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クルミ 1 自己紹介

本編第九章で卍宿に旅立った三吉、この物語は其の後から始まります(猫国図で場所を確認して頂けると雰囲気が分かりやすいかなと)


はじまり、はじまり


うとうとしていた三吉が茂吉に起こされる。

「三吉着きましたよ。初めての長旅でしたから、さぞや疲れたでしょう」

あっ!もう着いたの?」

「はいそうですよ、皆が迎えに来てくれてますよ」

雲上から望む下界の校庭に恵み子達が集まっている。雲階段がスルスルと校庭に着地して茂吉達をそっと降ろす。

「父様先生、お帰りなさい」


お帰りなさーい!


茂吉にあちらこちらから、声が掛かる。

「ただいま戻りました」

恵み子達は喜び勇んでわらわら駆け寄って来る。

「父様先生!三吉はどこですか?」

「ふふ。三吉、恥ずかしがらずにね」

三吉は大勢の恵み子達に圧倒され、茂吉の後ろに隠れてしまった。前に押し出されると照れて、モジモジしている。

「さ、三吉。ご挨拶をしましょう」

促(うなが)されても三吉は暫(しばら)くうつむいていたが、覚悟を決めたように大きな声で挨拶をする。


おいらは菰傘村の三吉ですッ!宜しくお願いしますッ!


体に似合わぬ大声を出すものだから、一瞬恵み子達は驚いてシーンとしてしまった。三吉は大声を張り上げたのは失敗したと思った。だがその後、皆が大爆笑になる。

「面白いちびだねえー」

「可愛いねえ~」

「元気な子猫だね」

其れぞれが好意的な反応をした。

「ふふ、元気な子だろ?学校も賑やかになるよ」

茂吉が笑いながら三吉の頭を撫でている。

「父様、あたしを紹介して下さい」

紫色の美しい狼が一歩前に出て来た。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
gikoshoukai.jpg

「ああ、そうだね。三吉、この兄様は【紫狼(しろう)】と云い、これから暮らす寄宿舎の先生だよ」

「ふーん。偉いの?」

「偉いよ、あたしよりも」

えーッ!そうなの!?」

「父様先生、ご冗談を言って、、、」

「だってお前が寄宿舎では一番偉いのだよ、あたしも従わないとね」

「厭(いや)ですよ、そんなことを言っては(笑)三吉、あたしは【紫狼】と言います。雑用係ですから何でも遠慮なく言って下さいね」

実際、紫狼は茂吉にとって頼りになる存在だ。恵み子で三役所を全て経験し終わっているのは紫狼のみである。
性格も茂吉に似て、二人はとても気が合うのだ。

三吉が挨拶をするとその他の者達も次々に挨拶をした。恵み子達は総勢で二十人程で、全くの少数精鋭と言っていい。

主立った者達は僅かである。

《御係所》は狐族の【クヌギ】を頂点にして運営している。他に狼族の【朔狼】と【セセリ】御係所は係争によって軽、中、重の三段階に分かれる。

最初に訴えた者と会い種類分けをするのは五十回生以上の者達が担当する。判決は余程の事が無い限りは一人で決める。

滅多に無いがクヌギでも手に終えない場合は、紫狼や茂吉が出ばって合議する時もある。

《身魂抜きの宮》には[三羽烏]と言われている恵み子達が居る。魂の形を正確に象(かたど)る河童族の【タン】
象られた魂をそのままに身魂切りの刀で切る狼族の【星狼】切り取られた魂を体から抜き取る役目の熊族の【桐熊】

《魂納めの宮》は猫族の【夜し吉】が担当している。この者達は何れ劣らぬ者達で茂吉の良き助けになっている。

恵み子達のシステムは、五十回生までは学校で勉強をする。それを過ぎると《身魂抜きの宮》→《魂納めの宮》→最後に《御係所》に配属される。

十年毎に学生達は三役所を移動する。全ての宮を経験するのである。そして向き不向きを見極め、生涯を働いて尽くす役所が決まる。

今現在、五十回生以下の学生は五人程である。それとて三吉とは大分離れていて後少しで役所巡りを始めようとする者たちである。

只一人だけ、ここに来て二年目になる狐族の【クルミ】が丁度、三吉と同い歳だ。

「三吉、クルミを紹介しましょう。クルミ、前に出て来なさい」

「はぁ-い」

詰まらなそうに気抜けした返事をして三吉の前にクルミが現れた。三吉はクルミの姿に驚いた。

わあ!綺麗な柄だー!」

三吉に『綺麗』と言われてクルミは途端に機嫌を直す。どうやら自分と同い年の恵み子が来た事が不満だったらしい。どうしてだろう・・・?

「あたいクルミよ、あんたより先輩だわね」

「ふふ、大して変わりませんよ」

茂吉と紫狼はニコニコしている。

「そんな事有りませんン~、あたいは二年も先にここに来てるもの」

皆はクルミの生意気を知っているので笑っている。

「さっ、三吉。それでは先輩のクルミにこれから色々と教えてもらいなさいね」

えぇーそうなの?」

「あら、何かご不満でも?」

クルミは耳聡い。

「ううん、別に・・・」

「クルミ、三吉は来たばかりなのですから優しく丁寧に教えて上げなさい。いいですか?これもお勉強ですよ」

「はーい、任せて下さい!」

「ふふ、相変わらずのおシャマちゃんです事。三吉、今日は歓迎会もあるし、疲れているだろうから少し休みなさい」

「はぁーい」




つづく





やっとクルミを皆様に紹介ができる。感慨深いでござる。
この物語は親子とは家族とは何だろうと考えながら書きました。
これから暫くの間、お付き合い下さいますようお願い申し上げます。

のくにぴゆう
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クルミ 2 恵み子の生活

前回

三吉の恵み子としての生活が始まった。どんな暮らしになるのだろう。


はじまり、はじまり


三吉とクルミは紫狼に連れられ、校庭を横切り宿舎に向かう。
三吉達のような幼い子に個室はなく、寝るのも何もかも他の恵み子達と一緒になる。

自立心は元から恵み子達は持っているので、ここでは協調性を持たせること、そして一番の目的はお互いが家族に成ることである。

子供達は多かれ少なかれ 大変な緊張をして来ている。これからの勉強や役人としての仕事をする将来に向け、覚悟を決め歩を進めてきたのだ。

茂吉はそんな幼気(いたいけ)な子供達の気持ちをリラックスさせることに主眼を置く。
自分を【父様】と呼ばせ、他の恵み子達を【兄様】【姉様】と呼ばせ家族であるという一体感を植え付ける。

最初は戸惑うが家族から離れ、悲壮な決意をして来る子供達が大半なのでこの方法は意外と上手くいく。元から同じ魂の子供達、云わば魂の家族と暮らす事になる。

最初の緊張が解れると面白いように子供達は自然体になる。我が儘になったり、甘えたりという子供らしさが出て来る。そんな恵み子達に子供としてのやり直しをさせ、堪(こらえ)ていたであろう様々な垢を落とすことを【子供返り】と呼んでいる。

そんな中でクルミは頑(かたく)なだった。

二年の間に少しは皆に甘える事も覚えたようだが、それはあくまで覚えたと云うだけで、未だに本当の心を開く事が出来ずにいた。逆に一番年下なので無理をして皆に合わせようと背伸びをする姿に茂吉も紫狼も心を痛めている。

そんなクルミが不憫で仕方ない。こうまでクルミを頑なにしている何かがわかっていない。何しろ本人が決して話したがらない。仕方ないので今はクルミの好きにさせている。

せめて自由気ままにさせているしかない、、、『どうすれば本当のクルミを出してくれるのか?』と、茂吉も紫狼も思案していた。だが三吉が来た事によってクルミが思わぬ変化をしそうなそんな楽しい予感もする。

宿舎と云っても大きな民家で、中は大雑把に広間兼食堂、寝室、勉強部屋、読書室と区切られている程度。不思議にも恵み子達は個室を欲しがらない。

別に一軒家も用意してあるのだが、役所のトップに居る者達まで今だに住んでいる。茂吉を真ん中にして食事の後は其れぞれが仲良く会話を楽しむ。茂吉と恵み子達は一つの家族になっているのだろう、寝る時も適当に布団を並べて寝る。

勉強したければ勉強部屋に行って勉強をする、読書したければ読書室に行く。そこには国内外だけでなく人間界の書物等有りとあらゆる蔵書が揃えてある。恵み子達の探究心や向学心を満足させるもので溢れているのがここであった。

ここまで気遣った茂吉の苦労の程が忍ばれる。宿舎とは別に学校があり、非常に規模が大きい。恵み子達の学校とは別に国内外の優秀な子供達の為に教育もしている。別の敷地でここからは少し離れているが医者や教師にと巣立った子達も多い。

そして、特筆すべきは職人を育てる学校もあるのだ。手工芸から大工や商人とあらゆる職業のプロを養成する学校もあり、とてつもなく巨大な学園でもあるのだ。棟だけで何棟もあり、その学校の教師は一般の者達がしている。

そして基礎を学んで卒業した者たちは、其れぞれの名だたる名人の元、修行につき道を究める者達も多い。河童のガスの元へ修行に行っている月狼達がそうである。

茂吉はこうして恵み子の教育だけでなく、普通の者達の教育にも熱心に心を砕いているのだから、藤平が嘆く程、里帰りをする時間も作りようがない、まさに殺猫的多忙である。

全ての頂点に立って仕事をこなして来ているのだから、さすがに【天授子】と呼ばれるにふさわしい。恵み子達もこの茂吉の真似は出来ようがない。

茂吉が学校の校長室に入ると、その後をぞろぞろと恵み子達が付いて行く。当然のように校長室には、嬉しそうにしている恵み子達が取り囲んでいる。留守にしていた間の様々な報告を受けたり、休む暇はない。

恵み子達も普段の重々しい雰囲気はなく、茂吉の前では只の子供になっている。茂吉も皆に土産を渡したり、藤平直伝のコーヒーを振る舞ったりと楽しい一時を過ごしている。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります

megumikoima.jpg


一方、紫狼は居間で二人に温かいミルクを飲ませる。クルミは不満気な顔をしている。そして寝室へと案内をされた、お昼寝タイムである。

大きな部屋で寝るのに慣れていない三吉だったが、クルミが横でさっさと寝てしまうので、疲れもあっていつのまにか寝てしまう。

紫狼が二人の可愛らしい寝息を聞くと、微笑んで部屋を出て行く。暫(しばら)くして、寝息をたてていたクルミの目が「パカッ」と開いた。


つづく

クルミ 3 寝床

前回

ミルクを飲んで布団に入った二人、どうやらクルミは寝ていなかったようだ。



はじまり、はじまり


挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります

nedoko.jpg



「ねえ、三吉起きてる?」


三吉はすっかり寝入っていた。クルミは返事がないので激しく揺さぶる。


うっ、うわあ~ッッ


チョット、チョット静かにしなさいョッ」

「へっ?だっておいら吃驚(びっくり)したのだもの」

「やあねぇ、大袈裟ねえ、ちょいと揺すっただけなのに」

舌をぺろりと出す。

「おいら頭がぐらんぐらんするよ~」

「へへ、やり過ぎたかしら」

「やり過ぎだよ」

「だって返事が無いから・・・」

「寝てるんだから当たり前だよ」

「まっ、いいわ」

「何だい、それだけなの?」

「話をしようと思ったのよ」

「いつでも出来るのに」

「いいの、あたいは気が短いの」

「はいはいわかりましたよ、それで何を話すの?」

「あんたってさ、校長先生が迎えに行く程だから特別なの?」

「知らないよ、きっと藤平おじちゃんに会いに来たついでじゃないの?」

「そうなの?あたいは紫狼兄様だったもの」

「へー、クルミは紫狼兄様だったの?」

「うん、あたいはね。でも他の兄ちゃんや姉ちゃん達も紫狼兄様だよ」

「じゃ、おいらだけだったの?」

「そうよ、だって校長先生はもの凄く忙しいのだもの」

「そうなの?」

「本当にあんたって何にも知らないのねッ」

「だって知らないもの」

「いいわ、えっへん!あたいが何でも教えてあげましょう」

偉そうな事を言う割に知っている事は僅かである。
参考になるのは宿舎のお献立とか、誕生会などの行事。茂吉はクルミに本格的な勉強をさせていない。

子供返りの最中だからだ、クルミは知らないので大いに不満である。ここに来てからは遊んでお昼寝して...と、そればかり。

皆のように勉強したいと言っても、取り合ってもらえずにいた。クルミは大変な誤解をしている。

何としても役に立ち、必要とされなくてはならないと思い詰めていた。そんな中、茂吉自らが三吉を迎えに行ったというのは、クルミにとっては一大事だった。

(もしかしたら、三吉が来たら自分はお払い箱になってここから追い出されてしまうかも知れない、、、)
恵み子と云っても、クルミがここに来たのは僅か四歳。本人は売られて来たと思っている。

茂吉が知れば驚いて目を剥(む)くような話なのだが、そんな考えを持つに到るにはクルミなりの理由がある。クルミには大好きな姉がいたが、その姉は親によって売られていた。

幼さ過ぎるクルミには衝撃的な出来事である。クルミの家は母と姉の三人暮らしで母親は狐宿で酒場を商っていた。

母親代わりにクルミの面倒を見ていたのが、歳の離れた姉の【コノミ】だった。優しい姉のコノミを誰よりも好きだった。

クルミにとっての母は、いつも酒臭い息で帰って寝穢(いぎたな)く寝ているか、部屋まで連れて来た男達とベタベタしている姿しか思い浮かばない、、、そんな母に何の愛情も感じていなかった。

そんな母親が突然、コノミを奉公にやってしまった。

クルミは寝ずに探した。悲しくて寂しくて堪らなく泣きながら探した。だが、人探しをするには余りに幼く、町外れに探しに行くのが精一杯だった。

そんな事を繰り返しては知り合いに見つかり、店に連れ戻される事を何度もしていた。泣きべそのクルミを見ても母親は無反応だった。

母親はコノミの行き先も教えてくれない。其れ処か忌々しそうに舌を鳴らす。そんな事を半年も続け、さすがに諦めるしかないと思い始めていた。

最後に『もう一度!』と探した場所にも姉はやはり居なかった...仕方なく帰ると昼間なのに客がいる。この店は一階が店舗、二階が住まいと云う建物で、出入りは店からしか出来ない。

クルミは夜にはけっして階下には降りない。母親の嬌声や酔ってはしゃぐ大人達の声が耳を塞ぐ程嫌いだった。カウンターの前を通り過ぎようとした時、案の定、母親から声を掛けられた。客が居ると途端に優しげな声を出す。

「クルミちゃん、お客様にご挨拶は?」

無視すると後で叩かれるので心得ている。

「はーい!おじちゃん、こんにちは」

ニヤニヤしていた男狐が汚らしい手で頭を撫でる。一瞬、振り払おうとすると母親がもの凄く怖い目で見ている。目を瞑(つむ)ってじっと耐えた。

「へへ、いい子じゃねえかよ、おめえが言う程の我が儘じゃなさそうだぜ」

「あらそうかえ?あんたに気に入ってもらわないと一緒には暮らせないもの」

「へへ、こんなちびがいたって、俺は構わないよ」

「嬉しいー」

男狐に媚びる母親はゾッとする程女だった。クルミが邪魔になったのか、母親は二階に行ってなと命令する。始めからそうしたかったのでサッサと二階に駆け上がったが急いでいたのでつまづいた。

たぁぁーぃッ・・・」

爪先をふーふー言いながら擦っていると、聞くとはなしに二人の会話が耳に入る。


つづく

クルミ 4 出会い

前回

どうやら三吉と気が合いそうなクルミ。この子の抱えるものとは何だろう?


はじまり、はじまり



「ねえあんたぁ~、半年振りなんだよ~、もうつれないんだからさあ」

「そう言うなよ、これでも急いで来てんだからよ」

「来たから許して上げるよ~」

「へへ。そういや、おめえのとこにはもう一人子供が居たんじゃねえの?」

「居たよ。居たけどあんな大きな子が居たら邪魔だろ?あたいらの二人の生活にはさ~」

「それじゃ、お前、その子はよ?」

「ちょうど良い口があったから、猫宿の東雲楼(しののめろう)にね!」

「えっ?だってあそこは郭だろ?」

「そうだよ~、最後に親孝行していったよ~」

「酷い事するよ、てめえの娘だろ?」

「いいじゃないか~。御陰で店は改装できるし、邪魔者は減ったし、良いこと尽くめだよ」

「だけどもう一人残っているじゃないか」

「ああ、あの子ね!コノミと一緒に『売るよ』って言ったら『小さ過ぎる。もう少し大きければ』って言うのよ。だから後少し育てて、頃合いを見計らって売るのよ」

「へーッ!お前も悪い母親だね」

「あたいだって親に売られたんだ、構いやしないよ」

クルミにはその言葉だけで充分だった。母親は男と暮らしたいが為にコノミ姉ちゃんをどこかに売ったのだ。クルミは『絶対に許さない!』と思った。

悲しくて、悔しくて寝れなかった、、、それでも四歳の子供。

いつの間にか枕を濡らし寝てしまう。目覚めると母親は居ない、どこかに泊まっているのだろう。馴れているので、もそもそ起き出し台所に行き食べ物を探すが何も無かった。母親が食事を作ってくれる事は無い。

姉が居た頃は色々と作ってくれたので三度三度の食事も食べれたがこの頃はそうもいかない。何か残り物を食べるしか無かった。カウンターの中を探したが何もない。

全くなければ、隣の酒場のママにねだりに行く。

隣のママと云うのは本当は男河童なのだが、おばちゃんと言わないと怒る。【おばちゃん】であって、決して【おじちゃん】ではないのだ。その日もやはり何も無かったので仕方なく店を出ると見知らぬ者が居た。

「あ、あの子だよ」

そう言ったのは【バー・黒河童】のママ、おかま河童のキナだった。

どうやらその見知らぬ者はクルミの事をキナに訊いていたようだ。鋭いクルミは警戒した。昨日の今日である、さっそく売られたのかと思う。そんなことを知らない紫狼はクルミを見つけ、ニコニコしながら近づいていく。

「こんにちは」

クルミは今まで狼族を見た事がない。だがキナが言った言葉でわかった。

「あたいには用は無いのぉ~?もー、つれない狼さん!ウフ」

紫狼はキナの方に優しく会釈をする。品のいい紫狼にキナも下品な言葉を掛けるのを止めた。そんな品格が紫狼には自然に備わっている。

「あたしは紫狼と言います」

「・・・・」

「ふふ、突然だから驚きますね。あたしは恵み子の紫狼と言います」

「いやだあー!クルミちゃん!このお方は恵み子様だよ~。さっさ」

キナはクルミを無理矢理に跪(ひざまず)かせると自分も平伏す。

「あぁ、何をなさってるのです、そんなことはいけません」

紫狼は急いで二人を立たせると膝に付いた砂を払う。キナは嬉しそうにクネクネする。

「すみませ~ん。あたい、男の方にそんなことされちゃ~」

『あたい』と女言葉を使うキナには髭がぽつぽつ生えている。

「女の方には親切にするのが狼族のモットーですから」

紫狼も粋な狼である。おかま心をわかっている。キナが喜ぶような事を紫狼が言うものだから、嬉しくて仕方ない。いつまでも黙り込んでいるクルミに 母親みたいに『挨拶をしろ』とせっつく。

クルミも日頃世話になっているキナに言われるので、仕方なく挨拶だけはした。

「こんにちは・・・」

そっぽを向いて挨拶をする。

「クルミちゃん、とても御機嫌が斜めのように思えますけど今日はご挨拶だけにしときますね」

大きな渦巻き模様の飴を差し出す。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
shiroukurumi.jpg

クルミはとてもお腹が空いていたし、甘い物もずっと食べていなかったのでとても欲しかったが受け取らない。紫狼が不思議そうに首を傾(かし)げているとクルミの正直なお腹は『ぐぅうー』と鳴る。

キナはクルミのお腹の音を聞き、すかさず言う。

「あらッ!またあのメス、クルミにご飯も用意してなかったんだよッ!可哀相にッ」

「クルミちゃんは朝ご飯を食べていなかったのですか?」

「あの女狐は飯なんか作りゃしないのよッ!さっ、クルミ!あたいのとこでおまんま食べな」

「ありがとう、おばちゃん」

クルミがキナに付いて行こうとすると紫狼は慌ててクルミに飴を持たせた。

「美味しいから食べなさい」

「え?でもぉ・・・」

クルミは欲しいのである。欲しいけど、もじもじしている。

「クルミったらー、このお方は恵み子様なんだよ!そのお方が呉れるっていうのだから有り難く頂戴しなね」

「いいの?」

「いいですとも、貰って下さい」

「ありがとう!」

紫狼から受け取るクルミの手は細かった。四才の狐にしては小さく、そして余りにもその手はか細い。クルミを見ていて泪が溢れて来るのを止められなかった...


つづく

クルミ 5 キナの店

前回

余りに細く小さな手、紫郎は涙が止まらない。


はじまり、はじまり


本来なら有り得ない激情が紫狼の体を駆け巡る。
今日は恵み子の確認と親への挨拶だけで帰るつもりだったが、クルミは満足に食事も摂れていない状態で、とても段階を踏んでいる場合ではない。

一刻も早く此の場からクルミを連れて行きたい!

時間を掛けていれば、この子はもしかしたら死んでしまうかもしれない、、、しかし恵み子とは茂吉が認めなければならない。

紫郎は葛藤する。

恵み子と云う特別な子は稀にしか産まれて来ない。産まれて来たとしても恵み子の職業に就けるのはほんの一握り。実際茂吉が千年近く役所を運営していても、僅か二十人ばかり。

恵み子候補は産まれるが、真に恵み子に成り得るのは滅多に無い。幼くして恵み子として茂吉に選ばれたのは三吉とこの紫狼くらいなものだった。

普通は長い年月を掛け徹底した調査をし、本人と親と再三に渡る面会をして『これなら間違いない』と確信をすると茂吉に伝える。

茂吉はどんなに忙しくとも恵み子を確認しに行くのは必ず自分で行く、そして魂に話しかけ「我と我が同胞と恵み子の道を歩や」と聞き、魂と契約をする。紫狼だけがしていると思い込んでいるがそうではない。

恵み子と認められ迎えが来るのは、十代半ば前後の子供達が圧倒的に多いい。親とゆっくり大切な時間を過ごし、双方を納得させ引き取る。そうなったのも、実は紫狼が訴えたからである。

茂吉が藤平に言っていた、立ち直れない程に落ち込んだのがこの紫狼だった。【魂納めの宮】で再会するしかなかった親に、ひと言も言わず家を出た事を心底、後悔した。だから茂吉に訴えた。

自分と同じ目に他の恵み子達をさせたくはなかったからだ。そんな忸怩(じくじ)たる思いもあったが、そのことを吹き飛ばしてしまう程、クルミは悲しいくらい痩せて小さかった。

自分を見て泣いている紫狼を見て不思議に思う。いつの間にか警戒心は無くなっていた。よく見るととても綺麗な狼で優しく穏やかな声で話す。

クルミの知っている男達は酒臭い息でぞんざいな口を利くが、紫狼は自分と同じ高さになって話しかけてきた。自分の膝が汚れるのもお構い無しに、クルミやキナの膝の砂を払ってくれた。

「ねぇ・・なんで泣いてるのぉ?悲しいの?」

キナは何かを決めたように泣いている紫狼を店に誘う。

「兄さん、こんな往来じゃ幾ら何でも人目があるからさ、ちょいとこちらにお出でな」

キナはクルミの手を右手で取り、左手で紫狼を掴むと二人を連れて店に入る。カウンターに座るように言うと、さっそくクルミに朝ご飯をこさえた。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
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大根の煮物・小松菜と油揚げの煮浸し・若布の味噌汁、ご飯は炊きたてだった。キナは遠慮する紫狼にも馳走してくれた。

「つまんないものばかりで恥ずかしいけど腹の足しにはなるからね」

クルミはものも言わずに一生懸命に食べている。昨日の晩から何も食べていないのだ。キナはそんなクルミを見ながら泣いている。

「そう言えば、あなたのお名前は?」

「えっ?あらやだ!」

キナは急いで泪を拭くと微笑むが、化粧が落ちて凄い顔になっている。だが、紫狼が余りに自然なので本人は全く気付かずスペシャルな笑顔で答える。

「あたい、キナよ♪」

「あたしは紫狼です」

「ふふ、色男の名前は忘れないわよ~」

下を向いて夢中でご飯を食べていたクルミがご飯のお代わりを貰おうと顔を上げるとビックリする。

「おばちゃん、顔が真っ黒になってるよー」


え゛ッ!?


慌てて店の鏡を覗くとアイラインやマスカラがとれてしまって酷い有様。

きゃやーーッ!恥ずかしいッ!もう紫狼さんの前であたいったらぁあッん!!」

キナが急いで二階に駆け上がろうとした時、紫狼が声を掛ける。

「キナさん、恥ずかしがる事はありませんよ」

「だってえーッ」

「あなたはとてもお美しいですよ。美しい心の泪があなたに相応しくないお化粧を洗い流したのですよ」

「えっ」

「だってそうでしょう?この子を見て流した泪はあなたの美しい心から流れたものですよ、慈愛に満ちた泪です。とても美しかったですよ」

「あら、そんなぁ...」

キナは今の今までそんな優しい言葉を言われた事など金輪際なかった。途端に嬉しくなってタオルでごしごしと顔を拭く、途端にオス河童になる。

あれーッ?おじちゃんになってるー!」

「クルミちゃん、そんなことありませんよ。あたしには美しく綺麗なキナさんに見えますよ」

「そうなのぉ?」

「そうですよ、クルミちゃんには見えませんか?この方の美しい心が・・・」

「うぅーん、、、でもさっきより良いみたい!」

「あら、そ~お?じゃ、このままでもいけてるかしらん?」


いけてる


二人して同じに言うと可笑しくなって大笑いをした。




つづく

クルミ 6 篭

前回

このままクルミを放っとくのか?どうする紫狼。


はじまり、はじまり


すっかり紫狼に打ち解けたクルミは、お腹が一杯になると眠くなって来た。

「おばちゃ~ん、あたいネムネムになってきたのぉ」

「そうかい?それじゃ、二階に行って寝んねしな」

キナの店もクルミの親の店と同じ造りである。

「うんそうするぅ~おじちゃん又ね」

「はい、クルミちゃん」

クルミはそのままキナの部屋に向かう。

「階段、気をつけなよ、後でおばちゃん起こして上げるからね」

「うん」

キナも二階に上がると布団をかけたり細々と世話を焼いてから下りてきた。

「クルミは昨日の晩から何も食べてなかったんだって!」

「そうなのですかッ?」

「あの女狐ッ!本当に嫌な女だよッ!」

「・・・」

「ねえ紫狼さん、、、あんたに言ったらなんだけどさ・・・」

「なんですか?」

「もしかしたら、クルミが【恵み子】と知ってお迎えに来たのかい?」

「どうしてです?」

「あたいの出身の村にも昔【恵み子】様がいたらしいのよ。その子はやっぱりあんたみたいな『綺麗な狼に連れて行かれた』って、婆ちゃんが言っていたのよ」

「どの位前ですか?」

「うーん、もう五十年も前の話じゃないかな」

「そうですか!それならばきっと【ロロ】のことでしょうか?」

現在、【身魂抜きの宮】で修行中の河童族の学生である。

「あっ、そうよ!そんな名前だったわ!」

「今も元気に働いていますよ」

「そうなの?ふーん、、、」

「でもどうしてですか?」

「思い切って言うわ!あの子を今直ぐにでも連れて行って欲しいのよッ!」

「えっ!?」

紫狼は自分の気持ちを言い当てられたようで驚いた。

「あの子をこのまま、この地獄に置いていたら間違いなく死んじまうよ!あたいだって『引き取りたい!』って、何度言ったか知れやしない。それなのにあの女狐ときたら、クルミを売り飛ばすつもりだから、

『おかまに子供は育てられない~』って、鼻でせせら笑うのよッ、悔しいったらありゃしないッ!だからこうして隠れてご飯を上げるしか無いのよー」

「ですけど、売り飛ばすと言うのは?」

「あの子の姉ちゃんは売られたのよ」

えーッ!?・・・」

余りの事に言葉を無くす...そして紫狼は決断をした。たとえクルミが恵み子でなくても、自分が引き取って育てればいいのだ!
学校だって幾らでもあるのだから、クルミの好きな道を選択させれば良いのである。

医者でも教師でも職人の道だってある。いいや、誰か素晴らしい男の嫁に成る事だってある。紫狼があれこれ考えていると何も返事をしないのでキナが業を煮やした。

「ちょっとぉッ、どうしたのよッ!

あっ!すみません、キナさん」

「あらいいのよ。あたいこそ大きな声を出したりして、ごめんなさい」

「つい考え事をしていました、、、あなたのおっしゃる通りかもしれません。何か、あなたにあたしの心を見透かされたようで驚きました」

「いやあねえ~、恵み子様の心を見透かすなんて、そんな芸当出来やしないわよ」

「ふふ、あなたは本当に良い河童ですね。とても嬉しい事です。どうかあたしに少しですが、お礼をさせてください」

「いやだあ~、あたいは銭金でものを言ったのじゃないわよ」

「違います、そんなものではなく、あなたのその美しいお心を外に引き出しては?と思ったのです」

「えっ?どういうの?」

「はい。あたしは父様先生や王族の方とは比べ物にはなりませぬが、少しは術を使えます。キナさんさえ良ければ、お化粧をしなくても良いようになるのは如何かと」

あんらぁあーッ!そんなすてきな事できるの!?」

「はい、宜しいですか?」

キナに向かって紫狼が呪文を唱えるとあぁ~ら不思議♪キナの弛んだ皮膚に張りが戻り、くすんでいた皮膚の色は若かりし頃の美しい萌葱(もえぎ)色に戻った。

キナはさっそく鏡を見る。

きゃややーーッ!!
ピっチピチの若いあたいに戻ってるーーーッ!!!


「お気に召しましたか?」

「召したわ、召したわよ~♪嬉しい~!あたい本当は、もうこの商売はいけないって思っていたの」

「なぜですか?」

「だって歳食って古びたおかま河童の店で飲む酒は不味いらしいのよ、だからこの頃は閑古鳥だったの。でもこれで昔のように繁盛するわ!」

「それは何よりでした」

「こちらこそ、何よりのものを貰えたわ」

「それではこれからクルミを連れて行きましょう」

「そうね、でもちょっと待って!」

裏に物置でもあるのだろうか、暫(しばら)くガサゴソ音を立てていた。ニコニコしながら大きな篭を抱え戻って来る。

「もぉーすっかり埃塗(ほこりまみ)れになっちゃっていたわ」

「なんですか?」

「ふふ。これは昔、彼氏があたいに呉れた花篭なのよ。丈夫な藤蔓で出来ているし、なんかに役に立つかな?と、ずっと置いてあったのよ。これにね、クルミを入れるのよ」

「えっ?」

「だってねえ、紫狼さん!あなたはここには全く相応しくないの、目立つのよ」

「へっ?」

「あなたがクルミを連れて行ったのを誰かに見られでもしたら、きっとあの女狐に告げ口するわ。そしたら必ず怒鳴り込んで行くわよ。只でさえ狼族がこの辺に居るのは珍しいもの」

「怒鳴り込まれてもあたしは一向に構いませんよ。でもあなたにご迷惑を掛けるのは本意ではありません」

「あたいね、あのメスの嫌な根性を此の目で何度も見ているの。突然クルミが居なくなれば、少しは母親だった事を思い出すかもってね」

「そうですね、それならばあたしが連れて行ったのが分からない方が宜しいかもしれませんね」

「そうよ、その方が絶対に良いのよ」

「何か後めたい気もしますけど、クルミの命が掛かっていますものね」

「その通りよ!」

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紫狼はとうに覚悟を決めていた。
親に内緒で幼子を連れて来た事で茂吉に叱責され、恵み子の権利も何もかも奪われる事になったとしても、教師にでもなってクルミを育てていけばよいと固く思い定めた紫狼だった。

こうしてクルミは密かに連れ出された。



つづく

クルミ 7 ひととき

前回

そっと連れだされたクルミ、この子の運命は紫狼が握っている。



はじまり、はじまり


後に、クルミを入れた大きな花篭に『無事に着いた』というメッセージと【極楽山脈】だけに咲くと云う素晴らしい芳香、信じられない程の花持ちの良さで有名な【鈴蘭百合】を篭一杯にしてキナの元へ送った。

紫狼はそっと寝室にクルミを抱いて連れて行く、周りには恵み子達が寝ている。他の者を起こさないようにクルミを布団に寝かす。

余程疲れているのだろう、ぐっすり寝入っている。
布団に寝かせると、今まで篭の中で体を縮込めていたので「びろーん」と気持ち良さそうに大きく体を伸ばす。スヤスヤ気持ち良さそうに寝ている。

この幼い子狐がどれほどひもじい思いをしてきたか考えると耐えられない。
痩せて憔悴している寝顔を見続けている事が出来ず、急いで寝室を出る。茂吉に報告をしに行かなくてはならない。

茂吉は今の時間は寝ていない。

二時、三時は当たり前のように起きて仕事をしていて朝方までという事も珍しくはない。寄宿舎の窓から学校を眺めるとやはり校長室に明かりが灯っている。

紫狼は『直ぐにも!』と行きかけたが考え直す。普段の紫狼はいつも遅くまで仕事をしている茂吉の為に具沢山のスープをこさえ、校長室で食べながら語り合う。

今の自分は激情に駆られている。スープを作っている間にいつもの自分を取り戻せると考えた。台所で野菜を切り、炭を熾す内に大分気分が落ち着いてきたように感じる。

けんちん汁をこさえた。ぷーんと良い香りがしてくるといい気持ちになる。熱い内に運ぼうと急いで小鍋に移す。校長室の暖炉には火があるので温め直すのは簡単だ。

紫狼が覚悟を決めて校長室をノックすると、中から柔らかな茂吉の返事がある。

「お入り」

いつも通りに茂吉は書類の山と戦っている。

「父様先生、あの、、、一休みを」

「ふふ、もうそんな時間ですか」

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びくびくしている紫狼に、にこやかに微笑む。澄んだ優しい目で見られると思わず俯いてしまう。自分の動揺を悟られないよう敢(あ)えて違う話題をする。

「父様先生ったら、いつもいつもこうなんですものね」

「ふふ、あたしは仕事がのろくていけませんね」

「そんなことではありません、お体に触ります」

「紫狼が要領よく要点を纏(まと)めて呉れているから、以前よりずんと楽になっているのに、この頃はあたしも仕事が捗(はかど)らないね」

「父様先生が休めるようにしなくてはならないのに、あたしがいたらないものですから、、、」

「そんなことはないよ、お前はとても良くやって呉れているよ。どれほどあたしの助けになっていてくれている事か」

「いいえ全然ダメです」

「ふふ、あたしもその内に休みでも取ろうかしら?」

「それは素晴らしく良い事です!」

「なんでもね、これなんだけど藤平父様がね、知らせてくれたのだけど、三吉がとても利発らしいのだよ」

藤平からの手紙を差し出す、紫郎には手紙も全て見せる。

「ああ、父様先生が前におしゃっていた恵み子候補ですか?」

「うん。だからね、今に休みがてら里帰りをしようかと考えているのだよ。お前にはすまないのだけど」

「何を言うのです、あたしにとっては今は父様だけです。父様先生はあたしをこうして慈しみ育てて下さいました、何の遠慮もいりません。どうかお休み下さいませ」

「あたしだけ里帰りするなんてね、、、」

「もう怒りますよ、あたしがこちらに来てからだって七百年は経ちますよ。その間、あたしは父様先生がお休みを取られた事など一度たりとも見た事が無いのですよ。それに父様先生があまり働き過ぎていると、ちっともさぼれません」

「ふふ、紫狼ったら嬉しい事を」

「父様先生、是非にお休みをお取り下さい」

「そうだね、お前に任せてあたしもさぼろうかね?」

「はい!」

結局、里帰りが出来たのは二年も先になってしまったがそんなものであろう。僅かの間でも、茂吉の代わりをするというのはそれほどに荷が重い事なのだから...

「あの・・・父様・・」


つづく



皆様、激暑お見舞い申し上げます。

何でこんなに暑いんですか!
空気が熱くてたまらん!

そして皆様、くれぐれも熱中症に気をつけて下さい。

わたしめは一昨年、熱中症になりました。
墓参り、移動は車でした。
炎天下の中を歩いていたわけでもなく
帰宅後、シャワーを浴びて休んでいる時になりました。
最初はどうにも足がだるくて仕方ない。
その内にフラフラしてくる。
意識はあるのに手が動かない。
話せない。
旦那が「しっかりしろ」と叫ぶのですが、どうにもできない。
冷やしてもらっている内に何とかコップを持てた。
何度も口を動かそうとしている内に水が飲めました。
そうしてまともになって来ました。
本当に恐ろしいことです。
どうか、水分補給と熱中対策の飴等を忘れずに

ぴゆう

クルミ 8 暖炉

前回

まともに目を合わせない紫狼、そんな様子を涼やかな目で見守る茂吉。


はじまり、はじまり



「紫狼、早くけんちんをおくれよ」

「父様先生ったら何でお汁がけんちんだとおわかりになったのです?」

「だてに長生きしてないよ」

「ふふ」

紫狼は熱いけんちん汁を自分にもよそると残りは暖炉のそばに置く。

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「ああ、美味しいねえ~紫狼の作るお汁は全て満点だね」

「父様先生はあたしをそうしていつも煽(おだ)てるのですもの、だからこうしていい気になって毎日来るのですよ」

「ふふ、願ったりだ事。そう言えばあの子は良く寝ているのかい?」

えっ!?も、申し訳もありませんッ!
あたしがした事をご存知だったのですねッ?自ら、父様先生にお願いした事なのに、あたしは子供を親の知らぬ間に連れて参りました。この上は如何様にもご処分下さいませ」

「紫狼、どうしたことです?早く椅子に座りなさい、いやですねえ~、困った子です」

茂吉は土下座をする紫狼を椅子に座らせる。

「父様先生は、全てお見通しなのにあたしったら、あたしったら、、、みっともないです」

「どうしてそんなことを言うのです」

「だって、あたしの行動は全てこの世鏡でご存知の筈、、、」

「なんでしょうねえ、いちいちお前の行動を監視するような真似をする訳がありませんよ、いけない子ですね。

お前が帰って来るのを待っていたのですよ。いい加減に帰って来るかな?と校庭を見るとはなしに見ていると空から雲階段が降りて来る。

ああやっと帰って来た、窓を開けて『お帰り』と声を掛けようとしたら、いつもだったら真っ直ぐここに来るのに大きな篭を大事そうに抱え、不思議にもこそこそ宿舎に行きます。

その内に寝室に小さな蝋燭(ろうそく)の灯り、次は台所。そしてやっと来たのですよ、美味しいけんちん汁を持って。そしてあたしの目を真っ直ぐに見ようとしない、正直者の紫狼ちゃんがね」

「・・・」

「いいですか?紫狼。あたしはお前を一番頼りにしています。お前がした事はあたしがしたことです。【御係所】も長年やってきたお前です、自信を持ちなさい」

「ですがこれは恵み子の事、普通の者とは・・・」

「民と恵み子にかわり等無いのですよ。良いですか、恵み子だからと特別にするのではありません。この世に与えられた生き方が少しだけ違うに過ぎないのです。

あたしもお前も天の神々様より頂いた仕事が、少しばかり民より大変そうに見えるだけです。特別に偉いわけでも立派なわけでもありません。仕事の違いだけです」

紫狼はこの言葉にはっとした。

「・・・あたしは大変な心得違いを...二重にお恥ずかしい事です」

「さっ、気持ちを直して今日の事を話しなさい」

紫狼は今日の出来事を話しながら、茂吉の言った事を心に留めておくようにと誓う。改めて偉大さに触れた気がした。

「それは良い事をしましたね」

「・・・」

「あたしの意を汲(く)んで行動してますね、嬉しい事です」

「でも・・・あたしは父様先生にお願いした決まりを自ら破りました」

「それが何だと言うのです?」

「え?」

「お前が些細な事にこだわり、クルミをそのままに置いていたらどうします。ここに戻って又狐国に出掛け、そんな馬鹿親を説得する。

そんな手数を懸けている内にクルミは死んでいたでしょう。そして何より、キナと云う河童の助言を正しいとお前は考えた、だから連れて来たのでしょう?

これが臨機応変というのです。よく連れてきました、お前の判断はとても正しかったのですよ。ありがとう、大事な子供を救いましたね」

「父様先生・・・」

「明日の朝、皆な驚いて喜びますよ。そんなおちびちゃんが来ているのだから」

確かにその通りだった。他の恵み子達の喜びは想像以上だった。それに反してクルミの驚きと戸惑いは激しかった。

今までの不規則な生活に命を繋ぐだけの僅かな食事だけだったので、とっくに体力は無くなっていた。それに売られてここに来ていると云う大変な誤解なのだが、本人はそう思い込んでいたので尚更ショックが大きかった。

その日からひどい高熱を出し、皆を大いに心配させる。特にクヌギはクルミから離れなかった。同じ狐でもあるし可愛らしい妹ができたのだ。

昼夜の区別無く付き添って看病をする。熱に魘(うな)されたクルミが目を開けると「コノミ姉ちゃん」と言い、実の姉と勘違いをしてクヌギの手を放さない。

茂吉も人事不省に陥っているクルミの魂に話しかける訳もいかずに困ってしまった。普段なら魂の封印を解き、不死にすれば病いにもならないがその前にクルミは病になった。

そして、クヌギや紫狼の献身的な看病の甲斐もあり、漸(ようや)く熱も下がる。クヌギは仕事に戻るようになったが御係所の仕事をさっさと終え帰ってしまう。

お陰で御係所の仕事は朔狼(さくろう)とセセリでテンテコ舞いである。紫狼もしばしばクヌギの代わりに御係所に行くようになる。それでも皆、何の不満も無い。

御係所という仕事柄、ついつい厳しい顔になっていたクヌギを見ているより、本来の優しいクヌギを皆は見ていたかったからだ。クルミは少しづつ体力を回復していく。

しかし思いもかけない事が起きる。突然クルミの視力がなくなった、見えない目で泣いた。「なんにも見えないょぉー」これには付き添っていたクヌギも驚いた。

紫狼から知らせを受けた茂吉もクルミが不憫で泣いた。他の恵み子達は布団の周りで泣くしかなく、卍宿中の医者が見ても首を横に振るばかり、、、

茂吉は河童のガスを招聘(しょうへい)することにした。
医者として高名なガスに頼むしかなかった、ガスは喜んで来てくれた。



つづく

クルミ 9 初めてのわがまま

前回

突然、目が見えなくなったクルミ、茂吉はガスを招聘する。


はじまり、はじまり



「茂吉様、ガスめがお役に立てるものなら何でも致しましゅよ」

「先生、ありがとう御在ます」

ガスは長旅も何のその、さっそくにクルミを診てくれた。

「ふむふむ...この子狐は大分、肝の臓がやられてましゅなぁ」

「そうなのですか?」

「ぅうむ。それが目に来てると思えましゅる」

「いかがすれば?」

「まずは一歩も歩かせてはなりましぇぬ。そして濃い蜆汁を毎日欠かさず飲ましぇ、後は処方した薬を飲ましぇましょう。それでまず、様子を見ましょう」

それからガスは日に何度もクルミを診てくれた。
「他にも何かありましぇぬか?」と言ってくれるので茂吉は学校での講義を頼む。快く恵み子の学校や医者の学校でも特別講義をしてくれた。

高名なガスに感銘を受けた者は後にガスの元へ弟子入りをする。一月もすると、目の濁りもとれ、いつの間にか元の澄んだ瞳に戻った。そして、すっかり皆になつく。

だが、心の中には売られて来たという蟠(わだかま)りを内に秘めたままだ。ガスは目が良くなったクルミに安心して帰って行く。それからは見る見る内に元気になった。

クヌギはそんなクルミを愛した。クルミもクヌギのそばから離れようとしない、姉のコノミを思い出すのだろう、、、茂吉も紫狼も親子姉妹のように仲良くしている二人を愛した。

クヌギは御係所の仕事に本格復帰した後も寝る時はクルミと一緒に寝ている。そうして、少しずつここでの生活に慣れてきたクルミだった。

売られて来たとはいえ、とてもここでの生活が気に入っている。優しい者達に囲まれ、怒鳴られる事も叩かれる事も無く、ご飯も沢山食べていいと言ってくれる。

だけど少しだけ嫌な事があった...クルミは怒られるのを覚悟して言ってみた。最初は遠慮して口答えも我が儘も言わなかったが、試しに少しだけ言ってみる。

小さい声で

「あたい、蜆汁なんかもう飲みたくない・・・」

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叩かれるかと首を竦(すく)めてたが周りを見ると、何故か皆はニコニコしている。聞こえていないのかと、もう一度勇気を振り絞って言う。


あたい、もう飲みたくないのッ!


そばに居るクヌギが嬉しそうにしている、皆はクルミが子供返りをし始めた事に喜んでいるのだ。そんな事は知らないクルミはいつ怒られるのだろうとびくびくしている、茂吉がニコニコして答える。

「今まで頑張って飲んでいましたものね、クルミは偉かったですよ」

「えっ?怒らないのぉ?」

「どうしてですか?」

「だって我が儘言ったのに」

「そんなことありませんよ、ねえ皆」

「本当に偉かったよ~」

「良い子だねー!」

其れぞれがクルミを褒めてくれる、クヌギは黙ってクルミの肩を撫でてくれた。

「それでは違うものを食べましょうね」

今までクルミだけお汁が違うのはいけないと、皆も付き合って蜆汁を飲んでいたのでクルミの我が儘は逆に嬉しかった、良い心根の者達である。

皆でさっそく台所に行くとクルミの食べたい物を作る事にした。クルミは憶(おぼ)えている少ない料理の中から一度だけ姉のコノミが作ってくれたお汁粉が食べたいと言った。

それを聞いて恵み子達は不憫だと泣く、、、どうにもクルミが可愛くて仕方の無い者達なのである。さっそく小豆を洗って弱火で火にかける、小豆が煮上がるまで皆はクルミと一緒に遊んだ。はしゃいで手に負えないくらいだ。

出来上がると、お餅が沢山入った美味しいお汁粉を皆で食べる。クルミは大きなお餅を二つも食べた。そしてぽんぽん腹のクルミを寝室に寝かせ、すやすや寝ている姿を見て安心する。

「父様先生」

「なんです、クヌギ」

「あたし、この子の姉になりたい」

「もうなっていますよ」

「それなら、あたしも!」

「皆、クルミの親でも兄弟でも姉妹でもあるのですよ。この子がこれからどんな成長をしてくれるのかとても楽しみです。
少し心の中に何かあるように見えますが、今にきっと解(ほぐ)れる事でしょう」

「そうでしょうか」

「何かあれば支えになって上げれば良いのですよ。あまりにこの子は幼い....この子がこれから恵み子としての道をわかって歩むにはまだ幼さ過ぎる。

子供返りをきちんとさせなくてはなりません。それには皆の愛情が何よりも必要ですよ。今にたくさん我が儘を言う生意気な子狐にさせなくてはなりませんから、嘗(な)めるように可愛がらないとね」

「ふふ」

「楽しいですね~」

「早く生意気を言うクルミが見たいですね」

「本当ですよ!」

「我が儘娘になれるように皆で頑張りましょう」

「はーい」

恵み子達は楽しみが増えたと言わんばかりに喜んだ。そうして二年が経ち、クルミは元気に日々を過ごしている。茂吉に恵み子にしてもらったのでもう病に罹(かか)ることもない。

そして何よりも恵み子達が丹誠込め過ぎた所為か?立派な我が儘の生意気娘になっていた。少しなり過ぎたきらいはあったが皆はクルミが可愛くて仕方ないのである。

そんなある日、茂吉が突然に里帰りを決めた。



つづく





今日は皆様にお知らせがあります。
妹が蹲っているこの子を保護したのですが、病院に早速連れて行くと神経障害がありました。
どうも人に蹴られたのではないかとのこと・・・
幸い、骨折がなくてよかったのですが、首を振ったり、バタンと後ろに倒れてしまいます。
ノミも沢山、寄生虫がいたりで入院をしていましたが
(その間、顔を覚えてもらおうと毎日、日参していました^^)
先生の適切な処置の甲斐もあり、何とか退院。
晴れて我が家の息子になりました。
生後二ヶ月くらいだそうです。
おーちゃんです、どうか宜しくお願いします。
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先住猫のちーにそっくりの黒雉です。
マイブームは私のトド腹に乗せて寝かせることです。
クーラー冷えの腹には真によろしい天然カイロでございます。
ぷぷ

クルミ 10 ねぇ、クヌギ姉ちゃん

前回

やっと健康になり、初めて我儘も言ってみる。オドオドしているクルミを皆の温かい愛情が包み込む。


はじまり、はじまり


もっともそれはクルミにとってであって、紫狼や他の恵み子達は茂吉が居ない間の体制を整えていたのだった。漸(ようや)く準備が整ったので茂吉も安心して里帰りを決めた。(本編九章参照)

茂吉は菰傘村にひっそりと着きたかったので夜に旅立つ事にした。夕食を終え皆で見送る。

「父様先生、お気をつけて」

「今から、わくわくするよ」

「本当にお久しぶりですものね」

「それじゃ、行って来るね、クルミはいい子にしてるのですよ」

「校長先生、何処に行くの?」

クルミは茂吉の事だけは校長先生と呼んでいる。中々恥ずかしくて父様と呼べないのだ。茂吉はそんなクルミにいつか父様と呼んで欲しいと願うだけである。

「ふふ、里に帰るのだよ」

「どこ-?」

「菰傘村だよ」

「直ぐに帰って来る?」

「ふふ、帰って来るよ。それじゃ、後は任せたよ」

「はい、いってらしゃい」

そう言うとひらりとジャンプして行ってしまう。クルミは驚いた。


きゃぁあー!校長先生が飛んでったぁー!


紫狼がニコニコして言う。

「クルミ、父様先生は凄いでしょう?」

「うん、おびっくりしたッ!

「ふふ、さっ中に入りましょう」

それからのクルミは茂吉が出掛けて行った理由をクヌギや紫狼に聞いた。何でも、自分と同い年の恵み子を迎えに行ったらしいのである。

その子の様子によっては今回ではなく、もう少ししてから連れて来るかも知れないと教えてもらった。クルミはその夜、ドキドキして眠れない。

自分がここには居られなくなるかも知れないと考えたからだ。クルミはここで暮らして二年になり、ここがどんな所なのかは少しだけ理解してきている。

紫狼以外の恵み子達は仕事から帰って来ると忙しそうに資料を抱え、其れぞれが勉強部屋や図書室に入って何やら難しい顔をして机に向かっている。

そんな光景を毎日のように見ていた。紫狼にそのことを言うと、『皆お勉強をしているのですよ』と答えてくれる。『自分もしたい』と言っても『もう少し大きくなってからね』と、答えるだけである。

他の者に言っても『クルミは遊ぶのがお勉強だよ』と言われてしまう、、、つまらないので、いつも広間で積み木遊びをしていたが、その内に勉強部屋にいるクヌギにまとわりついて遊んでとねだる。

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クヌギは余程のことが無い限りは、遊び相手をする。甘えるクルミが可愛くて仕方ないので、皆の邪魔にならないように広間に移動すると本を読んで上げる事にした。クルミはもう殆どの字も覚えたし、漢字も大分読めるようになっている。

「ねえクヌギ姉ちゃん」

「なあに、クルミ」

「ねえ、皆どうしてお勉強しているの?」

「そうねえ、、、

クルミはお勉強したいのね?だけど今に沢山出来るわよ。あたし達のお仕事と言うのはお勉強をし続けるようなものなの。一生懸命にすることが大事なの、それが此の世界の人々のお役に立つ事なのよ

だから、皆頑張っているのよ。父様先生なんか、もっともっと頑張ってきたのよ、お休みも取らずに...凄い父様だわ。だからあたし達もお役に立てるようにこうして頑張ってお勉強しているのよ」

結局、クヌギも今はしなくていいと言う。だがクルミは此所に居るものは(勉強をしなくてはいけない)そんな風に理解をしてしまう。

クルミは焦る。表面上は何の変化もないので誰もクルミの心はわからない。紫狼でさえ全く気づかなかった。

そうしてイライラが少しづつ高まっていた時、茂吉が三吉を連れて来た。クルミはまず様子を伺った。三吉が自分よりどれほど優れているかを確かめなくてはと思う。

話してみても自分より優れているとは思えなかったが所詮は六歳の子狐、そんな気持ちはいつの間にやら薄れてしまった。

初めての同い年の友達が出来たのである、寝るのも遊ぶのも一緒、クルミと三吉は大の仲良しになった。三吉が何かと分からない事を訊いてくるのもクルミは嬉しい。

知っていることを答えているとお姉さんにでもなった気がして気分が良かった。三吉が来て一年程経ったある日、クルミと三吉は町中に遊びに行った。

卍宿は、恵み子の学校を中心として、他の学校郡があり、取り囲むように関係者の施設や卍宿病院、御係所に行く者の宿泊施設、それを当て込んだ商売の店があるという大変に賑やかな町である。

三吉は町に遊びに行くのが楽しくて仕方ない。菰傘(こもかさ)村にはなかった店も多く、何しろ色んな種族の姿が見れるのも楽しい。

子供達が町に出るのを茂吉も紫狼も最初は渋ったが、団栗銭(どんぐりせん)の使い方や色んな種族、色んな商売を知るのは勉強になると他の恵み子達に言われ仕方なしに承諾した。

初めは非番の者や紫狼がついて行ったのだが、その内に二人で出掛けるようになる。時間になればきちんと帰って来るのでいつしか誰も気にしなくなった。



つづく

プロフィール

 のくにぴゆう

Author: のくにぴゆう
猫国の住民達の物語を書いています。
作者はコメを食べて生きてます。
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