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クルミ 1 自己紹介

本編第九章で卍宿に旅立った三吉、この物語は其の後から始まります(猫国図で場所を確認して頂けると雰囲気が分かりやすいかなと)


はじまり、はじまり


うとうとしていた三吉が茂吉に起こされる。

「三吉着きましたよ。初めての長旅でしたから、さぞや疲れたでしょう」

あっ!もう着いたの?」

「はいそうですよ、皆が迎えに来てくれてますよ」

雲上から望む下界の校庭に恵み子達が集まっている。雲階段がスルスルと校庭に着地して茂吉達をそっと降ろす。

「父様先生、お帰りなさい」


お帰りなさーい!


茂吉にあちらこちらから、声が掛かる。

「ただいま戻りました」

恵み子達は喜び勇んでわらわら駆け寄って来る。

「父様先生!三吉はどこですか?」

「ふふ。三吉、恥ずかしがらずにね」

三吉は大勢の恵み子達に圧倒され、茂吉の後ろに隠れてしまった。前に押し出されると照れて、モジモジしている。

「さ、三吉。ご挨拶をしましょう」

促(うなが)されても三吉は暫(しばら)くうつむいていたが、覚悟を決めたように大きな声で挨拶をする。


おいらは菰傘村の三吉ですッ!宜しくお願いしますッ!


体に似合わぬ大声を出すものだから、一瞬恵み子達は驚いてシーンとしてしまった。三吉は大声を張り上げたのは失敗したと思った。だがその後、皆が大爆笑になる。

「面白いちびだねえー」

「可愛いねえ~」

「元気な子猫だね」

其れぞれが好意的な反応をした。

「ふふ、元気な子だろ?学校も賑やかになるよ」

茂吉が笑いながら三吉の頭を撫でている。

「父様、あたしを紹介して下さい」

紫色の美しい狼が一歩前に出て来た。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
gikoshoukai.jpg

「ああ、そうだね。三吉、この兄様は【紫狼(しろう)】と云い、これから暮らす寄宿舎の先生だよ」

「ふーん。偉いの?」

「偉いよ、あたしよりも」

えーッ!そうなの!?」

「父様先生、ご冗談を言って、、、」

「だってお前が寄宿舎では一番偉いのだよ、あたしも従わないとね」

「厭(いや)ですよ、そんなことを言っては(笑)三吉、あたしは【紫狼】と言います。雑用係ですから何でも遠慮なく言って下さいね」

実際、紫狼は茂吉にとって頼りになる存在だ。恵み子で三役所を全て経験し終わっているのは紫狼のみである。
性格も茂吉に似て、二人はとても気が合うのだ。

三吉が挨拶をするとその他の者達も次々に挨拶をした。恵み子達は総勢で二十人程で、全くの少数精鋭と言っていい。

主立った者達は僅かである。

《御係所》は狐族の【クヌギ】を頂点にして運営している。他に狼族の【朔狼】と【セセリ】御係所は係争によって軽、中、重の三段階に分かれる。

最初に訴えた者と会い種類分けをするのは五十回生以上の者達が担当する。判決は余程の事が無い限りは一人で決める。

滅多に無いがクヌギでも手に終えない場合は、紫狼や茂吉が出ばって合議する時もある。

《身魂抜きの宮》には[三羽烏]と言われている恵み子達が居る。魂の形を正確に象(かたど)る河童族の【タン】
象られた魂をそのままに身魂切りの刀で切る狼族の【星狼】切り取られた魂を体から抜き取る役目の熊族の【桐熊】

《魂納めの宮》は猫族の【夜し吉】が担当している。この者達は何れ劣らぬ者達で茂吉の良き助けになっている。

恵み子達のシステムは、五十回生までは学校で勉強をする。それを過ぎると《身魂抜きの宮》→《魂納めの宮》→最後に《御係所》に配属される。

十年毎に学生達は三役所を移動する。全ての宮を経験するのである。そして向き不向きを見極め、生涯を働いて尽くす役所が決まる。

今現在、五十回生以下の学生は五人程である。それとて三吉とは大分離れていて後少しで役所巡りを始めようとする者たちである。

只一人だけ、ここに来て二年目になる狐族の【クルミ】が丁度、三吉と同い歳だ。

「三吉、クルミを紹介しましょう。クルミ、前に出て来なさい」

「はぁ-い」

詰まらなそうに気抜けした返事をして三吉の前にクルミが現れた。三吉はクルミの姿に驚いた。

わあ!綺麗な柄だー!」

三吉に『綺麗』と言われてクルミは途端に機嫌を直す。どうやら自分と同い年の恵み子が来た事が不満だったらしい。どうしてだろう・・・?

「あたいクルミよ、あんたより先輩だわね」

「ふふ、大して変わりませんよ」

茂吉と紫狼はニコニコしている。

「そんな事有りませんン~、あたいは二年も先にここに来てるもの」

皆はクルミの生意気を知っているので笑っている。

「さっ、三吉。それでは先輩のクルミにこれから色々と教えてもらいなさいね」

えぇーそうなの?」

「あら、何かご不満でも?」

クルミは耳聡い。

「ううん、別に・・・」

「クルミ、三吉は来たばかりなのですから優しく丁寧に教えて上げなさい。いいですか?これもお勉強ですよ」

「はーい、任せて下さい!」

「ふふ、相変わらずのおシャマちゃんです事。三吉、今日は歓迎会もあるし、疲れているだろうから少し休みなさい」

「はぁーい」




つづく





やっとクルミを皆様に紹介ができる。感慨深いでござる。
この物語は親子とは家族とは何だろうと考えながら書きました。
これから暫くの間、お付き合い下さいますようお願い申し上げます。

のくにぴゆう
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クルミ 2 恵み子の生活

前回

三吉の恵み子としての生活が始まった。どんな暮らしになるのだろう。


はじまり、はじまり


三吉とクルミは紫狼に連れられ、校庭を横切り宿舎に向かう。
三吉達のような幼い子に個室はなく、寝るのも何もかも他の恵み子達と一緒になる。

自立心は元から恵み子達は持っているので、ここでは協調性を持たせること、そして一番の目的はお互いが家族に成ることである。

子供達は多かれ少なかれ 大変な緊張をして来ている。これからの勉強や役人としての仕事をする将来に向け、覚悟を決め歩を進めてきたのだ。

茂吉はそんな幼気(いたいけ)な子供達の気持ちをリラックスさせることに主眼を置く。
自分を【父様】と呼ばせ、他の恵み子達を【兄様】【姉様】と呼ばせ家族であるという一体感を植え付ける。

最初は戸惑うが家族から離れ、悲壮な決意をして来る子供達が大半なのでこの方法は意外と上手くいく。元から同じ魂の子供達、云わば魂の家族と暮らす事になる。

最初の緊張が解れると面白いように子供達は自然体になる。我が儘になったり、甘えたりという子供らしさが出て来る。そんな恵み子達に子供としてのやり直しをさせ、堪(こらえ)ていたであろう様々な垢を落とすことを【子供返り】と呼んでいる。

そんな中でクルミは頑(かたく)なだった。

二年の間に少しは皆に甘える事も覚えたようだが、それはあくまで覚えたと云うだけで、未だに本当の心を開く事が出来ずにいた。逆に一番年下なので無理をして皆に合わせようと背伸びをする姿に茂吉も紫狼も心を痛めている。

そんなクルミが不憫で仕方ない。こうまでクルミを頑なにしている何かがわかっていない。何しろ本人が決して話したがらない。仕方ないので今はクルミの好きにさせている。

せめて自由気ままにさせているしかない、、、『どうすれば本当のクルミを出してくれるのか?』と、茂吉も紫狼も思案していた。だが三吉が来た事によってクルミが思わぬ変化をしそうなそんな楽しい予感もする。

宿舎と云っても大きな民家で、中は大雑把に広間兼食堂、寝室、勉強部屋、読書室と区切られている程度。不思議にも恵み子達は個室を欲しがらない。

別に一軒家も用意してあるのだが、役所のトップに居る者達まで今だに住んでいる。茂吉を真ん中にして食事の後は其れぞれが仲良く会話を楽しむ。茂吉と恵み子達は一つの家族になっているのだろう、寝る時も適当に布団を並べて寝る。

勉強したければ勉強部屋に行って勉強をする、読書したければ読書室に行く。そこには国内外だけでなく人間界の書物等有りとあらゆる蔵書が揃えてある。恵み子達の探究心や向学心を満足させるもので溢れているのがここであった。

ここまで気遣った茂吉の苦労の程が忍ばれる。宿舎とは別に学校があり、非常に規模が大きい。恵み子達の学校とは別に国内外の優秀な子供達の為に教育もしている。別の敷地でここからは少し離れているが医者や教師にと巣立った子達も多い。

そして、特筆すべきは職人を育てる学校もあるのだ。手工芸から大工や商人とあらゆる職業のプロを養成する学校もあり、とてつもなく巨大な学園でもあるのだ。棟だけで何棟もあり、その学校の教師は一般の者達がしている。

そして基礎を学んで卒業した者たちは、其れぞれの名だたる名人の元、修行につき道を究める者達も多い。河童のガスの元へ修行に行っている月狼達がそうである。

茂吉はこうして恵み子の教育だけでなく、普通の者達の教育にも熱心に心を砕いているのだから、藤平が嘆く程、里帰りをする時間も作りようがない、まさに殺猫的多忙である。

全ての頂点に立って仕事をこなして来ているのだから、さすがに【天授子】と呼ばれるにふさわしい。恵み子達もこの茂吉の真似は出来ようがない。

茂吉が学校の校長室に入ると、その後をぞろぞろと恵み子達が付いて行く。当然のように校長室には、嬉しそうにしている恵み子達が取り囲んでいる。留守にしていた間の様々な報告を受けたり、休む暇はない。

恵み子達も普段の重々しい雰囲気はなく、茂吉の前では只の子供になっている。茂吉も皆に土産を渡したり、藤平直伝のコーヒーを振る舞ったりと楽しい一時を過ごしている。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります

megumikoima.jpg


一方、紫狼は居間で二人に温かいミルクを飲ませる。クルミは不満気な顔をしている。そして寝室へと案内をされた、お昼寝タイムである。

大きな部屋で寝るのに慣れていない三吉だったが、クルミが横でさっさと寝てしまうので、疲れもあっていつのまにか寝てしまう。

紫狼が二人の可愛らしい寝息を聞くと、微笑んで部屋を出て行く。暫(しばら)くして、寝息をたてていたクルミの目が「パカッ」と開いた。


つづく

クルミ 3 寝床

前回

ミルクを飲んで布団に入った二人、どうやらクルミは寝ていなかったようだ。



はじまり、はじまり


挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります

nedoko.jpg



「ねえ、三吉起きてる?」


三吉はすっかり寝入っていた。クルミは返事がないので激しく揺さぶる。


うっ、うわあ~ッッ


チョット、チョット静かにしなさいョッ」

「へっ?だっておいら吃驚(びっくり)したのだもの」

「やあねぇ、大袈裟ねえ、ちょいと揺すっただけなのに」

舌をぺろりと出す。

「おいら頭がぐらんぐらんするよ~」

「へへ、やり過ぎたかしら」

「やり過ぎだよ」

「だって返事が無いから・・・」

「寝てるんだから当たり前だよ」

「まっ、いいわ」

「何だい、それだけなの?」

「話をしようと思ったのよ」

「いつでも出来るのに」

「いいの、あたいは気が短いの」

「はいはいわかりましたよ、それで何を話すの?」

「あんたってさ、校長先生が迎えに行く程だから特別なの?」

「知らないよ、きっと藤平おじちゃんに会いに来たついでじゃないの?」

「そうなの?あたいは紫狼兄様だったもの」

「へー、クルミは紫狼兄様だったの?」

「うん、あたいはね。でも他の兄ちゃんや姉ちゃん達も紫狼兄様だよ」

「じゃ、おいらだけだったの?」

「そうよ、だって校長先生はもの凄く忙しいのだもの」

「そうなの?」

「本当にあんたって何にも知らないのねッ」

「だって知らないもの」

「いいわ、えっへん!あたいが何でも教えてあげましょう」

偉そうな事を言う割に知っている事は僅かである。
参考になるのは宿舎のお献立とか、誕生会などの行事。茂吉はクルミに本格的な勉強をさせていない。

子供返りの最中だからだ、クルミは知らないので大いに不満である。ここに来てからは遊んでお昼寝して...と、そればかり。

皆のように勉強したいと言っても、取り合ってもらえずにいた。クルミは大変な誤解をしている。

何としても役に立ち、必要とされなくてはならないと思い詰めていた。そんな中、茂吉自らが三吉を迎えに行ったというのは、クルミにとっては一大事だった。

(もしかしたら、三吉が来たら自分はお払い箱になってここから追い出されてしまうかも知れない、、、)
恵み子と云っても、クルミがここに来たのは僅か四歳。本人は売られて来たと思っている。

茂吉が知れば驚いて目を剥(む)くような話なのだが、そんな考えを持つに到るにはクルミなりの理由がある。クルミには大好きな姉がいたが、その姉は親によって売られていた。

幼さ過ぎるクルミには衝撃的な出来事である。クルミの家は母と姉の三人暮らしで母親は狐宿で酒場を商っていた。

母親代わりにクルミの面倒を見ていたのが、歳の離れた姉の【コノミ】だった。優しい姉のコノミを誰よりも好きだった。

クルミにとっての母は、いつも酒臭い息で帰って寝穢(いぎたな)く寝ているか、部屋まで連れて来た男達とベタベタしている姿しか思い浮かばない、、、そんな母に何の愛情も感じていなかった。

そんな母親が突然、コノミを奉公にやってしまった。

クルミは寝ずに探した。悲しくて寂しくて堪らなく泣きながら探した。だが、人探しをするには余りに幼く、町外れに探しに行くのが精一杯だった。

そんな事を繰り返しては知り合いに見つかり、店に連れ戻される事を何度もしていた。泣きべそのクルミを見ても母親は無反応だった。

母親はコノミの行き先も教えてくれない。其れ処か忌々しそうに舌を鳴らす。そんな事を半年も続け、さすがに諦めるしかないと思い始めていた。

最後に『もう一度!』と探した場所にも姉はやはり居なかった...仕方なく帰ると昼間なのに客がいる。この店は一階が店舗、二階が住まいと云う建物で、出入りは店からしか出来ない。

クルミは夜にはけっして階下には降りない。母親の嬌声や酔ってはしゃぐ大人達の声が耳を塞ぐ程嫌いだった。カウンターの前を通り過ぎようとした時、案の定、母親から声を掛けられた。客が居ると途端に優しげな声を出す。

「クルミちゃん、お客様にご挨拶は?」

無視すると後で叩かれるので心得ている。

「はーい!おじちゃん、こんにちは」

ニヤニヤしていた男狐が汚らしい手で頭を撫でる。一瞬、振り払おうとすると母親がもの凄く怖い目で見ている。目を瞑(つむ)ってじっと耐えた。

「へへ、いい子じゃねえかよ、おめえが言う程の我が儘じゃなさそうだぜ」

「あらそうかえ?あんたに気に入ってもらわないと一緒には暮らせないもの」

「へへ、こんなちびがいたって、俺は構わないよ」

「嬉しいー」

男狐に媚びる母親はゾッとする程女だった。クルミが邪魔になったのか、母親は二階に行ってなと命令する。始めからそうしたかったのでサッサと二階に駆け上がったが急いでいたのでつまづいた。

たぁぁーぃッ・・・」

爪先をふーふー言いながら擦っていると、聞くとはなしに二人の会話が耳に入る。


つづく

クルミ 4 出会い

前回

どうやら三吉と気が合いそうなクルミ。この子の抱えるものとは何だろう?


はじまり、はじまり



「ねえあんたぁ~、半年振りなんだよ~、もうつれないんだからさあ」

「そう言うなよ、これでも急いで来てんだからよ」

「来たから許して上げるよ~」

「へへ。そういや、おめえのとこにはもう一人子供が居たんじゃねえの?」

「居たよ。居たけどあんな大きな子が居たら邪魔だろ?あたいらの二人の生活にはさ~」

「それじゃ、お前、その子はよ?」

「ちょうど良い口があったから、猫宿の東雲楼(しののめろう)にね!」

「えっ?だってあそこは郭だろ?」

「そうだよ~、最後に親孝行していったよ~」

「酷い事するよ、てめえの娘だろ?」

「いいじゃないか~。御陰で店は改装できるし、邪魔者は減ったし、良いこと尽くめだよ」

「だけどもう一人残っているじゃないか」

「ああ、あの子ね!コノミと一緒に『売るよ』って言ったら『小さ過ぎる。もう少し大きければ』って言うのよ。だから後少し育てて、頃合いを見計らって売るのよ」

「へーッ!お前も悪い母親だね」

「あたいだって親に売られたんだ、構いやしないよ」

クルミにはその言葉だけで充分だった。母親は男と暮らしたいが為にコノミ姉ちゃんをどこかに売ったのだ。クルミは『絶対に許さない!』と思った。

悲しくて、悔しくて寝れなかった、、、それでも四歳の子供。

いつの間にか枕を濡らし寝てしまう。目覚めると母親は居ない、どこかに泊まっているのだろう。馴れているので、もそもそ起き出し台所に行き食べ物を探すが何も無かった。母親が食事を作ってくれる事は無い。

姉が居た頃は色々と作ってくれたので三度三度の食事も食べれたがこの頃はそうもいかない。何か残り物を食べるしか無かった。カウンターの中を探したが何もない。

全くなければ、隣の酒場のママにねだりに行く。

隣のママと云うのは本当は男河童なのだが、おばちゃんと言わないと怒る。【おばちゃん】であって、決して【おじちゃん】ではないのだ。その日もやはり何も無かったので仕方なく店を出ると見知らぬ者が居た。

「あ、あの子だよ」

そう言ったのは【バー・黒河童】のママ、おかま河童のキナだった。

どうやらその見知らぬ者はクルミの事をキナに訊いていたようだ。鋭いクルミは警戒した。昨日の今日である、さっそく売られたのかと思う。そんなことを知らない紫狼はクルミを見つけ、ニコニコしながら近づいていく。

「こんにちは」

クルミは今まで狼族を見た事がない。だがキナが言った言葉でわかった。

「あたいには用は無いのぉ~?もー、つれない狼さん!ウフ」

紫狼はキナの方に優しく会釈をする。品のいい紫狼にキナも下品な言葉を掛けるのを止めた。そんな品格が紫狼には自然に備わっている。

「あたしは紫狼と言います」

「・・・・」

「ふふ、突然だから驚きますね。あたしは恵み子の紫狼と言います」

「いやだあー!クルミちゃん!このお方は恵み子様だよ~。さっさ」

キナはクルミを無理矢理に跪(ひざまず)かせると自分も平伏す。

「あぁ、何をなさってるのです、そんなことはいけません」

紫狼は急いで二人を立たせると膝に付いた砂を払う。キナは嬉しそうにクネクネする。

「すみませ~ん。あたい、男の方にそんなことされちゃ~」

『あたい』と女言葉を使うキナには髭がぽつぽつ生えている。

「女の方には親切にするのが狼族のモットーですから」

紫狼も粋な狼である。おかま心をわかっている。キナが喜ぶような事を紫狼が言うものだから、嬉しくて仕方ない。いつまでも黙り込んでいるクルミに 母親みたいに『挨拶をしろ』とせっつく。

クルミも日頃世話になっているキナに言われるので、仕方なく挨拶だけはした。

「こんにちは・・・」

そっぽを向いて挨拶をする。

「クルミちゃん、とても御機嫌が斜めのように思えますけど今日はご挨拶だけにしときますね」

大きな渦巻き模様の飴を差し出す。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
shiroukurumi.jpg

クルミはとてもお腹が空いていたし、甘い物もずっと食べていなかったのでとても欲しかったが受け取らない。紫狼が不思議そうに首を傾(かし)げているとクルミの正直なお腹は『ぐぅうー』と鳴る。

キナはクルミのお腹の音を聞き、すかさず言う。

「あらッ!またあのメス、クルミにご飯も用意してなかったんだよッ!可哀相にッ」

「クルミちゃんは朝ご飯を食べていなかったのですか?」

「あの女狐は飯なんか作りゃしないのよッ!さっ、クルミ!あたいのとこでおまんま食べな」

「ありがとう、おばちゃん」

クルミがキナに付いて行こうとすると紫狼は慌ててクルミに飴を持たせた。

「美味しいから食べなさい」

「え?でもぉ・・・」

クルミは欲しいのである。欲しいけど、もじもじしている。

「クルミったらー、このお方は恵み子様なんだよ!そのお方が呉れるっていうのだから有り難く頂戴しなね」

「いいの?」

「いいですとも、貰って下さい」

「ありがとう!」

紫狼から受け取るクルミの手は細かった。四才の狐にしては小さく、そして余りにもその手はか細い。クルミを見ていて泪が溢れて来るのを止められなかった...


つづく

クルミ 5 キナの店

前回

余りに細く小さな手、紫郎は涙が止まらない。


はじまり、はじまり


本来なら有り得ない激情が紫狼の体を駆け巡る。
今日は恵み子の確認と親への挨拶だけで帰るつもりだったが、クルミは満足に食事も摂れていない状態で、とても段階を踏んでいる場合ではない。

一刻も早く此の場からクルミを連れて行きたい!

時間を掛けていれば、この子はもしかしたら死んでしまうかもしれない、、、しかし恵み子とは茂吉が認めなければならない。

紫郎は葛藤する。

恵み子と云う特別な子は稀にしか産まれて来ない。産まれて来たとしても恵み子の職業に就けるのはほんの一握り。実際茂吉が千年近く役所を運営していても、僅か二十人ばかり。

恵み子候補は産まれるが、真に恵み子に成り得るのは滅多に無い。幼くして恵み子として茂吉に選ばれたのは三吉とこの紫狼くらいなものだった。

普通は長い年月を掛け徹底した調査をし、本人と親と再三に渡る面会をして『これなら間違いない』と確信をすると茂吉に伝える。

茂吉はどんなに忙しくとも恵み子を確認しに行くのは必ず自分で行く、そして魂に話しかけ「我と我が同胞と恵み子の道を歩や」と聞き、魂と契約をする。紫狼だけがしていると思い込んでいるがそうではない。

恵み子と認められ迎えが来るのは、十代半ば前後の子供達が圧倒的に多いい。親とゆっくり大切な時間を過ごし、双方を納得させ引き取る。そうなったのも、実は紫狼が訴えたからである。

茂吉が藤平に言っていた、立ち直れない程に落ち込んだのがこの紫狼だった。【魂納めの宮】で再会するしかなかった親に、ひと言も言わず家を出た事を心底、後悔した。だから茂吉に訴えた。

自分と同じ目に他の恵み子達をさせたくはなかったからだ。そんな忸怩(じくじ)たる思いもあったが、そのことを吹き飛ばしてしまう程、クルミは悲しいくらい痩せて小さかった。

自分を見て泣いている紫狼を見て不思議に思う。いつの間にか警戒心は無くなっていた。よく見るととても綺麗な狼で優しく穏やかな声で話す。

クルミの知っている男達は酒臭い息でぞんざいな口を利くが、紫狼は自分と同じ高さになって話しかけてきた。自分の膝が汚れるのもお構い無しに、クルミやキナの膝の砂を払ってくれた。

「ねぇ・・なんで泣いてるのぉ?悲しいの?」

キナは何かを決めたように泣いている紫狼を店に誘う。

「兄さん、こんな往来じゃ幾ら何でも人目があるからさ、ちょいとこちらにお出でな」

キナはクルミの手を右手で取り、左手で紫狼を掴むと二人を連れて店に入る。カウンターに座るように言うと、さっそくクルミに朝ご飯をこさえた。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
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大根の煮物・小松菜と油揚げの煮浸し・若布の味噌汁、ご飯は炊きたてだった。キナは遠慮する紫狼にも馳走してくれた。

「つまんないものばかりで恥ずかしいけど腹の足しにはなるからね」

クルミはものも言わずに一生懸命に食べている。昨日の晩から何も食べていないのだ。キナはそんなクルミを見ながら泣いている。

「そう言えば、あなたのお名前は?」

「えっ?あらやだ!」

キナは急いで泪を拭くと微笑むが、化粧が落ちて凄い顔になっている。だが、紫狼が余りに自然なので本人は全く気付かずスペシャルな笑顔で答える。

「あたい、キナよ♪」

「あたしは紫狼です」

「ふふ、色男の名前は忘れないわよ~」

下を向いて夢中でご飯を食べていたクルミがご飯のお代わりを貰おうと顔を上げるとビックリする。

「おばちゃん、顔が真っ黒になってるよー」


え゛ッ!?


慌てて店の鏡を覗くとアイラインやマスカラがとれてしまって酷い有様。

きゃやーーッ!恥ずかしいッ!もう紫狼さんの前であたいったらぁあッん!!」

キナが急いで二階に駆け上がろうとした時、紫狼が声を掛ける。

「キナさん、恥ずかしがる事はありませんよ」

「だってえーッ」

「あなたはとてもお美しいですよ。美しい心の泪があなたに相応しくないお化粧を洗い流したのですよ」

「えっ」

「だってそうでしょう?この子を見て流した泪はあなたの美しい心から流れたものですよ、慈愛に満ちた泪です。とても美しかったですよ」

「あら、そんなぁ...」

キナは今の今までそんな優しい言葉を言われた事など金輪際なかった。途端に嬉しくなってタオルでごしごしと顔を拭く、途端にオス河童になる。

あれーッ?おじちゃんになってるー!」

「クルミちゃん、そんなことありませんよ。あたしには美しく綺麗なキナさんに見えますよ」

「そうなのぉ?」

「そうですよ、クルミちゃんには見えませんか?この方の美しい心が・・・」

「うぅーん、、、でもさっきより良いみたい!」

「あら、そ~お?じゃ、このままでもいけてるかしらん?」


いけてる


二人して同じに言うと可笑しくなって大笑いをした。




つづく

クルミ 6 篭

前回

このままクルミを放っとくのか?どうする紫狼。


はじまり、はじまり


すっかり紫狼に打ち解けたクルミは、お腹が一杯になると眠くなって来た。

「おばちゃ~ん、あたいネムネムになってきたのぉ」

「そうかい?それじゃ、二階に行って寝んねしな」

キナの店もクルミの親の店と同じ造りである。

「うんそうするぅ~おじちゃん又ね」

「はい、クルミちゃん」

クルミはそのままキナの部屋に向かう。

「階段、気をつけなよ、後でおばちゃん起こして上げるからね」

「うん」

キナも二階に上がると布団をかけたり細々と世話を焼いてから下りてきた。

「クルミは昨日の晩から何も食べてなかったんだって!」

「そうなのですかッ?」

「あの女狐ッ!本当に嫌な女だよッ!」

「・・・」

「ねえ紫狼さん、、、あんたに言ったらなんだけどさ・・・」

「なんですか?」

「もしかしたら、クルミが【恵み子】と知ってお迎えに来たのかい?」

「どうしてです?」

「あたいの出身の村にも昔【恵み子】様がいたらしいのよ。その子はやっぱりあんたみたいな『綺麗な狼に連れて行かれた』って、婆ちゃんが言っていたのよ」

「どの位前ですか?」

「うーん、もう五十年も前の話じゃないかな」

「そうですか!それならばきっと【ロロ】のことでしょうか?」

現在、【身魂抜きの宮】で修行中の河童族の学生である。

「あっ、そうよ!そんな名前だったわ!」

「今も元気に働いていますよ」

「そうなの?ふーん、、、」

「でもどうしてですか?」

「思い切って言うわ!あの子を今直ぐにでも連れて行って欲しいのよッ!」

「えっ!?」

紫狼は自分の気持ちを言い当てられたようで驚いた。

「あの子をこのまま、この地獄に置いていたら間違いなく死んじまうよ!あたいだって『引き取りたい!』って、何度言ったか知れやしない。それなのにあの女狐ときたら、クルミを売り飛ばすつもりだから、

『おかまに子供は育てられない~』って、鼻でせせら笑うのよッ、悔しいったらありゃしないッ!だからこうして隠れてご飯を上げるしか無いのよー」

「ですけど、売り飛ばすと言うのは?」

「あの子の姉ちゃんは売られたのよ」

えーッ!?・・・」

余りの事に言葉を無くす...そして紫狼は決断をした。たとえクルミが恵み子でなくても、自分が引き取って育てればいいのだ!
学校だって幾らでもあるのだから、クルミの好きな道を選択させれば良いのである。

医者でも教師でも職人の道だってある。いいや、誰か素晴らしい男の嫁に成る事だってある。紫狼があれこれ考えていると何も返事をしないのでキナが業を煮やした。

「ちょっとぉッ、どうしたのよッ!

あっ!すみません、キナさん」

「あらいいのよ。あたいこそ大きな声を出したりして、ごめんなさい」

「つい考え事をしていました、、、あなたのおっしゃる通りかもしれません。何か、あなたにあたしの心を見透かされたようで驚きました」

「いやあねえ~、恵み子様の心を見透かすなんて、そんな芸当出来やしないわよ」

「ふふ、あなたは本当に良い河童ですね。とても嬉しい事です。どうかあたしに少しですが、お礼をさせてください」

「いやだあ~、あたいは銭金でものを言ったのじゃないわよ」

「違います、そんなものではなく、あなたのその美しいお心を外に引き出しては?と思ったのです」

「えっ?どういうの?」

「はい。あたしは父様先生や王族の方とは比べ物にはなりませぬが、少しは術を使えます。キナさんさえ良ければ、お化粧をしなくても良いようになるのは如何かと」

あんらぁあーッ!そんなすてきな事できるの!?」

「はい、宜しいですか?」

キナに向かって紫狼が呪文を唱えるとあぁ~ら不思議♪キナの弛んだ皮膚に張りが戻り、くすんでいた皮膚の色は若かりし頃の美しい萌葱(もえぎ)色に戻った。

キナはさっそく鏡を見る。

きゃややーーッ!!
ピっチピチの若いあたいに戻ってるーーーッ!!!


「お気に召しましたか?」

「召したわ、召したわよ~♪嬉しい~!あたい本当は、もうこの商売はいけないって思っていたの」

「なぜですか?」

「だって歳食って古びたおかま河童の店で飲む酒は不味いらしいのよ、だからこの頃は閑古鳥だったの。でもこれで昔のように繁盛するわ!」

「それは何よりでした」

「こちらこそ、何よりのものを貰えたわ」

「それではこれからクルミを連れて行きましょう」

「そうね、でもちょっと待って!」

裏に物置でもあるのだろうか、暫(しばら)くガサゴソ音を立てていた。ニコニコしながら大きな篭を抱え戻って来る。

「もぉーすっかり埃塗(ほこりまみ)れになっちゃっていたわ」

「なんですか?」

「ふふ。これは昔、彼氏があたいに呉れた花篭なのよ。丈夫な藤蔓で出来ているし、なんかに役に立つかな?と、ずっと置いてあったのよ。これにね、クルミを入れるのよ」

「えっ?」

「だってねえ、紫狼さん!あなたはここには全く相応しくないの、目立つのよ」

「へっ?」

「あなたがクルミを連れて行ったのを誰かに見られでもしたら、きっとあの女狐に告げ口するわ。そしたら必ず怒鳴り込んで行くわよ。只でさえ狼族がこの辺に居るのは珍しいもの」

「怒鳴り込まれてもあたしは一向に構いませんよ。でもあなたにご迷惑を掛けるのは本意ではありません」

「あたいね、あのメスの嫌な根性を此の目で何度も見ているの。突然クルミが居なくなれば、少しは母親だった事を思い出すかもってね」

「そうですね、それならばあたしが連れて行ったのが分からない方が宜しいかもしれませんね」

「そうよ、その方が絶対に良いのよ」

「何か後めたい気もしますけど、クルミの命が掛かっていますものね」

「その通りよ!」

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紫狼はとうに覚悟を決めていた。
親に内緒で幼子を連れて来た事で茂吉に叱責され、恵み子の権利も何もかも奪われる事になったとしても、教師にでもなってクルミを育てていけばよいと固く思い定めた紫狼だった。

こうしてクルミは密かに連れ出された。



つづく

クルミ 7 ひととき

前回

そっと連れだされたクルミ、この子の運命は紫狼が握っている。



はじまり、はじまり


後に、クルミを入れた大きな花篭に『無事に着いた』というメッセージと【極楽山脈】だけに咲くと云う素晴らしい芳香、信じられない程の花持ちの良さで有名な【鈴蘭百合】を篭一杯にしてキナの元へ送った。

紫狼はそっと寝室にクルミを抱いて連れて行く、周りには恵み子達が寝ている。他の者を起こさないようにクルミを布団に寝かす。

余程疲れているのだろう、ぐっすり寝入っている。
布団に寝かせると、今まで篭の中で体を縮込めていたので「びろーん」と気持ち良さそうに大きく体を伸ばす。スヤスヤ気持ち良さそうに寝ている。

この幼い子狐がどれほどひもじい思いをしてきたか考えると耐えられない。
痩せて憔悴している寝顔を見続けている事が出来ず、急いで寝室を出る。茂吉に報告をしに行かなくてはならない。

茂吉は今の時間は寝ていない。

二時、三時は当たり前のように起きて仕事をしていて朝方までという事も珍しくはない。寄宿舎の窓から学校を眺めるとやはり校長室に明かりが灯っている。

紫狼は『直ぐにも!』と行きかけたが考え直す。普段の紫狼はいつも遅くまで仕事をしている茂吉の為に具沢山のスープをこさえ、校長室で食べながら語り合う。

今の自分は激情に駆られている。スープを作っている間にいつもの自分を取り戻せると考えた。台所で野菜を切り、炭を熾す内に大分気分が落ち着いてきたように感じる。

けんちん汁をこさえた。ぷーんと良い香りがしてくるといい気持ちになる。熱い内に運ぼうと急いで小鍋に移す。校長室の暖炉には火があるので温め直すのは簡単だ。

紫狼が覚悟を決めて校長室をノックすると、中から柔らかな茂吉の返事がある。

「お入り」

いつも通りに茂吉は書類の山と戦っている。

「父様先生、あの、、、一休みを」

「ふふ、もうそんな時間ですか」

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びくびくしている紫狼に、にこやかに微笑む。澄んだ優しい目で見られると思わず俯いてしまう。自分の動揺を悟られないよう敢(あ)えて違う話題をする。

「父様先生ったら、いつもいつもこうなんですものね」

「ふふ、あたしは仕事がのろくていけませんね」

「そんなことではありません、お体に触ります」

「紫狼が要領よく要点を纏(まと)めて呉れているから、以前よりずんと楽になっているのに、この頃はあたしも仕事が捗(はかど)らないね」

「父様先生が休めるようにしなくてはならないのに、あたしがいたらないものですから、、、」

「そんなことはないよ、お前はとても良くやって呉れているよ。どれほどあたしの助けになっていてくれている事か」

「いいえ全然ダメです」

「ふふ、あたしもその内に休みでも取ろうかしら?」

「それは素晴らしく良い事です!」

「なんでもね、これなんだけど藤平父様がね、知らせてくれたのだけど、三吉がとても利発らしいのだよ」

藤平からの手紙を差し出す、紫郎には手紙も全て見せる。

「ああ、父様先生が前におしゃっていた恵み子候補ですか?」

「うん。だからね、今に休みがてら里帰りをしようかと考えているのだよ。お前にはすまないのだけど」

「何を言うのです、あたしにとっては今は父様だけです。父様先生はあたしをこうして慈しみ育てて下さいました、何の遠慮もいりません。どうかお休み下さいませ」

「あたしだけ里帰りするなんてね、、、」

「もう怒りますよ、あたしがこちらに来てからだって七百年は経ちますよ。その間、あたしは父様先生がお休みを取られた事など一度たりとも見た事が無いのですよ。それに父様先生があまり働き過ぎていると、ちっともさぼれません」

「ふふ、紫狼ったら嬉しい事を」

「父様先生、是非にお休みをお取り下さい」

「そうだね、お前に任せてあたしもさぼろうかね?」

「はい!」

結局、里帰りが出来たのは二年も先になってしまったがそんなものであろう。僅かの間でも、茂吉の代わりをするというのはそれほどに荷が重い事なのだから...

「あの・・・父様・・」


つづく



皆様、激暑お見舞い申し上げます。

何でこんなに暑いんですか!
空気が熱くてたまらん!

そして皆様、くれぐれも熱中症に気をつけて下さい。

わたしめは一昨年、熱中症になりました。
墓参り、移動は車でした。
炎天下の中を歩いていたわけでもなく
帰宅後、シャワーを浴びて休んでいる時になりました。
最初はどうにも足がだるくて仕方ない。
その内にフラフラしてくる。
意識はあるのに手が動かない。
話せない。
旦那が「しっかりしろ」と叫ぶのですが、どうにもできない。
冷やしてもらっている内に何とかコップを持てた。
何度も口を動かそうとしている内に水が飲めました。
そうしてまともになって来ました。
本当に恐ろしいことです。
どうか、水分補給と熱中対策の飴等を忘れずに

ぴゆう

クルミ 8 暖炉

前回

まともに目を合わせない紫狼、そんな様子を涼やかな目で見守る茂吉。


はじまり、はじまり



「紫狼、早くけんちんをおくれよ」

「父様先生ったら何でお汁がけんちんだとおわかりになったのです?」

「だてに長生きしてないよ」

「ふふ」

紫狼は熱いけんちん汁を自分にもよそると残りは暖炉のそばに置く。

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「ああ、美味しいねえ~紫狼の作るお汁は全て満点だね」

「父様先生はあたしをそうしていつも煽(おだ)てるのですもの、だからこうしていい気になって毎日来るのですよ」

「ふふ、願ったりだ事。そう言えばあの子は良く寝ているのかい?」

えっ!?も、申し訳もありませんッ!
あたしがした事をご存知だったのですねッ?自ら、父様先生にお願いした事なのに、あたしは子供を親の知らぬ間に連れて参りました。この上は如何様にもご処分下さいませ」

「紫狼、どうしたことです?早く椅子に座りなさい、いやですねえ~、困った子です」

茂吉は土下座をする紫狼を椅子に座らせる。

「父様先生は、全てお見通しなのにあたしったら、あたしったら、、、みっともないです」

「どうしてそんなことを言うのです」

「だって、あたしの行動は全てこの世鏡でご存知の筈、、、」

「なんでしょうねえ、いちいちお前の行動を監視するような真似をする訳がありませんよ、いけない子ですね。

お前が帰って来るのを待っていたのですよ。いい加減に帰って来るかな?と校庭を見るとはなしに見ていると空から雲階段が降りて来る。

ああやっと帰って来た、窓を開けて『お帰り』と声を掛けようとしたら、いつもだったら真っ直ぐここに来るのに大きな篭を大事そうに抱え、不思議にもこそこそ宿舎に行きます。

その内に寝室に小さな蝋燭(ろうそく)の灯り、次は台所。そしてやっと来たのですよ、美味しいけんちん汁を持って。そしてあたしの目を真っ直ぐに見ようとしない、正直者の紫狼ちゃんがね」

「・・・」

「いいですか?紫狼。あたしはお前を一番頼りにしています。お前がした事はあたしがしたことです。【御係所】も長年やってきたお前です、自信を持ちなさい」

「ですがこれは恵み子の事、普通の者とは・・・」

「民と恵み子にかわり等無いのですよ。良いですか、恵み子だからと特別にするのではありません。この世に与えられた生き方が少しだけ違うに過ぎないのです。

あたしもお前も天の神々様より頂いた仕事が、少しばかり民より大変そうに見えるだけです。特別に偉いわけでも立派なわけでもありません。仕事の違いだけです」

紫狼はこの言葉にはっとした。

「・・・あたしは大変な心得違いを...二重にお恥ずかしい事です」

「さっ、気持ちを直して今日の事を話しなさい」

紫狼は今日の出来事を話しながら、茂吉の言った事を心に留めておくようにと誓う。改めて偉大さに触れた気がした。

「それは良い事をしましたね」

「・・・」

「あたしの意を汲(く)んで行動してますね、嬉しい事です」

「でも・・・あたしは父様先生にお願いした決まりを自ら破りました」

「それが何だと言うのです?」

「え?」

「お前が些細な事にこだわり、クルミをそのままに置いていたらどうします。ここに戻って又狐国に出掛け、そんな馬鹿親を説得する。

そんな手数を懸けている内にクルミは死んでいたでしょう。そして何より、キナと云う河童の助言を正しいとお前は考えた、だから連れて来たのでしょう?

これが臨機応変というのです。よく連れてきました、お前の判断はとても正しかったのですよ。ありがとう、大事な子供を救いましたね」

「父様先生・・・」

「明日の朝、皆な驚いて喜びますよ。そんなおちびちゃんが来ているのだから」

確かにその通りだった。他の恵み子達の喜びは想像以上だった。それに反してクルミの驚きと戸惑いは激しかった。

今までの不規則な生活に命を繋ぐだけの僅かな食事だけだったので、とっくに体力は無くなっていた。それに売られてここに来ていると云う大変な誤解なのだが、本人はそう思い込んでいたので尚更ショックが大きかった。

その日からひどい高熱を出し、皆を大いに心配させる。特にクヌギはクルミから離れなかった。同じ狐でもあるし可愛らしい妹ができたのだ。

昼夜の区別無く付き添って看病をする。熱に魘(うな)されたクルミが目を開けると「コノミ姉ちゃん」と言い、実の姉と勘違いをしてクヌギの手を放さない。

茂吉も人事不省に陥っているクルミの魂に話しかける訳もいかずに困ってしまった。普段なら魂の封印を解き、不死にすれば病いにもならないがその前にクルミは病になった。

そして、クヌギや紫狼の献身的な看病の甲斐もあり、漸(ようや)く熱も下がる。クヌギは仕事に戻るようになったが御係所の仕事をさっさと終え帰ってしまう。

お陰で御係所の仕事は朔狼(さくろう)とセセリでテンテコ舞いである。紫狼もしばしばクヌギの代わりに御係所に行くようになる。それでも皆、何の不満も無い。

御係所という仕事柄、ついつい厳しい顔になっていたクヌギを見ているより、本来の優しいクヌギを皆は見ていたかったからだ。クルミは少しづつ体力を回復していく。

しかし思いもかけない事が起きる。突然クルミの視力がなくなった、見えない目で泣いた。「なんにも見えないょぉー」これには付き添っていたクヌギも驚いた。

紫狼から知らせを受けた茂吉もクルミが不憫で泣いた。他の恵み子達は布団の周りで泣くしかなく、卍宿中の医者が見ても首を横に振るばかり、、、

茂吉は河童のガスを招聘(しょうへい)することにした。
医者として高名なガスに頼むしかなかった、ガスは喜んで来てくれた。



つづく

クルミ 9 初めてのわがまま

前回

突然、目が見えなくなったクルミ、茂吉はガスを招聘する。


はじまり、はじまり



「茂吉様、ガスめがお役に立てるものなら何でも致しましゅよ」

「先生、ありがとう御在ます」

ガスは長旅も何のその、さっそくにクルミを診てくれた。

「ふむふむ...この子狐は大分、肝の臓がやられてましゅなぁ」

「そうなのですか?」

「ぅうむ。それが目に来てると思えましゅる」

「いかがすれば?」

「まずは一歩も歩かせてはなりましぇぬ。そして濃い蜆汁を毎日欠かさず飲ましぇ、後は処方した薬を飲ましぇましょう。それでまず、様子を見ましょう」

それからガスは日に何度もクルミを診てくれた。
「他にも何かありましぇぬか?」と言ってくれるので茂吉は学校での講義を頼む。快く恵み子の学校や医者の学校でも特別講義をしてくれた。

高名なガスに感銘を受けた者は後にガスの元へ弟子入りをする。一月もすると、目の濁りもとれ、いつの間にか元の澄んだ瞳に戻った。そして、すっかり皆になつく。

だが、心の中には売られて来たという蟠(わだかま)りを内に秘めたままだ。ガスは目が良くなったクルミに安心して帰って行く。それからは見る見る内に元気になった。

クヌギはそんなクルミを愛した。クルミもクヌギのそばから離れようとしない、姉のコノミを思い出すのだろう、、、茂吉も紫狼も親子姉妹のように仲良くしている二人を愛した。

クヌギは御係所の仕事に本格復帰した後も寝る時はクルミと一緒に寝ている。そうして、少しずつここでの生活に慣れてきたクルミだった。

売られて来たとはいえ、とてもここでの生活が気に入っている。優しい者達に囲まれ、怒鳴られる事も叩かれる事も無く、ご飯も沢山食べていいと言ってくれる。

だけど少しだけ嫌な事があった...クルミは怒られるのを覚悟して言ってみた。最初は遠慮して口答えも我が儘も言わなかったが、試しに少しだけ言ってみる。

小さい声で

「あたい、蜆汁なんかもう飲みたくない・・・」

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叩かれるかと首を竦(すく)めてたが周りを見ると、何故か皆はニコニコしている。聞こえていないのかと、もう一度勇気を振り絞って言う。


あたい、もう飲みたくないのッ!


そばに居るクヌギが嬉しそうにしている、皆はクルミが子供返りをし始めた事に喜んでいるのだ。そんな事は知らないクルミはいつ怒られるのだろうとびくびくしている、茂吉がニコニコして答える。

「今まで頑張って飲んでいましたものね、クルミは偉かったですよ」

「えっ?怒らないのぉ?」

「どうしてですか?」

「だって我が儘言ったのに」

「そんなことありませんよ、ねえ皆」

「本当に偉かったよ~」

「良い子だねー!」

其れぞれがクルミを褒めてくれる、クヌギは黙ってクルミの肩を撫でてくれた。

「それでは違うものを食べましょうね」

今までクルミだけお汁が違うのはいけないと、皆も付き合って蜆汁を飲んでいたのでクルミの我が儘は逆に嬉しかった、良い心根の者達である。

皆でさっそく台所に行くとクルミの食べたい物を作る事にした。クルミは憶(おぼ)えている少ない料理の中から一度だけ姉のコノミが作ってくれたお汁粉が食べたいと言った。

それを聞いて恵み子達は不憫だと泣く、、、どうにもクルミが可愛くて仕方の無い者達なのである。さっそく小豆を洗って弱火で火にかける、小豆が煮上がるまで皆はクルミと一緒に遊んだ。はしゃいで手に負えないくらいだ。

出来上がると、お餅が沢山入った美味しいお汁粉を皆で食べる。クルミは大きなお餅を二つも食べた。そしてぽんぽん腹のクルミを寝室に寝かせ、すやすや寝ている姿を見て安心する。

「父様先生」

「なんです、クヌギ」

「あたし、この子の姉になりたい」

「もうなっていますよ」

「それなら、あたしも!」

「皆、クルミの親でも兄弟でも姉妹でもあるのですよ。この子がこれからどんな成長をしてくれるのかとても楽しみです。
少し心の中に何かあるように見えますが、今にきっと解(ほぐ)れる事でしょう」

「そうでしょうか」

「何かあれば支えになって上げれば良いのですよ。あまりにこの子は幼い....この子がこれから恵み子としての道をわかって歩むにはまだ幼さ過ぎる。

子供返りをきちんとさせなくてはなりません。それには皆の愛情が何よりも必要ですよ。今にたくさん我が儘を言う生意気な子狐にさせなくてはなりませんから、嘗(な)めるように可愛がらないとね」

「ふふ」

「楽しいですね~」

「早く生意気を言うクルミが見たいですね」

「本当ですよ!」

「我が儘娘になれるように皆で頑張りましょう」

「はーい」

恵み子達は楽しみが増えたと言わんばかりに喜んだ。そうして二年が経ち、クルミは元気に日々を過ごしている。茂吉に恵み子にしてもらったのでもう病に罹(かか)ることもない。

そして何よりも恵み子達が丹誠込め過ぎた所為か?立派な我が儘の生意気娘になっていた。少しなり過ぎたきらいはあったが皆はクルミが可愛くて仕方ないのである。

そんなある日、茂吉が突然に里帰りを決めた。



つづく





今日は皆様にお知らせがあります。
妹が蹲っているこの子を保護したのですが、病院に早速連れて行くと神経障害がありました。
どうも人に蹴られたのではないかとのこと・・・
幸い、骨折がなくてよかったのですが、首を振ったり、バタンと後ろに倒れてしまいます。
ノミも沢山、寄生虫がいたりで入院をしていましたが
(その間、顔を覚えてもらおうと毎日、日参していました^^)
先生の適切な処置の甲斐もあり、何とか退院。
晴れて我が家の息子になりました。
生後二ヶ月くらいだそうです。
おーちゃんです、どうか宜しくお願いします。
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先住猫のちーにそっくりの黒雉です。
マイブームは私のトド腹に乗せて寝かせることです。
クーラー冷えの腹には真によろしい天然カイロでございます。
ぷぷ

クルミ 10 ねぇ、クヌギ姉ちゃん

前回

やっと健康になり、初めて我儘も言ってみる。オドオドしているクルミを皆の温かい愛情が包み込む。


はじまり、はじまり


もっともそれはクルミにとってであって、紫狼や他の恵み子達は茂吉が居ない間の体制を整えていたのだった。漸(ようや)く準備が整ったので茂吉も安心して里帰りを決めた。(本編九章参照)

茂吉は菰傘村にひっそりと着きたかったので夜に旅立つ事にした。夕食を終え皆で見送る。

「父様先生、お気をつけて」

「今から、わくわくするよ」

「本当にお久しぶりですものね」

「それじゃ、行って来るね、クルミはいい子にしてるのですよ」

「校長先生、何処に行くの?」

クルミは茂吉の事だけは校長先生と呼んでいる。中々恥ずかしくて父様と呼べないのだ。茂吉はそんなクルミにいつか父様と呼んで欲しいと願うだけである。

「ふふ、里に帰るのだよ」

「どこ-?」

「菰傘村だよ」

「直ぐに帰って来る?」

「ふふ、帰って来るよ。それじゃ、後は任せたよ」

「はい、いってらしゃい」

そう言うとひらりとジャンプして行ってしまう。クルミは驚いた。


きゃぁあー!校長先生が飛んでったぁー!


紫狼がニコニコして言う。

「クルミ、父様先生は凄いでしょう?」

「うん、おびっくりしたッ!

「ふふ、さっ中に入りましょう」

それからのクルミは茂吉が出掛けて行った理由をクヌギや紫狼に聞いた。何でも、自分と同い年の恵み子を迎えに行ったらしいのである。

その子の様子によっては今回ではなく、もう少ししてから連れて来るかも知れないと教えてもらった。クルミはその夜、ドキドキして眠れない。

自分がここには居られなくなるかも知れないと考えたからだ。クルミはここで暮らして二年になり、ここがどんな所なのかは少しだけ理解してきている。

紫狼以外の恵み子達は仕事から帰って来ると忙しそうに資料を抱え、其れぞれが勉強部屋や図書室に入って何やら難しい顔をして机に向かっている。

そんな光景を毎日のように見ていた。紫狼にそのことを言うと、『皆お勉強をしているのですよ』と答えてくれる。『自分もしたい』と言っても『もう少し大きくなってからね』と、答えるだけである。

他の者に言っても『クルミは遊ぶのがお勉強だよ』と言われてしまう、、、つまらないので、いつも広間で積み木遊びをしていたが、その内に勉強部屋にいるクヌギにまとわりついて遊んでとねだる。

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クヌギは余程のことが無い限りは、遊び相手をする。甘えるクルミが可愛くて仕方ないので、皆の邪魔にならないように広間に移動すると本を読んで上げる事にした。クルミはもう殆どの字も覚えたし、漢字も大分読めるようになっている。

「ねえクヌギ姉ちゃん」

「なあに、クルミ」

「ねえ、皆どうしてお勉強しているの?」

「そうねえ、、、

クルミはお勉強したいのね?だけど今に沢山出来るわよ。あたし達のお仕事と言うのはお勉強をし続けるようなものなの。一生懸命にすることが大事なの、それが此の世界の人々のお役に立つ事なのよ

だから、皆頑張っているのよ。父様先生なんか、もっともっと頑張ってきたのよ、お休みも取らずに...凄い父様だわ。だからあたし達もお役に立てるようにこうして頑張ってお勉強しているのよ」

結局、クヌギも今はしなくていいと言う。だがクルミは此所に居るものは(勉強をしなくてはいけない)そんな風に理解をしてしまう。

クルミは焦る。表面上は何の変化もないので誰もクルミの心はわからない。紫狼でさえ全く気づかなかった。

そうしてイライラが少しづつ高まっていた時、茂吉が三吉を連れて来た。クルミはまず様子を伺った。三吉が自分よりどれほど優れているかを確かめなくてはと思う。

話してみても自分より優れているとは思えなかったが所詮は六歳の子狐、そんな気持ちはいつの間にやら薄れてしまった。

初めての同い年の友達が出来たのである、寝るのも遊ぶのも一緒、クルミと三吉は大の仲良しになった。三吉が何かと分からない事を訊いてくるのもクルミは嬉しい。

知っていることを答えているとお姉さんにでもなった気がして気分が良かった。三吉が来て一年程経ったある日、クルミと三吉は町中に遊びに行った。

卍宿は、恵み子の学校を中心として、他の学校郡があり、取り囲むように関係者の施設や卍宿病院、御係所に行く者の宿泊施設、それを当て込んだ商売の店があるという大変に賑やかな町である。

三吉は町に遊びに行くのが楽しくて仕方ない。菰傘(こもかさ)村にはなかった店も多く、何しろ色んな種族の姿が見れるのも楽しい。

子供達が町に出るのを茂吉も紫狼も最初は渋ったが、団栗銭(どんぐりせん)の使い方や色んな種族、色んな商売を知るのは勉強になると他の恵み子達に言われ仕方なしに承諾した。

初めは非番の者や紫狼がついて行ったのだが、その内に二人で出掛けるようになる。時間になればきちんと帰って来るのでいつしか誰も気にしなくなった。



つづく

クルミ 11 紙芝居屋

前回

三吉が学校に来て一年、いつの間にか二人は大の仲良しになっていた。

はじまり、はじまり


「三吉~、今日は町外れまで行こうょ」

「うん、そうしよう!雨がずっと降っていたから遊びに出れなくてつまらなかったものー」

クルミと三吉は駈けって行く、道々に何があるのか楽しくて仕方ない。

「あそこのお兄ちゃん、また怒られてるよ」

「本当だぁ~、あのおじちゃん、ガミガミ五月蝿いよね-」

道には八百屋、魚屋、豆腐屋、髭結(ひげゆ)い床、鍛冶屋と店がずらりと並んでいる。二人が言っていたのは酒屋の旦那と奉公人の話である。

『配達が遅い!』『釣り銭が足りない!』と、いつも奉公人を怒っている。クルミも三吉もあんまり可哀相になって奉公人の狸のい平に飴をあげたことがある。い平は泣いて喜んだ。

「後でまた飴玉あげなくちゃね!」

「うん!あ、そう言えばもう飴玉少なくなって来たょ、あたい黒飴買いた~い」

紫狼は二人に毎月おこずかいをくれる。

「ねぇ、三吉」

「なあに?」

「あんたの親って愚か者なの?」

「何でよ?」

「恵み子って、愚か者の親から生まれるのょ」

クルミは何処で聞いたのかわからないがそんな事を三吉に言う。

えーッ!おいらの父ちゃんも母ちゃんも愚か者じゃないよ」

「じゃ、三吉は恵み子じゃないわね」

「どうしてよ?」

「だってあたいの母親は愚か者だから、姉ちゃんもあたいも売られたのょ!」


ぇ゙え゙ー!!売られたのッ!?


「そうょ、親に売られたの…」


うっそーーッ!


「嘘じゃないわょッ、本当ょッ!」

「えぇ~~ッ!じゃおいらも売られたのかな...」

「わからないけど、売られた子は買ってもらった先で気に入られないと又、愚か者の親に戻されてしまうのょ」

「そうなの?」

「そうょ、だからあたい用心してるの。いつ戻されるかと思ってびくびくなのょ...」

「どうしてよ?おいらは戻されてもいいもん」

「あたい、絶対に嫌ょッ!ご飯だって食べさせて貰えないし、ぶたれるし...絶対に
イヤょッ!

「・・・くるみって可哀相なんだね...」

「・・・・」

「おいらの親なんてそんなことしないよ。ここに来る前だって鯛やお赤飯炊いて祝ってくれたし、お種って生意気だけど可愛い妹もいるし、それにおいらは大将だったから子分の島吉や小吉、それにお加奈もいたから毎日楽しかったよ」

「あたいと全然違うね...三吉の居た所っていいとこなのね」

「そうだよ、菰傘村っていうんだ。おいらの家は髭結いやってんだ」

「ふぅーん、、、あたいのとこは酒場ょ。いつもいつも酒臭い奴が来て嫌だった」

「ふーん」

「あたいはね、きっと追い出される気がしてるの」

「どうしてよ?」

「だってあたいは役に立ってないもの」

「なんでよ?」

「だってあたいはお熱出したり、病気したりして迷惑掛けたし、その上あんたが来たのょ」

「どうして、おいらが来ると追い出されるのよ?」

「あたいが役に立たないからあんたを態々、校長先生が迎えに行ったのょ。あたいなんか二年も先に来てるのに、きっと駄目だと思ったのよ。

だから今すぐじゃないとしても今にきっとあたいの親が来るわ。あたいを引き取りに来るわ、、、それでもって又売っちゃうのょッ、

今度はこんな良いとこじゃないわ...きっときっと姉ちゃんみたいに郭(くるわ)っていう酷いとこに決まってる」

「おいら、そんな事ないように言って上げるよ!」

「何言ってるのょ?あんただって役立たずなら帰されちゃうわょ!あ...でも、三吉は帰されても平気だったんだね...」

「だからクルミを帰さないように言って上げるよッ!」

「無理ょ・・・」

二人はそんな話をしながらいつものように道を曲がった。曲がった先にもっと賑やかな繁華街がある。

常設の紙芝居屋、見せ物屋があったりしていつも子供達が群れている。先ずはそこに行くのが二人の楽しみなのだ。

クルミが「あっ!」と声を出すと、急いで隠れる。「どうしたの?」三吉も一緒に隠れる。そっと覗く先には、クルミとよく似た柄の女狐がいた。母親お順である。


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「とうとう来たッ!」

「えっ?」

「さっき話してたあたいの親ょ」

「じゃ、クルミを迎えに来たのッ?」

「そうに決まってるわ。それにあの嫌な男狐もいる...」

母親のそばには風体の良くない男狐がいる。クルミは真剣な顔をして三吉に言う。

「三吉ッ、いい?」

「なにが?」

「あたいは逃げるわ」

えっ!どうしてよ?」

「あたいは絶対にあの親のとこには帰りたくないの!このままだと絶対に帰されちゃう・・・だから逃げるのッ」

「でも、でも、どこによ?」

「わかんない、わかんないけど・・・三吉は時間稼ぎしてょ」

「そんで?」

「あたいが居るふりをするの。だから学校に帰るのを遅くにするのょ。そうすればあたいは町から出る事くらい出来るもの。今日連れて帰られなければもう少し学校に居られるもの」

「わかった!そうすればクルミが帰されなくて済むものねッ」

「そうょ、見つからないようにしていれば大丈夫だもの。あたいは頑張って今日は野宿するわ!」

「そんなに頑張るの?」

「明日まで居るわけないもの。ねっ、そうでしょ?」

「うん、そうだよね。そしたらお銭がないとご飯も食べれないから、おいらのこずかい上げるよ。明日残ったら返してくれればいいからさ」

「あっ、ありがとう!あたいの分だけで足りると思うけど取り敢えず貰っとくね」

「うん、そうしなよ。そしたら明日ね!明日おいらここに迎えに来て上げるよ、そして一緒に学校に帰れば良いよ。親が帰ったかどうかも教えて上げられるからね!」

「ありがとう三吉、あたい頑張るね!」

クルミと三吉は紙芝居屋の前で待ち合わせをする事を決め、其れぞれに別れた。





つづく






クルミ 12 案内

前回

クルミの母親が居た!今日一日をやり過ごせば何とかなると、落ち合う場所を決め、二人はそれぞれに別れる。


はじまり、はじまり


三吉は紙芝居を見るつもりだったが、クルミにこずかいを全部渡してしまったので、何も買う事も見る事も出来ない。

「へへ、しょうがないから帰ろうかな-」

三吉がスタスタ歩き出すと先の方にクルミの大嫌いな親が歩いているのが見える。三吉は用心深く後を付ける事にした。

角々で恵み子の学校の場所を訊いて行くものだから中々前に進まない。イライラしながら見ていると二人の話が聞こえて来る。

「あんたあ~、まだ着かないのかねえ?」

「もう少しみたいだぜ。しっかし立派な建物ばかりだよ」

「ふふ、堪らないねえ~、
あの小娘がいい銭を稼いでくれるよ!

しっ!そんなにでけえ声で話すなよ、どこに耳があるとも限らねえぞ」

すでに三吉の耳がある。
自分の事を一瞬言われたのかと思ったが、相手は三吉がクルミの友達とは知らない。だが成る可く悟られないように少し離れて歩くことにした。

三吉が耳を大きくして聞いている事を知らない二人は、人通りが無くなると途端に話し声が大きくなっていく。

「紫狼なんて、気どった狼はちょいと脅かせばブルブル震えるよ!」

「違いねえ、俺様の鋭い眼光がものを言わせねえよッ」

「頼りにしてるよ~」

「へへ、任せなよ、その為の俺様だぜ!」

「それにしても大仰なものさね~、そんなに偉いのかよってんだよッ」

「お偉いんだろうよ、何せ恵み子様とくらあ~」

「ふふ、早く吠え面かくのを見てみたいものだよ」

「ちげえねえ、こちとら手塩にかけた子供を誘拐されたんだものなあ―」

「とんだ手塩だこと、ふふ」

三吉は聞いていて腸が煮えくり返った!
今まで生きてきてこんなに頭に来たのは初めてだった。狐達を噛み付きたくなる。あまりにクルミが可哀相で泣きそうになった...

最初はそんな親がいるのか?と半信半疑だったが、狐達の話しを聞いている内にその気持ちは吹っ飛んだ。そして『クルミを絶対に帰すものか!』と固く誓う。

三吉は気取(けど)られないように少しだけ離れて歩き出す。商店街に入ると二人の狐は大人しくなっている。その内の一軒の店に入り、誰かと話している。

男狐と店先に出て来たのは三吉達と仲良しの狸のい平だ。行き先を丁寧に教えているようだった。三吉は遠くから見ていると、何も知らない狸のい平に見つかってしまう。

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三ちゃーん、こちらの方、恵み子様の学校に御用があるんだって、丁度良いからご案内してあげてよー」

「・・・・」

三吉はい平を無視して行こうとする。

「三ちゃ-ん、聞こえないの~?」

わかったよッ!こっちだから付いて来れば?」

「三ちゃん、いけないよ、どうしたのさ、あれ?そう言えば、く・」

あ゙あ゙あ゙あああーーーーーー!い平の兄ちゃん!わかったからわかったからねッ、さっ、どうぞどうぞ、こちらです!」

三吉はそう言うと、二人の手を引っ張って連れて行く。

「三ちゃん、またね~」

い平は飽くまでも暢気(のんき)である。暫(しばら)く行くと二人の狐が文句を言い出す。

「ちょいと、そんなに引っ張らないでよ!」

「おい何だよ、そんなに・・ったく、痛えよッ」

「ふん!おいらが握ったくらいで痛いなんて大人の癖に弱虫だよ」

「なんてまあ、こづら憎い事を言うガキだよッ、放しやがれ!」

「たっく、爪立てやがってよッ、あ~あ、跡がついちまった...」

「ふん、なんだい!それぱっかしで、アッカンベーだ


何だとぉおーーッ!


あんたッ、尻の一つも叩いてやんなッ!」

一目散に逃げて行く、捕まる気はない。急いで校庭を抜け宿舎に逃げ込むと紫狼の元に駆け込む。


紫狼兄ちゃ-ん!こ、怖いよぉーーーッ!


「どうしたのです?そんなに怯えて...あれ?こんなに震えて」

三吉は態とらしいくらいに震える。
なんとしても奴らを追い出すのだ!自分に無体な事をしたと紫狼を怒らせ、あいつらを帰してしまおうと考えた。騙す事になるがこの際、クルミの為である。猿芝居でも何でもするつもりだ、狐達は凄い勢いで追いかけて来た。


隠れてるんじゃないわよッ!


出てきやがれーッ!此のクソガキッ


大声で叫んでいる。三吉は必死の形相で震える(ブルブルブル)中々真に迫っている、騙そうと必死だ。紫狼は三吉の様子に不思議がる。どうしてこの子がこんなに震えているのか?何か理由があると三吉の小さな背中を撫でながら思う。

「わかりましたよ、安心してここに居なさい」

紫狼はうるさく怒鳴っている狐達を黙らせる為に外に出て行こうとする。

「紫狼兄ちゃん、あいつらおいらに酷い事をするんだ」

紫狼はニコリと頷(うなづ)き出て行った。三吉は様子を見ようと後からコソコソついて行く。宿舎の玄関口に風体の良くない狐達がいた。




つづく








クルミ 13 恵み子学校

前回

生意気な口を聞かれた狐達は、怒って追いかけてきた。紫狼を騙そうと必死の三吉。さてどうなるやら

はじまり、はじまり


「やっとお出ましかよッ

「それはすみません、お待たせしたようですね」

ふん!ここに薄緑の子猫が入っただろッ」

「そいつに用があるんだよッ!さっさと出しなよッ

「三吉に用ですか?」

「三吉って言うのか?あのクソガキ!

「そのガキだよッ」

「あたし共の身内です。何かあるのでしたらあたしが聞きましょう」

そーかい!あのクソガキったら、あたしらを恵み子の学校に案内するように言われたら爪立てて手を握りやがるわ、『痛いっ』て言ったら、『大人のくせに』弱虫だの何だの言いやがって、あんまり躾が悪いから尻でも叩いてやろうって追いかけて来たのよ!」

「ほほほ、それはそれは、それでは後でお尻を叩いておきましょう」

「あんたにしてもらわなくたって、
あたいらがしてやるよッ!

「ほほほ、その汚い手で三吉に触れようというのか?」

なんだってぇーッ?もう一辺言ってみやがれッ!」

「ここは恵み子の学校がある神聖な場所。お前達のような者の来る場所でない」

「なんだって!えっ?ここは恵み子の学校なのかい?」

「そうです」

「それなら、知らぬ間に来てたんだよ」

「そうみてえだな」

「そしたら丁度良いさ。ここには紫狼とかいうクソ狼がいるだろう?そいつに用があって態々来てやったんだよ!出しやがれッ!

「何のようです?」

「ふふ、クルミと言えばわかるだろうよ~」

「紫狼、紫狼」

遠くで茂吉が呼んでいる。

「はい、今参ります」

「へっ?てめえが紫狼かッ、すっとぼけやがって!

「名乗る謂(いわ)れもありません」


何だとーーッ!!


「紫狼」

「はい」

紫狼は今にも掴み掛かろうとした男狐の間をするりと抜けると茂吉の元へ走って行く。二人の狐は後を追うが、すでに三吉を追いかけるのに体力を使い果たしているのでヨレヨレ足がもつれている。校舎の前にいる茂吉と紫狼が話し終わってもまだ二人の元には辿り着けない。

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「紫狼、いいですか、堪忍ですよ」

「はい、父様先生」

「あたしは校長室にいますよ」

「はい、わかりました」

茂吉が校舎の中に去ると、やっと狐達がやってきた。

「ハアッハアッ・・・ったく、すばやいぜ」

「本当だよ」

ぜいぜい


「体が相当に鈍っているようですね?」

五月蝿いッ!それよか、クルミの事どう始末をつけるんだよッ」

「親の面目、どう始末をつけるんだよッ!」

「ほほ。あなたは、いつクルミのてて親になったのですか?」

「・・・・」

「五月蝿いねッ、あたいと結婚したんだから、れっきとした、てて親だよ!

「そうですか、それでは中にご案内します」

「やっと話しをする気になったのかい?」

「端からそう言いなよ」

紫狼は取り敢えず待合室に連れて行く。

「こちらで少々お待ちを」

「けッ、逃げるんじゃないよッ!

紫狼は怒りで毛が逆立ちそうになるのを茂吉に言われていたので我慢をした。校長室に入ると、茂吉がにこやかに迎える。

「紫狼、コーヒーを飲みなさい。落ち着きますよ」

「いりません

「何をそんなに腹を立てる?お前までその様に興奮していてはいけませんよ」

「ですけど」

「ふふふ、いいから飲みなさい。それからこちらに連れて来るように」

紫狼は仕方なくコーヒーを飲んだ。

「父様先生、あんな奴ら追い出せばいいのです」

「そんなことをしても又来るだけですよ、いいから連れて来なさい」

「・・・」

紫狼は不満気に部屋を退出すると待合室に向かう。待合室の椅子にふんぞり返っている二人の狐を睨(にら)みたいのを我慢して言う。

「こちらにどうぞ」

「おい、こっちに来いとよ―」

「あ~ら、さんざ待たせておいて、茶の一杯も出ないんだね~?」

紫狼は怒りを堪えもう一度言う。

どうぞ、こちらに」

「ふん!聞こえてるよッ!あんた行こうよ、子供を誘拐しておいて何だよ、偉そうにッ」

「俺がビシっと決めてやるよ」

さて、どうしてクルミの居場所がわかったのだろう?...

キナはあれからクルミの親の隣に店を持っているのが嫌になり、狸宿に引っ越している。紫狼はとうに忘れていたが、キナに送り返した花篭が原因だった。

キナを喜ばせるのが徒(あだ)になってしまった。花篭に入れたのが鈴蘭百合だったのが全くいけなかった。何と云っても極楽山脈にだけ咲く、希少な鈴蘭百合の花だったから、近所の者が見に行く程だった。

母親は悔しかったが野次馬に紛れ見に行く。『こんなに!?』と云う程、溢れるくらいに沢山の鈴蘭百合が盛られていた。こちらの店にまで、うっとりするような香りが漂って来る。昔一度だけ嗅いだ事のある鈴蘭百合の香り...

自分の店の客にいくらねだっても高くて買えないよと言われていた鈴蘭百合なのである。それがあのくたびれおかまの元にあるのだ。キナの得意満面な顔は見るのも汚らわしい。

許せなかった...鈴蘭百合ごと火付けをして燃やしてやろうと思う程憎たらしかった。その内に、おかま河童は、挨拶一つなく出て行った。それがまた腹が立つ。




つづく




クルミ 14 対面 

前回

この狐夫婦は欲で目が眩んでいるので、自分達がとんでもない所に来ていることをわかっていないようだ。


はじまり、はじまり


腹を立てる方が不思議なくらい世話になったり、迷惑を掛けているのにこの女狐はそんなことは頭には無い。
妬ましい、悔しいと云う執念でクルミの行方不明とキナが急に若返った事、

キナの元に花篭が届けられた事が殆ど同時期であると云う事に気が付く。それから花篭を配達した狸にタダ酒を飲ませ、ようやく突き止めた。

恵み子様の学校に居る紫狼という美しい紫色の狼が寄越した事。そしてもっと調べるうちに、クルミが消えた日に、紫色の狼が大きな篭を大事そうに運んで行ったと云う目撃者も居た。

狼族はこの狐宿の近辺には住んではいない。増してそれ程美しい狼は珍しい・・・『間違いない!』確信を持つ。
勿論、クルミの事等、端からどうでも良い事。

それよりもあんなに高価な花を惜しげも無く、腐れ河童に送れる立場の者にクルミが連れて行かれたと云う事が何より重要だった。コノミは大した銭にならなかったが、クルミはひょっとして大きな儲けを生むと考える。

それから今や亭主になっている男狐の『こん竹』を連れ、ここに来たのである。紫狼を見た時、掴み掛かりたかったがもったいないので我慢する。

怪我でもさせて銭を渋られたら元も子もないからだ。だけどきつい皮肉だけは言ってやる。
そうして紫狼の後を付いて茂吉の待つ校長室に向かう。

紫狼は失礼しますと言いドアを開け、部屋に入るよう促(うなが)す。学校の立派さと中の凝った造りに益々喜ぶ、取りはぐれがないと嬉しくなる。

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部屋に一歩入ると踏みしめる絨毯はフカフカで足が埋まるよう。中央に微笑む藤色の猫が居た、自分達が会っている者が茂吉とは露知らない。茂吉が恵み子の校長までしている事を全く考えもせず、只の偉そうな猫くらいにしか思っていない。

「どうぞお座り下さい、遠路遥々(はるばる)お出ですからね」

「あら、あたいらが何処から来たかご存知なの?」

「勿論ですよ」

「それなら、茶の一杯くらい出しても罰は当たらないんじゃないの?」

「それは失礼しました。紫狼、お茶をね」

「・・・」

「紫狼」

「はい、わかりました」

「ふふ、仇の家でも口を濡らせと言いますものね」

「あらそうなのかい」

「俺は酒の方が良いよ」

「馬鹿、何言ってんだ、黙ってなね」

紫狼が馥郁(ふくいく)たる香りのお茶を煎れる、ものを知らない二人でも美味しいのが分かるらしく舌鼓を打つ。

「さすがに良いもの飲んでる事、贅沢してるよ」

「ふふ、そうですか」

「まっそろそろ本題に入るとするかね?」

「ご遠慮なく」

てめえーッ!
こっちが大人しくしてりゃ、付け上がりやがって!



凄むこん竹に茂吉も紫狼もへっとも思わない、少しも怯(ひる)んでくれないので引っ込みが付かない。

「ちょいとッ、何だねえ、柄の悪いッ!お前は黙っていなよ」

怯む所か茂吉達は落ち着いている。手はずとは違うが仕方ないので止めに入る、二人で話し合って来たのだろう。
こん竹が脅し役、びびる相手にすかさず助け船を出す。

そして自分がこん竹を宥(なだ)める代わりに、思うがままの木の皮銭を出させようという魂胆、とんだ猿芝居である。紫狼は悔しいのと腹立だしいので目がクラクラしてくる。

「さっ用件をどうぞ」

「そうですか、話って言うのはあなた達が良ーくご存知のクルミのことですよ」

「はい、それで」

茂吉が顔色一つ変えないので、苛ついて到頭大きく出た。

「ふふ、お惚(とぼ)けは止しにしてもらいますよ!
やいッ、野良猫!
あたいの可愛いクルミを勝手に連れて行きやがって!
帰しやがれって言うんだよッ!

「そうですか・・・クルミも大分元気になりましたから、どうぞお連れ下さい」

「父様先生!そんな」

紫狼が思わず声を出すと茂吉は目で制す。

えっ今更帰すって

「そうですよ、元気になりましたよ、さぞや会いたい事でしょう」

「・・・」

「お連れ下さいって・・・なあ?!」

「五月蝿いねー!ちょっと黙ってなよッ!」

茂吉に考えてもなかった事をとっさに言われたので、悪知恵をフルに働かせる。帰すと言われてもクルミは只の邪魔者、その上一銭にもならなければここまで来た甲斐もない、そんな話に乗れるわけもなく、どうしたら銭だけ貰えるかを考えた。

「ふふ、困ったのお」


「何だってッ?チキショー!」


その時、二人は生涯で一番の恐怖を味わう事となる。








つづく

クルミ 15 茂吉の変化 

前回

居室に通された狐夫婦、これで金を引き出せるとゴキゲンだ。しかし、茂吉にクルミを連れて行けと言われ、言葉に窮する。


はじまり、はじまり



部屋の空気が一瞬で『キィーーン』と冷える。その寒さに『ゾクッ』とすると二人の狐は有り得ないものを見た!

茂吉のふわりとした長毛は針の様に逆立ち、部屋を満たす程に膨(ふく)れていく。針の様な尖った毛先がズブズブとガラスや壁を突き刺さす。

口は裂け、犬歯が恐ろしい程伸び金色に光る目には血が粒になって浮いている!目の怖さは尋常ではない。その目で睨まれると焼け焦げそうである。爪は長く伸び刀の様に尖っている。


ぅぎゃややーーーッ!


ひぃいいーーーー!!


「紫狼、けっして気絶させるでない」

一層、恐ろしくなる。

挿絵参照↓↓↓  絵にマウスオンすると一層、怖くなります。




今までも何度か茂吉の変化を見たが、ここまで凄い変化をした姿を見た事はない。紫狼はあまりの凄さに声も出ず、自分まで気絶しそうだ。

紫狼は二人の後に廻り、気を入れ込む。二人はようやく気絶から覚める。覚めた途端に茂吉を見て又、気絶しそうになるが気を入れられるので気絶も出来なければ、目も瞑(つむ)れない。恐怖に支配された二人は口から涎(よだれ)を垂らし惚けてしまう。


父様先生!お直し下さいませ!


目を瞑りながら叫ぶ。

「このままでは此の狐達は死にます、
どうか、どうかお願いしますーー!

紫狼まで目を瞑っている。

「わかりましたよ、直しましょう」

『サッ』と顔の前を手で振ると何事もないように元の茂吉に戻る。

「父ぉ・様・・・先生、、、」

声を絞り出すが体の強ばりがとれない。流石の紫狼も改めて茂吉の凄まじさを再認識する。これだけの怒りの感情を押さえていた事に対しても驚きだったが、クルミに対しての愛情がこれ程に強い事も知らなかった、、、茂吉の力の所以(ゆえん)とは愛情から発するものだと改めて知る。

「気を入れなさい」

「は、ハイっ!

完全に気絶しているお順とこん竹に気を入れ込む。二人の狐は起きはしたが目の焦点は定まらずユラユラ頭を振っている。

「利き過ぎましたかね?」

「父様先生、あたしまで気絶しそうでした」

「ふふ、紫狼は面白いこと」

「・・・」

全然面白くない。

「さてどうしましょう?このままでは話しも何も出来ませんね」

「父様先生がいけないのです」

「ふふ、この女狐があまりにだからね」

「そうですね!その通りです!

「少し放っておきましょう」

「はい」

茂吉と紫狼は細々とした仕事の事や三吉の態度の話をしていた。一時間程経った頃にこん竹が正気に戻る。


ひぇええーーーッ、お、お助けをーーッッ!


「お前の名は?」

紫狼が聞く。

「こん竹と云うケチな野郎です」

「隣の女狐は?」

「お順と言いやす」

「起こしなさい!」

紫狼は飽くまでも厳しい、こん竹にブルンブルン揺すられお順は正気に返った。こん竹を見ると抱きついて震えてる。

「お前の名はお順と言うのか?」

紫狼に言われた途端、これ以上ない程に這いつくばり頭を下げ震えた。茂吉はそんな二人を黙って見ている。沈黙が余りに続くので紫狼は困惑し、茂吉を見た。

「お順、お前はクルミが幾らに売れるか楽しみであったな?」

「そんなことありません!あたしはクルミを、、、」

「お前の心が見えぬ茂吉と思うてか!」

ぇ゙え゙ーー!?もッ、茂吉様って?茂吉様って、、、
理知る茂吉』?・・・」

こん竹が叫ぶ。お順はとんでもない者に悪たれをついていた事を知る。

「もッ、申し訳ありませんッ!今までの事はお忘れ下さいーッ!ちょっとッ、あんたも謝るんだよッ!!」

「すいやせんすいやせんッ!とんでもないお方にとんでもねえ事をッ!
申し分けねえですッ!

「ふふ、茂吉だとわかるとこうも態度を変えるのか?なれど心は変わっておらぬようよ」

「ゥ゙ッ、、、」

「ぁ゙・・・・」

「お順、こん竹、そのように表面を取り繕っても無駄な事、止めるが宜しかろ。お前は紫狼がクルミをここに連れて来た事をなんと思うてか」

「そ、それは・・・」

「恵み子なんて気どった事言っているけど、クルミはあれでも器量はいいから将来きっと妾にでもしようと言うんだよ、あたいはそう思うよ、とんだ恵み子様だよ!

だから親のあたいが行ってご覧よ~、びくついて内緒にして欲しいとか言ってさ、あたいらの思うがままの木の皮銭が貰えるさ。本当にメスを産んで良かったよ~」

茂吉はお順の口振りそのままに言ってのけた。お順もこん竹も茂吉の言葉が丸きり同じだったので言葉もない。

「ふふ、今のはお前の魂が話したのよ。紫狼がクルミと会った時、河童のキナが食べさせてくれていたとはいえ、食うや食わずでいた幼子はガリガリに痩せていた。

お前はあの子に食事を作る事はなかった、コノミがいた時は、あの子もどうやら三度の食事を摂る事も出来たが、お前が銭欲しさにコノミを娼家に売ると、クルミにはキナの優しい心に縋(すが)るしかなかった、、、キナがお前を怒るとお前は悪たれをつくだけだった。

余りにクルミが不憫で毎食、食べさせてやりたいが、お前に隠れてするにも限度があったからな、、、キナにしてみれば居たたまれなかったのであろう、、、

そして紫狼と出会う。紫狼はクルミの余りにか細い手に泪で見ていられなかった。連れてきたクルミは栄養不足から体力が殆どなかった。高熱を出し、死の床についた。

紫狼たちによる必死の看病によって何とか回復したがあの子は目が見えなくなった。我はあの子を二度と病いにさせまいと幼子ではあったが恵み子として魂の封印を解いた。目が見える様になり、体力も回復した。ようやくあの年頃の子と同じ程に大きくなった」






つづく



クルミ 16 嫌だよーー

前回


茂吉の怖ろしい変化に恐怖を味わった狐夫婦、生涯忘れないだろう。



はじまり、はじまり




「・・・・」

こん竹は黙る。


あたいだって売られたんだ!


「お前が売られたと?」

「そうよ、あたいだって親に売られたんだ!だからあたいがしたっていいじゃないかッ

「お前の母はお前を売ったのか?そうではあるまい。お前の母は連れ合いを突然事故で失った、、、お前の父よ。

幼子を抱えた母は稼ぎのよい工事現場に出ては、男に混じり泥だらけになって必死に働いた。背負われたお前はその時の汗の匂いを憶えているだろう」

「・・・・」

「そんな母も疲れから遂には病いになってしまった、、、そんな母親を見知っていた者が狐の唐カンだった。唐カンは篤志家の狐。

お前の母を引き取り、病いを治させると共にお前も育てた。唐カンの元にはそのような者が大勢いたが決して粗末にはされなかった。

助けられた者たちは礼を言い旅立つ者も居れば、お前の母の様に残る者もいた。お前の母は回復すると、感謝を込め唐カンの店の手伝いをするようになっていた。

母親は気立てがよく働き者だった。そして十八年が過ぎ、お前の母は唐カンの右腕の様になっていた。だからと言って、母親と唐カンの間が男女の中と云う事でもない。まこと心清き者達よ。

母親はお前が何もせずに遊んでいる事が申し訳なく悩んでいた。そして母はお前に唐カンの店を手伝えと言った。お前は育ててくれた事に感謝する処か母親に『唐カンと一緒になりたいからあたいが邪魔なんだ!』と邪推し怒り、しまいには自分を売るに決まっている! いや売ったんだ!と言い張り、夜中に店から銭を盗んで逃げた」

「じゃあ、売られてなんかないじゃないかッ、このアマーッ!ほら吹きやがってッ!」

黙れコン竹!


紫狼は厳しい。

「その後のお前は好き勝手、好き自由に生きて来た。年寄り銭持ちを騙しあの店を手に入れると、今度はあの店を大きく豪華にする事に夢中になった。仕方なく産んだコノミやクルミに愛情をかける事なく生きて来た。

コノミが言い値で売れると迷う事なく、高々、三枚の木の皮銭で売った。その銭で店を改築した。クルミも大きくなれば売るつもりだった。

それを紫狼に邪魔されたが、考えようによっては娼家に売るよりいいかも知れぬと、こうしてコン竹とやって来たのだな」

ふんッ!それがどうしたのよッ!」

お順は何もかも知られているので不貞腐(ふてくさ)れるしかない。

「我が憎いと思うは他者の心を傷付ける者よ。お前達はこの世の宝である恵み子に手をかけずとも殺めようとしたも同然の罪を犯し、また、姉のコノミを物のように売り、恥もせずにいる。

お前の苦労した母や、助けてくれた唐カンの恩を仇で返した。クルミの幼心は深く傷付けられた、、、コノミも然り、そして母や唐カンの気持ちも傷付けた」

「あたいの子だよッ、あたいが煮ようと焼こうとあたいの勝手だよッ!」


まだ言うか!


茂吉がゾワっと変わりそうになるとお順は『ヒッ!』と言い目を瞑(つむ)る。

「お前という奴こそ煮ても焼いても食えぬ狐よ!何を勘違いしておる!もとより子供をなんと心得ておる

クルミやコノミが、お前が腹より出(い)でたは唯の巡り会わせに過ぎぬ。此の世界の母子とは血肉の縁に過ぎぬ、魂の縁ではない。

魂はこの世での寿命を全うせずに死する者、あの世に行くよりもこの世を選ぶ者、他もあるがそのような者達の強い意志が【魂納めの宮】でなりたい種族を選び、そして次の生を待つ事となっておる。

此の世界に生まれ出ずる為に必要不可欠な血肉を分けてもらっているに過ぎない、それだけしかない。それ故にこの世だけの縁と謂える。

儚(はかな)い縁だけにお互いを大切にし慈しみ合い暮らす様にと母子は他にない強い絆を持たされる。腹にあるときはへその緒で繋がり、産まれてからは母子の姿が似ると言う事よ。姿だけでなく仕草であったり癖であったりな、、、

だがけっして、お前の所有物ではない!天より一時お預かりしただけよ。お前は天の神々様より、過ぎたる幸せを与えられたことに感謝することなく生きて来た。我の決断はお前達を今すぐ魂沈めをする。この世で吐き続けた毒を身を以て知るがいい」

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ひゃややあーーー!!


いッ、いやだーーッ!!!

お順もこん竹も腰が抜け、立って逃げて行く事も出来ず這いずり回っている。

「父様先生」

「何よ、紫狼」

「そこまでなさらずとも...」

「ふふ、紫狼ならいかとする?」

「此の者達の今までしてきた事は許しようもなく又許されません。なれどクルミの親に違いなく、一度だけこの狐達に機会を与えて欲しいのです」

「どのような事をさせるのが一番と思う?」

「はい、このお順もこん竹も一度も他者の為に奉仕する事なく生きて来ました。ですから何でもいいのですが、何か他者の為になる苦労をさせてみては?と...厭がって逃げたりすればその場で魂沈めしても遅くはないかと」

「そうか。なら、ガス先生の元に送るがよかろう。他ならぬクルミの目の病いを治して下されたお方、あの病院で少しは役に立つ働きをすればお礼にもなるであろ」

「お聞き届け下さいますか?」

「無論よ。なれど聞け、狐!

茂吉に大音声で言われると逃げようとあたふたしていたお順とこん竹はピッ!とした。

「紫狼の命乞いで今回だけは助けようぞ。が、もしこの紫狼を蔑(ないがし)ろにしたる場合は此の茂吉、お前らの魂を千切り切って魂沈めするぞ!よいな!


ひぇえーーッッ!


お、お助けをーーーッ






つづく




クルミ 17 連行 

前回


紫狼の言葉で救われた狐夫婦。無駄にならなきゃいいが


はじまり、はじまり


ひぃひぃぃ-』情けない声を出しているお順とこん竹を術で黙らせる。

「五月蝿くてかなわない」

「本当です!それではさっそくガス先生の元へ連れて行きます」

「その前に紋次の糸を付けておこう」

「ああ、それは気が付きませんでした!それなら、ガス先生の所より逃げ出せば直ぐに判ります」

「紋次、おるか?」

「はい、ここに」

紋次は大きな机の上で文鎮のようにしている。よく見るとテントウ虫や蜻蛉がオブジェのようにジッとしている。

お順とこん竹は蜘蛛が話すのを見て、信じられない事ばかりに驚く、ついには考える事も出来なくなってしまう。

「此の者達に蜘蛛の糸を付けておくれ」

承知!

紋次は机からポトンと落ちるとお順とこん竹のそばに素早く来る、尻を向けユラユラ振り出し、振る度に体は大きくなり三十センチ程になる。

今度は尻から細-い、細ーい糸をより出し二本の糸に分ける。その糸を引っ張り、強さを確かめるてから二人の尾の先に付けた。

「ふふ、綺麗に付いたの」

「お褒めに預かり、恐縮です!」

紋次はそう言い、途中の糸を茂吉に渡す。そしてユラユラ尻を振り糸を吐き出して行く。かなりの長さになった。

「茂吉様、此の長さなら大丈夫だと思えまする」

「紋次、すまぬな」

二人は糸を切ろうとあがいている。

「紋次の糸を切ろうとあがいても無駄な事」

「さて、紫狼、お前が連れて行くが良かろう。ガス先生に宜しく伝えておくれ」

「畏まりました」

紫狼は二人の尾に付く糸を持つとそのまま歩き出す。糸は絡まる事なくするする繰り出される。校庭に出て呪文を唱えると白い雲が足下に階段となって延びてくる。

コン竹は悄気(しょげ)返り、お順はどうにでもなれと不貞腐れている。二人の糸を引っ張りその雲に乗せた。

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「これから、この世の修行をし直すが良いわ」

雲は【連傘滝】へ静かに向かって行く、、、その様子を三吉は宿舎から見ていた。何かはわからなかったが、厭な狐達を紫狼が連れて行った事は理解できた。

急いで宿舎を出ると裏に周り校舎の様子を伺う。茂吉は紫狼から三吉が狐にしてのけた恵み子として有り得ない態度を考えた。

「どうやら、クルミから何事か聞かされていたようだ、、、詳しく聞かねばならないがさて、見つかるか?」

独り言を言うと紋次が答える。

「茂吉様、紋次が見つけますか?」

「まさか、罪人ではないのだよ。ふふ、三吉はかくれんぼをしているのだよ。可愛いことよ。紋次、それより面倒を頼んですまぬな」

「かまいませぬ、此の糸の管理は透け次にさせまする」

「おお、それは良い事。紋次の仕事なら張り合いもあるから、頑張るであろうよ」

「はい。それでは、、透け次、こちらに」

「はい」

また茂吉の机からぽたり蜘蛛が落ちた。紋次より大分小さい。

わたしめの出番でございます~
嬉しゅう御在ます~、いい加減、置物にも飽いていました~」

これ!!茂吉様の御前で何を戯けた事を申す!」

紋次達は普段、用のない時は茂吉の机の上の置物になっている。紋次は文鎮をしているので始終動き回っていて忙しいが、他の蜘蛛や昆虫達は茂吉に用を言い付けられない限りは沈黙し、じっと動かない。

透け次は用を言付けられて嬉しいらしい。さっさと紋次から糸を受け取ると自分の尻の糸と結び、ユラユラ揺らしながら鼻歌を歌い出す。

♪伸ぉびろ~ぉお~♪伸ぉびろ~ぉお~♪蜘蛛の糸ぉー
♪♪細っくぅッ、しなやか美しくぅ~♪
強っくぅッ、しなやか美しくぅ~♪ユララぁ~ユララぁ~♪」

「ふふ、透け次、頼みますよ。それではあたしは三吉探しをしましょうか」

茂吉は部屋を出て行く。真に不思議な蜘蛛の糸、するすると一定の間隔を刻む様に伸びていくだけで止まったり、絡まったりもしない。透け次はご機嫌で歌っている。

三吉は茂吉が校舎を出て宿舎に向かって歩いて来るのを見て急いで隠れた。そうとは知らぬ茂吉は宿舎に入って行ってしまう。三吉は脱兎の如く駈けて行く、向かった先は校舎だ。

「はぁ、はぁ、灯台下暗し作戦だーニャー!

校長室に入ると勢いよくドアを閉める。

「あれ?三吉様」

紋次と透け次が驚く。

「へへ、おいらが此所に居ること言っちゃ駄目だよ」

「どうしてです?ああ、先程、茂吉様がかくれんぼとおしゃってました」

「えっ?あッ、そうそう。そうなんだよ!鬼が父ちゃん先生なんだから内緒だよ」

「勿論です、この紋次と透け次にお任せを」

「へへ、ありがとう。だけど此の部屋で何所に隠れたらいいのかなぁ?」

「それならば、あの本が積み上げている所がようございますよ。あそこなら、滅多な事では気が付きません」

「ありがとう!よぉーし、隠れるぞー!」

三吉は器用に本で自分を隠すスペースを作るとその中に潜り込んだ。




つづく


クルミ 18 かくれんぼ 

前回

容赦なく連れて行かれる狐夫婦、三吉は憎い二人が居なくなるとホッとすると同時に、クルミの行方を問い詰められてはマズイと隠れる。


はじまり、はじまり


茂吉はどこを探してもいない三吉に可笑しい。何か本当にかくれんぼをしている気になってくる。

『ふふ、懐かしい...幼い頃は兄さんとよくしていたなあ~弟や妹達が一緒に遊べる様になるとますます楽しかった...あの子達も二人だけで遊んでいるのは寂しかろう、、、

そうよ、保育園があったわ!何故気付かなんだ、その子達と知り合えば、又遊びが広がって面白かろうて!そうしよ、そうしよ、そうしましょう~』

さっそく保育園へと行き、帰って来たのは夕方になってしまう。直ぐに帰ろうとしたが、茂吉が保育園に居る事が知れると其れぞれの学校から校長や教師や生徒達が押し寄せ、大変な騒ぎになってしまった。

茂吉が来る事は滅多にないので僥倖(ぎょうこう)と謂わんばかりに、皆してそばにやって来る。茂吉は皆から学校に関する意見を聞いたり、話しをしたりと思わぬ時間を取られてしまう。それでも帰るに帰れないので、日を改めて会うと約束し納得させる。

そして保育園の園長には近い内に、三吉とクルミを遊びに来させると約束した。園長は二人の恵み子に会えると泣いて喜ぶ。

卍宿にいても滅多に恵み子と会うことはない、ましてや親しくなる事は皆無と云っていい。それ程に恵み子は、一般から遠い存在なのだ。

やっと、宿舎に戻り三吉とクルミを探すが見つからない...流石の茂吉も心配になりだす。クヌギ達が帰って来たので訳を話すと身魂抜きの宮で働く河童のタンが言う。

「父様先生、三吉の事ですからここには居ないと思います」

「それではどこでしょう?」

「多分、灯台下暗しだと推察します」

「ふふ、流石に恵み子ですね。ふふ、楽しい事、此の茂吉を手こずらせるとはね」

「いいですね~!あたし達もお役所の辛さをあの子達が解消してくれます」

「本当です、あたしも毎日帰るのが楽しいです」

「ふふ、皆のお役に立ってますね」

「充分、立ってますよ-!」

クヌギやタン達と茂吉は校長室に向かいそっと部屋に入ってみる。紋次と透け次はまだ働いていた。茂吉を見て声を出そうとすると茂吉が指を口に当てた。

紋次と透け次は頷くと本が山になっている一角を教える。静かに近づくと小さな鼾(いびき)が聞こえてきた。

「父様先生」

魂納めの宮で働く夜し吉が小さな声で言う。

「なんですか、夜し吉」

「坊ちゃんは、おねんねの御様子ですね」

「ふふ、それではそっと出しましょうか?」

「はい」

皆がそれぞれ本を何冊か持つと直ぐに三吉が出てきた、気持よさそうに寝ている。

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「可愛いですね~」

「ほんに」

「あれ、クルミがいません」

「本当です、どうしたのでしょう?クルミだけ違う場所に隠れているのでしょうか?」

「そんな訳ありませんよ、三吉とクルミは大の仲良しですもの」

クルミの事で皆の話し声が自然と大きくなり、その声で三吉は起きた。

「ふぁ~あ、よく寝たぁ~!」

見渡すと皆が三吉を見ている。

ありゃりゃ?見つかってる!おいら本の山に隠れたのに」

「ふふ、残念でしたね」

あっ!父ちゃん先生、どうしてわかったの?おいら間違いないと思ったんだよ」

「灯台下暗し作戦」

「あっ、タン兄ちゃん、知ってたの?」

「大当たりでした」

「おいら、まだまだだなあ...」


ははははは


皆で大笑いしてしまう。茂吉は三吉を抱きソファに座らせる。

「さて三吉、クルミが居ないようだけど、どうしたのかな?」

「おいら知らないよ」

「おかしいねえ、三吉はクルミの一番の友達なのに、クルミは今頃、お腹を空かして泣いてるよ」

「そんなことないよ、だっておいらのこずかいも上げたし、なんか買って食べてるよ」

茂吉も恵み子達も黙っていた。三吉は茂吉の態度が初めからとても自然なので、ついつい話してしまう。まだまだである。

「ふーん、だけど、もうそろそろお陽様が隠れちゃうよ。まっ暗い所にいたら、可哀相だよ」

「そうなんだよね-、おいらそれが一番の心配なんだよ。だけど、『一日くらいは我慢する!』って言ってたしなあ、、、ありゃりゃ?おいら『内緒に』って約束したのにッ!アワワ・・・」

急いで口に手をやる。

「ふふ、クルミには内緒にしときましょう」

「本当!?」

「本当ですよ。ねえ、皆も内緒にしときましょうね」


はーい


恵み子達はニコニコしている。茂吉も恵み子達もこんな会話を心から楽しんでいる。子供の他愛なさが何よりも気持ちを穏やかにさせる。特に三吉やクルミは久しぶりの恵み子達だし、何よりも小さくて可愛いのである。

「でも、何故クルミは野宿しようというのでしょう」

「だって、厭な親がクルミを取り返しに来たからだよ。そしたら、また売られちゃう!今度は郭とか云う酷いとこだって...クルミは役立たずだから、きっと帰されちゃうって…おいらも役立たずで居るとその内に帰される!って...」

思ってもみなかった事が三吉の口から出て、茂吉も恵み子達も唖然とする。




つづく



クルミ 19 三吉の話 

前回

思わぬ三吉の告白に驚く茂吉、二人の行動の理由を知ることになる。


はじまり、はじまり


「三吉、わかりましたよ。あの厭な親は紫狼がどこかに連れて行きましたよ、二度とここには来ません」

本当!?でも、それじゃ違うとこに出されちゃうのかな...」

「とんでもないですよ!クルミも三吉もとてもとても役に立ってますよ。居ないとあたし達は困ってしまいますよ、どうしましょう...三吉、どうしたらいいのでしょうね?」

「それなら大丈夫だよ!明日、紙芝居小屋の裏で待ち合わせしているんだよ。おいらと約束したんだ。だけど、連れて来ても怒っちゃ厭だよ-」

「怒るわけありませんよ。でもどうしてそんな事を言ったのでしょうね?」

茂吉の焦る気持ちが手に取る様にわかる恵み子達は、三吉に気づかれないようそっと部屋を出る。急いで町に出掛けクルミを必死に探す。夜空にクルミ1人、置いとくわけにはいかない

「三吉、どうしてクルミは売られて来たと思っていたのでしょう?」

「うん...よくわかんない。けどね、クルミの姉ちゃんは売られたんだって!」

「あたしもそう聞いてます」

「あんな馬鹿親だからクルミの事も売るつもりだったんだよ!クルミも姉ちゃんみたいに大きくなったら売られるとは思っていたけど、まだ小さいのにここに売られて来た。

『売られて来たけどここは大好きだし、離れたくないんだ』って言ってたよ。だけどね、クルミはね、皆みたいにお勉強もしてないし、皆の役にも立ってないって...病気したりして迷惑掛けてるって、、、そう言ってたもの」

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茂吉は溢れる泪を拭いもせずに泣いた。

「どうしたの?父ちゃん先生、すごく泣いてるよ」

「三吉、あたしはクルミが可哀想でなりません。そんな辛い気持ちを抱えていたのかと、、、そんなことにも気が付かないあたしはとんだ愚か者です」

「そんなことないよッ、父ちゃん先生!クルミは父ちゃん先生も、紫狼兄ちゃんも、クヌギ姉ちゃんも皆、皆、大好きなんだよ!だけど、皆みたいにお勉強してお役に立ってない事が心配なんだよ」

「そうだったのですか?お前達は並の恵み子ではなかったのですものね。何故、まだお勉強しなくていいのかをきちんと説明して上げればよかったのですね」

「おいらも不思議だったんだ。このままだと普通の子と変わらないもの」

茂吉は『子供返り』を説明をする、三吉は納得した。

「なんだぁ-、そんな事だったの?それならこれからは堂々と遊べるよ~」

「三吉は遠慮してたのですか?」

「勿論だよ!恵み子なのに勉強もしないで遊んでばかりいて良いのかな~?って。だってさ、何かお仕事している兄ちゃんや姉ちゃん達にきまり悪くてさぁ」

「これからはお墨付きがありますから威張って遊べますね?」

「うん、えへへ」

茂吉は半分ヤキモキしながらも三吉と話していた。子供というのは知らぬ間に驚くほど成長しているものだと沁みじみ感じる。

考えてみれば自分の幼い頃、いつも年下の子供達が一緒だった。だがクルミはどうであろう?あの子の周りは大人ばかり、、、ここに来てもそうであった。

そんな中にいて、子供らしさを求める事自体があの子には苦痛だったのでは?大人に囲まれていれば否応もなく大人びる、そんな子に『子供のままでいなさい』と言っていた、、、

最良の環境を与えているつもりだったがそうではなかった...さっそく明日から保育園に連れて行こう!まずそこからあたしは考えを改めなくてはならない、此の歳になっても判らぬ事は多いい。

茂吉は考えながら三吉を宿舎に連れて行く。賄いの者に三吉の食事を支度する様に言う。

「三吉、それでは明日必ずクルミを連れてきましょう、あたしも一緒に行って良いですか?」

「ぇえー!?そんなことしたらおいらがお喋りだってバレちゃうよ~」

「そうですか...それなら後を付いて行くのなら構いませんか?クルミには、偶々出会ったということにしましょう」

「うぅーん、そうだなぁ、、、父ちゃん先生もクルミが心配だものね。わかったよ、そうしていいよ!」

「ありがとう。そしたら三吉はご飯を食べて寝なさい、あたしはまだ御用がありますからね」

はーい!

食堂に駈けって行く。茂吉は急いで校庭に出ると戻って来た恵み子達と会う。

父様先生!どこにもおりませぬッ

「商店街の裏通り等も探しましたが見つかりません!」

「そうですか、他の者達は?」

「もっと先を探しに行ってます」

「わかりました、それでは少し待ちましょう」

茂吉達は校長室でヤキモキして待っていた。帰ってくる恵み子達は皆、首を振る。流石の茂吉も耐えきれず、とうとう紋次に言う。

「紋次、クルミを探しておくれ!

「罪人でなくとも宜しいのですか?」

勿論です!、こんな夜にあの子を外に置いておけません、野宿なんてとんでもない事です!風邪でもひいたら大変です!」

クルミは既に恵み子なので病気には罹(かか)らない、茂吉はそんなことも忘れている。暫(しばら)くすると紋次は尻の動きを止める。

「茂吉様」

「どうです?見つかりましたか?」

「おりませぬ」

何ですって!?もっとよく探しなさい!」

「はい、ですがクルミ様の御気配がございませぬ」

「どういうことです?」

「此の界隈にクルミ様の御気配は、、、ございません」

クルミがこつ然と消えた・・・





つづく


クルミ 20 油断大敵 

前回

クルミは一体、何処に消えたのだろう?



はじまり、はじまり



話しは少し戻る。

クルミは三吉と別れ、急いで町外れまで駈けて行く。どうしてそんなに駈けるのかわからないほど走る。

「はぁはぁはあッ、こんだけ離れていれば安心ね」

気が付くと今まで来た事もない場所に立っていた。通りには色々な店屋が並んでいる。圧倒的に屋台が多く、食べ物屋からいい匂いがしてくる。

狐宿を思い出す。狐宿は猫宿の様に雑踏と喧噪の町で、色々な店も屋台も沢山あった。

ねぎ焼き~ぃねぎ焼きッ
美味しいよー!

鼻をくすぐる香ばしい味噌の匂いに堪らなくなって葱焼き屋に行く。葱焼き屋とは葱をぶつ切りにして串に刺し、香ばしく焼いて味噌を塗っただけの品を売る屋台で、店によっては餅を焼いたりもする。

「おじちゃん!焼き葱一本おくれ、それからあんこ入りの餅も焼いておくれ」

「はいよ!お客さん、よく知ってるね~あんこ入りは特別だよ。ちょっと待ってておくれよ、今から焼くからね!葱はもう出来てるからお食べよ、美味しいよ~、特製の味噌ダレだよ~」

クルミは受け取ると『はふはふ』言いながら食べた。

「あ~ッ美味しいぃー!三吉にも教えてあげよう」

葱焼き屋から餅を受け取ると砂粒銭を渡し、歩きながら餅を食べる。笹で包まれた餅は香ばしくて美味しい、直ぐに食べてしまう。こんなに沢山の屋台を見たのは久しぶりだったので楽しくて仕方ない。

あっちこっち歩き回って大分疲れてくると今度は喉も渇いてくる。甘酒屋の屋台に寄り、甘酒を一杯飲んだ。狐宿にいた頃から飲んでみたかったが、姉のコノミは『小さいからダメょ』と言って飲ませてくれなかった。

ふーふー言いながら全部飲んでしまう。フラフラしながら歩いて行くと道外れにフカフカの草が生えている場所があった。子供が寝てたとしても見咎(とが)められない、大人が見過ごしてしまう町の死角になるような場所だ。

そんな事も知らず、横になると丸くなって寝てしまう。そのまま何事もなく済んでいれば、朝になって三吉と再会していただろう...

だが違った!

町中を歩いていたクルミは目立っていた。一人で歩いていた事もそうだが買い食いまでしている子狐の姿は、狐宿や猫宿のような柄の悪い土地ならいざ知らず、恵み子の学校がある謂わば学園都市である卍宿にはない光景だった。

そんな場所に相応しくない者がもう二人、河童のテレとトチの兄弟がいた。

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「おいトチ!見てみなね」

「なんだい?兄貴」

テレが指を差した先には甘酒をぐいぐい飲んでいるクルミの姿があった。

「この辺じゃ珍しいねえ、あんなちびの癖してさあー」

「そうだろう?さっきから見てたんだけどあの子狐だけみたいだよ」

「へー、親が心配してるだろうにね」

「そんなことねえだろう?ちび一人を放っとく親だぜ、ろくな者じゃないよ!うん、そうに決まってるよ」

「そうかい?」

「そうさ、それなら俺達が何してもわかりゃしないね」

「何だい?何って?」

「全くお前はどうしてそう巡りが悪いんだよ!ご注文があったろッ、俺達にはよ!」

「何のよ?」

「ぶつよ、本当に。東雲だよ!しののめ!

「ああ、あそこね。それで?」

「もういいよ!おめえは話したそばから忘れるんだからよッ。それよか、あのちび、あんな一辺にたんと飲むから、フラフラしてるぜ」

「後付けようか?」

「勿論だよ」

クルミが草むらに寝てしまうと河童達はそっと近づく。通行人がいない訳ではなかったが、道から少しでも離れてしまうと目に入らない。

「なんて、うめえ具合に!ありがてえ~」

「どうするよ、兄貴」

「おめえの背負い駕篭に入れちまえ!こうして、こうしてこうすれば、ほら簡単だ!」

テレは慣れた手つきで、素早くクルミに猿轡(さるぐつわ)をかますと手足を縛り、トチの背負い駕篭に入れてしまった。驚いて叫ぼうとしたが、あっという間だ。

二人は誰かに見つかっては大変なので一目散に駈けて行く!町を出ると本街道をそれて薮に出る。そのまま、本街道を横目に見ながら猫宿に向かうつもりだ。

テレとトチの兄弟は何でも屋だ。

何でも屋というだけあって、頼まれれば何でもする。今回は東雲楼(しののめろう)の主人に『可愛い子が欲しい』と注文を受けていた。器量が良ければ言い値を出すと云う滅多にない美味しい仕事だ。

張り切った二人は本街道を北に向かう。行った事のない町を探してみようと考えたからだが、着いてみるとそれが失敗だとすぐに後悔する。

恵み子の学校に、多種多様の学校郡、そのうえ【御係所】や【身魂抜きの宮】に【魂納めの宮】がある風紀の良さは猫国ぴか一の場所だ。夕方の六時になるとどの店も閉まってしまうし、子供達を見かけるのは僅かな時間だ。いたとしても大人が必ずそばにいる。

テレとトチは仕方なく猫宿に戻ろうとしていた矢先にクルミを見かけた。




つづく



クルミ 21 月夜の晩 

前回

甘酒に酔い、いい気分で眠ってしまったクルミ。
どこで目が覚めることになるのやら?


はじまり、はじまり



二人は薮で足が擦り傷だらけになっても気にせず、走れるだけ走る。

兄貴ーーッ!ちょっとーッちょっと待ってよおっ!一休みしてよーッ」

テレは辺りを見回す。いい幸いに月夜の晩、猫っ子一人もいないので安心してその辺に座った。

はぁあーー!よく走ったなあーッ」

ふうーっ、こんなに駈けたの久しぶりだよ」

「駕篭の中は大丈夫かよ?」

トチが背中から駕篭を降ろすと、クルミが転がり出た。

「うぐぐ...」

「兄貴ー!此の子狐、辛そうだよぉ-ッ」

「あっ、そっか!ちびにはキツかったよな。外してやんな、どうせ何所にも逃げられやしないさ」

「はいよ」

「あ---ッ、苦しかった!おじちゃん、これも取ってよ」

「あっ、ごめんね。直ぐに取るからね」

トチは手足の縄を解く。

「痛かったぁぁ~ぎゅうって結ぶんだもの」

「そうかい?こっちのテレおじちゃんがやったんだよ」

「おい、余計な事言うんじゃないよ」

「ふーん、加減も知らないのね」

「ぶっほッ、何を言うこのクソガキ!」

ぁ~ぃ」

クルミは態とらしくトチの陰に隠れた。

「兄貴!こんな子狐にそんな大声出すものじゃないよッ、こんなに怯えてるよ。大丈夫だよ、おじちゃん二度とそんなことさせないからね」

「本当?」

「本当だよ、このトチおじちゃん信じてよ。だけど成る可くならお兄ちゃんって呼んで欲しいなあ~」

「ふぅーん。痛くしないのなら、呼んでも良いよ」

「絶対、守るから安心しなよ」

「阿呆くさッ、何をくだらねえ事言ってんだよばーか!行くぞ」

「どこに?」

「叩くよ。いいから、子狐ふん縛って駕篭に入れろ!」

「そんなことできないよッ!」

てめえ、兄貴に逆ろうってのかッ?」

「違うよ!違うけど、、、可哀相だよ」

「おめえがやらねえんなら俺がやるぞ」

「わかったよ」

クルミが恨めしそうにトチを見る。トチは『ごめんね』と言いながら軽く縛る。

「口にはもういいじゃないか?」

「黙っているんならいいけどよ」

「静かにしてるよな?」

クルミはトチを睨(にら)みながら頷(うなづ)く。

静かにするってよ!ほら駕篭に入れるからね」

そっと駕篭に入れる。

「ねぇ、なんか敷く物ないの?チクチクするの」

「あっ、ごめんよ!これならどうだい?綺麗じゃないけどお尻に敷いてな」

トチは着ていた半天を丸め駕篭の下に敷く。

「うん。ありがとう」

「へへ、気にすんなよ」

「おい行くぞー!」

テレはさっさと歩き出す。トチはテレと距離を詰めようとはしない、大分離れてしまっても気にしない。

「おーい、早く来いよー!」

わかってるよー!ったく五月蝿いんだから、、、そう言えば子狐ちゃんの名前は何て言うの?」

「・・・」

「平気だよ、五月蝿いのは先を歩いているから聞こえないよ」

「ほんとぉ?」

クルミは駕篭から顔を出さない。

「ほら、見てご覧な」

クルミは『そっ』と顔を出し、トチの言っている事が本当なので安心する。

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「ふぅぅ…、あたいはね、クルミって言うのよ」

「そうかい、良い名前だね!」

「お兄ちゃんは?」

「へへ、お兄ちゃんって言ってくれたね。おいらはトチ。あのおっかないのがおいらの兄貴のテレだよ」

「ふぅ-ん。ねえ、ここはどこなの?」

「えっ!どこかな-?でも、もう少しで戸の宿だよ」

戸の宿は本街道から、かなり外れている、とても寂れている宿(しゅく)である。猫宿から《卍宿》の【御係所】に行こうとする者達は汚い安宿には泊まらないし、風体の良くない者達の溜まり場になっているので避ける。本街道沿いには葛傘村があり、そこで宿をとる。値段も安く繁盛をしている。

「ねえ、あたいの事どこに連れて行くの?」

「えっ?・・・・しのあのそののめだよ」

「なぁに?よくわかんないよ」

「うん、、、それよかクルミちゃんは幾つなの?」

「あたいはね、三吉と同じ七歳だよ」

「へー、三吉ってクルミちゃんの友達なの?」

「そうよ、あたいはね、お友達は三吉だけなの」

「そうか、そういやおいらにも里に一人だけいたけど全然会ってないなあ」

「ふぅーん。ねえ、お兄ちゃん【猫宿】って知ってる?」

「えっ!?知ってるも何も今そこに向かってるんだよ!」

「そうなの?そしたら東雲楼(しののめろう)とかいうのは...」

「そこだよ、そこに行くんだよ」

本当ッ!?本当なの!?そしたらあたい、コノミ姉ちゃんに会えるわー--!」

トチは驚き、立ち止まる。そそくさと駕篭からクルミを出し、手足の縄を解く。

「あら?どうしたの?こんなことしたら怒られるよ」

「いいんだよ。お前、姉ちゃんが東雲楼にいるって本当なのか?」

「本当よ、あたい何度もこの耳で聞いたもの」

「そうか、、、可哀相にな...」

「売られたのよ、姉ちゃん」

「売られたのか.....」

「あたいも売られた」

えっ?どう言う事だよ」

「あのね、あたいも売られてあそこに居たの。だけどね、とてもあそこが好きだったったの。だけどね、あたい役立たずだから、大嫌いな親元に戻されるとこだったの。でも良かったぁ-あ!姉ちゃんに会えるものー!」

「良かねえよ、とんでもねえ話しだ!二度も売り買いされるなんて!こんなちびにそんな辛い真似をさせる訳にはいかねえよッ!」

「どうしたの?」

「おいら、そんな可哀相な話し聞いた事ねえよ!絶対に東雲楼になんか行かせねえ!!

「どうしてよ?あたい姉ちゃんに会いたいッ会いたいッ---!
うわぁーーーん!





つづく









クルミ 22 痛いよぅ 

前回


目的地が東雲楼(しののめろう)と聞いたクルミは行きたいと泣き叫ぶ。一方のトチは二度も売らせることは出来ないと心に誓う。



はじまり、はじまり


クルミがあまりに大きな声で泣くものだから、テレが戻って来る。

「うるせえなあ!どこに誰がいるとも限れねえのによッ」


どこに誰が居ようとかまうもんかッ!


テレはトチがとても興奮しているので驚く。

「どうしたんだよ?ああ、五月蝿いねえー、ガキを泣かすんじゃねえよ」

「可哀相なクルミちゃん、ごめんね、このろくでなしに好きにはさせないからね」

おい!何言ってんだよッ、何がろくでなしだよッ!」

「だってそうじゃないか!この子はね、姉ちゃんを東雲楼に売られてんだよッ」

「へえー、なら丁度良いじゃねえか」


なんだってぇえーッ!?もう許せない!
このヤローっ!!



トチはテレに殴り掛かる。突然、襲って来たのでテレは逃げ損ね、トチに思いっ切り殴られた。


わぁあーーーッッ


ぼこぼこ殴られテレはのびてしまう。

「へへ、のびちゃったよー!やれば俺だって出来るんだな、ウンウン」

クルミは目の前で突然起きた事に驚いて泣き止む。トチはクルミの元に行くと笑いかける。

「へへ、びっくりさせちゃってごめんね」

「ぅ・・・」

「おいらが怖いの?」

「ううん、だってびっくりしたの」

「そうだよね、おいらもびっくりしてるもの」

「どうして?」

「だって、まさか兄貴をのしちゃうなんてね!意外に兄貴って弱かったわ~へへ」

「そうなの?でも、あたい、殴ったりするの嫌いょ」

「ごめんねー、でもあんまりだったんだもの」

「ぅうッ、痛ってぇえー!」

「起きた?兄貴」

「何が兄貴だよッ!この野郎、いきなり殴るなんてよッ!はあーー、痛いわ」

「へへ、兄貴がいけないんだよ」

「なんでよッ」

「だってそうだろう?、くるみちゃんはね、売られてたんだよ」

「え?どう言うことよ?」

「この子は売られた先から逃げて来てたの」

トチの話しは微妙に違ってきている。

「そ、そうなのか?...」

「そうだよ!こんなに小さいのにさ。いくら兄貴でも二度も売るなんて非道を許されるのかよ」

「だって...知らねえもの、、、」

「でも今知ったんだからね!」

「・・・そうだな」

「あたい、姉ちゃんに会いたい」

「・・・・・」

「ねえ、叶えて上げようよ!クルミちゃんの姉ちゃんも救ってさ、この子に会わせて上げようよ!」

「ばか・・・」

「何よ?」

「お河童善しもいい加減にしろよ!どうして俺達程度が郭の足抜けなんてさせることが出来るんだよ、少し考えりゃわかるだろうが」

「だけど・・・・」

「ふん、いいから行くぞ!」

テレはそう言うと顔をしかめながら歩き出す。

「クルミちゃん、あの兄貴はイヤな奴に見えるけど本当は違うんだ。説得するのに時間が懸かるかも知れないけど安心して!今においらがきっと善いようにしてあげるからね」

「うん」

「ここは薮が深いから駕篭に乗りな」

トチはクルミを背負い駕篭に乗せる。トチは少し泣いた...過去を思い出したのだ。自分達兄弟もそうだった....

テレとトチの兄弟には上にもう一人兄がいて、三人で親に捨てられた。ある日、突然親が家に帰って来なくなった。探したが皆目、分からず、腹を空かしフラフラしていると親切なおじさんが声を掛けた。

そのおじさんは『飯を食わした礼をしな!』と言い三人を売った。売られた先は商家だったがとても酷い扱いを受けた。一番上の兄が十七に成ると三人で逃げた。その後は兄が物売りをしながら育ててくれた。兄が苦労し店を持つと二人は独立して今に至る。

「兄貴はどうしてるかなぁ?大分会ってねえなあ、、、、」

「くぅぅ」

クルミは寝てしまう。お腹も空いていたのだが駕篭で揺られている内にすっかり寝入ってしまった。
目覚めた時、知らない部屋にいた。障子はボロボロ、歩くと畳が凹む。枕元にはおにぎりと冷めたお茶が置いてある。

おにぎりをパクパク食べた。お茶を飲んでいると襖隔てた向こうから、うんうん唸り声が聞こえてくる。変な声にビクッ!としたが、そっと襖を開けるとテレが脂汗を流し唸(うな)っている。

そばに寝ているトチは気が付かないのかぐっすり寝ている。クルミは急いでトチを起こす。

「トチ兄ちゃん!おじちゃんがおかしいよ、ねえねえ、
起きてょおー!


涎を垂らし寝ていたトチは無理矢理、起こされる。

「むにゃむにゃ・・・なあに?クルミちゃん」

「トチ兄ちゃん!ほら、おじちゃんおかしいの!」

「えっ?あれ?兄貴!兄貴!どうしたんだよッ」


「ふんげーーッ、痛ってえーーッッ!!
腹がっ、腸が熱い捩(よ)じれるーーー!!!



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テレは転げ回っている。

わあッ!大変だあーッ!!どうしよう、どうしよーう!
あわわわ」

トチが大騒ぎしてたので隣の部屋の客が来る。

「うるせえなあ!あれ?トチ!どうしたんだよ?」

顔なじみの狸のぎ助だった。

「どうしよう、兄貴がッ!」


痛いーッ、痛ぃいー、
腹が痛いよーーッ!



「どうしよう??薬なんて持ってないよーッ」

「ありゃテレが変になってるよ、下に行って薬貰って来てやるよ」

「頼むよッ!」

トチがテレの汗を拭いていると宿の主人の殿次が来て薬を飲ませるが、それでも腹の痛みは全く取れない。


ひぃーッ、いだぁーーいッ、
痛いッいだいよーーッ!



「困ったなあ、医者が居る葛傘村までは急いで行ったって・・・」

「助けてやってくれよッ、おいらが行ってくるよ!」

「おめえは身内なんだから、そばにいた方がいいよ」

「そしたら、おいらが行くよ」

「ぎ助、すまねえ!」

「いいって事よ」

ぎ助は急いで宿を出て行った。だが、どんなに急いでも明日の昼にはなってしまうだろう...




つづく




クルミ 23 クルミの知恵 

前回


苦しみ悶えるテレ、救いの手は明日まで来ないのか



はじまり、はじまり

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「ねえ、トチ兄ちゃん」

「なんだい?」

「あのね、あたいね、前に目が見えなくなった時があったのよ」

えっ!そうなの?それで?」

「その時にね、とっても良いおじいちゃん先生に助けてもらって治ったのね。そのおじいちゃん先生はあたいのそばにいる時に色んなお話しを皆にしていたの。

『お腹が死ぬ程痛くて捩(よじ)れるような時は【はこべの青汁】を飲ませると、不思議と腸の腫れと痛みに効く』って言ってたよ」

本当か!?

「うん、本当だよ。このまま放っとくと、このおじちゃん可哀相だよ」

「よし!親爺、まだ【はこべ】が生えているとこってどこかな」

「軒下の柔らかい土のとこにも生えてたなあ、あそこならけっこう出てると思うよ」

「わかった!皆も手伝ってくれーッ

「ああいいよ!」

「勿論だよ!」

宿の泊まり客も総出で手伝う、沢山のはこべが採れた。クルミの指示通りにさっと洗うと刻んですり鉢ですり、それを布巾で包み、ぎゅっと絞るとお猪口一杯くらいにはなった。

「急いで飲ませて」

「わかったよ」

トチは痛がって転げ回るテレに何とか飲ませる。最初は痛がっていたが、その内に転がらなくなり腹は押さえているが少し楽になったようで息づかいが整って来る。

「おいおい、すげえなあーッ
、このちび狐の言う通りだよ!」

「たまげたなあ!」

「まだ、はこべあるよね?」

「ああ、沢山あるよ」

「そしたら洗っておいて」

「もっといるのかい?」

「もう少し経ったら又飲ませた方が良いし、絞り立てがいいと思うの」

「うん、わかった!」

「それから、おじいちゃん先生はね、『はこべ汁は後で煮詰めてドロドロにしたのをはこべがない季節に使うんだ』って」

へえー!たまげたよ~、いくらでも生えてるから作っとけばいいんだね?」

「そうよ、また困った時に使えるよ

「へーッ!感心したよ~!」

主人の殿次も客も大いに感心する。一時間程経つとテレは痛みも取れて気持ち良さそうに寝始めた。どうやら、はこべが効いたようだ。

少し飲ませてから皆は寝るのも忘れ、はこべ汁を煮詰めた。とろとろになる迄には朝方になってしまった。クルミは台所で丸まって寝ている。

「しかしすげえなあ~、トチの知り合いかい?」

「そうじゃねえよ、小さな友達だな」

「お陰でテレは命拾いだな!」

「全くだよー、良かったよー!」

「起きたら、美味い朝飯食わしてやろう」

「ああ、そうしてやってくれ」

殿次が張り切って朝食を作り、クルミを上座に据えて皆で食べた。腹がくちくなると寝ていなかったので皆でごろごろ眠りだす。昼近くになって戸をドンドンと叩く者がいる。


開けてくれーッ、ぎ助だあ!
医者を連れて来たぞーッ!



戸をガラガラ開けると眠そうな顔のトチを見て、ぎ助は勘違いした。

「間に合わなかったのかッ!?....うぅ....急いだんだけどなあ、、、、、」

「ふわぁーーーッ、眠たいなあ~」

「何だとッ?泣いてたんじゃねえのかよッ!

トチはぎ助に説明をし、態々来てもらったので医者にも一応診てもらう事にした。

「ふーむ...確かに腫れていたようじゃが、今は大分に引いておる」

「先生、兄貴は大丈夫ですか?」

「うむ、このまま三日は安静にな。だが腫れが引くとは・・・」

「はこべの青汁を飲ませたがいいって、クルミちゃんに教えてもらって急いで飲ませました」

「ん?よく知っていたなあ、感心感心。劇的に効いたようじゃ。いやはや、わたしより余程の名医じゃ。青汁は盲腸にも腸捻転にも効くのよ。医者しか知らぬ事、大したものだ」


へーッ!すげえなあー


医者は感心しながら帰り、トチは薬をもらって一安心した。

「良かった!これで安心だわ」

「本当だよー!」

「ぎ助ありがとうなッ、恩に着るよ!」

「気にすんなよ!でも恩に着るのはクルミって云うあのおちびにだぜ」

「本当だよ、兄貴はクルミちゃん様々だよ」

「テレも変わるかもよ」

「そうだといいけど・・・」

ぎ助達とは悪仲間だった。小さな盗みもするし、テレとトチがしていたような女衒紛(ぜげんまが)いの事もする何でも屋だ。

そんな奴らだが少しは良心もあるし、友情には厚かったりもする。不思議なものだが仲間意識は強いのだろう。トチは、ぎ助達に今迄の事を話す。

「かわいそうになあ~」

「おいら、ますますクルミちゃんを姉ちゃんに会わせたくなったよ」

「そりゃそうだよ」

「テレの奴、命の恩狐に何て言うのかね?」

「生意気言ったら俺らが許さねえよッ!」

宿の主人も客達も皆クルミの味方だ。ぽんぽん腹になって気持ち良さそうに寝ているクルミを見ると皆、仏心で一杯になる。

「可愛いねえ~」

「何か大分会ってねえ、子供を思い出しちまった」

「そりゃいけねえよ、帰ったがいいよ」

「帰ろうかな?」

「帰りなよ」

里心だす者ありと今までに無い不思議な雰囲気になってくる。クルミが起きた。皆は、ますます善い者になろうとした。




つづく









この話にある「はこべの効能」は凄いものがあります。
実際に明治の頃、渡欧したお役人が彼の地で盲腸炎になりました。
その時、身近にあったのがウシハコベだったそうですが、
同じように青汁を飲ませた処、劇的に治り公務を無事終えたという逸話が残っています。
私も作ったことがありますが、時間はかかりますが冷蔵庫に入れておけば腐らないので便利です。
お正月に七草粥で食べますが、はこべにこんな力があることを知っていると味わい深いものになると思います。

ぴゆう

クルミ 24 はこべの青汁

前回

クルミの知恵で命拾いしたテレ、宿の者は感心するばかりだ。


はじまり、はじまり


「ねぇねぇ、あたい思うんだけど」

「なんだい?」

「どうしたの?」

むさ苦しい男達が雁首を並べている。

「おじちゃん達、このはこべ汁を売ったら?」

「えっ?あっ、そうか!皆の為になるものなあー」

「そうよ、はこべなんてどこにでも生えてるし、煮詰めるのなんて簡単だもの。悪い事してご飯食べるより、喜ばれて食べるご飯はよっぽど美味しいよ」

いやーッ、本当だよ!」


全くだあー!


皆、クルミの意見に賛成をする。早速はこべを採ってくる者、洗う者、刻む者、煮詰める者、細い竹筒に詰める者と分業した。

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クルミも一生懸命手伝い、翌日には竹筒に入った百個程のはこべ汁が出来た。

「おじちゃん達、すごいねぇ~!」

「へへ、クルミちゃんに褒められると嬉しいねえ~」

「なんかいい気分だよー」

「そしたら、売りに行かないとね!」

「ああ、だけど只の【はこべ汁】って売ってもなあ...」

「こんなのはどうかしら?

『あら不思議ぃ~♪ポンポン痛くて捩れたら♪お猪口一杯この薬ぃ~

飲んだら忽ちよぉーくなる♪あ〜ら不思議ぃ~♪あら不思議」

ひゃーいいなあ!そりゃいいよ!」

「太鼓を鳴らしながら歌ったらどうだろう?」

「いいねー、それデンデン鳴らしてさあ~」

宿の主人、狸の殿次が納屋に行くと古びた太鼓を持って来る。

「これ鳴らしてみるか?」

「よーし!」

「♪デンデコ、デンデコ、デンデンデンデン・・・♪」


みんなー、歌ってえー!


♪デンデコ♪デンデコ


あら不思議ぃ~♪♪ポンポン痛くてー、捩れたらー

デンデン

お猪口一杯ーー、この薬~~♪


大騒ぎである。クルミを先頭にして宿の周りをデンデン太鼓を叩いて大声で歌う。何周も何周も廻り続け、皆、心から楽しんで歌った。

後にクルミが恵み子様と判ると【恵み子様の薬】として有名になり、【河童の不思議膏】と並び賞されるほど重宝がられ、いつしか家庭の常備薬になった。

ガスもまさか茶飲み話しがこんなに役立つとは思わなかったろう...知恵は惜しまず、授けておくものである。

テレは具合が良くなるとクルミに土下座して謝った。
命の恩狐に感謝して泣く、余程辛かったのであろう...感謝も一入(ひとしお)だった。

すっかり良くなるとテレもトチもクルミ様様である。願い通りに姉と会わせ、一緒に暮らせるようにしてあげるんだとすごい鼻息。テレの河童の変わり様には皆も驚く。

「ねぇ、何してるの?」

「へへ、クルミちゃんを乗せる蓮台を作ってるんだよ、屋根も付けるんだよ」

「すごぉーい!これにあたいが乗るの?」

「そうだよ、ふかふかのお布団も敷くんだよ」

「新品の布団を殿次がくれたよ」

「わぁ~楽しみ!あっ、そう言えば、あたい三吉と約束していたんだわッ!あぁ...もう何日も経っちゃった、、、」

「今から急いで戻るかい?」

「うーん...でも姉ちゃんに会いたいッ!姉ちゃんに会ってからにするよ」

「そうか、そうだよね?そしたらテレ兄貴、急ごうぜ!」

「ああ急いで作ろう!」

翌日に仕上がった蓮台は中々立派だ。屋根もあるし、中を隠せる様に幕もある。

「雨が降っても風が吹いてもクルミちゃんはこれで寒くなくて済むな」

「そうだろう?いい出来だよー」

「さて、そろそろ行こうか?」

「さっ、クルミちゃん、乗ってみなよ」

「うん!嬉しいなぁ~、こんなのあたい初めてだもの」

クルミが乗るとテレが先棒を持ち、トチが後になって担ぐ。

「すげえ、御姫様みたいだ!」

「俺達のクルミ姫だよ!くれぐれも気をつけてなー、テレ、トチ優しく運ぶんだぜ」

「ああ、任せといてくれ!」

「兄貴、行こうぜ」

「おじちゃん達、またね~」

クルミちゃん、気をつけてね~

帰りに又寄ってね~


こうしてクルミは猫宿へと旅立つ。残った宿の者達はクルミに厳しく言われたので、はこべ汁をとても安い値段で売る事にした。



つづく




クルミ 25 依頼

前回

クルミの提案で、はこべの青汁で商売をすることになる。安い値段で売り、皆に喜んでもらう。これで半端な奴らも生きていく張りができたろう。クルミご一行は皆に見送られ猫宿へと旅立つ。



はじまり、はじまり




そう言えば、紫狼はどうしているのだろう?

      
           ♢


            
紫狼はようやく連傘のガスの元に到着をした。雲階段とはいえ、猫国を一週間かけ、北から南へと大移動したのでお順とこん竹は疲労困憊で、さすがの減らず口も出ないようだ。

紫狼は屋上に二人を放ち、一人ガスの書斎に向かう。ノックをすると「どうじょ、開いてましゅよ」いつもの声。
中に入るとガスと机を並べ、もう一人河童がいる。その河童はにこにこして、とても良い顔をしている。

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「ガス先生お久しぶりです。あれ?なんか、お若くなられたような、、、」

ふあふあ、若いって~大助しゃん」

「良かったですね」

「あの...すみませんがこちらの方は?あたしは紫狼と申します」

「わたしめは大助と言います。先生のお手伝いをさせて頂いてます」

まったあ~、大助しゃんは河童が悪いでしゅよ」

「だって私は弟子ですよ」

「じゃ、ガスも大助しゃんの弟子でしゅ」

「あのう...大助様とおしゃられるのですか?」

「はい紫狼様、お初にお目にかかります。どうぞ宜しくお願いします」

「こちらこそ、宜しくお願いいたします」

「大助しゃん、紫狼様は恵み子様なんですよ」

「それは、それは」

大助はガスから色々とこの世界の事を聞いているので中々詳しい。オロも驚く程、知っている。

「月狼達も紫狼様がいらしゃったのを知れば喜びましゅよ」

「月狼達はまだ修業をしていたのですか?」

月狼達は狼族の村である月影村の出身で、そこは紫狼の里でもある。紫狼は優秀な者達を積極的に卍宿の医学校に行かせ学ばせている。月狼やシャナ、海狼もそこを卒業してからガスの元で修業しているのだった。

「無論ですよ、ちっとも出て行きましぇんよ。この頃は大助しゃんにも教えてもらっているので尚更でしゅよ」

「ほほーそれはそれは」

ガスは大助との経緯を詳しく紫狼に話す。※大相撲参照

「では父様先生が猫宿に行って騒動を収めた時の事ですね」

「ほほー、しょんなに猫宿は騒動でしゅたか?」

「はい。皆、言う事を聞かないと魂沈めされると聞いて、急いで片付けをしたらしいですよ」


ふあふあ


はははは


三人で笑った。紫狼はここに来た用件を言うと「任せなしゃい」と快い返事をガスから貰う。それから紫狼は月狼達と久しぶりに会い、楽しく二、三日を過ごす、長旅の疲れも取れると再び、雲階段に乗り帰って行った。

お順とこん竹は最初の日こそは食事も長屋に持って来てもらえたが、翌日からさっそく働かされる。お順は患者の看護、こん竹は雑用だった。レレは紫狼からよくよく聞かされているので二人に全く容赦ない。

「ちょっとッ、お順!どうしてそう包帯の巻き方が下手なのッ」

フン

「いい?こうして仕上がりが麦の穂に見える様にやるのよ」

お順はレレに教えてもらっているのに、下げる頭も聞く耳もないので威張られてると思い腹が立って仕方ない。長屋に帰るとこん竹に肩やら腰を揉ませながら、愚痴三昧の日々を送っていた。

「あのメス河童!いいようにこき使いやがってさッ」

「ああ、おいら達が逆らえねえの見越してんだよ」

「頭に来るよッ!」

どうやらこの二人、魂沈めされなかったことを感謝する処か、このていたらく。腐った性根は治らないとみえる。

卍宿に帰った紫狼は焦燥し切った茂吉に驚き、事の仔細を訊く。茂吉達はあれから必死になって探した。三吉の約束した場所には日暮れになってもクルミは姿を現さなかった。

蜘蛛の紋次に頼る他ないと紋次の子分達を総動員して糸を出させたがクルミの行方は杳(よう)として掴めなかった。何日かすると紋次達の糸で真っ白になり、卍宿一帯を覆ってしまい宿(しゅく)の者も困り果て苦情を言ってくる始末。

茂吉は最初、頑として聞き入れなかったが恵み子達に説得され、仕方なく紋次達の糸を引き上げさせた。そんな時、紫狼は帰って来た。茂吉は唯の親馬鹿に成り果てていた...クルミが心配で身も世も無い様子。

「父様先生、、、、、」

「ふふ、情けない話しよ。こうまで阿呆になるものか...」

「そんな事はありません!あたしも同じです。でも少しはお休みになられないと・・・」

「横にもなれぬのよ、クルミの顔が浮かんでしまって・・・」

がっくり項垂れてしまった。






つづく


クルミ 26 帝子と夢子

前回

紫狼はガスに二人を任せると安心して帰る。校長室には憔悴しきった茂吉が居た。睡眠も満足に取れないようだ。


はじまり、はじまり


二人が話をしている校長室の窓際に何やら黒い影がモゾモゾしている。そのうち、その黒い影は人形(ひとがた)になり窓を開けようとしているが、開け方がわからないらしく苦労をしている様子。

すると今度は窓を遠慮がちにノックする(コン..コン...)ノックする度にバラバラと手が崩れる....不気味だ。紫狼が気が付き急いで窓を開けた。

「どうしたのです帝子、随分と久しぶりだこと。父様先生、帝子です」

茂吉は珍しい名前を聞くと、項垂れていた頭を上げる。

「おお、さっ、入りなさい」

「帝子、入りなさい」

「はい、それでは取り敢えず夢子と私だけにしておきます」

黒く、もぞもぞ動いていた人形がバラバラ崩れ落ちる。窓には二匹の蟻が居た。一匹はとても大きい蟻で帝子と云う女王蟻、もう一匹は娘の夢子だ。二匹の蟻はそそくさ駈けるように二人の前に行くと、丁寧にお辞儀をする。

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「お久しぶりのお目もじ、この帝子、嬉しゅうございます」

茂吉も少し元気になってこの小さな訪問者と話す。

「ふふ、お前達の仕事ぶりには頭が下がりますよ、お前が離れても平気なのかい?」

「はい、帝子の引退も近い気が致します」

「なんと!そう言えば、もうどの位経つかね?」

「はい、九百年にあいなります」

「ああ、そうだね。あたしが御係所を始めて、そのままお前に頼んだのだものね」

茂吉と帝子の付き合いは古い。茂吉が御係所を始めると天の神から【捕縛蜘蛛の紋次】【知らせ蜻蛉の紙次】【記憶天道虫の丸子】【牢獄蟻の帝子】達を、僕(しもべ)にせよと下された。

紋次は何度も度々出ているので説明はいらないが、知らせ蜻蛉の紙次と記憶天道虫の丸子は、いつも茂吉のテーブルの上にオブジェのように、じっとしている。

知らせ蜻蛉は名前通りに茂吉の手紙の専用配達虫。記憶天道虫の丸子はその丸い体の中に信じられない程の情報を蓄えている。

茂吉が関係をする有りとあらゆる事を全て記憶しているので、茂吉は何かある度に丸子に向かって話し、記憶させ忘れると聞き出す、、、便利なのである。

この者達 には其れぞれに兄弟や子分達が沢山いる。群を抜いているのが、牢獄蟻の帝子である。帝子には数が分からない程多くの兄弟子供達がいて、普段はその子供達と暗い地下の穴蔵で牢になっている。

それは蠢(うごめ)く蟻で出来た牢なのだ!その凄まじさ恐ろしさは見たもの誰もが震え上がる。御係所の施設の一つにこの蟻牢がある。罪深き者と判断された者はこの牢獄に入れられ入れられたが最後、絶対に脱獄はできない。

こんな逸話が残っている...脱獄を企てた者が食事を差し入れた看守を人質にして帝子達に牢を開けろと迫った。元から牢自体が開けるも閉じるも小さな蟻達が集団で手足を繋げてしている事、食事を差し入れる時もその場所だけ手を離し看守が通れるだけを開けるのだった。

帝子達に迫った罪人はとんでもない目に合った。蟻達が一斉に罪人目掛けて蟻酸を尻から出すと、罪人の皮膚は焼け爛(ただ)れ火ぶくれとなり見るも無惨な姿になったと云う。恐いのである。

「帝子、引退してどうするの?」

「はい、帝子は茂吉様のお側に居とうございます。そして茂吉様と他の仲間達と暮らしたいと思います」

「ふふ、帝子は可愛いこと。帝子がそうしたければそうしなさい」

「ありがとう御在ます、帝子の夢が叶います」

「でも帝子が居ないと牢の方はどうなるのですか?」

紫狼が訊く。

「帝子はその為に夢子を連れて来たのだろう」

「はい、私の仕事は夢子に継がせたく、茂吉様にそのお許しを頂きたいと思い、連れ参った次第でございます。夢子、さっ、ご挨拶を」

帝子のそばに控えめにいた夢子は、茂吉や紫狼に向かって深々お辞儀する。

「夢子でございまする。真に不束者(ふつつかもの)では御在ますが、母に負けぬよう精進し相務める所存、どうかお許し下さいますよう」

「ふふ、ありがとう、夢子。どうか宜しくお願いします」

「はい!」

夢子は平伏している。

「帝子は良い娘御を持ったものよ」

「はい、帝子の自慢の娘で御在ます」

「さもあらん。夢子、この毛はあたしの髭(ひげ)の毛です。指揮棒にして使って下さい」

「なんと幸せなこと!さっ、夢子頂きなさい」

帝子は嬉しそう。

「はい、ありがとう御在ます!」

茂吉は自分の髭を一本抜くと夢子に差し出す、夢子は押し頂いて畏まる。夢子は早速、茂吉の髭を持ち窓枠に立つと指揮棒の髭を振る。

ざわざわとしながら蟻達は人形になると夢子を手の上に乗せる。夢子は振り返りお辞儀をすると人形の蟻達もお辞儀をする。そしてザワザワ音をさせながら去って行った。





つづく








今年最後のアップとなりました。
いろいろとあったような無かったような
思うに夏の暑さと冬の寒さが過激になってきた気がします。
のんびりと陽を楽しむ春や秋が短いのは寂しい限り

クルミは来年も続きます。
どうかのんびりとお付き合いを頂けたらと思います。
来年もどうか宜しくお願いします。
m(_ _)m

ぴゆう

クルミ 27 楽しい旅

前回

帝子は引退し、茂吉の側で余生を暮らしたいと嬉しい言葉、沈んでいた気持ちも晴れる出来事だった。


はじまり、はじまり



帝子ぉー!


紋次、紙次、丸子ーぉ


さっきから話しを聞いていた虫達が堪らなくなって帝子に抱きつく。いい光景である。

「ふふ。紫狼、帝子達に美味しい金平糖を上げておくれ。夢子達もそんなに遠くには行っていないだろうから、あの者達にもたっぷりとね」

「はい、畏まりました」

紫狼はさっそく色とりどりの金平糖を帝子達に、そして夢子達を追いかけて行き、沢山与えた。一時、虫達と楽しそうに話していた帝子が口を拭き拭き、茂吉の前に来る。

「茂吉様、今紋次から聞いたのですが、恵み子様が行方不明と?」

「おおそうよ、紋次にも手伝ってもらったのだが中々見つからぬ。あたしも途方に暮れているのだよ」

茂吉はクルミのことを話す。

「それならば、私めにお任せ下さい!引退仕事にします」

「どう見つけるのだ?」

「はい、茂吉様。私めには兄弟がまたタンとおりまする。その者達は全世界に暮らし、蟻のいない土地などこの世に在りはしませぬ。兄弟に一声懸ければ雑作なく行方は知れると思いまする」

なるほど!気が付かなんだ、早速頼みます」

「承知しました」

早速、帝子は知らせ蜻蛉の紙次の背に乗り、開いている窓から急いで飛び出していった。

「紫狼、あたしも老いたものです」

「父様先生いけませんよ、そんな事をおしゃるのはまだまだ先です。第一、五黄様に叱られます」

「ふふ、あたしがそんな事言ったら確かに怒りますね。あー、でも安心しました」

茂吉が帝子に任せ安心した当のクルミはどうしているのだろうか?話しは少し遡る。


               


               ♢





河童のテレ、トチ兄弟と蓮台に乗るクルミ達は至極快調に旅を続けている。二人は思いのほか息の合う担ぎっぷり。『えい!ほっ、えい!ほっ』と足を稼ぐ。

狸の殿次から紹介状をもらっていたので、どの宿でもいい扱いを受ける。意外にも殿次は中々の顔だったようだ。

いってらしゃいませー!

「お気をつけて!」

宿の者に気持ちよく送り出され、二人は走っている。

「ねえ、兄貴よ」

「何だい?」

「殿次の奴、こんな良いものなら何でもっと早くに呉れないんだろうね?」

「本当だよ~、あいつがこんなに顔役だったなんて知らなかったよ」

「あたいの為にくれたんだから仕方ないよ」

クルミが蓮台からチョコンと可愛い顔を出す。

「ちげえねえや!」

「『クルミちゃんを粗末な宿には泊めるなんて許さねえ!』って言ってたもの」

「俺達には『その辺の草っぽにでも寝てろ!』って言ってたもんね」

「きゃははは」

「ひでえー話しだ!あはははは」

「ははは」

「クルミちゃん!今日の夜には猫宿に着けるよ」

「本当?

「そうだよね」

「ああ。トチ、頑張って走るぞ!」

「クルミちゃん、揺れるからちゃんと掴まってよ」

「はーい」

クルミも最初は蓮台が揺れるので気持ち悪くなったりしたが今は大分慣れ、外の景色や本街道を行き交う様々な種族を見るのが楽しい。十分旅を楽しんでいる。

あっ!綺麗な花が咲いてるーッ、降ろしてぇー、降ろしてよーッ

「もおー、少し前に休んだでしょ?」

「いいじゃんよ、クルミ姫の言う通りにしなきゃ駄目だよ」

「しょうがねえなあ」

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クルミは楽しくて仕方ない。花を沢山摘むと座って休んでいる頭の皿の上に一輪づつのせる。テレもトチも馴れているので怒らない。

「今度のお花は何て名前なの?」

「これはね【白花猫の目草】っていうのよ。このお花は色んな種類があるのよ」

「へぇー!クルミちゃんは何でも良く知っているね」

「へへ。あたいの居たとこはね、たくさーん御本があったから、あたい御本読むの大好き!」

「そんじゃ、そろそろ行こうか?これからどんどん橋を渡るから大人しくしていてよ」

「うん」

クルミを乗せて二人は、賑やかなどんどこ橋を渡る。橋の上には沢山の屋台が出ている。獲れたての魚や干物、飴屋、焼き餅屋等、商売が盛んに行われている。クルミは見ているだけでも楽しい。

「お餅買ってよぉ~」

「え?だって握り飯あるんだよー」

食べたいーっ!買ってぇ~、買ってよぉ~

「はいはい」

テレはクルミが我が儘を言う度に苛々する時もあるが何だか楽しい。二人だけで旅をしていた時より楽しいのが不思議だ。トチはニコニコしっぱなしだ。熱々のお餅を食べ終わるとクルミはお腹が一杯になって寝てしまう。

「あらら、お姫様はもうお寝んねだよ~」

「へへ、楽しいねー!テレ兄貴」

「本当だな、何だか悪くねえな」

「うんうん、悪くねえ、悪くねえとも!」

クルミが寝ているお陰で寄り道せずに済むので、旅は快調に進む。夜半になってようやく猫宿の華やかな灯りが見えてくる。猫宿は夜の方が賑やかだ。

「おい、そろそろ見えてくるぞ」

「ひゃー、懐かしー!」

「バーカ、そんなに久しぶりじゃないだろが!」

「へへ、ちげえねえや」

善い行いをしているだけで風景も違って見えるというもの。二人は馴れた道を走っていく。

「クルミ姫、起きてるかい?」

「あたい、眠たいぃ...」

「今日はよく寝るね」

「あたいは育ち盛りだから眠たいのぉ」

「そーですか、そんじゃ塒(ねぐら)に着くまで寝んねしていな」

「はぁ~い」

二人は喧噪の町中を塒に向かいひたすら歩いていく。飲屋街に入ると開店したての店が祝いの花で一杯になっている。

「兄貴、あんなとこに店ができてるよ」

「どうせ直ぐに潰れるさ」

「猫宿は厳しいとこだもんね」

「そうさ」

二人が店の前に差し掛かろうとした時、ドアが開く...

「ありがとうね!又来てよ。これっきりじゃ嫌よ、ご贔屓になってよねぇー!」

「ああ、わかったよ!またな」

「じゃあねえ~」

客を送り出した店のママと二人は目が合う。


う、うわーーーっ!!


ひゃやややーーーッ!


二人は腰を抜かすほど驚いた。







つづく






明けましておめでとうございます。
何か、休みが長かったのに疲れている私がいる。
主婦には休みが休みじゃない週間でござったような
通常運転に人数が増えるので余計に働いたような気がする。
お年玉を貰いたいくらいだ!!
何やかんやと(-_-;)ブーたれながらも良いお正月でした。
今年ものんびり続けていきたいと思っております。
今年も宜しくお願いします。
m(_ _)m

ぴゆう

クルミ 28 姐兄さん

前回

調子よく、猫宿に着いたご一行、待っていた者は!



はじまり、はじまり




きゃーーっ!!ちょっ、ちょいとっ、どーぉ言うことっ!?
ねえッ!どう言う事?どう言うことなのよーーッツ!!
...やい!返事しろってんだよッ!

「兄貴ぃ~」

「キナ兄いぃ...」

バカッ!兄貴なんて言うじゃねえよッ、『ママ』って言えって幾ら言ったら分かるんだよ!いいから、こっちに来いッ!」

二人はクルミを乗せた蓮台を店の前に置くと、凄い顔したキナに呼ばれスゴスゴ店に入る。なんとテレとトチの兄貴と云うのはおかま河童のキナだった。客が居なかったので、二人をカウンターに座らせた。

「どう言う事か俺にきっちり話してみやがれッ

キナはしっかり兄貴に戻っている。

「あのぉ、、、おいトチ、お前が話せよー」

「ぇえーー!何でおいらなのよッ」

「どっちでもいいから言ってみろッ!フラフラしやがってーっ!
連絡もとれやしねえ!

「ごめんよう~、怒らないでよぉー」

テレはすっかり可愛くなっている。

「俺が猫宿に島を変えたって連絡したくても、てめえ達はどこにいるのかさっぱりだ!こんな姉貴不幸な弟達がいるもんかよッ!」

「すまねえ~、だって兄貴が...何つうか、かんつうか、、、そのぉ...兄貴が『姉貴』になっちゃっているのがどうもそのぉ・・・」

「何言ってやがる!『ゲイは身を助く』っていうんだ!御陰でお前達、飯が食えたんだろっ?」

・・・・・

「へっ?うん、、、だけどよぅ・・・」

「いいから、お前達はこれからあたいの店を手伝うんだよ」

え゙ーーーッ!?イヤだあーー!!

うるさい!黙れ!!ちょうど河童手が足りなかったんだ、いい幸いだ、ゲイを仕込まないと~」


うわーーーッツ!!


二人が急いで店を出ようとするが、何せキナは二人の親も同然、よーく心得ている。耳を掴まれ動けない。

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うえーーーん


ひぃいー


「いいから、観念しな」

「兄貴ぃ~、だけど、俺達にはしなきゃいけないい、、、
いっ、痛てぇえーーッ

「みっ、店の前の蓮台にッ、、、ク、クルミちゃーーんッ!

えっ!?クルミ??聞いた名前だよ、狐の子のクルミか?」

二人は耳の痛さに泣きながらこれまでの事を説明した。キナはスヤスヤ寝ているクルミを連れてくると二階のベットに寝かせる。

「何てまあ...どういうのよ、こんなに大きくなって・・・あんなに細かった子が、、、ウッ」

泣いてるキナを二人は不思議そうに見ている。キナはクルミとの事を懐かしそうに話すと二人はすっかりしょげてしまった。自分達の昔と重なり言葉が出て来ない。

「兄貴ぃ・・・俺はとんでもねえ事しようとしていたよ。トチに言われても知らんぷりしていた。そんな俺をクルミ姫は救ってくれたんだ、、、」

「そうだね、この子は本当に恵み子様なんだね、そう思うよ。あたいが口を酸っぱくしても直らなかったお前達のひん曲がった性根をこうして真っ直ぐにしてくれたんだもの・・・有りがたいことだよ」

「そうだよね、おいらなんか胸が一杯だよ」

「さあ下にお出でよ、クルミは寝かせて上げよう」

三兄弟は久しぶりの再会を喜んだ。テレとトチはしこたま飲んで寝穢(いぎたな)く寝てしまう。キナはカウンターの中で椅子に座ったまま寝ている。

朝方になりクルミは目が覚めると知らない場所にいるので一瞬驚いた、二人の家なのかも?と思い直し階段を下りる。

何やら懐かしい雰囲気に包まれた、、、、この店も狐宿の店と造りが同じなので懐かしく感じたのだろう。昔のようにカウンターを覗いて見ようとした・・・が、止めた。

寝ている二人に気付かれないようにソッと店を出て蓮台からバックを取ると急いで逃げた!クルミはここでも勘違いをしてしまった。

自分を騙し、母親の店に連れて来たんだと考えた。カウンターの中を見れば懐かしいキナの顔があったのに・・・クルミは駈けた、何でもいいから怖い母親のいる店から逃げたかった。

「はあ、はあ、びっくりしたー!掴まったら大変だったわッ。やっぱ河童は嘘つきなのね、信用したのに・・・頭来たわ!」

クルミは少し落ち着いたので歩き出す。

「ここはどこなのかしら?あの河童は猫宿って言ってたけど・・・訊いてみよ」

通行人に訊くと猫宿であるとの答え。少しだけほっとするとクルミは東雲楼(しののめろう)の場所も訊いてみる。怪訝(けげん)な顔をされたが『姉ちゃんがいるんだ』と言うと教えてくれた。

目印の赤い門は直ぐに見つかる。そこだけは他の場所とは違い、昼時なのに朝と変わらない静けさに満ちていた。道の左右には緑色や青色と、色とりどりの建物が建っている。

どの建物にも酒席楼とか霞楼と云う大きな看板が掛かっている。しばらく歩いているとやっと見つけた!目の前に【東雲楼】と大きな看板が掛かっている朱色の建物があった。店の前でどうしようかと迷っていると、中から年老いた婆猫が出てきた。




つづく




クルミ 29 行く先

前回

テレとトチと兄弟だったキナ。クルミがそれを知るのはいつのことだろう?


つづく


「ふぁ~年寄りにはきついよ、引退したいでありんす・・・」

「あのぉ、、、おばあちゃん」

「へっ?誰だい、あんた」

突然声をかけられ驚いた婆猫はクルミを見ると怪訝な顔をする。

「何だい?どうして子供がこんなとこにいるんだい

「おばあちゃん、ここって東雲楼なの?」

「そうだよ、字が読めるのかえ?こんな難しいのに」

「あたい、この読み方だけは忘れないもの」

「ふーん。で、なんだい?あたしゃ忙しいでありんすよ」

「あのね、ここにコノミ姉ちゃんが居ると思うんだけど・・・」

「コノミ?うん?・・・あっ!セキレイちゃんの事かえ?」

「なあに、セキレイって?あたいはコノミ姉ちゃんを探しているのよ」

「コノミはセキレイって源氏名だったのよ。そういや、お前は柄がセキレイそっくりざます」

「あたい、妹だもの」

えーっ!?お前セキレイの妹?、、、」

この婆猫はとっくに引退して今は遣(や)り手婆になっているのだが遊女言葉が抜けない。気もいいし、女達には好かれているので店では重宝がられ結構忙しい。婆猫はクルミを連れ店裏に周ると小さい声で話し出す。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります

ikisaki.jpg

「あのね、セキレイはもうここには居ないよ」

えーーッ!?どうしてなのッ?
あたいは姉ちゃんに会いたくて、会いたくてこんなとこまで来たのにぃーーッ!!
うわぁあーーん!

「ちょいとッ、泣かないでな!悪い事じゃないんだからさッ、いいから泣かないで聞くでざます!!

宥められてもクルミは中々泣き止まなかったが構わずに話し出す。

「セキレイはね、ひかされたんだよ。今じゃ立派なご新造さんでありんすよ」

「どう言うこと?ご新造さんってなあに??」

話しによると、コノミは豆腐屋の富吉と云う猫に一目惚れされた。富吉は三日に上げずに通い詰め、到頭店を売るまでに至った。豆腐屋の元締めの貞と云う親分にこっぴどく怒られたが、何としてもコノミと所帯が持ちたいと泣いて頼んだ。

元々暖簾分けしてもらう程、腕のいい職人、このまま放り出すのも惜しい。結局、貞は根負けしコノミに懸かった大枚の木の皮銭をあっさり積み自由にさせ、相思相愛の富吉と一緒にさせたそうだ。

貞は富吉にこれ以上の遊び癖がついたらならねえと富吉の故郷の粒傘村に引っ越しをさせた。今では二人仲良く粒傘村で豆腐屋をやっているそうだ。

この世界では種族の違いに関係なく結婚する。
元から産まれて来る子は前世でなりたい種族に【魂納めの宮】で契約をしている。子供達の魂は種族を選び望みの種族の母親から産まれる。

母親が猫であれば猫の子に、狐であれば狐の子にと種族が同一なのは血肉を分ける母親だけだ。だから河童の母親から猫の子は産まれないし、間の子も産まれない。

母親とは血肉の縁であって、魂の縁ではない。父親も同様である。この世で血肉を分け与えるだけの儚い縁であるが故に尚一層深い繋がりになる。だから、この世界では同種族同士の結婚もあるし、違う事も間々有る。

クルミはその話しに驚いたが、姉が幸せに暮らしていると聞いて喜んだ。そして増々会いたくなり粒傘村に行こう!と決心し、婆猫に挨拶もそこそこにして駆け出した。

コノミに意地でも会うと思い定め、勢いよく駆け出したのはいいが、どちらに行けばいいのかもわからずに戸惑ってしまう。

粒傘村の場所を尋ねても、知らない者が多いい。猫宿は猫国一の繁華街だけあって他国からのおのぼりさんがとても多いからだ。その事に気が付いたクルミは「そうだ!古い店の者だったら知っているに違いないわ」と早速《創業三百年》と看板に書いてあった飴屋で粒傘村への行き方を訊ねる。

予想通り親切に教えてもらい、大雑把(おおざっぱ)な地図まで書いてくれた。気をよくしその店で黒飴を沢山買うとバックに仕舞い、人混みに紛れ小走りに猫宿を出ると東に向かう、、、

その頃キナの店では大騒ぎだった。

クルミに朝餉を食べさせようと二階に行くと既にもぬけの殻、寝腐っているテレとトチを無理矢理に起こす。寝ぼけ眼の二人は店の外にある蓮台を探すが、クルミの唯一の持ち物であるバックもない、、、二人はようやく焦りだす。

兄貴ぃー!クルミ姫がいないよーッ!!

「どうしてだあ?」

「お前達どういうことだよッ!あの子は猫宿なんて初めてなんだよ。こんな風紀の悪い所に居させられるもんじゃないよ、急いで探してお出で!そんなに遠くに行ってるもんか、きっと迷子になって泣いてるに決まっている。
あーッ、可哀相なクルミ~

キナは昔の哀れな狐の子のクルミしか知らない。大きくはなってはいても、キナにとってクルミは昔のまま。恵み子に成ってからのクルミは賢く強く、見違える程の変身を遂げていたのだが、キナはクルミとひと言も話していないのでわかってはいない。





つづく




クルミ 30 戸の宿

前回

コノミに何が何でも会うと決めたクルミ。今はまっしぐらに突き進むだけだ。


はじまり、はじまり



一方、茂吉達はどうしているのだろう。
蟻の帝子と知らせ蜻蛉の紙次が戻り、帝子から報告を受ける。

「茂吉様っ、クルミ様の行った先がわかりました!

「早く、早く言いなさい!

「はい。何でも足跡が戸の宿周辺にあったそうです。でも不思議な事に何歩か歩いただけのようでその後足跡はなく、何処に行ったのかもわからないようなのです。とにかく其れきりで消えてしまわれているそうです。今、周辺にも探りを入れておりますから、明日中には知れるかと」

!!、戸の宿とは一体どういう事でしょう」

「父様先生、もしかしたらクルミは勾引(かどわ)かされたのでは?」

「おお、だから紋次の糸でも探りようがなかったのかもしれない。何か駕篭とか袋に入れられていたのかもしれない、、、可哀相なクルミ...こうしてはいられない!さっそく戸の宿にいきましょう!」

はい!あたしもお供を致します」

「茂吉様、戸の宿周辺としかわからないままでは・・・」

帝子が慌てている二人に言う。

「帝子、大丈夫ですよ。もしクルミを勾引かす様な悪い奴らでも野宿は避けたいでしょう。まだ夜は冷えますしね。それにあそこには宿が有ります、きっとそこに泊まったのでしょう」

「流石は茂吉様です。帝子は惚れ惚れします♪」

「ふふ、帝子は可愛い事を言います。紙次もさぞや疲れたでしょう。色々と苦労を懸けましたね。さっ、もう休みなさい。ありがとう」

二人は外に出ると茂吉は早速、雲階段を呼び寄せる。その時急いで駆け寄って来る者が居た、三吉である。

父ちゃん先生ーッ!紫郎兄ちゃーん、何処に行くのぉーー?」

「おお、どうしたのです?もうネムネムの時間ですよ」

「寝てなんかいられないよ!おいらだってクルミが心配で心配でしようがないんだものぉ」

「三吉や、どうやらクルミの行方がわかりそうなのです。今少し辛抱してお待ちなさい」

イヤだぁー!おいら、きかないよ、絶対に一緒に行くもの」

「いけませんよ、そんな我が儘は」

「紫狼、三吉も心配なのでしょう。仕方ないです、連れて参りましょう」

「本当!?わぁーい!おいら大人しくしているよ」

「父様先生は三吉に甘いのですから。ふふ、わかりました」

茂吉達は雲階段に乗り、急ぎ戸の宿へと向かう。戸の宿では狸の殿次が茂吉達の来訪にひっくり返って驚き、この宿では最高級の部屋に通される。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
tonojyuku.jpg


嬉しそうにお茶を出す殿次は、まるで狸が変わったよう だ。来訪の意図を知るとクルミの事について詳しく話す。クルミをクルミ姫と呼び、荒くれ達も今は教えてもらったオオバコ汁を売る事に精を出し、まともになっていると感謝をしていた。

茂吉から【恵み子】であると聞かされ二度驚く殿次は、すまなさそうにテレとトチが蓮台を作り、クルミを乗せ猫宿に向かったと云った。

「なぜ、猫宿なのですか?」

「へい、何でもクルミ姫の姉様がいらしゃると云う話しでしたが、其れ以外はとんと...」

「ねえ、クルミが言ってたけど、姉ちゃんが郭ってとこに売られたって」

三吉が口を挟む。

「なるほど。クルミの姉は猫宿のどこかの郭に売られたのかもしれませんね、、、だとしたら紫狼、あの子を連れて来た時にキナと云う河童から何か聞いていませんでしたか?」

「迂闊(うかつ)でした。何も聞いてはいません、ただ、売られたとしか・・・あっ!キナは今、猫宿におります。狸宿ではうまく商売がいかないので、猫宿に店を出したとこの前手紙が届きました。父様先生、さっそく猫宿に参りましょう!」

普段の茂吉なら、町の者が驚くので雲階段は成る可く目立たないようにするが、今回は気が急くので町の中心に雲階段を着けた。下りて行くと既に町の者達は平伏して控えている。

大相撲大会の時に茂吉に怒られていたので、茂吉の姿を見ると急いで平伏(ひれふ)した。知らせを受けた町の顔役も急いで現れる。

「も、茂吉様ッ!いかがされたのでしょうかッ!?」

顔役の点吉は大相撲大会の時の騒動を、いとも簡単に治めてしまった茂吉に敬服しきっている。

「ああ点吉、すまないね、気が急くものだから、こんな町中に下りてしまって」

「とんでもございませんいついかなる時も茂吉様のご来駕(らいが)を喜ばぬ猫宿の者はおりません!」

「ふふ、皆に畏(かしこ)まれていると話しも出来ませんよ、さっお立ちなさい」

「とんでもねえ」

点吉のそばにいる者が言う。

「あれから町中の掃除は町内ごとに当番制にしやした」

「ふふ、其れは素晴らしいですね」

「父様先生、ご用件を」

「ああ、そうでした。点吉、こちらにキナと云う河童が店を出していると思うのですが、どちらです?」

「はて?お前達知ってるか?」

「ああ、それならつい最近できたおかまバーですよ」

「どちらです?」

「へい、ご案内いたしやす」

茂吉達一行は、ぞろぞろキナの店である《バー黒河童》の前に着く。




つづく


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