並みなお考えをお持ちになるお蜜様のようなお方が必要なのじゃよ。

下衆(げす)の勘ぐりさえお風様に理解は出来ぬが、どうじゃお蜜様には朝飯前にわかるじゃろ?」

「絶対にわかるだすよ」

「その違いが必要なのじゃ。

お蜜様とて悪い処ばかりではない。至って気安くて愛嬌もあるし素直な処もお有りじゃ。だからわしらも一肌脱ぐ気になったのじゃ」

「へい。確かに、蓮っ葉(はすっぱ)で楽しいお方だすよ」

「多分お風様は気品溢(あふ)れて近寄りがたいお方なのじゃろなぁ...お蜜様を見てるとそんな気がするのじゃ。

こちらの猫国とて兄弟でありながらやはり大いに違う。五黄様の弟の藤平様はしっかり者で口煩(うるさ)いお方で通っている。

全て五黄様には無い資質であられる。そのように各国の王族は、兄弟(姉妹)揃って初めて国を運営することが出来るのじゃ。お風様のご苦労が身に沁(し)みるのお」

「そうだすなあ」

「だから、わしはお蜜様に荒療治をしようと思う。資質や性格は天の神様がお授けのものだから、如何(いか)ともし難い。

なれど生き方によっては、又別に授かるものも有ると思うのじゃ。木平が世間を知って、【己の幸せを知る】又【己より不幸な者を知る】

これ、全て生き方が変わればこそ知り得た事じゃ。違うかな?」

「その通りだす」

「わしはお蜜様に、ここに来る病いで苦しむ者の助けに成る事が、お蜜様にとって一番の【薬】になり【学び】になり【成長】になると思うのじゃ。

自分の苦しみがどれだけちっぽけな事かと自ずとわかるであろう。さすれば感謝の気持ちも湧いて来て、他者に役立つ喜びも知る。

そしてな、わしは一番期待してる事があるんじゃ」

「何だす?」

「それは【必要とされる事】じゃ。お蜜様には不幸にもその経験が無い。お風様はお蜜様のことをお思い狐国を出されたが、それは見方によっては居ても居なくてもいい存在に近かったのではないかな?

お風様も馬鹿ではない。一人でもやれると踏んだからこそ他国に出せたのじゃよ」

「何とッ!」

「猫国でもある意味不幸じゃった。子分達は自活しておるからお蜜様の助け等は有っても無くてもいい程度じゃった。真に必要とされた経験がないのじゃよ。

だからお風様が自分を今になって必要だと心底思われていたとしてもわからないのじゃ。経験がないから」

「きっとおわかりになるだすよ。絶対に!」

「そうじゃの。そして自分の【真の価値】・【真に居るべき場所】・【真にすべき仕事】を御自身で見いだされる事を願いたいのおぉ」

「そうだすね」

「わしはレレに言ってあるのじゃ。『お前が嫌な仕事は全てお蓑にさせろ』とな。おお、そうじゃ内緒じゃよ。お蓑がお蜜様である事はな」

「へい。肝に命じるだす」

「泣き言垂れるお蜜様の愚痴を聞いてやっておくれ。お前はたった一人の友達なのだからのお」

「へい、わすにとっても大切な友達だす!」



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第八章 お蜜再び 銀毛九尾のお蜜1

前回

お蓑は部屋から追い出されてしまった。木平は非難したが、ガスはお蓑を何としてもお蜜に変えなければならないと云う、狐国の事情を聞き、ガスの気持ちを聞くと木平は納得した。

これからはお蓑を支える友達でありたいと心底考えた。



はじまり、はじまり



それからのお蓑は、毎日朝早くから夜遅くまで働き通しだった。

最初は慣れていないので失敗もあり、患者の接し方もぎこちなかったが、慣れて来ると手際も良くなり、患者に対しても気安く接する事が出来る様になっていた。そして患者に対してはどこまでも優しかった。

誰もが厭(いや)がる様な異臭を放つ者にも嫌な顔一つせず良く尽くした。不思議な程、お蓑は頑張れた。嫌ではなかったのだ。今まで経験した事の無い充実感が心地よくさせた。

毎日ヘトヘトに疲れて、ベットに入ると泥のように眠れた。そのようなお蓑が頼りにされない訳がない。食事も満足に出来ぬ程にあちらでも『お蓑さーん!』こちらでも『お蓑さぁーん!』と引張りだこだった。

そして木平もいつの間にか、美しい狸の姿を取り戻していた。誰もが驚いていたが、一番驚いたのは当の本人だった。だが相変わらずのズーズー弁で、優しいままの木平だった。

ガスから教えてもらった薬を、沢山の者に使ってもらえるように薬売りになった。『儲けなんて考えず、安くすて皆に使ってもれる事が自分が出来る償えなんだ』と、張り切って旅立って行った。

お蓑と木平の交流はその後も途切れる事無く続いている。お互い励まし合い乍(ながら)、恥じる事の無い生き方をやり直してる二人は、かけがえのない心友(親友)となっていた。

お蓑はそんな日々を何ヶ月と過ごすうちに前とは明らかに違ってきた。誰にでも必要とされる事によって、自分に自信が付いた。実際にガス達にとって無くてはならぬ存在になっていた。

醜さなど気にする間もなく、忙しい日々を過ごしていた御陰でお蓑は気が付きもしなかったが、少しづつ変化していた。最初は泥色が薄くなり白くなっていく。

そしてその内には毛の一本、一本が輝き始めていた。その輝きは目を射るような輝きではなく、心まで温かくなるような不思議な光を放つようになっていた。

お蓑が病棟を夜回りしていると、灯りが無くても温かな光に包まれた。患者の愚痴でも泣き言でも、根気よく聞く耳はピッとして正面を向いた。優しい言葉を発し続けた口は穏やかな笑みに溢(あふ)れた。

眼鏡を外せなかった霞(かす)んだ目は、美しい翡翠(ひすい)色に輝きだした。何より縮れた尾は伸びて真っ直ぐになり、いつの間にか九本に分かれた。それは、誰の目にも明らかな【九尾のお蜜】だった。それでもお蜜はお蓑と名乗り、仕事をこなし続けた。


*{お蓑はこれからはお蜜とする}*


美しさなど今のお蜜にとってはどうでも良い事になっていた。ある日ガスに書斎に来るように言われた。
ガスの書斎は三階にある。階段を軽快に上がるとお蜜はノックもそこそこに部屋に入る。

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ガスの顔を見ると、いつものように遠慮なくものを言う。

「用事って何よ?あたし忙しいのよッ、爺の愚痴なんか聞いてる暇はないのよ!」

「ふあふああ、そう剣突(けんつく)しなさんな~、爺とお茶くらいたまには飲んでも良かろうが」

「あたしはね、お偉い先生とは訳が違うのよ。小間使いなのよ。だから忙しいのよーッ」

お蜜はガスと二人だけだと遠慮が一切ない。ガスもそれが楽しい。

「威張った小間使いじゃのお~。お前の好きな甘茶を入れるから怒らんで飲みなしゃいよ」

「仕方ないわねえ、飲んで上げるわよ」

「ふあふああ、嬉しいのおぉ~」

嬉々(きき)としてお蜜に美味しい甘茶を入れる。ガスの部屋は天井の真ん中に大きな天窓があり、天窓には大きな水晶が嵌(は)め込んであって屋上の川の水の流れが部屋から眺められる。お蜜は本当はガスの部屋に来るのも好きだし、話していると心が和む。

長い年月を生きていると、やはりガスのような年寄りといると落ち着くのであろう。甘茶を飲んでホッとひと息しているとガスが話しだす。

「のお、お蓑・・・いや、お蜜様。もう隠しようが無いの~ぉ、、、あなた様はどこから見ても【銀毛九尾のお狐様】」

「そうみたいね」

「お蜜様がお蓑だといくら言い張っても無理な話じゃ」

「ふん!いいじゃないのさ、誰にも迷惑掛けてないし」

「ふあふあふあ、憎まれ口をわしに言うとる時のお前さんはイキイキしとるよ~」

「あら!嫌ねぇ~、そうかしら?」





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第八章 お蜜再び 銀毛九尾のお蜜2


前回

木平とお蜜の二人は美しく変身した。それは以前とは比べられないほどの美しさだった。身を粉にして働く事により、他者から信頼される二人に、揺るぎない自信と誇りを齎(もたら)した。

木平は薬売りになり旅立ち、お蜜は銀毛九尾となっても小間使いとして毎日を生き生きと過ごしていた。そんなお蜜をガスは暗に促(うなが)す。


はじまり、はじまり


「ふああふあ。わしはのぉ~、お蜜様は狐国にお戻りになるべきだと思いますのじゃ。今のお蜜様ならこのガスが太鼓判を押します」

「だってあたしは、お姉様に必要とされているかどうかも解らないんですもの、、、」

「まだそんな事を言うとる。けしからん!うッ、うん・・・危うく騙(だま)されるとこじゃったわ。お蜜様は『修行が足らぬから、もちっとここで働くがよい』と、言わせるつもりじゃったな?本当にけしからん奴じゃ」

お蜜は可愛い舌をぺろっと出してる。

「だって、、、不安で・・・」

「何を言うとる?今の光り輝くお蜜様はどこに行っても恥ずかしくない王族じゃ!」

「煽(おだ)てても聞かないーッ」

「なんと言う頑固者じゃ!呆れ果てたお蜜様じゃのぉ、、、」

そうは言っても、ガスはやはり嬉しい。ガスとて手離したい訳ではない。ガスにとっても大切な存在だ。

「そうじゃ!お蜜様はあちらで病院を造ればよかろう。月狼をやろう。あいつなら【狼格】【知識】も充分だし、きっとお前様の助けに成る」

「どうしても行かせたいの?」

「行かせたくはないのが本音じゃ。だが強いて云うなら嫁に出す気分じゃな」

「あたしよりずんと若い癖に」

「致し方あるまいて。どう見てもわしの方が年寄りに見えるのじゃもの」

「損だねぇ」

「何を言うとる?一度年寄りになれば、それ以上は年寄りに見えんから少しは得しとるわ」

「そんな得があるなんて知らなかったわ!」

「ふんじゃ、わしかて木平のようにぴかぴかの色男になるかも知れん」

「はい、はい、期待してるわ」

「わしかて、女子衆にキャーキャーと、、、」

「ガスが言われてたの?」

「い、言われてみたいな~と、、、一度くらいはのッ」

本来なら畏(おそ)れ多いことだが、ガスはお蜜と話しているとつい亡き妻と軽口を言い合いながら楽しく暮らしていた時を思いだしてしまう。

誰にでも【先生】と呼ばれるだけになると寂しかった。何か孤独感を感じていた。だがお蜜は二人になると平気でガスと呼ぶ。

『馬鹿ガス~』等ととんでもないことも平~気のへのざ。ガスはそれが嬉しかった。

お蜜はガスに考えておくとだけ返事をした。お蜜とて考えていない訳ではなかった。自分が少しづつ変化していくのがわかったのは、レレに言われてからだった。

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驚いて久しぶりに埃(ほこり)が被った鏡台の覆(おお)いを取ると、いつの間にか眼鏡が要らなくなっていたし、鏡には美しい藤色の猫ではなく、光り輝く銀毛で覆われた 翡翠(ひすい)色の目を持つ狐が映っていた。

「藤色の猫ならばここに居られるのに・・・」

本来の姿が狐なのだから狐に戻るのが当然なのだが、お蜜はやはり猫で居たかった。猫になってからのお蜜は、いろんな経験をした。

鏡を見るまでは、元から猫だったと思う程に猫になっていた。お蜜が猫にこだわるのも無理もない。すでに猫になって何百年も経っていたし、猫国に来てからは辛い事もあったが総じて楽しかった。

狐国が遠い異国に感じるくらい猫国に馴染んでいた。今はこの暮らしに満足しているし、狐国の事を考えたくはなかった。だが、今までのお蜜とはやはり違っていた。

以前なら知らんぷりできた事が出来なくなっていた。他者から必要とされる生活をしていく内に付いた自信は、お蜜に揺るぎない誇りを取り戻させた。狐国の王族として民に奉仕できる者になっていた。

己が満たされていないのに、他者を満たす事など出来はしない。不足を思う己に、他者を思いやる気持ち等持てようも筈もない。

今のお蜜は、様々な試練と患者に奉仕する喜びを知る事により、本来あるべき姿に戻った、、、と云うよりそれ以上になっていた。お蜜は姉であり、狐国の王である【お風】を充分補佐できる程に成長していた。

そんなお蜜はガスに別れを言い出せずにグズグスしていた。ガスに言われるまでもなく、わかっているから、ついお茶らけて誤摩化して来てしまってた。

だがそんなことをいつまでも続けられる訳がないのである。わかりすぎる程わかっていた。

「だけど、、、もう少しだけお蓑でいたい・・・」

虚しい独り言を言った。それから三日もしないある日のことである。貞達が大挙してやってきた。






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第八章 お蜜再び 銀毛九尾のお蜜3

前回

ガスに言われるまでもなく、自分の姿が変わっていることはわかっていた。本来なら大喜びすべきなのに、今のお蜜は違う。

鏡に写る狐の姿にため息が出てしまうのも、認めてしまえば猫国を去らなくてはならない事ががわかっていたからだった。


はじまり、はじまり


お蜜を見た途端に貞が・伊佐が・留が・亀が、と子分達が縋(すが)り付いて大泣きをする。貞達に知られるのは時間の問題だった。

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一端(いっぱし)のお兄さん達がどいつもこいつも嬉し泣きしている。


ニャーッニャー!ニャゴォーーーーー!!


お蜜も困ってしまった、、、お蜜とて子分は可愛いのである。暫(しばら)くはそのままにしていたが離れない。貞をようやく引き離したが、貞はこりずに縋り付く。

又、引き離すと縋り付く。お蜜も面倒になって全員を尾っぽで薙(な)ぎ払う。

「いい加減におしよ。いつまでニャーニャー泣いてんだよ!」

ひっくり返ったままで貞が文句を言う。

「だって姐御のお狐様の姿を見たら、あっし達は、、、あっし達は耐えに耐えてたものが、怒濤(どとう)の如(ごと)く押し寄せてげすな、、、堪(たま)らなくなって姐御に縋り付いたでげす」

「もう充分だろよ」

足らないでげすーッ!あっし達は姐御が狐国にお帰りになったと聞いていたでげす。

そしたらなんと!姐御は連傘(れんがさ)滝のガス先生のとこに居てでげすよ、その上もって徳の世話までなさっていたと聞いて、

もぉーーー、矢も楯(たて)もたまらずに参った次第でげす!

あっしらは姐御が居ない寂しさを仕事に打ち込む事でげすね、この寂しさと辛さを何とか紛らわせようと日夜努力してげすな、、、」

「だから貞は何が言いたいのよ?」

「あっしの言いたいのは、、、とにかく一生懸命に頑張ったでげす。姐御に褒め(ほ)てもらいたい一心でげすよ!」

「何を言うんだよッ、皆様がお笑いだろうが」

いつの間にか貞達の大騒ぎに皆が集まっていた。

「いいんでげす!あっしは姐御に褒めて貰いてえでげすッ」

「あっしも頑張ったでやんす!」

「あっしなんか、お客様を増やしやした!」

子分達が『あっしも!あっしも!』と騒々しくて仕方ない。

「わかったよ。皆よく頑張ったね」

「そんなんじゃ、嫌でげす!」

「何でよ?」

「一人、一人名前を言って頭を撫(な)でて欲しいでげすぅ(ニャハ)」

ニャフッフッ

「何を言ってんだよッ、子供じゃあるまいし、、、」

「子分は姐御の子も同然でげす」

久しぶりに会った子分達は其(そ)れぞれに懐かしく、顔を眺(なが)めているとお蜜も感極(かんきわ)まる。

「わかったよ、おいで」

貞がいの一番にやってくる。お蜜の前で膝を突いて、頭を差し出してジっとしている。お蜜が撫でてやると、喉をゴロンゴロンと鳴らす。

伊佐達も真似をして、我先に!とずらりと並びだす。(ズラーッ)壮観な眺めだが、騒々しかった。

何十という猫が揃ってニャゴロン、ニャゴロンとやらかしているから、五月蝿くて仕方ない。

それでもお蜜は、其れぞれの懐かしい顔を上げさせ、名前を呼んで褒めてやる。
ようやく最後の一人になった。顔を上げさせると顔が腫(は)れてブンブクリンの徳だった。

「あれ、徳じゃないの!その顔はどうしたのよッ?」

「へい姐御・・・本当に申し訳ねえ、、、俺は大バカ猫ですいやせんでした、、、」

「お前達!徳をこんな目に合わして何が褒めて欲しいだよッ。

徳が居ないと思っていたら一番のケツにして。怒られるのがわかっていたからって、そんな知恵だけは一丁前だよ。呆れたデレ助共だよ!」


ニャへへ


揃ってニヤついてる。

「それくらいで勘弁してやったでげすよ。姐御に気が付かなかったとは云え、世話なんかしてもらったなんて!とんでもない罰当たりでげすッ。病み上がりでげすから、これくらいで済ましてやったんでげす」

「仕様もないねえ~、徳!こっちにおいで。不思議膏を塗ってやるよ」

徳は満面の笑みである。ニコニコしてお蜜に薬を塗ってもらう。

「お前達には、ちゃんと話をして於(お)かなきゃならないね・・・あたしはついこの間迄そりゃあ醜い猫になっていたんだもの。徳が気が付かないでいたのも無理はないのさ。

あたしは足を悪くした徳を思いやる処か傷付けていたんだよ、、、それに伊佐にだってあたしは会っているんだよ」

「本当でやんすか!?」

「ああそうさ。もう何ヶ月も前にお前が徳に黙って肩を優しく貸す姿を知ってるよ」

えっーッ?もしかしてあの醜い猫・・・?

一度見たら忘れられねえ、、、」

「そうなんだよ。五黄にあたしは自分の心を引き出されて、そんな無様な姿になっていたんだよ」

「あっし達は姐御は狐国にお戻りだと・・・」

「五黄の優しさだよ、わかるだろ?」

「へい、大親分は凄いお方でげす!」

ガスの姿が見えたので、お蜜はここで厄介になるまでの話を貞達にすると、貞達はお蜜が言うまでもなく、ガスに平伏してお礼を言った。

「ガス先生!そして皆々様。大変に大変に姐御がご厄介になったでげす。あっしら子分一同この通りでげす」

「ふあふふあ。何を言うのじゃ、わしらこそお蜜様には世話になったのじゃ。わしらこそ心より礼を申す」

ガスを筆頭に月狼達や患者達すべてが頭を下げた。





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第八章 お蜜再び 銀毛九尾のお蜜4

前回
久しぶりに会うお蜜に貞達は縋(すが)り付く。不思議なものだ。文句を言っていても離れてしまうと寂しくてならなかった貞達。

子猫のようにお蜜に甘えた。そんな子分達に囲まれて、お蜜も懐かしく幸せになる。


はじまり、はじまり


ガスの勧めで皆、ぞろぞろと食堂に移る。お茶が其れぞれに振る舞わられ、貞達も大分落ち着くが、それでもまだソワソワしている。お蜜のそばに居るのが何より嬉しいのだ。

「あたしはね、、、ここに来たって、とんでもないお荷物だったの。だけどガス先生に教えられて、大馬鹿なあたしでもやれる事が出来たんだょ。

それは患者様達のお世話なのさ。最初のうちは間違ってばかりで足手まとい以外の何者でもなかったけど、レレや月狼や皆が優しく教えてくれ、失敗続きで腐るあたしを木平は慰めてくれた、、、だから一生懸命に頑張れた。

あたしはね、ここに来て初めて必要とされたんだ。あたしじゃなきゃ『ダメだ!』って・・・」

お蜜は言葉が詰まった。深く、深く、深呼吸をして又話し出す。

「ようやくあたしが自信てなものを持ち始めた頃に徳が、ここに足を引き摺(ず)りながら訪ねて来たの。徳はあたしを覚えていて、最初あたしを見ると凄い顔をして睨(にら)んだわ」

お蜜がそう言った途端に皆が徳を睨みつける(ギロッ!)徳は顔も上げられない。

「ちょいと!嫌だねぇ~、こら貞!鬼みたいな顔して睨むのじゃないょッ。あら?何だねぇ~、先生まで、、、。徳!あたしの後ろに隠れな」

徳はたいそう嬉しそうにニコニコして、フカフカの尾の中に隠れる。

「ニャはぁ~~」

それが又、皆の癪(しゃく)に障(さわ)った。


ニャローッ!


お蜜を睨(にら)めないので皆して寄り目になった。(どんだけぇ~)お蜜は皆の変顔を見て笑い出した。皆も笑った。食堂が笑いで満たされた。

「あたしは徳を見た時に、『どんなに嫌われても、怒られてもきっと徳の役に立とう!』それがあたしに出来る【唯一の償い】だと肝(きも)に銘(めい)じた。

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愚かなあたしの所為で屋根から落ちるはめになったのに、見舞いすらしなかった薄情な色狂いの女狐に出来るたった一つの償いだって思ったんだ。

最初の内は差し出す手を拒否していた徳も、あたしがあんまりしつこいのに根負けしてか、少しづつだけど、受け入れてくれるようになっていった。

世話していくうちに徳は色々な話をしてくれたのよ。『親一人子独りで苦労して育ててくれた母親に、いつか自分が作った豆腐を食べさせてやりたい!

だから頑張って足を治さねえといけねえ』って、、、豆腐作りは腰に力が入らないとだめなんだってね?

徳は『踏ん張りのきかねえ、おいらなんか屁の役にも立たねえ』って、、、あたしは豆腐作りがそんなに大変な仕事だなんて知りもしなかった。

そういえば、こんな事もあったわ。徳がね、あたしに大事な宝物を見せてくれたのよ。汚い字だったけど【根性】と貞が書いた色紙。

『伊佐兄いに留や亀が銭を貯め、長くて立派な杓文字(しゃもじ)を買ってくれたんで、これで今に鍋の豆乳を混ぜるんでやんす。おいらこれを見てると腐っちゃ居られねえ!』って、、、」

貞達やガス達は泣いていた。

「あたしは徳の世話をさせてもらって本当に良かった!貞達は一生懸命に働いて、お銭を稼ぐとその銭で屋敷を、、、

あたしの気持ちに触れていたいって・・・いつ帰ってきても良いようにって・・・喜ぶ顔が見たいって・・・」

お蜜は半べそである。徳も尾から顔を出して泣いている。

「貯めた大事なお銭でペンキや花の種を買って、、、『今では見事な洋館になっている』って、徳は自慢していたわ。

徳はね、あたしのことを憎んでないって。怪我したての時は腹も立てていたけど、やっぱり姐御が恋しいって・・・あんなに自分勝手で薄情だったあたしをこれほどまでに慕ってくれる貞達に嬉しくて涙が止まらなかったょ。

本当に本当に心の底からお礼を言います。ありがとう!本当にありがとう!あたしは世界一の子分を持った果報者だよ」


あッ、姐御ーーーっ!!


大のお猫達が大泣きである。

「良く聞いておくれ。あたしはね、此処で生き甲斐を見つけたんだ。馬鹿で愚かなあたしの目を覚まさせてくれた。今のあたしはようやく故郷の狐国を想える者になれたんだ。

これからのあたしは身を粉にして狐国に尽くすつもりさ。ここで覚えた色々な事を狐国の民にもしてあげたい。

出来る筈、、、いいや、絶対にしてみせる!あたしだって銀毛九尾のお蜜だ!出来ない事は無いよ」

啖呵(たんか)を切ると美しい九本の尾が『ふわぁ~』っと膨らんで輝きを増す。お蜜の決意に、全員が拍手する。


「いよーッ!」


「お蜜様ーー!」


大変な盛り上がりように、ガスが『祝おう!』と云い、その日から大宴会が始まった。





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第八章 お蜜再び 旅立ち


前回

お蜜が声を詰まらせながら話す、徳とのエピソード。貞達はお蜜がそこまで変わった事に驚くと共に喜んだ。そしてガスのかけ声で大宴会が始まったのだった。


はじまり、はじまり


貞達の変なニャん踊りやドラニャ声の歌。そしてガスは詩吟を披露して皆に大顰蹙(だいひんしゅく)をかったり、月狼達は美しい調べの笛を吹いた。

誰も彼もが浮かれていた、浮かれ過ぎている程だった。この宴会が終わるとお蜜が旅立ってしまうのがわかっていたからなのかも知れない。宴会が三日目に入った頃だった、、、

お蜜が皆の気持ちを察しながらも『宴会を終わりにしよう』と告げる。皆の名残惜しげな顔を見ながら、お蜜は優しく皆を諭(さと)すように話す。

「いつまでも名残惜しいのに変わりはないが、いづれ別れはやってくる。あたしはどこに居てもこの猫国の事は生涯忘れない、、、

それに永の別れじゃない。いつだって遊びに来れるもの、そうでしょ?
先生に教えてもらいたい薬の作り方だって、まだまだあるし、、、」

ガスはお蜜の言葉でニコニコする。それを見た貞が口を尖(とが)らして文句を言う。

「姐御!それじゃ、あっし達は、、、あっしらだって姐御に会いてえーッ!

「それなら狐国に直営店を出せばいいじゃないの」

「そんなら、あっしが店長になるでげす!」

「貞は社長でしょ?無理よ」

「そんじゃ、伊佐か留にでも社長をさせるでげす」

「何言ってるんでやんす!貞の兄貴はとんでもねえでやんすッ!」

「あっしこそ、支店長にふさわしいですッ!

兄貴は本店で豆腐の研究でもしてればいいでやんす!」


何おぉーッ!兄貴の言う事が聞けねえのか?!えッ、どーニャんだッ!このすかんぴん!!


「静かにおしよ~。もぅ、すぐにそうなんだから。代わりばんこに店長になればいいさ」

今のお蜜は静かにものを言っても迫力満点である。貞達子分は最初こそ神妙にしていたが、やはりお蜜に怒られるのが嬉しいらしい。
ニャコニャコしている。お蜜の事が大~好きなカワイイ子分達なのである。

そんな時、食堂のドアが開き、大きくて分厚い手が見えた。のそりと姿を現したのは五黄だった。お蜜は五黄を見ると感極まって声も出ない。だが、来たのは五黄だけではなかった。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
saikai.jpg

大きな五黄の陰に隠れて最初は見えなかったが黄金に輝く【金毛九尾のお風】と、お蜜が忘れもしない乳母の【お熊】だった。お蜜は二人の顔を見た途端に、頑是(がんぜ)無い子狐のように泣いて縋(すが)り付く。


お、、、お姉様ーッ!お熊ぁーーッ!!


二人も久しぶりに会うお蜜と抱き合いながら、声を上げて嬉し泣きしている。五黄は三人のお狐達を微笑んで見ている。ガスに目で挨拶すると黙って頭を下げた。

ガスは宴会が始まると直ぐその場に居たがるレレを無理矢理、菰傘(こもかさ)村の五黄へ遣いに出していたのだ。ガスは昔に不思議膏を発明した褒美(ほうび)に、まま子から地 下水道を自由に移動できる水玉(すいぎょく)の術を授けてもらっていたので、ガスはレレを水玉で行かせた。

レレはすっかりお蜜と仲良くなっていたので不満タラタラだったが、急いで地下水道を行き来し、ちゃっかり翌々日には戻って宴会に参加していた。運良く五黄が菰傘村にいたので、レレから話を聞くと早速お風に会いにいった。

お風はお蜜を『迎えに行きたい』と言って聞かなかった。又、お熊も『一緒に行く!』と言って五黄を困らせたが、二人の気持ちを考えれば、のほほんとお蜜が狐国に来るのを待っているのは、一刻でも待ちきれない思いだったのであろう。

お風が屋敷を開けるのは、滅多に無い事なので家臣達は驚いた。お風から『お蜜を迎えに行くのだ』と、聞き大騒ぎになった。お蜜の帰還を誰もが待ち望んでいたからだ。知らぬはお蜜ばかりなのだ。お蜜はここでも愛されていたのだ。

迎えの支度を整えるのに一日掛かった。付いて行きたがる家臣達を国境で待つように説得すると、五黄は二人を猫国まで連れて来た。一旦は五黄屋敷に入るとこちらでも大騒ぎ!【金毛九尾のお風】を一目見ようと凄い猫だかりが出来た。

藤平と久しぶりに再会する二人は感激も一入(ひとしお)であった。洋館に案内をされ、コーヒーを振る舞われ、やっと落ち着く。
藤平はガスから聞いたお蜜の話しをした。聞かされた二人は泣いて喜んだ。

お熊は生きてて良かったと五黄に感謝する。二人は深々と五黄と藤平に頭を下げると言葉も無く泣いていた。そしてやっと連傘(れんがさ)滝のガス病院に連れて来たのだった。感激の再会を果たした三人が、落ち着くには大分時間が掛かった。

周りの者は美しさで名高いお風・お蜜の金銀に輝く姉妹に圧倒され声もない。女達は憧れの眼差しで見つめ、男共は涎(よだれ)を垂らしているのも忘れて惚(ほう)けた顔をしてる。

やっと落ち着いて二人に話を聞くと、お蜜は嬉しくて仕方がなかった。姉様が『あたしを必要としてくれてる』と肌で感じる事が出来たのであった。そんなお蜜も五黄には容赦がない。

やい、五黄ッ!お熊はぴんしゃんしてるじゃないのッ!あたしがどれだけ自分を責めたかッ」

「ちったあ、その方がお前の為になっただろうが?」

なんだってぇーッ!お前のお陰であたしがどれほど、、、」

五黄がヘラヘラして言うと、お風もお熊もおろおろして止めに掛かる。

「お熊は死んだって、、、『俺にも出来ねえ事もある』って、確かにそう言ったわよね!」

「んな訳ねえだろが、馬鹿たれ。お蜜なんかはそうは行くまいが、お熊くらいなら命を取るも与えるも朝飯前よ。
そんなことも知らねえんだから大丈夫かね?」

「失礼しちゃうわッ!あたしだって知らないことくらいあるわよ」

「ほとんどだろが」

周りの者はこの微笑ましい二人のやり取りを笑いながら聞いている。お蜜は久しぶりに五黄の顔が見れて嬉しいのだ。

蓮っ葉(はすっぱ)な口を五黄に利くのが嬉しくて堪らない。結局三人を交えて大宴会をやり直した。お風とお蜜が歌い踊る様子は、後の語り草に成る程皆の印象に残った。

五黄の隠し芸の太鼓腹叩きには皆で大笑いした。宴会が終わるとお蜜は一人一人に丁寧にお礼を言った。


『ありがとう、ありがとう』


貞達が何が何でも屋敷を見に来てくれと言ってきかないので、名残惜しむガス達に別れを告げ、お蜜達一行はぞろぞろと賑やかに屋敷に向かう。

キレイに整えられた庭と美しく塗り直された瓦(かわら)はお日様に照らされ、ピカピカ輝いていた。屋敷の中もきれいに掃除が行き届いており、主の帰りを待っていた。

お蜜もお熊も嬉し泣きをした。貞達の願いをきいて一行は一月も滞在した。お熊の手料理を久しぶりに味わうお蜜や貞達はここでも泣いて喜ぶ。

いよいよ旅立ちの日。貞達子分はずらりと並んで平伏している。お蜜が『達者でね』と優しく声を掛けると、貞達は『土産に!』と樽一杯の豆腐を寄越した。

徳が恥ずかしそうに自分の宝物の杓文字(しゃもじ)を渡す。

「あれ?これはお前の大事な宝物じゃないの」

「これを見て、あっし達を思い出して下せえ」

「いいのかい?貰っちまって」

「へい、兄貴達が又買ってくれるって」

「そうなの?」

貞や伊佐達は笑ってる。
お蜜は徳から押し頂くようにして受け取り、五黄やお風、お熊に嬉しそうに見せる。子分達は寂しさを堪(こら)え、送り出そうとしていた。

笑ってお蜜の旅立ちを祝ってやろうとしている。子分達の痛い程の心遣いを身に沁みながらお蜜も笑って応える。五黄はお蜜主従の絆(きずな)の深さに思わずほろりとする。

お蜜は威勢良く大声を出す。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
tabidachi.jpg


「ちよっくら、狐国に行って来るよ!あたしが居ないからって遊んでるんじゃないよ!」


「へーい。姐御もお気をつけていってらっせいやし」


こうしてお蜜一行は狐国に旅立って行った。



二章に渡って書いてきました銀毛九尾のお蜜の段。
我が儘でどうしようもない狐だったお蜜のサクセスストーリーでもございました。
これからもいろいろと苦労もありましょうが、今のお蜜なら乗り越えて行く事と思います。
猫国往来記中の主人公の一人でした。
これからたまに顔を見せる事もありましょうが、お蜜の出番はこれにて終わり。
ありがとうございました。
今回は二回分を纏めてアップしました、とても長かったと思います。
少しくたびれモードなのか、ダレています。
中日の水曜をお休みして、九章を始めたいと思っています。
これからもよろしくお願いします。

のくにぴゆう



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