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お種愛し 1 イライラ



この話は菰傘村の騒動がある前のこと、お種の小さな物語。


はじまり、はじまり


お種は近頃、面白くない。
三吉が旅立って(本編、第九章)すぐに【よ吉】が産まれ、世の吉一家はそれなりに忙しかった。

よ吉が産まれたのは嬉しい。嬉しいけど何か面白くない...可愛い弟が出来たのだから、しっかりしないといけない。

太吉達にも負けるわけもいかない。小さいなりに頑張ってきた...でも、布団に入ると以前なら隣に寝ていた三吉が居ないことが堪らなくなる。

世の吉夫婦はよ吉と寝ている。お種は『お姉ちゃんなんだから』と言われ違う部屋で寝ているのもつまらないし、寂しい...でも、それは何とか我慢出来た。

我慢がならないのが【よ吉】のことしか言わない両親だ。三吉のさの字も言わない。『どうしているのだろぅ?』とか話したくても「さ」と言っただけでお陽は『忙しい!』と言い、世の吉はプイと出かけてしまう。

取り尽くしまがない。
藤平に勇気を出して訊きに行くと『【恵み子】というとんでもなく偉い御役人様になった』とか『【魂納めの宮】でしか会えない』とか、色々と話してくれた。

何となくわかる気もするが、それでも両親の態度が冷たいと感じていた。その日は朝から快晴だった。

お陽はすっかり姉らしくなったお種に当然のようにお守りを頼む。

「よ吉を頼んだよ、今日は朝から予約で一杯なんだからねー」

「うん、あたいに任せて」

「ふふ、どうして大したものだねぇ~ありがとう。頼むよ」

よ吉はおっぱいも飲んで機嫌よう寝ている。お種は直ぐにおぶることもなく、顔を眺めた。
毛の色も何もかも兄にそっくりだ、じっと見ていると涙が出てくる。

「兄ぃちゃん..........」

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります

nichan2.jpg


それは突然だった!お種は慌てて家を飛び出す。三吉に呼ばれているように感じた。
とにかく行くのだ!走った、走った。

どこまで走っても道は続いている。見知っている顔に声をかけられても、構わずに走った。
だが、その足取りが段々とおかしくなる。

お種は走り通しなのだ。フラフラしだして、とうとう道の真ん中で倒れてしまった。
驚いたのが行き交う旅人達だ。

幼子が突然倒れたのだから、周りを囲んで大騒ぎになる。そこを通りかかった者が居た。

「どうすたんだ?」

「ああ、木平さんじゃないの」

「何でも、水も飲まないで走り通しだったんだと」

「あんれまぁ!そっだら無茶なごとを」

お種は旅人から水をもらい、何とか話せるようになった。

「無茶だよぉー、こんなおチビがさー」

「おばちゃん、ありがとう。もう大丈夫」

「大丈夫って?親御さんはどこなの?」

「ん、、、あたい、あたい行かなくちゃ!」

無理やり立とうとしてもフラフラしている。

「いげねえッ、いげねぇよー」

木平が倒れそうなお種を支える。

「このわらす(童子)は何処から来たんだべか?」

「どうも菰傘村みたいだよ。見たことがあると思っ、、、あ!こりゃ髭結床のお種ちゃんじゃないか!?」

「ああ、お陽さんとこの?」

お種は黙っている。

「へば、この童子が・・・三吉様の御妹様?」

お種は三吉という名に瞬時に反応した。

おじちゃん!兄ちゃんのことを知っているの?」

「すってるも何も三吉様からお手紙を預かって来たんだすよ」

えっ!?あたい、兄ちゃんに会いに行こうと思って・・・」

「あんれまあ!んだら、ここで会えたのも縁だすなぁ~」




つづく
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お種愛し 2 大切な妹

前回

兄恋しさでお種は走りだす。最初は良かったが途中で倒れてしまう、周りにいた旅人の中に木平がいた。


はじまり、はじまり


木平は卍宿に寄った。
茂吉と逢うことは自分が正しく生きている証のような気がして『気にしなくていい』と言われても止めることが出来ない(本編、第八章)

その日も楽しくお茶をごちそうになっていた。

「そうそう、新入りがいるので紹介をしましょう」

紫郎に連れて来られた三吉は、挨拶も堂に入っている。

「恵み子の道を歩み始めたばかりの三吉です。宜しくお願いします」

「おんやまぁ!たまげだぁ~、挨拶も並の童子どは違うっすなぁーわすはすがない薬売りの木平だす。こちらこそ恵み子様に挨拶してもらうなんて畏(おそ)れ多いいだす」

「へへ」

「三吉や、木平は薬をできるだけ安く売り困った者には身銭を切り助ける、と云う素晴らしい篤志(とくし)の狸ですよ」

「そっだらごど言われだら、わす・・・恥ずかしいだす」

三吉はこの狸良さそうな木平に好感を持つ。世界中を旅している木平の話は多岐に富んでいて面白く、滞在中にとても仲良くなった。

「あのぅ、、、木平おじさん、頼みがあるんだけど」

「なんだすか?三吉様の頼みなら何でもきくだすよ」

「やだなぁ~三吉様なんて言わないでよ、三吉でいいよー」

「じゃあ、三吉坊でいいだすか?」

「へへ」

「何だす?」

「手紙をね、菰傘村のお種に届けて貰いたいんだ」

「お妹様だすか?」

「うん。ここに来るのにあいつにはよく説明もしなかったし、よ吉も産まれたって聞いたから、お種の我慢もそろそろ限界かな?って、、、」

「お安いご用だあ、任せて下さい」

こうして木平は菰傘村へ手紙を届けにいく途中だった。木平から差し出された手紙【お種へ】見覚えのある字に涙が出てくる。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります

aninokimochi.jpg


元気か、お種
おいらはとても元気に暮らしている。
友達もいるんだよ【くるみ】って言う生意気だけどとても頭のいい子狐なんだ。
おいらもタジタジになるほどさ。
ここにいると教えてもらうことばかりで、知ることがとても楽しいんだ。
村に居た時はお種や皆の世話でそんな暇もなかった。
責任があったからなんだ。
勝手かもしれないがおいらの責任をお種に引き継いで貰いたいんだ。
お種は妹だから甘えん坊だし、泣き虫だけど今はよ吉がいるから姉ちゃんだ。
お加奈にとっても姉ちゃんだ。
お前に頼めるかな?
おいらはお種なら出来るって信じているんだ。
おいらも頑張るからお種も皆の姉ちゃんとして頑張ってくれ

三吉


お種は黙ったままだ。

「大丈夫だすか?」

「兄ちゃんにお友達がいるの?」

「くるみ様だすなぁ~三吉様と難しい字を教え合ったり、いつも楽しそうにすてますなあ」

「あたい、兄ちゃんはおじちゃん達に囲まれて一人ぼっちかと心配していたんだ」

「そうだったんだすか?」

「兄ちゃんはあたいだけでなく皆の兄ちゃんだったから・・・考えたら兄ちゃんに友達っていなかった、、、あたい達の世話ばかり焼いていた。

「・・・・」

お種はじっと考えた...そして突然、立ち上がる。

「あたい、、、あたい頑張る!兄ちゃんに任されたんだもの、メソメソしていたらガッカリするもの」

「その意気だすよ!」

あっ!よ吉をそのままにしていた、いっけなーい!おじちゃん、又ね!兄ちゃんに『あたい頑張る!』って言っといて!よそのおじちゃん、おばちゃん達ありがとぉ~」

お種は手紙を急いでポケットにしまうと一目散に走り出して行く。

木平は呆気にとられたが、元気よく走っていくお種の後ろ姿を見て安心した。三吉は手紙を見せながら木平に言っていた。

「会いたいだろうとか、寂しいだろうとかそんな事を書いたらダメなんだ。あいつは一層悲しくなる。それよりも、よ吉達の姉ちゃんとしての責任を持たせることが大事なんだ」

「凄いことを言うだすなぁ」

「だっておいらの大切な妹なんだよ、立派になってほしいじゃないか」

木平はキッパリと前を向いて言う三吉を思い出す。

お種はもう三吉に会いに行こうとはしないだろう。それよりも託された責任を全うしようと努力するに違いない。


追記

お種はその夜、疲れすぎた所為なのか目が覚めてしまった。襖越しに両親の声が聞こえる。

「三吉はどうしているのかねぇ」

「頑張ってるに違いないだろうが」

「わかっているよ、でもさぁ.....」

「お種に聞こえたらどうすんだよッ、あいつだって猫一倍どころか何十倍も我慢しているんだぞ、俺達が三吉のことを話したら切なくなって会いに行くかもしんねえだろ」

「やだよ、そんな事になったらどうすりゃいいんだよー、お種まで手放すなんてあたいは死んでも嫌だよー!」

「縁起でもねえこと言うな、もう寝ろよ」

「うん、そうするよ」

お種は冷たい訳じゃなかった両親に安堵した。寧ろ自分に気を遣っていた事を知ると心の底から嬉しかった。

「兄ちゃん・・・あたい頑張るねッ」





おわり




これにて中短編の段は一応の区切りと致します。
一週、お休みを頂いて7月3日から長編の【くるみ】をスタートさせたいと思っています。
この物語は本編、第九章で卍宿に旅立った三吉の其の後から始まります。
猫国はマダマダ続きます、どうぞ末永くご贔屓下されますようお願い申し上げます。

ぴゆう

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Author: のくにぴゆう
猫国の住民達の物語を書いています。
作者はコメを食べて生きてます。
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