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第十章 開道 三人旅1

前回

ノン吉達は桃吉の行方を知り、喜び勇んで迎えに行こうとした。だが、茂吉に押しとどめられる。確かに言われることは頷(うなづ)けない訳ではなかった。断腸の思いで二人は猫宿で待つことにした。

話は少し前に戻る。

記憶をなくしている桃吉は自分を探している者がいることすら知らない。オロときゅー助との暮らしに満足をしていた。そんなある日。


はじまり、はじまり


tabinokitukake.jpg

挿絵参照↑↑↑  絵をクリックすると大きくなります

「ねえねぇ、きゅー助って魚を捌(さば)くの本当に上手いね!」

きゅー助は爪を上手に使って、魚を次から次へ捌いていく。

「だってきゅー助、小さい時からのお仕事だもの。上手にもなるょ~」

「小さい時からやってるの?」

「うん。母ちゃんのお手伝いしてたもの」

「ふぅーん、偉いね~え」

「桃吉は?」

「なぁーんもしてないなぁ」

「そうなの?オロは蜆(しじみ)採りをしてたょ」

「そうだよなぁ、オロだって魚獲るの上手だし」

「どうしたの?桃吉」

「俺さぁ、、、なんか二人のお荷物みたいで肩身が狭いよ」

「なんでそんなこと言うのよ~ぉ、きゅー助悲しいよ~ぉ」

「あッ、ごめん!そうじゃなくて・・・このまま、二人に迷惑掛けてるのはいけない気がして、、、」

「きゅー助もオロも迷惑なんて思ってないぃぃ・・・
うッ、うわぁぁーーーん(泣)」

「(ニ"ャ!?)おッ、おいってばッ!

きゅー助は何を勘違いしたのか、オロの側に泣きながら行ってしまう。桃吉は困ってしまった。するとオロがプンプンして怒りながら来る。

桃吉!どうしてきゅー助を泣かせんのぉッ!」

「困ったなぁ、、、きゅー助勘違いしてるよ」

「桃吉どっか行こうとしてるぅ~、(ひぃっく、ひぃっく)」

「違うよッ。俺はさ、二人の役に立ちたいのよ」

「そうなの?(ひぃっく)」

「どういうことなの??」

「あのね、二人はいつも忙しく働いてるでしょう。俺も手伝いたいけど、二人がしてる事は俺には出来そうにないのよ」

「そうかな~?」

「少しは出来るようになるかも知れないけど、多分二人みたいに上手にはなれないよ。それで俺なりに考えたのよ」

「何を?」

「うん、俺は少しは手先が器用なのよ。プラモ作りだけは自信があったもの」

「何よ、それ?」

「うぅーん、、、表現しようがないなぁ、、、まっ、それは置いといて。でね、笊(ざる)とか篭(かご)を作ってみようなんて思ってるわけよ」

「ふんふん」

「それなら出来そうな気がするのよ。篭も笊も売れるし、工夫した篭を作れば、もっと楽に魚も沢山獲れると思うんだ!だけど残念な事に作り方がわからないんだわ・・・」

「なるほどね。ほら、きゅー助!桃吉はどこかに行ちゃう訳じゃないよ」

「そうなの?(ひぃっく)」

「そうだよ、きゅー助の早とちりだよ。俺は笊作りを教えてもらいたいんだ!」

「んーんッ、俺もきゅー助も出来ないなぁ」

「そうなの?あの笊はオロが作ったんじゃないの?」

「あれは俺が【狸国】に居た時に魚と交換してもらったんだよ」

「そうなの?とても良い笊だね!」

「そうだろ~、あれは笊作りの名狸がこさえたものさ!」

「俺、その狸に習いたいなぁ~。どうせなら一流処にさッ!」

「頼んでみるか?」

「えっ、本当に?」

「どこに行くのぉ?」

「【狸国】にはきゅー助も行った事ないからいいかもよ~」

えぇーッ!【猫宿】はどうすんの?」

「その後でもいいじゃん!団栗餞(どんぐりせん)は沢山あるから、当分はおまんまの心配はないし、いざとなれば川で魚を獲れば良いしさ!」

「嬉しいなぁぁ」

「そしたら今から行こうぜッ!」

「だってお魚はどうするのぉ?」

「途中のどこかの村で売れば良いよ!」

「そっか、そうだね!」

「俺、荷物を運ぶよ」

「猫宿用の旅支度してたから楽だぜ!」

「きゅー助、わくわくするよ~ぉ♪」

こうして三人の旅は桃吉のひと言から始まった。






到頭、十章になりました。
去年、初めた頃、続くのかしらと自身でも半信半疑でした、それが1年以上になります。

どうして続けられたか。

それははっきりしています。皆様との交流があったればこそと胸を張って答えられる。具合が悪くなれば心配して下さる、拍手をこんなに戴きましたと報告をすれば、おめでとうと逆に祝福して下さる。わたしは本当に幸せ者です。

コメントでおはよう、こんにちは、こんばんはと皆様に挨拶をする。会ってはいなくても昔からの知り合いのように交流をして戴いている。
皆様のお陰で十章まで来ました。

猫国はとても長いです、まだまだ本編。控えがゾロッと待っています。
どーーーか末永くよろしくお願いします。



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第十章 開道 三人旅2

前回

桃吉の一言がきっかけとなり三人の旅は始まった。


はじまり、はじまり


sannintabi.jpg


挿絵参照↑↑↑ 絵をクリックすると大きくなります

オロは道を良く覚えていたから二人は安心して付いて行く、一行はひたすら北に向かって歩いた歩いた。【猫国】はとても村落が多く商売が盛んである。

西街道沿いには、【笹傘(ささがさ)村】まで何里と云う案内があれば、【《元祖笹酒》の笹傘村】と宣伝する立て看板も多い。新しいのから古いのまでやたらにある。

桃吉やきゅー助は見てるだけでも楽しいらしい。看板の数を数えたり賑やかこの上ない。オロはこの道を惨(みじ)めな気持ちで歩いた時を思い出し、独り感慨深くなっていた。

(きゅー助と出会えて良かった。桃吉とも友達になれた。それに桃吉は俺と同じ元人間だもの・・・)

「ねぇオロ~、オロってばぁ~ッ

オロはきゅー助に何度も呼ばれて気が付く。

「へっ、何よ?どした!?」

「だって、さっきから呼んでんのに知らんぷりしてるんだものぉ」

「オロだって考え事くらいするよね?」桃吉がニヤニヤしてる。

「何だよぉー、考え事しちゃい・け・ま・せ・ん・か・よッ!」

わーーぁ!オロが怒ってるよぉ」

「きゅー助、怖いよぉーぉ」

二人がばたばた駆け出す。

「意味わかんなーい!全くもう、、、」

そう言いながらオロも二人を追いかけて行く。オロは走るのが大の苦手である。

「きゅー助ってけっこう足が速いね」

「桃吉もけっこう速いょ。こんなに広い道で駈けっこしたの初めてだょ~。でもきゅー助は、くねくね道の方が好き!真っ直ぐに走るのは好きくない」

「はあッ、はあッ、やっと追いついたよぉぉーッ」

「オロは鈍足(どんそく)だね」

「どうせ鈍足ですよ!」

「きゅー助、桃吉より速かったょ~」

「あっ、嘘ついてる!俺と同じくらいでしたー!」

「違うょ~、きゅー助の方が速かったぁ~」

「どっちでもいいよ。二人共、俺よりは速いんだから、いいでしょうよ」

「へへ」

二人は否定しない。
団栗餞(どんぐりせん)が潤沢(じゅんたく)にあるので、お腹が空くと街道沿いにある茶屋で団子を買ったり、眠くなれば柔らかそうな草の上で三人は寄り添って寝る。

雨が降れば大きな蕗の葉が傘代わり。オロだけは喜んで雨に濡れ、頭の皿に水を貯める。三人は暢気(のんき)に旅を続けていた。旅を初めて一週間程過ぎた頃。

「もう少し行くと【番傘村】だよ」

「オロって良く知ってるね!」

「きゅー助、この辺を小さい時に通った気がするの、、、うぅーんと小さい時に、、、」

「えっ!本当に?」

「うん。母ちゃんと一緒に・・・」

「でもきゅー助、赤ちゃんだったんだろ?」

「うん、だけどそんな気がするの。この傘の形の看板を前に見たように思うの、、、」

大きな傘形の看板に、太い文字で《【番傘村】まで二里》と書いてある。

「なんか俺そういうの聞いた事あるなあ、、、『デジャブー』とか言ってたような、、、」

「何それ?」

「良くはわからないけど、俺が人間の時にそういうのを『デジャブー』って、、、」

「そういうのってって?」

「んとね、、、ここに来るのは初めてじゃないと、きゅー助は感じたんでしょ?」

「そうだょ」

「本当は昔にこの道を通っていたんだけど、今まで忘れていたんだよ。だけどその看板を見て突然通った事を思い出したっていうのかな、、、」

「だけど、きゅー助は赤ちゃんだった筈だよ」

「うぅーん。そこが不思議だよなあ、、、赤ちゃんも記憶してんのかな?」

「何でも良いょ。きゅー助、看板だけは覚えてるけど後はわかんないもの」

「ニャルほどね。まっ、いいっか?」

「いいよ、いいよ。それよか腹減ったよ~」

「干し芋がまだあるよ!それ食べようよ!」

「そうしよ」

「きゅー助、それ好きくないょ」

「文句は言わないの」

「だって喉がガサガサするんだものぉ」

「水を飲めば大丈夫だよ!」

三人は道沿いの草に座ると桃吉が背負ってる篭から、寅笹に包まれた干し芋を出す。もそもそ噛んでいると甘くて美味しい!きゅー助だけは不味そうに食べている。

「甘くて美味しいーッ!」

「俺、人間の時も食べてたよ」

「そうなの?」

「うん。干し柿と干し芋くらいがおやつだったよ」

「ふーん。チョコレートなんてないものね」

「何よそれ?」

「黒くて甘いお菓子だよ」

「桃吉の居たとこって色んなのがあったんだね」

「ねぇ、お水ちょうだーい!お水ぅーお水ぅー。」

「五月蝿いねえ、きゅー助は(笑)」

「だって、喉がガサガサしてるの」

「あはは、ほら飲みなよ」

桃吉はきゅー助に竹の水筒を渡す。二人は、我が儘(わがまま)なきゅー助に怒る事もあるがたいがい笑ってしまう。きゅー助は少しも大人にならない。

体は二人と変わらないくらいに大きくても、いつまでも甘えてる。オロは桃吉が一緒に住むようになったので、少しは大人になるかと考えたが、きゅー助にとっては甘える対象が増えたようなものである。

二人だけで話し出すときゅー助はいつも邪魔をする。今も自分の腰に水筒をぶら下げているのに、桃吉に甘えている。

きゅー助を怒っても、泣いたり拗(す)ねたりして後が面倒なので何も言わない。三人は簡単な食事を終えると歩き出す。





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第十章 開道 三人旅3


前回


三人は賑やかな旅を続けていた。決めているのは目的地だけ、あっちに寄り道、こっちにとノンビリしたもの。


はじまり、はじまり


西街道は様々な種族が歩いていて実に賑やかである。この国には《本街道》と云う大きな街道があり【猫国】の南北を縦断している。

そして東西の街道が沿うようにあり、三本の道が猫国の主要道路になっている。《本街道》は、とても道幅が広く大きな鹿車がたくさん行き交う賑やかな道。

『茂吉』や『三吉』が居る【卍宿(まんじじゅく)】は《本街道》の終点の[極楽山脈]の麓近くにある。又、【猫宿】は本街道にあり東西の街道に出るにも便利だ。だがここからは遠い。

今、三人が歩いている西街道は【狸国(たぬきこく)】にも続いているので、狸の姿を多く見かけるようになっていた。

tamukikaidou.jpg

挿絵参照↑↑↑  絵をクリックすると大きくなります

「狸が増えたね」

「だって【狸国】が近いもの」

「ふぅーん。笊作りの名狸って何て言う名前なの?」

「確か『お徳』って名前だったよ」

「で、どんな狸だった?」

「うーん、気難しかったようだなあ、、、」

えぇー!教えてくれるかな、、、」

「どしたの?きゅー助にも教えてー。」

「俺がこれから習おうと思ってる笊の名狸が気難しいんだって。どうしよう、、、」

「大丈夫だょ!きゅー助が保証するょッ」

「どうしてよ?」

「きっと優しい狸だょ~」

「そうかな、、、」

「そうだょ、間違いないょ~。」

「不思議な奴だなあ、、、きゅー助は一度も会ってもいないのに、どうしてそう思うのよ?」

「きゅー助、そのおばさん、知ってる気がするの」


え"ーーーッ!?


「まっ、いいよ。きゅー助も桃吉も行けばわかるよ」

オロはそう言うと二人を置いてさっさと歩き出す。きゅー助は急いでそばにくっついて機嫌を取ろうとする。

「ねぇ、きゅー助の事を怒ってるでしょ?」

「なんでよ?怒ってないよ」

「怒ってるょ。きゅー助はオロが怒ると直ぐにわかるょ。」

「じゃ、きゅー助はどうして俺に怒られてんの?」

「きゅー助、わかるもの。きゅー助がね、桃吉に嘘を付いてると思ってるんでしょ?」

「いいかい?きゅー助。少しは大人にならないといけないよ。桃吉は不安なの。初めて会う狸に『笊の作り方を教えて下さい』って頼みに行くんだからね。

きゅー助が言った事を信じて、いざ会ったらとんでもなく怖いおばさんならどうすんの?」

「だけど、きゅー助嘘ついてないもの。きゅー助嘘ついてないものぉ~。本当なの、本当に知ってる気がするのぉ」

「まだそんな事言ってる。俺、本当に怒るよ!」

「嘘ついてないもの」

「まあ~まあ~、どっちでも良いから。どんなおばはんでも俺は構わないんだから、そんなに喧嘩しないでよー。仲良くね、仲良く行こうよ!」

桃吉が仲間に加わるようになってから、オロときゅー助の二人の関係に微妙な風が吹いてきている。気が付けば、余り大喧嘩もしなくなった、、、いや、出来なくなったというのが正解だろう。

桃吉にしてみれば二人が喧嘩をすると居ずらい。何よりも大好きな二人に喧嘩されるのが嫌だったから、必ず仲を取りもつようにしていた。

二人だけで居た頃は三日も口を利かないような喧嘩もしていた。そんな喧嘩も今はない。それが良い事なのか悪い事なのかは今はわからない。

二人だけで助け合って暮らしてきた頃の密接な関係に少しづつ気が付かない程のヒビが入ってきてしまっている。オロと桃吉、元人間同士が持つ微妙な気持ちをきゅー助には理解が出来ない。

きゅー助は、はっきりとはわからないのにオロの感情の揺れを感じるようで、オロと桃吉の間に割って入っては我が儘と捉(とら)えられ怒られてばかりいる。

そんな三人は小さな口喧嘩をするくらいで、取りあえずは平穏に旅を続けていた。




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第十章 開道 三人旅4

前回


多少の口喧嘩はあっても三人は平穏な旅を続けていた。狸国が近づいたのか。狸の姿が増えてくる。


はじまり、はじまり


【番傘村】を過ぎると、いよいよ《西街道》から【狸国】に入る《狸街道》を行く。【猫国】と【狸国】の間には大河である【まま子川】が悠然と流れている。川幅が一キロ近くある。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
mamakobigriver.jpg



この川は【河童国】と【狸国】の協定で日に一度だけ濡れずに渡れる。正午に川の水が轟音(ごうおん)と共に左右に分かれ、巨大な水の壁を造る。

すると赤茶けた一本道が現れる。【開道かいどう】と呼ばれている。皆その【開道】が現れる時刻を待って川を渡る。

川を望む崖には直径二メートルもある大きな銅鑼(どら)があり、その銅鑼を二十回だけ叩いている短い間しか【開道】はない。

渡り切る自信がある者は問題ないが、そうではない者達は狸人足に銭を払い、蓮台(れんだい)に乗ったり、 肩車をしてもらい大急ぎて川を渡る。向こう岸には獺(かわうそ)人足達がやはり同じような仕事をしている。

毎日、大きな銅鑼の『どゎあーーん・どゎあーーん』という腹に響くような音を合図に、狸人足達と獺人足達が大きな掛け声を掛け合い、ここを先途(せんど)と走り出す。

途中で行き交う姿は見物である。とにかく急がないとアっ!という間に元の川に戻ってしまうので、日々命掛けの人足達の気は荒く、渡り賃の値段も言い値である。

お陰で客と揉め事が絶えない。団栗餞(どんぐりせん)がない者達は仕方なく走って渡る。しかし歩きやすい真ん中の道は人足達が独占しているので、どうしても端を通るようになる。

水の壁が壊れ始めるのも両端からなので、愚図愚図していれば巻き込まれ流されてしまう。だが年に一回、大晦日の一日だけは特別である。

【狸国】から翌年に向けて放出される《団栗餞》と《木の皮銭》が鹿車に積まれて川を渡る。その日は丸一日、タダで往来が出来る。

ほとんどの物資はその日に【狸国】に輸入されることになっているので、行き交う鹿車の数だけでも相当の数である。その日まで待てる者はいいが、大概の者はそんなことは出来ない。

仕方なく人足達に言い値を払って川を渡る。三人も正午に間に合うよう川岸に着いた。

「ほら見てご覧んよー、凄い大きな川だろう?」


ひゃーッ、凄いねーッ!」


見た事ないね~ッ


「ここを死にものぐるいで急いで渡るんだ!」

「そうなの!?」

「銅鑼が鳴っている間なんて短いから、遮二無二走るんだ!」

「きゅー助、オロの方が心配だよね」

「鈍足だものね」

「大きなお世話です。俺だってやる時はやるよー!」

三人がそんな会話をしているすぐ横に幼子(おさなご)連れの狸が居た。赤褌(あかふんどし)をした屈強そうな狸人足と話している。

「そんなに払えません、、、」

「そしたら諦めな!」

狸人足は素っ気ない一言を残し行ってしまう。狸の母親は途方に暮れている。二人の可愛らしい狸がそばで心配そうに見ている。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
mimikofamily.jpg


「お母ちゃん、、、大丈夫なの?」

「ちゃあちゃん、、、」

「大丈夫よ。母ちゃんこうなったら、お駒をおんぶしてお花は抱っこして行くよ!」

そんなことは当然無理な話である。足下も見えないで走りきれる程甘くはない。強い決意の言葉とは違って、幼い子供達を抱きしめ、がっくり項垂(うなだ)れている。

そんな家族を見ていたオロときゅー助、お互いの顔を見て頷くと親子の元に行く。桃吉も慌てて二人に続く。

「あの~、どうしたのですか?」

オロが訊ねると母親は項垂れていた顔を上げる。

「なんでしょう、、、」

「何か困っているんじゃないですか?」

「はい。渡し賃が前より高過ぎて、、、帰りの分を考えるとそんなに出せないんです、、、」

「俺達が銭を出してあげるから、ちょっと待ってて!」

「えっ!?あッ、あのぉ、、、」

母親があっけに取られていると、三人は人足達の元へ。

「客は決まっちまったよ」

「俺も」

「あっちに行きなよ」

手分けして人足達に声を掛けるが今日は客の人数が多かったらしく、溢(あふ)れている人足は既に一人も居なかった。

「どうするよ?」

「俺達で子供をおぶってあげようよ」

「桃吉ときゅー助に子供をおぶってもらうしかねえなー」

「うん、オロは鈍足だから止めた方が良いものね」

「ふんだ。そしたら俺はあの母親の手を引っ張って走るよ」

「それがいいよ!」

三人は話がつくと親子の元へ行く。



今回はニャンと二枚の挿絵でござる、はい、勘違いして描きました。ボツにするのも忍びなく・・・
まま子川の大きさを知って戴くのもいいかなと。


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第十章 開道 知らぬきゅー助1

前回


困っている母娘を見て、黙ってはいられないオロときゅー助。慌ててついていく桃吉。
三人は足手まといになるのがわかりきっている母娘と開道に挑もうとする。


はじまり、はじまり



泣いて感謝する母親を宥(なだ)め、オロが気にするな!と威勢良く答える。
母親の名前は『耳子みみこ』、旅が出来るようになった二人の幼子を連れての里帰り、独り故郷に居る父親に見せたいそうだ。

話をしている間に、いよいよ【開道】の時刻が迫って来る。銅鑼(どら)を叩きに赤褌(ふんどし)に赤い法被(はっぴ)姿の狸が梯子(はしご)をのぼりだす。

桃吉は姉のお花、きゅー助は妹のお駒を背負ってスタンバっている。オロは桃吉が背負っていた篭(かご)の中に耳子の荷を入れ、ぐんと重くなった篭を背負う。

周りを見渡すと、客の乗った蓮台(れんだい)を肩に乗せてる人足達、客を肩車してる人足達が鼻息荒く真ん中を占めている。そんな人足達に邪魔をされながらもその周りには、足に自信がある旅人、鹿に騎乗している者など、其れぞれが一種異様な興奮をして【開道】を待っている。

「いいか!俺達は端っこしか走れないから、狸人足達に弾き飛ばされないように一列になって思いっ切り走り抜けるんだ!最初はきゅー助、次は桃吉、最後に俺と耳子さんだ!いいなッ!

桃吉もきゅー助も一心に正面を向いている、真剣そのものである。うっすら見える向こう岸に獺(かわうそ)人足達の黒い陰が蠢(うご)めいている。

間もなく、川の真ん中から凄まじい量の水が咆哮(ほうこう)を上げながら一気に噴出する。


ずどっどっドッドドーーーーン!!!


巨大な噴水のように盛り上がると今度は大量の水飛沫(しぶき)をあげながら左右に分かれていく、そして高さ二十メートル程の水の壁が轟(ごう)音と共に完成する。

そして一本道が現れた。


どゎあーーーーん


腹に響くような銅鑼の音が聞こえた。


「わあッーーー!」


「行くぞーーッ!!」



挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
kaidou.jpg



きゅー助を筆頭にもの凄い速度で走り出す。桃吉も勢いよく駆け出す。足下はべちゃべちゃして濡れているので滑りやすく、爪にぐっと力を入れないと転んでしまいそうになる。

背中のお花はものも言わずに必死になってしがみ付いている。伸びやかに肢体をのばし目の前を走るきゅー助。きゅー助の黒い毛は陽に照り映え美しく光っている。お駒はそのきゅー助の背にぴたりと吸い付いたように姿勢を低くして、しがみ付いている。

顔に泥が跳ねて最初は気になったが、その内、気にもしなくなった。段々と川の真ん中が近づくと向こう岸から、土煙と共に『ワぁぁーーーッ!!』と言うもの凄い怒声と共に獺人足達がやってくる。

ぶつかり合う寸前まで、お互いが勢いよく近づいて間一髪で擦(す)れ違う。わざとしているとしか思えない。お互い気が強い人足同士なので、ぎりぎりまで道を譲りたくないのだろうが、迷惑この上ないのは客である。

落とされそうになるので必死にしがみ付いている。桃吉が何度も目を瞑(つむ)るようなヒヤっとした場面もあったが、人足達は慣れたもので『ひょいひょい』と息を合わせて擦り抜けて行く。

ようやく【狸国】の川岸が見えだすと疲れが出て来た。先を行くきゅー助に追い付くように、『もう一踏ん張り!』と桃吉は最後の力を振り絞る。

やっと川岸に着いた頃にはヘトヘトになっていた。きゅー助はお駒を降ろし仰向けになって肩で息をしている。

「はぁはぁ・・・」

桃吉もヨレヨレしながらお花を降ろす。『ホっ』としたのも束の間、オロと耳子の姿がないのに気付いて川を見ると二人はまだ走ってる。

速く走ってーッ、速くーーッ!!」桃吉は二人に声を掛ける。


どゎあーーーん


あと三回で壁が崩れるぞーー!」誰かが叫んでる。


その声を聞いて桃吉は堪らなくなり、川に取って返すと二人のそばに駆け寄る。


どゎあーーーん


いつの間にかきゅー助も続いてオロの手を握る!桃吉は耳子の手を掴むと急いで岸に走る!


どゎあーーーん


水の壁はあっという間もなく崩れだす。左右の壁が一気に崩れると凄まじい勢いで大量の水がぶつかり合う。
全てをかき消すような波飛沫と轟音しか聞こえない。

ドドドーッ、グワゎッ、


ザッバパァァ~~~~ン!!!







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第十章 開道 知らぬきゅー助2

前回


ようやく渡りきった桃吉が振り向くとオロと耳子がまだ走っている。考えるまでもなく体が勝手に動き救出に向かう。いつのまにか隣にはきゅー助もいる。二人はオロと耳子の手を掴むと一目散に走り出す。



はじまり、はじまり



皆が死にもの狂いで岸に着き、身を投げ出すと同時だった!轟(ごう)音に驚き振り向くと川は大きな渦を作りながら、元の姿に戻っていく。


ぐぅぉおおおゎっーーーッ!!


心配して成り行きを見ていた子狸達が駆け寄り、泣いてすがりついてくる。四人はホッとすると、跳(は)ねた泥でグチャグチャになったお互いの顔を見て笑い出す。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
dorodarake.jpg

「ひでえ顔だよー!」

「きゅー助、区別がつかないょぉ~」

「お前だって、ひどいよ~」

「本当に。こんなになってまで、、、お礼の言葉もありません、、、」

耳子は泣いてる子供達をあやしながら、三人に深くお辞儀をして礼を言う。

「よ!お前達、大したもんだなー!」

「えっ?」

「おら驚いたぜー、普通は出来ねえよー!」

「本当だぜ、最後の銅鑼(どら)三つで川に入って助けるなんてよ!」

「いやー、感心したよ!」

「すげえよなあぁ!」

狸人足達が、いつの間にか桃吉達の周りを取り囲んでいた。人足達は気は荒いが至って気は良いらしい。ヘトヘトの四人に手を貸し立たせてくれた。桃吉達は礼を言い、疲れた足を重そうにして歩き出す。

「疲れたねぇ」

「ああ、、、」

「もう、きゅー助よろよろだょぉ」

「あのぅ~、宜しければあたしの家においで下さい」

「でも、、、ご迷惑じゃ」オロは泥まみれの自分達に遠慮して言う。

「とんでもない!あたしも泥だらけですよ」

「母ちゃん!兄ちゃん達も一緒にお家に連れていこうよー。」

「ちゃあちゃん、そうしてょ~」

母子に懇願され、オロも強く断る事も出来ずにモジモジしていた。

「兄ちゃん!」

可愛い姉妹は桃吉やきゅー助の顔を見る。(ニコッ)二人はにこりと微笑み返す。すると姉妹は当たり前の様に『すーっ』と二人の手を引っ張って歩き出す。(かわいいのである)

「ほら!あの子達も同じですよ。さ、遠慮なさらずにどうぞどうぞ」

「そうですか?それじゃ」

「あたしの家はすぐそこの【刺抜き村(とげぬきむら)】です。一里もありませんから」

「えッ?俺達もその村に用があるんです!」

「そうなんですか?でも、刺抜き村は笊(ざる)くらいしか自慢出来る物ない村ですよ」

「へへ。俺達は【笊名狸のお徳さん】に会いに来たんだよ」

「そうなんですか?笊作りは村の女達の家業なんです。中でもお徳おばさんは有名でしたよ」

「耳子さん知り合いなの?」

「ええ、あたしも仕込まれました。とても厳しい師匠でした」

「本当!?それじゃ口聞いてくんないかなー、桃吉がさあ~、、、あっ!いけない!俺達そう言えば名前を言ってなかったね。俺は【オロ】あいつは【きゅー助】そっちは【桃吉】だよ」

「きゅー助さん?、、、」

「どうしたの?耳子さん」

「いいえ、何でもありません。それより本当に助かりました」

「もういいよ、気にしないでよー。で、さっきの続きなんだけど、桃吉が笊作りを習いたいって言うから、俺達ここまで来たんだ。頼んでもらえないかな?」

「残念ですけど亡くなっています。あたしが嫁いで暫(しばら)くして知らせがありましたから、、、」

「えーーッ!?どうしよう・・・」

「あたしで良ければお教えしましょうか?」

「本当に?わあー、助かったあー!」

「そうですか?喜んで頂けて何よりです」

「ひゃー、ありがとう!来た甲斐があったよ!」

「とんでもないです!こちらこそ皆様がいらしゃらなければ、あたし達は死んでいます。いいですね、本当に、、、ああして命がけで救って下さるお友達なんて」

「そうだね!最高の友達だよ!」

「羨ましいですわ、そんなお友達がいらしゃって」

「へへ、俺もそう思うよ」

一行は刺抜き村の耳子の家に着いた。意外に大きな民家だった。

「さぁさぁ、どうぞ、どうぞ」

「あの、、、井戸でちょっと顔を洗わせて下さい」

「あ、気が利きませんで、、、どうぞこちらです」

三人は井戸に案内される。ジャブジャブと水を出して皆で顔を洗う。

子供達も一緒に顔を洗ってはしゃいでる。

「ひゃー、気持ちいいね~!」

「きゃきゃ」

「すごい泥だらけだねー!」

「はは、ばっちいねぇ~!」

「きゃきゃ」





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第十章 開道 知らぬきゅー助3


前回


耳子に是非と云われ、一緒に刺抜(とげぬ)き村に向かう三人。道々の話の中で笊名狸のお徳の死を知る、がっかりするのもつかの間、耳子が笊(ざる)作りを教えてくれると請け合ってくれた。立派な民家に着くと、さっそく子供達と井戸で泥を落としはじめる。


はじまり、はじまり


arau.jpg
挿絵参照↑↑↑  絵をクリックすると大きくなります


五人が騒ぎながら顔や手足を洗っていると耳子が手拭を持ってきた。

「どうぞこれをお使い下さい。あれまぁ、お前達まで」

皆で仲良く顔や手足を拭く。子供達はすっかり三人に懐いてしまった。耳子に案内されて家に入ると、杖を突いた老狸が待っていた。

「わしは【田平】と申します。耳子に話を聞きました。本当に有り難うございました」

「そんな、気にしないでください」

「そうだょぉ」

「気にしないでよー」

「父さん、挨拶は後にして上がってもらって」

「おお!そうじゃ、そうじゃ」

其れぞれが囲炉裏(いろり)のそばに座る。田平がお茶をすすめる。耳子も自分の汚れを落とし、台所で手際良く切った野菜を鍋に入れて持ってくる。鍋を自在鉤(じざいかぎ)に吊るすと耳子は落ち着いて座る。

「父さん、あたし達本当に命拾いしました」

「本当に有り難いことだよ」

三人は余り褒められるものだから照れてしまい、恥ずかしくなって下を向いてる。田平はきゅー助を不思議そうに見つめている。

「ねぇ、きゅー助の顔にまだ泥がついてるの?」

「あっ、すみません。失礼をしました。しかしあの、、、お名前がきゅー助・・・」

「父さん、そうなのよ!お名前がきゅー助さんとおしゃるの!そしてお友達のオロさんに桃吉さんよ」

田平はきゅー助から目を離さないでいる。耳子も様子のおかしい田平に気が付いて肩を揺する。

「父さん!どうしたの?」

「いや、間違いない!」

「やはりそうなの?あたしも、もしかして、、、と思っていたの」

「あの、、、きゅー助に何かあるのですか?」

「きゅー助、もう泥は付いてないょ」

「あの、、、きゅー助様。お母上様は?」

「へっ?何?どういうこと?きゅー助の母ちゃん知ってるの??」

「はい、良く存じ上げています」


え"ーーーッ!!


「【ナサ】様です。今はどうされているのですか?」

「死んだの。きゅー助が小さい時に...」

「なんとッ

オロはきゅー助の話をした。桃吉は初めて聞いたので横でじーんと感動している。(ヤッパリだ)田平は泪を拭く事も忘れ、オロの話に聞き入っている。(第七章ともだち1.2参照)

「さすがは【ナサ】様です。心得が違います。そうしてお小さいきゅー助様は、オロさんと助け合って来られたのですね、、、」

「おいらの母ちゃんの名前は本当に【ナサ】って云うの?どうしてわかるの?」

「間違いようもございません。あなた様の額の『白い模様』それに只の獺にはないその『光り輝く黒い毛並み』が何よりの証でございます」

確かにきゅー助には額に丸く白い毛が生えている。そして毛並みの美しさは例えようもない程に輝き放っている。

「それがどうしたの?」

「大事なことでございます」

【ナサ】と云うきゅー助の母親は【九太夫(きゅうだゆう)】という【獺(かわうそ)族】の【族長】の妻だった。九太夫とナサは獺族にも狸族にも、とても慕われていた。

『葛花(くずはな)川』で穏やかに暮らしていたのだが、ある日何者かに闇討ちにあい殺されてしまった。【ナサ】は仕方なくきゅー助を連れて【お徳】の家に身を寄せた。

「お徳さんって、笊名狸のお徳さん?」

「はい。良くご存知で、、、お徳は一流でした。もう亡くなりましたが、、、」

えーぇーッ!?俺、そのお徳さんに笊作りを教えてもらいに来たんです。それでオロときゅー助と一緒に旅をして、、、」

「それはなんと!亡き【ナサ】様と【お徳】の引き合わせですね。間違いない事ですよ」

「そうなのかなー?」

「ええそうですよ。そうそう、わしはお徳から死ぬ前に頼まれた品があります。『自分はナサ様から預かったのだが、どうしていいのかわからぬままに、こうして無意味な日々を過ごしてしまった。

このままこれを持って朽ち果てる訳 にもいかないので、どうか預かってくれ』と」

「なぁに?なんなの?」

田平はそう言うと突然、床板を一枚外し小さな木箱を取り出した。渋紙で包まれた木箱。その木箱を開けると又ひと回り小さな箱、それも渋紙で包んである。厳重に幾重にも巻いてある渋紙を外すと、ようやく桐箱が姿を現す。

桐箱の中味は白い光をキラキラと放っている。

「なぁに?光っている」

「鏃(やじり)です。【九太夫】様を射殺した鏃です」


え"ぇ"ーーーッ









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第十章 開道 進むべき道1

前回



田平は大事に保管していた鏃(やじり)を見せる。白く輝くこの鏃が九大夫を射殺したと云うのだ。



はじまり、はじまり



「これが?これが、おいらの父ちゃんを...」

きゅー助は鏃を見て呆然としている。

「ちょっとちょっと待ってよ!なんでそんな物がここにあんのよッ!」

オロも桃吉も息せき切って同じ事を言う。

「はい。先程申しました通り、【九太夫きゅうだゆう】様は何者かに闇討ちに遭いました。しかしそれを見ていた者がいたのです」

「だ、誰よ?」

「【ナサ】様です」

「どうしてよぉ、どうして?」

「はい、【九市きゅういち】に呼び出しを受けた時、【ナサ】様は嫌な予感があったそうです。止めても【九太夫】様はお気にもなさらずに出掛けて行ったそうです。

ナサ様は一旦は堪(こら)えたそうですが、やはり堪らなくなって九太夫様を追い掛けたそうです。やっと提灯(ちょうちん)の明かりが見えて、九太夫様に追付いたと思った時、竹薮から白い光が輝くとその光は真っ直ぐに九太夫様の提灯目掛けて向かったそうです。

まるで一本の光の線のように見えたとおしゃってました。『あ"ッ』という声・どさっと何かが倒れる音に、ナサ様は叫び声を上げてそちらに向かわれました。曲者はその声に驚いたらしく勢いよく逃げて行ったそうです。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります

qdayunosaigo.jpg

ナサ様が抱き上げた時には、既に九太夫様は絶命しておられました。その胸に突き刺さっていたのがこの鏃です。ナサ様は九太夫様の[心の臓]をひと突きにした矢を引き抜きました。

血に塗れても尚、白く輝く鏃を見て怒りで震えたそうです。九太夫様は特別な毛並みをお持ちなんです。普通の鏃なら九太夫様の強い毛皮を霞(かす)める事もできません。だがその鏃は強い毛皮を射抜いたばかりか、九太夫様のお命まで奪った。

ナサ様は矢から鏃を取ると断腸の思いで、鏃の取れた矢を元の九太夫様の胸に突き刺したそうです」

「どうしてッ、どうしてそんな事したのッ?」

「はい、ナサ様は犯人が分かっていました。その犯人は必ずこの鏃を奪い取ろうとするか、九太夫様のお身体を隠すか何かする、、、と」

「なぜ?」

「そうしないと、自分がやった事が世間にばれるからです。【九太夫】様の毛皮が鎧(よろい)のように固い事を知っているのは、【ナサ】様と弟の【九市】だけです」


え"ぇーーッ!それじゃ、弟がやったのッ!?


「そうです!あいつは他の者に特別な鏃を見られては拙(まず)いのです。特別な鏃だからこそ、九太夫様を射殺す事が出来たという真実を知られたくなかったのです。ナサ様が悲しみに暮れているとその場に九市と手下がやって来たそうです。

九市は九太夫様のご遺体を見ても顔色一つ変えずに、『兄さんは屋敷に運ぶから先に待っているように』と言ったそうです。ナサ様は急いで屋敷に戻るときゅー助様のお包(くる)みの中に鏃を隠し、きゅー助様を抱いて泣いていたそうです。

戸板に九太夫様は乗せられ運ばれてきました。知らせを聞き駆けつけた大勢の子分達は泣いてる子分達ばかりだったそうです。九市は誇らし気にナサ様の目の前に鉄の鏃が付いた矢を見せたそうです。

『姉さん、兄さんは矢で殺されたようです。こんなものがそこら中にありました。その中の一本が兄さんに当たったんですよ、兄さんの胸に刺さった矢を抜きましたが鏃は心臓に食い込んでいるらしく取れませんでした。残念です。

そこで姉さん、兄さんが死んでしまったので、わたしが後を継ぎますよ。それも立派にね、きゅー助は赤子だしね。』と、、、」


「ちっ、きしょぉーッ!、頭きたぁーーーッ!!」


「なんだぁーあ!許せないッ!」


皆が怒った。子供達まで怒っている。

「結局ナサ様は屋敷を追い出されました。それで親しかった【お徳】の元に身を寄せられたのです。ナサ様はお徳にこの鏃を見せながら話されたそうです。

ある日、ナサ様は何気なく九太夫様におしゃったそうです。『あなたの毛並みは柔らかくて、とても美しくて素敵だけど、なんだかとても固そうにも思えるの。不思議だわ。』

『俺の毛皮は特別なんだよ。代々の頭領の血がそうさせるのかわからないが、獺族の頭領だけに受け継がれる体質らしいよ。普通の武器じゃ、俺は倒せない、俺をもしも倒せるとしたら、それは【氷鋼こおりはがね】で作られた武器だね。』

『【氷鋼】って?』

『【山猫の十字じゅうじ】と云う猫が造る特別の鋼さ。【大天狗おおてんぐ】様がお造りになる刀の材料になる鋼だよ。だけど秘密だよ、知っているのは今じゃ九市だけなんだからね。あいつにも内緒にしていたんだけど、つい喋った事がある。お前にまでこうして言っちゃうんだから俺ってダメね。』

ナサ様は朗(ほが)らかで明るかった九太夫様を懐かしむように話されたそうです。『九太夫様は九市を信じていたからこそ話されたのに、それを逆手に取った憎い九市!』

お徳に『自分は何としてもこの鏃の真相を知りたい!何故こんな物が造られたのか知りたい!だけど今はこのきゅー助を育て上げるのが何よりもしなければならない事。この鏃を持ち続けていれば必ず見る。

見れば悲しみと憎しみで頭がおかしくなってしまう、、、申し訳ないがきゅー助を立派に育て上げるまで預かっていて 欲しい。必ず、必ず、受け取りに来る』と、、、」





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第十章 開道 進むべき道2

前回



ナサの無念に心が張り裂けそうになる。驚きが怒りになりドスンドスンと重い痼(しこ)りが腸(はらわた)に響く。



はじまり、はじまり



田平の重く長い話が終わった時、言葉もなく黙り込む一同。『シィーン』と静まり返るなか囲炉裏の鍋がグツグツ煮立っている。

「母ちゃん、お鍋焦げちゃうよぉ」お駒が無邪気に言う。

『ハッ』っと耳子は我に返り鍋の中に味噌を入れる。味噌の薫りが辺りに漂って来ると皆の険しい顔に変化が現れる。

「あのぉ、、、少しだけでもお腹にどうぞ」


はい!頂きますッ!


オロは強いて大きな声で返事をした。貰ったお椀には葉ものと根菜の味噌汁がたっぷりと盛られている。オロはきゅー助に差し出す。

「食べなよ」

「きゅー助、いらない、、、」

「何でよ、せっかく耳子さんが作ってくれたんだよ、、、」

「いらないもの、、、」

きゅー助は田平から聞いた話の衝撃が強過ぎて何も考えられないようだ。勿論、食欲なんて沸く筈もない。

「ねえ、、、オロ、きゅー助には無理だよ。そっとしてあげなよ、、、」

桃吉が言うとオロは『キッ!』とした顔をする。


桃吉は黙ってて!


桃吉はオロの剣幕に驚いて黙り込む。

!?ッ、、、

きゅー助!俺が今言っていることは無理強いだってことくらい、俺だってよくわかってる。だけどわかってて言うんだ!お前は今まで俺の可愛い子供の様な弟だった。

甘えん坊だし、我が儘だし。体は同じくらいになったのにまだまだ子供だよ。だけど芯は違うのを知っている!初めて会った時、あんなに小さかったのに俺が【皿流し川】に飛び込もうとするのを止めた。

どんなにか母親を探して欲しかったかしれないのに、『川に流されてしまう』って、会ったばかりの俺を心配してくれた、、、俺はお前の優しさで自分の荒んだ心が癒されたのよ。こんなに小さいのに、、、ってねッ」

オロは泣きながら話してた。

「そんな風に育てたきゅー助の母ちゃんを立派だと心から尊敬してる。二、三日して川を遡(さかのぼ)るようにして、淵に辿(たど)り着いたきゅー助の母ちゃんの遺体。死んでも心配だったんだなあって、、、」

皆が泣いていた。

「ナサさんが無念の思いで逝ったことを思うと堪(たま)らないッ!

何としてもきゅー助を男にしてやりたいッ!

それが俺に出来るきゅー助への恩返しだよ。

きゅー助!泣くのは後にしろぉッ!

お前にはやんなきゃいけない事だらけだ!


「だけどぉ、、、」

「いいか?お前は男になんなきゃならないんだ!強い男にならなければ親の敵も討てねえんだ!どうすんだ?このまま、泣いて尻尾巻いて【皿流し川】に帰るのかッ?」


そっそんな事できるもんかっっ!


きゅー助の目に光が輝いた。

「よおぉ~し、良く言った!そんならこれを食え!食って食って食いまくるんだー」

うん!おいらメソメソしないょっ」

きゅー助はオロからお椀を貰い食べ始める。オロは、ホッとした顔をして皆に笑いかける。田平達も笑い、皆で味噌汁を食べ始める。

桃吉は二人の絆(きずな)の深さに改めて感動をした。そして嫉妬もした。自分の上っ面の同情なんて及びもしないオロのきゅー助に対する深い愛情。とても敵わない・・・

だけど『俺だってきゅー助の力になりたい!俺にだって出来る事は必ずある筈だ!』と思う。桃吉は自身でも知らぬ内に何かが変わっていた。

三人は田平一家と食事を終えると、田平が耳子をどこかへ遣いにやった。帰ってきたのは夜も大分更けてからだった。耳子に続いて家に入ってきたのは、田平のように杖を突いた年寄り獺(かわうそ)だった。

その獺はきゅー助を見た途端に、よれよれ縋(すが)っていた杖を放り投げ、どこが年寄りと思う程の勢いできゅー助に抱きついた。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
hiko.jpg

「きゅ、きゅー助様ぁぁ~~ッ!

きゅー助は驚いて声も出ない。田平が縋り付く年寄り獺を引き離す。

「何をするんじゃーーッ、わしはきゅー助様から二度と離れましぇんぞぉーーッ」

「いい加減になさいよ、ヒコさん。そんなにしがみ付かんでもきゅー助様はどこにも行かれはしませんよ」

「あのぉ~お爺さん。痛いんだけどぉ、、、」

「こりは、こりは失礼しました。わしはきゅー助様の【爺や】です。わしがご教育するはずじゃったのです。なのに、なのに~、、、

ぐやじぃーいッ!


「ヒコさん、そう何でも一辺に言ってもおわかりにならないよ。順を追って話しなさいよ」

「わかっておりますよッ。わかっておりますけど、わしもうぅ、耳子ちゃんに話を聞いてから心臓はパクパクするし、頭には血が上るし、手は震えるしで、、、ぅッ、う~~ぅん」


バタン!!


ヒコ爺さんは興奮して白目を剥(む)いて倒れた。


わあ!大変だよーッ


皆が驚いて井戸から冷たい水で顔を拭いてやるわ、水を飲ませるわの大騒ぎ。ようやくヒコ爺が気が付くと皆、ホッとした。

「すいましぇん、、、わしは嬉し過ぎて・・・きゅー助様ぁ~~あ!うおぉーん、うぉおーん」

気が付いたと思えば今度は泣き出す。オロは『きゅー助みたい、、、』と思った。桃吉も『獺族の特徴かしら?』と思った。
泣き止むのに大分時間も掛かったが、きゅー助が優しく手を握っていると落ち着いた。すると居住いを正し、きゅー助達に向かって平伏(ひれふ)す。





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第十章 開道 進むべき道3

前回



オロに一喝されたきゅー助、動揺は隠せないが前を向こうとする。桃吉もまた、きゅー助の役に立ちたいと思う。そして夜半に突然訪れた爺獺、泣きながらきゅー助に抱きつく。



はじまり、はじまり



「きゅー助様~!お久しぶりでございますッ。そしてオロ様・桃吉様、私めはヒコと申します」

三人はヒコの丁寧な挨拶に驚いて自分達もお辞儀をする。

「耳子ちゃんから、よくよく話を聞いて参りました。オロ様ときゅー助様のご苦労を聞いて、ヒコめは泣きました(ウッ)、、、」

「大したことじゃないよ」

「きゅー助、オロと暮らしていたから寂しくなかったよ!」

「おぉッ、なんと健気(けなげ)なぁぁ、、、」

ヒコ爺の大体の話の筋はこうだ。ヒコが知らぬ間にナサは屋敷を出て行ったらしい。そして九市が威張り出し勝手に族長だと言い張る。

『きゅー助様こそお血筋!』と頑張ったが、当の本人が居ないので不満だらけの獺達も従わざる得なかった。その内に若い者は【まま子川】の人足をさせられるようになった。

九太夫の時には【葛花(くずはな)川】で漁師をしていればよかったのに九市は『族長命令だ!』と言い一歩も引かない。

不満を言うと葛花川から『出てけ!』と言われる。皆、出て行く自信がなかったので黙って従うしかなかった。

気になるのは狸国の王である【狸兵衛(りへい)】の弟の【狸七(りしち)】と何かあるらしく、今までは寄り付きもしなかった狸七が、度々九市の屋敷に来るようになっていた。

九市は人足の上がりの殆どを取り上げ、今では新しい屋敷を造り優雅に暮らしている。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
yuganahibi.jpg

ヒコ爺達は九太夫夫婦への思慕捨て難く、今だに九太夫の屋敷を塵(ちり)一つないように管理しているそうだ。

「ナサ様は何ゆえヒコめにだけでも、お徳にした話をお聞かせ下さらなかったのでしょうか?」

「それは違うよ、ヒコ爺さん!ナサさんからその話を聞けば、ヒコ爺さん我慢出来た?」

できましぇッんッ!九市の奴をふん縛ってボコボコの袋にして【まま子川】に流しますッ!」

「だと思ったよ。だけどそんなことうまくいけば良いけど失敗したらどうすんの?だって九市って奴、相当に狡賢(ずるかしこ)そうじゃん!」

「はぁ...そうですね、、、」

「ナサさんは賢いから、次に命を狙われるのは間違いなくきゅー助と思った筈だよ。だって、きゅー助こそが正当な族長だもの」

「はい、その通りです!」

「九市にしたら、きゅー助が死んでやっと安心するんじゃないの?自分の地位が安定するからさ」

「なぁーる!」

「だからナサさんは敢(あ)えて獺さん達には何も言わずに出て行ったんだよ。取り敢えずきゅー助を『成人させよう!』『きゅー助さえ大人になれば!』って、、、」

「なんとッ!ヒコめはオロ様のお知恵には脱帽です。ナサ様の尊いお考えさえ、気が付かぬボンクラ爺でした(ウッ)恥じかしいぃぃ」

桃吉は、こんなボンクラ爺に大事を話さなかったナサは獺を見る目があると思った。

「あのさぁ~、俺、思うんだけど、、、」

「どうしたの?桃吉」

「うん、これからの事を話し合おうよ!絶対に失敗は許されないからさッ!」

「うん、そうだな!田平さん!氷鋼(こおりはがね)ってなんですか?」

「それはわしも詳しいことはわかり兼ねますが、【極楽山脈】の【地獄山】に住んでいる【十字じゅうじ】と云う山猫がつくる鋼らしいです。

その鋼は氷のように冷たく、白く発光する不思議な鋼だそうです。ここにある鏃は間違いなく氷鋼と思います」

「じゃあ、鏃(やじり)を造った猫は地獄山に居るの?」

「怖そうな名前の山だね」

「はい、でも十字と云う山猫は心清き猫で有名です。それに只の獺が訪ねて行ける場所でもないし、不思議です。ですがこのような品をこさえられるのは十字だけですし、、、」

「ひょっとしたら、狸七様の仕業ではないでしょうか?」

「俺もそう思うよ!良く気が付いたね、ヒコ爺さん」

「ひひ。いえね、ヒコめは前からおかしいと思っていたんです。どうも九市の態度が狸七様に厭(いや)に卑屈なんです。

狸七様の前ではペコペコしているのに、お帰りになると子分達に当たり散らして、、、『あの野郎!いい気になりやがってー!』なんて言ってるんです」

「ふぅーん。それって絶対に何かあるね!」

「あの、、、」

「なあに?耳子さん」

耳子は二人の子を別室で寝かせ付けると話し合いに参加していた。

「狸国の王族なればこそ、【山猫の十字】さんを騙(だま)して鏃を造ってもらえたのではないでしょうか?」

「そっか、、、なるほどねー、そうだ!ヒコ爺さん、九市は九太夫さんが亡くなる前に旅に出掛けていたことあった?」

「いいえ、全くありませんでしたよ」

「決まったね!間違いなく狸七が鏃を調達したんだ!」

「だけど、なんで狸国の王族がおいらの父ちゃんを殺すのを手伝ったんだよぉー」

「人足の事が原因なんじゃないの?」

「そっか!きっと狸七に言われても父ちゃん、断ったんだ!」

「私どもの狸達も好きであんな仕事をしていませんよ」

「そうなの?」

「当たり前ですよッ、日々命掛けなんですよッ!足を折ったり、流されたりして・・・
おまけに【狸兵衛様】に訴えようとすると【狸七様】に捕まるんです!捕まった者は二度と戻って来ませんでしたよ」

「なんなのそれ?」

「わかりませぬ。狸国の村々は今では困りきってます。若い者は人足仕事に補充されるので、寄せ木の仕事をする者や畑の収穫にも事欠く有様ですよ、、、」

「なんでそんな無意味な事を、、、」

「わかりませぬが、とにかく今の【狸七様】は何か変ですよッ」

「狸七も敵なんだから、これはハンパな覚悟じゃ出来ないよッ!」

「そうだね!」

よぉーし!俺に考えがある。この計画は間違いなく命懸けになるッ!できない者は今のうちに降りてもらう!どうする





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第十章 開道 進むべき道4

前回


ヒコや狸平の話から皆の窮状も知ることとなる。オロはこの難題に向け知恵を絞る。救うのはきゅー助だけではないのだ。どうするオロ?



はじまり、はじまり



「あの、、、オロ様」

「なんだい?田平さん」

「はい。ヒコさんも私も命、云々申す歳ではございません。いつ、ぽっくり逝ってもいい歳でございます。こんな老い耄(ぼ)れの命、こ度の事でお役に立つなら捨て甲斐もあります。

ですが今度ばかりは私たちだけで事をした場合、他の心ある者達に恨まれます。どうか明日中に呼び寄せますので、今しばらくお待ち頂けませんでしょうか?」

「いいけど、秘密裏にしないと絶対にだめだよ。」

「はい。狸族から一人、獺族から一人、『これなら!』という者を連れてきます。ヒコさんも承知したね?いいね?」

「承知しました。」

其れぞれが連れてきたのは翌日の深夜だった。さっそく挨拶を交わす。

「あッやっぱりー、あんたさんがきゅー助様だったんだね!」

「えっ?」

よく見ると【まま子川】できゅー助達を褒めていた狸人足だった。

「あっしは【覚一かくいち】です!」

「きゅー助様!あっしは【六助ろくすけ】です。お会いしたかったです!」

やはり獺人足だった。考えてみれば当然だろう、自分達が一番酷い目を見ているのだし、『狸七(りしち)憎し!九市憎し!』で一致している処だろう。

悪知恵が働く狸七と九市は、わざと狸達と獺達を争わせるようにしていた。元々は仲良くしていた者同士を人足の仕事に託(かこ)つけ、一日交代で行ったり来たりをさせ、決して二組を一緒にさせなかった。

[共通の不満]=自分達への不満が双方で広がる事を恐れたからだ。だがいつまでもそんなことが続く訳はない。【覚一】も【六助】も二人の爺さん達に言われると泣いて喜んだ。

反目し合っていたのは、二人にそうさせられていた事を知ると、単純な人足達は嘘のように仲良くなった。そしてオロを中心とした密談が始まる。結局話が終わったのは朝方だった。三人は眠い目を擦りながら耳子の用意してくれた布団に横になる。だが、きゅー助だけが寝ようとしない。

「ねー、起きてょ」

「なんだよ、眠いのに~」

「いいから桃吉も!」

「ふへっ?」

「きゅー助、凄く怖いょ」

「そんなこと当たり前だろ!」

「だってオロも桃吉も居なくなっちゃうし、おいらだけになるし、、、」

「何言ってんだよ、お前の【爺や】ってのが居るじゃないか」

「えぇーッ、ヒコ爺さんのことぉー?」

「それに今日来た人足達も味方だし、賢そうな田平爺さんも居るから安心だよ」

「そおかなぁー」

「そーだよ。但し、九市からお前だけを呼び出されても絶対に行くなよッ!」

「うん。絶対に行かないッ!」

「よ~し!俺と桃吉で必ず【十字】って云う山猫に鏃(やじり)の事を確かめて、その足で御係所に訴えてきてやる!」

「うん、わかってる!」

「いいか?お前がビクビクしてたら、だめなんだよ!」

「そーだよ。きゅー助は俺こそが『本家元祖の族長』だっ!て迫力持たないと。なんたって【狸七】や【九市】の目をそっちに向けとかないといけないんだからね」

「なんだあ?本家元祖の族長って、、、」オロが変な顔をする。

「間違いないよ、それだけ言っとけばさ」桃吉はしたり顔である。

「あはは、そうだよねー!きゅー助は本家で元祖だよね~!」

きゅー助の顔に笑顔が戻る。

「そーだよ。俺達がこれからやろうとしてる事は謂(い)わば、きゅー助の敵討ちだ。気を引き締めて掛からないと失敗する。

狸七の目が光ってる狸国は通れねえから【まま子川】を行くしかない。それより早い道はねえんだ。桃吉なんか泳ぎが下手っぴいなのに行くんだ。わかるだろ?きゅー助。桃吉も俺も命懸けなんだ」

「うん、、、おいら恥ずかしくないように頑張るょ!」

田平の家は俄(にわか)に出入りが激しくなる。夜遅く二つの陰がこそこそ家から出て行く。【まま子川】の川岸に着くと、葦(あし)の茂みから話しかけて来る者が居る。

「こっちですよ、オロさん、桃吉さん」

二人が茂みの中に入ると覚一と六助がいた。すでに小舟が用意をされていた。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります

kakugonofunade.jpg

「くれぐれも【鹿食い(ししくい)の大カマス】には気をつけて下せい!」

「ありがとう!」

「いいですか、お盆みたいにでかくて光った目を見たら、一目散に逃げて下さいよ!」

「うん、オロの泳ぎ次第だね」

「お前だって足をバタつかせるくらいはしろよなッ!」

「わかってるよー」

「本当に大丈夫なんですか?あっしら心配ですよー。」

「覚一さんも六助さんも俺達の心配より、きゅー助の事頼むよ!」

「へいッ!死んでもお守りいたしやす!」

「あっしも九太夫様に世話になりましたから、恩返しですよ」

「じゃあ、行くよ」

「お気をつけて」




文中にある「鹿食いの大カマス」リン友のllamaちゃんが鹿食いを「ししくい」はどう?と提案してくれました。
ナイスグラッチェなので即決定。
llamaちゃんありがとう



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第十章 開道 進むべき道5

前回


オロ達は人足の代表である覚一と六助を混じえ密談をし、それぞれの役目を決めた。そして翌深夜にオロと桃吉はきゅー助を残し旅立つ。



はじまり、はじまり



櫂(かい)を漕(こ)がなくても小舟はスルスルと岸から離れて行く。夜目の利く桃吉を舟先に座らせ、オロが櫂を持つ。桃吉は人でいる時に見た夜明けのひと時を思い出す。

薄青の絵の具をひと捌(は)けしたように眠っている町の景色。桃吉は猫になってからは漆黒の闇と縁がなくなった。今は、昔に見た夜明けの景色のように何もかもがハッキリ見える。

「うひゃひゃ~、猫目のお陰で近視も乱視も治ったよ~!」

「なに、暢気(のんき)に笑ってんだよッ!夜が一番いけねえって【覚一】が言ってたろ!」

「わかってるよ~、異常なーし。ですよ」

「きちんと見ろよなッ!」

桃吉は緊張感、悲壮感共にゼロである。オロだけは緊張で張り詰めている。【まま子川】は【極楽山脈】の下を潜り込むようにして【産海(うみ)】に続いているらしい。

その所為か桃吉達が渡った【開道】を境にして[北側は海水]・[南側は真水]と不思議にも分かれている。桃吉達が漕ぎ出した大河は今は海水である。【産海】 の魚が沢山泳いでいる。

「ひゃーぁ、気持ち好いなぁ~あ」

桃吉はずっーとご機嫌である。二人はいつの間にやら寝ていた。大河の流れに一艘(いっそう)の小舟。そろそろ正午になろうとしている。

「おっ、おいッ、桃吉!なんか変じゃないか?」

「何が~?」

「なんか引き戻されてないか?」

「えーッ!?」

確かにオロが心配したように船足が止まった。潮目が変わったよう、流れも逆流になってきている。

「おいッ、桃吉!船にしがみ付いていろッ!!」

「うん!」


ぶゎあ"ッん"ッ!ずわぁーーーッ!


小舟が凄い勢いで反転すると下流に流され出す。数分程流されると、今度は波が押し寄せて来る。


ざぁッぶ、あ"ぁーーーん!


ずゎざざぁぁーーーッ!



上流に凄まじい勢いで押し戻される。落ち着くまでどれくらい流されたかわからないほどだった。

「なんか進んだ、、、ねッ」

「ある意味進んだね、、、」

余りの恐ろしさに『ボー然』とする。【開道】の所為で【まま子川】は、正午に一旦逆流するようになっている。覚一達は【まま子川】にいる怪魚の事だけを注意するよう言っていただけなので、二人は知らなかったばかりに慌てた。

「しっかし怖かったねッー!」

「あの大波が来たときは死ぬかと思ったよーッ!」

「あれってもしかして開道の所為なんじゃないかッ?」

「そうなのーッ?」

「うん、だってお日様が真上の時にあったもの、きっとそうだよー!」

えぇーッ!?そしたら毎日あんな思いするのーッ??」

「今日が一番酷かったと思うよ、、」

「なんでよ?」

「開道から離れれば離れる程、影響は少なくなると思うよ」

オロの分析した通りだった。
翌日も同じように逆流があったが最初ほどでもなかった。船足は快調に進む、一日一回の逆流もその内に感じない程になっていった。

覚一達は船の中に食料や真水を樽一杯、載んでいてくれたので至極快適に過ごす。昼間は目立たぬように覆いを掛けた、暑くて堪らなかったが我慢をする。

川岸には漁師の姿が見えたこともあったが漕ぎ手のない船が目の前を行き過ぎても、目線を送るだけで知らん顔である。夜になると遠くに村の明かりが見えた。

「後、どのくらいなのかなぁ~」

「そうだよなあ~、もう一週間は乗ってるよね」

船縁に桃吉が爪で一日毎に引っ掻いて傷を付けている。顔を何気なく舟先に向ける、何か音が遠くから聞こえて来る。

「ねえオロ!なんか音がするッ」

桃吉の耳は微かな音に反応してぴくぴく動く。

「えっ?」

オロも桃吉の真剣な様子に反応する。

「ほら聞こえるよッ、何か凄い音がしてる!」

「おい!ヤバいよッ、きっと【まま子川】が【極楽山脈】の中に潜り込んでる音だよッ!」


え"ーーーッ!


挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
ikuzou.jpg

桃吉は慌てて何をすればいいのかわからない。

「何してんだよー!」

「えっ?だから、ほれ!はれ!それ!えーっと、えーっと何かしないとぉーぉ!」


バッチン!


オロが思いっ切り桃吉の頬を打った。


「しっかりしろッ!!」


「痛ってぇーーーっ!」



桃吉はオロに叩かれて少しだけシャンとした。

「いいか?腹のポケットにこれだけは入れておけッ!」

オロは大切な桐箱を桃吉に急いで渡す。桃吉は横腹のポケットに勢いよく突っ込む。急いで腹に縄を何回も巻いて括(くく)り付ける。今度は縄の端を桃吉の腹に巻き、ぎゅっと締める。


痛でぇぇーーッ


「我慢しろよ!此のくらいきつく締めないと解けちまうよッ!」

微かな音がだんだん大きく轟(ごう)音となり、はっきりわかる様になって来た。


「行っくぞおぉーーーッ!」


「わあぁーーーッ!!」





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第十章 開道 進むべき道6

前回


開道が原因で引き戻されたり、いろいろあったが概(おおむ)ね快適な船旅を続けていた。一週間が過ぎた頃、桃吉の耳が微かな音を捉(とら)える。真剣な様子にオロは急いで縄を巻き付け川に飛び込む。桃吉も後を追うように飛び込んだ。



はじまり、はじまり



オロが掛け声と共に川に飛び込むと桃吉も引っ張られ飛び込む。力強く達者な水練のお陰で、桃吉は足をバタバタしているだけなのにグイッグイッと進んで行く。

川の流れはきつく、此の大河を横切って泳ぐのは相当に体力を消耗する。二人が慌てて船から飛び降りたのは賢い判断だった。

直ぐにも川の流れは速くなり、波頭を立てながら、船は真っ直ぐに加速して進んでいく。【極楽山脈】の足下に開いた【大洞窟】が【まま子川】を飲み込んでいる。

耳を劈(つんざ)く轟(ごう)音と凄まじい水量が暗い大きな大洞窟に、『ごゎぅおーん!ごゎぅおーん!『ぐぅわぁん、ぐぅわぁん』と吸い込まれる様子は、桃吉が見たら失神するほどの恐ろしい光景だ。

泳ぎ始めて二十分ほどすると、そろそろ岸が近づいて来た。オロも安心して少しだけ力を緩める。桃吉は相変わらず足をばたつかせている。

桃吉が足に何か当たる感触がして水中を見る、お盆のように丸い目と目が合う。

ぎょッ・魚っ・ギョッ!

鹿(しし)食いと恐れられる巨大カマスが、桃吉にコツンと当たりをしたのだ。桃吉を食い物だと認識した巨大カマスは、ちょうど反転をしてる時に桃吉と目が合った。

巨大カマスはわざと離れ体制を整える。尾びれに勢いをつけ素早い動きで桃吉に襲いかかろうとした!

桃吉達に勝機があったとすれば、巨大カマスが勢いを付ける為に離れた事だった。

「う"わ"ぁーー!おッ、お盆だあーーッ!!

察しのいいオロはその声を聞くと死に物狂いに泳ぎ出す。桃吉も足が千切れるばかりにバタつかせる。巨大カマスはもの凄い勢いで追い掛けて来る。

オロは息もしないで泳ぎ続け、岸が見えると尚一層、力を振り絞る。岸に辿り着くと急いで縄を引っ張る、桃吉が縄と一緒に上がって来た。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
kanippatu.jpg

巨大カマスが桃吉を食おうとした間一髪で引き上げられる。

ギャッシーン!

巨大カマスの歯が音を立てる。

「尾っぽぐゎぁー!尾っぽが食われたあーーッ!!

「え"ーッ?本当かよーッ!?」

桃吉は盛んに尾を触っている。

「見せてみなよッ!」

オロが桃吉の尾を見ると、今まで通りの桃吉のまん丸尾っぽが付いている。

「食われてないよ」

「だって先っぽがないよーッ!」

「お前の尾っぽは、初めから長くないよ」

「えっ?そうだったけ?俺の尾っぽって長くてシュウーっと・・・」

「してないよ。鼻かっらね」

(あ、そだった)

素っ飛ぼけの桃吉にオロは思いっ切り力が抜けた。

「長くなくて良かったんだよッ。長けりゃ、今頃あの大カマスに尻尾から食われてたよ」

オロが指差す先には銀鱗を光らせる巨大カマスが逃した餌を惜しそうにまだいる。桃吉はその姿に改めてゾっとする、二人は川岸から重い足を引きずるようにして歩いた。

少し離れると今度は疲れがドッと出て、その場に倒れ込んでしまう。二人が目を覚ましたのは寒さのせいだった。

「うぅん、さぶーいッ」

「うわっ、うわっ冷たーい!」

ガタガタ震えながら目覚めた二人の目の前には、木枯らし吹く寒々とした風景が広がっている。

「何よこれ?」

「聞いてないよ、これって冬だよ」

落葉した樹木の間から白い雪を頂いた山脈が見える。二人は余りの違いに茫然(ぼうぜん)とした。どうすればいいのかわからなくなってしまった。オロはとにかく歩いて暖を取るしかないと強引に歩き出す。

「ねえ、オロ~」

「何よ?」

「何処に向かってんの?」

「何処って【地獄山】に決まってるだろ」

「どっちにあるか、知ってんの?」

「わかんないよ」

「ちょっと~、ちょっと待ってよ~」

「だから何よ?」

「だって闇雲に歩いたって着かないよ」

「いいかぁ?【極楽山脈】は先ず一番東から、『天界山』『天国山』真ん中の一番大きい『下界山』に【御係所】と【魂納めの宮】がある。次に『中有山』ここに【身魂抜きの宮】がある。最後に【地獄山】の三山がある」

「なんで地獄山が三つもあるの?」

「良く知らないけどあそこに見える、三つの山は全て地獄山って云うんだって」

「ふーん」

「ふーんって、、、田平の爺さんが言ってたじゃん」

「すっかり忘れてたよ」

「ぼけちん」

「へへへ」

「だけど、どこにいるのかな、、、その『十字』って云う山猫、、、」

「田平爺さんも三つの山のどれなのかはわからないって、、、」

「困ったね」

二人はトボトボひたすら歩いていたが、飲まず食わずで歩いている事に気が付く。

「お腹空いたよ~、何か食べようよ」

「そうだね。えーっと、、、あ、そう言えば何も持ってないよーッ」

「わぁー、そうだった!あの時慌てたから」

「力が抜けるなぁ」

「ちょっと待ってよ!」

桃吉は横腹のポケットを探る。大切な桐箱をオロに渡して尚ポケットを探る。

「あっ、昨日の残りのチーズだよ」

小さな固まりがあった。桃吉は二つに分けるとオロに渡す。

「小ちゃいね」

「うん、だけど無いよりいいよ」

お互いが食料を持って来なかった事を責め合うのでもなく仲が良い。僅かな食事でも美味しく食べる事が出来る。

二人はきゅー助と暮らして居た頃、【皿流し川】が増水して何日も魚一匹獲れない事を経験している。そんな時にも三人は争いには無縁だった。

『腹減ったぁ~』と騒いだり、『魚♪さかな♪魚~♪』と歌ったりして空きっ腹を耐えた。争う事の無意味さを元人間のオロと桃吉は肌で知っているのだろう。

二人は大きな木の根元に今夜の宿を決めた。落ち葉を沢山集めて来る。

「ねぇ、こんな風に寝るの初めてだね-」

「本当だね、きゅー助もきっとやりたがるよ」

「絶対だよぉ~『きゅー助こういうの大好き!』とか言ってね」

「あはは!必ずそう言うよ。それで真ん中にスルッと入って来て寝るね」

「間違いないよー、ははは」

「きゅー助どうしているかな?」





コメ返が遅れて済みません。
実は金曜から高熱が出ていて、ふらふらしていました。根性でアップはしたのですがよれよれでございます。今日医者に行きましたら、風邪を通り越して咽頭扁桃炎になっていたらしく、夕方に二度目の点滴に行くことになりました。
遅くなりますがどうか宜しくお願いします。



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第十章 開道 ガンバルきゅー助1

前回


命からがら、大カマスから逃げおおせた二人だったが余りに違う気候に驚く。寒さに震えながら小さなチーズを分け合う。二人の心配は残して来たきゅー助のことだった。


はじまり、はじまり



きゅー助は意外にも落ち着いていた。
オロと桃吉が夜遅くに出掛けたのを朝まで気が付かなかった。起きて二人が居ないので、プンプン怒っていると耳子に言われた。

「きゅー助様。オロさんも桃吉さんも、ちゃんと挨拶してましたよ。きゅー助様は確かに、『い行ってらっしゃい』って」

「え~ぇ、本当に?」

「本当ですよ」

「へへ、寝惚けてたんだね」

きゅー助が遅い朝食を摂っていると、ヒコ爺がノタクタやって来た。

「あれー?杖、突いてないね」

「あんなもの、突いて歩いてる場合じゃ有りましぇんからねッ」

「凄い張り切りようだね」

「へへ。きゅー助様、これからどうします?」

「きゅー助、も少し寝んねするから」

「え"?『寝んね』って、、、寝るんですかッ!?」

「そだよ」

「そうだよって、、、六助達は待ってますよ」

「なんでぇ?」

なっナンデ?だって、これから【九市】をふん縛りに行くんでしょーがッ

「違うょ~。困ったさんばかりでやんなっちゃうなぁ~」

「へっ?」

「それじゃ~、しょうがないから皆を呼んで来て」

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
mitugi.jpg

ヒコ爺はきゅー助の態度に不安を感じながらも出て行く。きゅー助はあくまでもノンビリしている。田平と耳子は台所からきゅー助を見ていた。

二人は『きゅー助を旗印にして本当に大丈夫なのか?』と心配した。
六助と覚一を先頭にして、わいわいと十人程の狸と獺がやって来て其れぞれがきゅー助に挨拶をする。きゅー助はニコニコしながら話し出す。

「あのね、おいらが言う事をきちんと守って欲しいの。い~い?」


へーーい!」神妙に揃って返事をする。


「まずね、今日から人足のお仕事はしなくていいの」


え"ーーッ!?


「そんな事したら大変ですよッ」

「困る方も居ますよ!」

「いいの。少しだけ他の方にも辛抱してもらうの」

「いいんですか?」

「いい?皆、聞いてね。皆が人足のお仕事をしないとお客さんは怒るよね?その内に九市の耳に入る。あいつ、皆に『お前達、仕事をやれ!』と、責めまくるね?」

「へい、絶対ですよーッ」

「三日も仕事しなきゃ、相当客がたまって凄い数だよ」

「へい」

「その客達が居る前で九市を鼻であしらってやるんだ」

「へ?」

「恥を掻いた九市は逃げてくよ」

「へい!」

「そこに残っているお客さん達に、何でこんなことをしているのかを説明をするんだ」

「大事を明かすんですか?」

「そんなご大層なものじゃないよ。
いい?おいら達は『お客さんをタダで開道を渡したい!』と、交渉をしているんだって言うんだ。きっとお客さん達は大喜びするよ」

「確かに、、、だけどそんなことしたら、あっし達のおまんまは食い上げですぜ」

「何を言ってんの?今だってカツカツじゃないかッ命懸けの仕事してるのにさ。


いい?


おいらもお前達も今度に命を掛けるんだ!干物になっても意地を通すんだッ!


わかったかぁーッ!」



きゅー助の勢いに強面の人足達も素直に従ってしまう。ヒコ爺も田平も、今は亡き【九太夫】を見るようで、さっきまでの心配も吹き飛んでしまった。

よぉーし!気合いは入ったッ。
これからが肝心(かんじん)だ。客はおいら達の味方になる。これが肝心要(かなめ)なんだよ!」

「へい!」

「いいか?何事をするにも大事であれば有る程、味方が沢山必要なんだ。いればいる程良いんだ」

「へいッ!」

「今度は九市の奴、おいら達を黙らせようと狸七を呼ぶよ」

「そうですねッ」

「そこで、おいらの登場よ!」

「えっ?」

「いいか、おいらは本家元祖の族長だ!『話が有るならおいらに言ってこい!』ってね」

「ふんふん」

「あいつらがどう出るか、楽しみだけどね」

「で、その後はどうすんです?」

「まぁ、おいらに任せなよ」

きゅー助は自分でも知らずに族長になっていた。本来ならきゅー助で【二十一代目】二千年に渡り連綿と受け繋がれた族長の血がそうさせるのだろう。

いいか、おいらを信じろ!


おいらだって命懸けなんだ!絶対に負けないッ!!」


「へぇーいッ!



「やつらをギャフンと言わせてやる!だけどあいつらは狡賢(ずるがしこ)い、何としても形勢を逆転させようとする。どんな手を使ってもね。目障りなおいらを殺そうとするかもね」

「あ"、九市の野郎は、弓が得意ですぜ」

「そうだろうよ。おいらの父ちゃんを射殺したくらいだもの」


なんですってーーーッ!


「くッそおーッ!あの野郎ーッ!九太夫様をぉーーッ!!」

「あっしは、あん時怪しいと思ったんだッ」

そこに居た人足達の衝撃は激しかった。その場の空気が怒りで膨(ふく)れて破裂しそうになった。きゅー助は皆に、九太夫暗殺の一件を語った。


ぐゎぁーッ


九太夫様ぁーーッ!


泣き喚く者、地団駄踏んで悔しがる者、、、騒然となった。九太夫はそれほど好かれていたのだろう。皆が落ち着くまではだいぶ時間はかかったがそこに居た者はきゅー助の話に納得した。後は細細と役割を決め、三々五々に散って行った。





まだまだ本調子ではないので今回はコメ欄を閉じさせて頂きます。申し訳ありません。



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第十章 開道 ガンバルきゅー助2

前回


田平親子やヒコの心配をよそにきゅー助は意外にもしっかりしていた。
人足達はきゅー助に気合いを注入された、勢いづく人足達に九大夫暗殺の一件を語る。それは彼らを奮い立たせるには十分過ぎた。


はじまり、はじまり



kanshin.jpg

挿絵参照↑↑↑  絵をクリックすると大きくなります

「きゅー助様!ヒコめはも~ぉ感心しました!」

「わたしもですよー。」

「本当に立派ですわ!」

ヒコ爺も田平も耳子も感心しきりである。きゅー助は照れてモジモジしている。

「きゅー助恥ずかしいょ~、そんなに見ないでょ~」

いつものきゅー助に戻ってしまったので皆が笑い出す。

その日の正午になると【まま子川】の川岸に二百人ばかりの獺(かわうそ)人足と狸(たぬき)人足が一塊(かたまり)になり黙(だんま)りしている。揃って『勝利!』『必勝!』と書いた鉢巻きをしている。

川岸には人足達に値段の交渉をしようとしている客がちらほら居た。銅鑼(どら)の合図はいつも通りに行ったが人足達は知らん振りして開道を見ている。

人々は見た事も無い光景に唖然(あぜん)としている。自力で渡れる者達まで何故か渡らずに見ている。

「ひゃー、あっしは初めて見ましたよー!」

「何がよ?」

「何って、開道ですよ!」

「おぉ、そう言えば沁みじみと見た事無いもんな~」

「本当だ!」


ぎゃはははー!


大爆笑である。開道が終わると人足達はさっさと帰ってしまう。取り残された客達は呆然とするばかり。
翌日も正午近くなると、のそのそ双方の人足達がやってくる。

野次馬も含まれているのだろうが大分客が増えている、そうして三日目になった。同じように正午近くに人足達が集まり出す。川岸は賑やかな人だかりになった。

座り込んでる狸と獺人足達の前に毛並みをテカらせた獺がやって来た。【九市】である。族長の特徴である光り輝く毛並みを真似して、いつも油を塗ってテカらせている。

油塗(まみ)れなので歩く度に砂や埃(ほこり)が体中に付いてしまう。それが厭(いや)で九市は中々出歩かない。出掛けるとしても大仰な輿(こし)に乗って出歩く。

何も知らない客達は人足に幾ら言っても川を渡してもらえないので、仕方なく九市に訴えた。九市も銭の上がりがないので手下に六助の家に催促に行かせたが険もほろろに返されて来てしまう。

様子を探ろうとするが誰も口が堅く何も話さない。個別に探りを掛けようとするが手下の姿を見ると、戸口をぴしゃりと締めてしまう。

それで仕方なくなって川岸に出てきたのだった。九市の姿を見ると待ちかねた客達が騒ぎ出す。えらそーぅに客に手を挙げ、『見ていろ』と言わんばかりに大きく頷(うなづ)く。大きな声を出して人足達を威嚇(いかく)する。

やい!てめえ達ぃッ、さっさとお客様を運びやがれッ!」

「ふん!」

人足達はもの凄い顔をして九市を睨みつける。(ギロッ)初めて睨(にら)みつけられた九市は驚きと圧倒的な迫力に思わず後ずさった。

「うッ、うゥゥ・・・・・」

そして凄い勢いで逃げて行ってしまった。


わあぁーーーーぃ!


人足達は大歓声を上げた。

「テメエなんかにゃ、用はねぇーよーッ!」

「おととい来やがれぇー!」

「うひゃッ、ひゃッー!」

九市と手下が居なくなるのを確認すると、覚一と六助が様子を見ていた客達に話しかける。

お客さぁーん!ご迷惑を掛けて申し訳ねぇですー。これには深ぁーい訳が有るんですッ


聞いて下せぇーーい!


何百人と居る客や野次馬達に覚一は話し出す。

「あっし達は皆さんから高い銭を頂いていやしたが、あっし達は本当は貰いたくねえんです。タダで運んでやりたかったんです!」

覚一がそう言った途端に、どよめきが興る。

「なのに、あの【九市】と【狸七】が聞かねえんです。だからどぉーしても、あっし達の要求を呑ませるにはこうするしかねえんですッ。わかって下せぇーーッ!

二百人ばかりの人足達が居並んで頭を下げる。

「どうか皆さん!あっし達を助(す)けておくんなさいッ!」

「応援するぞぉぉーー!」

「任せといてぇーッ」

「気にせずに頑張れぇーッ!」

覚一達は、客の中にどうしても開道を渡らなければならない急用の者が居ないかどうか、訊いて歩いた。不思議にも余裕があるものばかりだった。

「不思議だねえ~、いつもならあり得ないよ」

「【九太夫様】と【ナサ様】の為せる技ですよ」

「ああ、違いないぜ」

そして翌日。

正午近くになると、いつものように人足達が座り込んでいる。そばには千人近くに膨れ上がった凄い数の観客達。狸・獺・猫・河童・狐・熊に狼にets.・・・

すでに近在の者達の物見遊山状態になっていた。ストライキも四日目になると段々と慣れ堂に入ってきた。






熱も下がり、喉の痛みも楽になりました。ご心配をおかけしましたがもう大丈夫です。今年の風邪はキツいです、皆様も健康を過信せず、ご自愛なさってください。健康が一番です。



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第十章 開道 ガンバルきゅー助3

前回


きゅー助にハッパをかけられた人足達は、今までの鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように張り切る。文句を言いに来た九市を手もなく追い払うと傍観していた客達に事情を話す。客達を味方に付けたストライキも三日が過ぎた。



はじまり、はじまり



四日目になった。
まず【九市】の輿(こし)が人足達と客達の間に割って入り、輿から九市がのっそり出て来た。その滑稽(こっけい)な姿に皆はグッと笑いを堪える。九市は昨日よりさらに偉そうに反っくり返っている。その姿に皆は大笑いした。


わッ、はッははーー!


『キッ』と睨(にら)み返し気色ばむがさらに笑われ九市は情けない顔になってしょげ返っている。そばに居た手下も居たたまれない。

そんな時だった。九市の輿より数倍立派な輿がやって来た。


どけえ!どけえ!【狸七りしち】様だあ!


狸七の手下が大音声で叫んでる。
その声を聞くと九市の顔に喜色が蘇(よみがえ)る。九市は転がるようにして狸七の輿の前に行き、戸を開けようとしていた狸七の手下を突き飛ばし自らが開ける。

見ていた人足や観客達は大爆笑。

螺鈿(らでん)と蒔絵(まきえ)でキラキラしている輿が開くと、銀色の太い尾っぽがだらりと下がる。
それから、『ぬぅっ』と狡賢(ずるがしこ)そうな狸の顔が現れる。

さすがに【獺の九市】とは格が違う。狸国の王族たる威厳が自ずと備わっているので、そこに居た者たちの顔が途端に引きつる。

ヘラヘラして九市が手を差し出すとその手を『ぴしゃり!』と叩く。一瞬『ムッ』とした顔をした九市だったが、狸七にジッと見られている事に気が付くと又ヘラヘラし出す。

狸七はのそりと輿から出ると周りを見回す。見られた者たちは首を竦(すく)める。さっきの元気は何処へやらの覚一と六助達、『しゅん』としてしまう。

お前達!ここで何をしている!」

狸七の声は低く陰惨(いんさん)だ。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
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何をしてようとおいら達の勝手だょッ!


人足達の後ろから飛び切り明るい声がする。


皆、顔を上げてしっかりしろ!」ヒコ爺や田平の声。


人足達を掻き分け、きゅー助が元気よく狸七の前に立つ。やっと来た出番に嬉しくて仕方ないよう。張り切るきゅー助の毛並みは増々輝いている。

「お前は?」

「本家元祖の族長さ!」

「ふん!何を言ってる、族長はこの九市だ!」

九市の首根っこをつかまえ、きゅー助の前に突き出す。

「こいつは違う!只の獺だ。おいらは【九太夫】の息子の【きゅー助】
おいらこそが族長だ!


「何を言ってるんだッ!」

うぅ~るしぇぇーッ!わしらはきゅー助様を族長と認めているんだぁーーッ!」

ヒコ爺が叫ぶ。
それが合図のように皆も騒ぎ出す、一瞬戸惑う顔をした狸七だが直ぐに平静になる。

「ふん!何を言いやがる!」

きゅー助が徐(おもむろ)に話す。

「あんた達には一生わからないだろぅねッ。そんな立派な輿に乗って、、、
その輿を背負う者の気持ちを考えた事があるのか?」

きゅー助の言葉に狸七と九市の手下が驚く。

「ふん!」

「此の川は銭を払わなければ渡れないなんて誰が決めたんだッ!答えろッ!!」

きゅー助の余りの剣幕に狸七も九市も驚く。

なっ、何をーッ!?」

狸七は思ってもいなかった事をきゅー助に突然言われ、いつもの頭が働かない。


早く答えろッ!!!


そこに居た者皆、二人を睨んでいる。


答えやがれーッ!


嘘付いたら承知しねえぞッーー!


ものすごい野次が飛んで来る、怒りで爆発しそうだ。流石の狸七も後ずさりをする。

「それは狸七さんですーッ!」

九市が叫ぶ。


何だとおーッ!?貴ッ様ーーッ!


もの凄い顔をして裏切り者の九市を睨み返して殴りつける。

「おい、狸七ッ!それじゃお前の一存だったのかッ!!」

「くそおーッ!そっ、それわッ、、、」

「狸国の王たる【狸兵衛りへい様】のお言い付けならば、我慢もしようがお前は王ではないッ!ましてや九市は族長でもなんでもない!

いいかッ、これからは一つの団栗餞(どんぐりせん)も貰わない。狸も獺も昔の仕事に戻る。おいらは今から狸兵衛様に会いに行き開道をもっと長い時間開けてもらうように頼んで来る。できない筈は無いんだ。大晦日は一日中開いているのだから」

「それならあっし達も一緒に行きやす。前に狸兵衛様に訴えに行った奴は戻って来なかった。きっと狸七に殺されたんだ!そんな真似は二度とあっし達がさせやしねえッ!」

「わしも行く!」

「私もー!」

行く行くの大合唱になった。

「よし、皆で行くかーぁ!」


うおーーーっ!


きゅー助達は【狸七】と【九市】を無視して歩き出す。二人が転がるようにして前に出る。

まッ、待ってくれ!たッ、頼むから待ってくれッー!」

「お願いです!おッ、お待ち下さいーぃッ!

きゅー助は手を広げて皆の足を止める。

「聞いてやろうよ、次いでにさ」

爆笑が巻き起こる。

「さっ、皆聞いてくれるってよ。話しなよ」

狸七は言葉が出てこない。九市の滑る横腹を思いっ切り抓(つね)る。

『ひぃいっ』

変な声を出す。睨まれ仕方なさそうに話し出す。

「あのお、、、【狸兵衛様】のとこに行くのだけは止めて欲しいのです、、、」

「だめだねッ!」

「あのお~、そこを何とか、、、開道の時間は延ばすようにしますのでお願いしますッ!」

「だめだよッ、そんなの信じないよッ!」

「信じて下さいー!絶対にそうしますから!」

「そうね~それならどのくらい延ばしてくれるのよ?」

「あのお、、、」

九市は狸七の顔を見る。狸七が耳元に何か囁(ささや)く。

「二十二回はどうでしょう?」




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今日は最高にステキなプレゼントをリン友のむらななさんから頂きました。
もう嬉しくて喉の痛みもどっかに行っちゃいました。
漢字で五黄猫国往来記って・・・すごすぎる。
ありがとう~~嬉しいよぅ~~

クリックすると大きくなります。
muranana.jpg

むらななさんのブログマスク&雑貨♪気ままにステッチ日記に是非遊びに行って下さいね。可愛らしさ満点のアップリケの作品が沢山あります。
横浜ウォーカーにマスクの作品が掲載されています。


第十章 開道 ガンバルきゅー助4

前回


狸七と九市に対峙(たいじ)したきゅー助達。ひるむ者達にヒコや田平の叱咤(しった)が飛ぶ、きゅー助は待ちかねた出番に生き生きしている。堂々と詰問するきゅー助にたじろぐ狸七達、いつしか二人は圧倒される。



はじまり、はじまり



きゅー助は黙って睨(にら)む。

「あ"、そうですよね?」

振り向くと狸七が耳元に囁(ささや)く。

「それなら二十五回はどうです?」

「ふんッ!黙って聞いてりゃ、いい気になって!ふざけんなよッ!百回だよ!『ひゃっかい!』それ以外は聞かないよ」


ええーーッ!?


九市は驚いて狸七に告げる。何も告げなくても側で聞いているのだから、アホらしいことである。暫(しばら)くごちやごちゃ相談していた。

「よし、百回で承知した」

わあぁーーーッ!!大歓声があがる。きゅー助だけは落ち着いて皆を鎮(しず)める。

「今、百回で承知したって言ったね?」

「確かに言った」偉そうに九市は答える。

「お前に訊いてないよ、狸七に訊いてんだ。何で急に話さなくなるんだよ。口もきけない程ビビってるんですかぁ~?

きゅー助にそう言われ狸七がムッとして声を出す。


貴様ーー!


「ふん、話せるじゃないか!それでどうなのよ?」

フン!だから百回で承知したと言っているッ!」

中腹の狸七はつい声を荒げて言う。きゅー助はニヤニヤしている。

「ふぅーん。だけど、なんであんたが勝手に銅鑼(どら)の回数を狸兵衛様の許しもなく決められるのかね?不思議だね~ぇ」

きゅー助の言葉で狸七の顔色が一瞬にして変わった。周りに居た者も、その内にきゅー助の謂(い)わんとしている事が分かり出す。

「元から回数なんて無かったんだろ?」

「何を言ってる獺めッ!そんな事はなっ無いッ!

歯をギリギリして言う。


この野郎ーッ!ただじゃおかねえーーッ!!


ちきしょー、あたいの亭主を返せえぇーー!


怒号罵声が飛び交う。すでに人足も客も見物客もなく一団の群衆となっていた。正午になり、銅鑼が叩かれ始める。

「おい!覚一、六助」

「へい、なんです?」

「銅鑼を『百一回』叩けと言ってこい」

「へっ?」

「いいから、言ってこい」

二人は大急ぎで銅鑼を叩いている伝平に伝えた。

「皆、狸七が百回って言ったよな?」

「へーーい!」

「ああ、言ったぞーぉ」

「確かに聞いたよー!」

「だけど、おいらは百と一回叩けと言った。おいらが回数を決められるかどうか試しだ。
どんな事になるのか、まあ見ていようよ」

いつものように開道が始まった。銅鑼の大きな音がする。群衆の中から銅鑼の音を数え出す者が出てきた。やがてその声はそこに居る全ての者の大合唱になる。

数が増して来ると九市はサッサと逃げ出した。流石の狸七も九十の声を聞くと我慢出来ず、後ろも見ずに逃げて行く。皆は目もくれない。開道を見つめながら大声で数えてる。

『九十九』~!

『百』ぅーー!


『百一』ぃーーー!」


確かに百一回の銅鑼の音が鳴り止むまで、開道は黒い道を晒(さら)していた。銅鑼が鳴り止むと同時に川は元に戻り始めた。


わああぁーーーッ


やったぁーーー!


きゅー助様~、ばんざーい!

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
daisholi.jpg

きゅー助は群衆に担ぎ上げられ、『わっしょい、わっしょい』と大騒ぎ。ヒコ爺や田平や耳子親子も泣いて笑ってる。

覚一や六助達は飛び跳ね回ってる。それから【まま子川】の川岸で見た事も無いような大宴会が始まった。三日三晩続いた。きゅー助はよれよれになってしまった。

だがきゅー助は族長だった。

伝平に『これからは渡る者が居なくなるまで銅鑼を鳴らす事』、『銅鑼の回数等気にせず、渡る者達の無理がないように、ゆっくりと叩く事に専念するよう』に言付けた。

そこに居た者たちはそれを聞いてマタマタ大喜びして収拾がつかない。ヒコ爺がいくら皆を鎮(しず)めようとしても誰も全く聞かない。

きゅー助は何も言わずにヒコ爺達と田平の家に引き上げてしまった。耳子から温かいお茶をもらうときゅー助はホッとする。

「あ~美味しいねッ!きゅー助、お酒よりお茶が好き!」

「ふふ。きゅー助様はそういう処はナサ様似ですのお~」

ヒコ爺は懐かしそうな顔をする。

「しかし大したものです!大勝利ですよ!」

田平が唸(うな)るように言う。

「まだ仕上げてないょ~」

「へっ??」





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第十章 開道 狸七と九市1

前回


まま子川に気楽な気持ちで出かけた狸七。きゅー助と云うリーダーを只の獺(かわうそ)と侮(あなど)ったのが運のつき、人足達を騙(だま)していたからくりを見事に看破されてしまう。

逃げながら頭が沸騰しそうになる、このまま引き下がってなるものかと意地になる狸七がいた。一方ストライキが圧倒的な勝利に終わった人足や観客達は浮かれ騒ぐ、だがきゅー助だけは冷静だった。



はじまり、はじまり



こちらは狸七(りしち)の屋敷。


おのれッ、あの獺めーーッ!絶ッ対に許さん゛ッ!!!


狸七の剣幕はもの凄く、手下は怖くて近寄れない。ギリギリと歯軋(ぎし)りをしながら屋敷中を歩き回り、椅子だろうが花瓶だろうが触れる物は投げつけ八つ当たりをした。

屋敷中の物をどんなに壊しても、めちゃめちゃにしても怒りが収まる事は無い。だが、いい加減八つ当たりする物も無くなり、仕方なく座り込む。

屋敷に手下の姿がない。八つ当たりを恐れ隠れているのだ。狸七は自分では気付いていないが独り言を言う。それも大きな声でベラベラとまるで誰かと会話をしているように聞こえる。

「あの野郎ッ、確かに九太夫の息子と言っていたなッ?ムゥ・・・今頃出てくるとは、、、それにつけても九市のボンクラ野郎めッ。只もう、『人足達が仕事をさぼってる。怒やしつけてくれ』の一点張り。

九太夫の息子の事なんて、これっぽっちも言わねえからッ。あのきゅー助とか言うガキ!油断がならねえ。予想もしてなかった事をいきなり言いやがって・・・
チッキショー!

それもこれも九市が俺様に報告を怠ったからだ!あの野郎ーッ、
八つ裂きにしてやるッ!!

怖い狸である。狸七が冷静になり裏切って逃げた九市を呼びつけるのに二、三日掛かった。九市は、あれから自分の屋敷の戸を厳重に閉め、一歩も外に出なかった。全てが恐ろしくなり、大きな長持(ながもち)の中に隠れていた。

九市は兄殺しという大罪を犯してから、何かにつけ大きな木箱に隠れるようになっていた。狭い空間にすっぽり体が隠れていると言いようも無い安心感に包まれる。狸七に呼び出されても、応じるどころか『ヒッ"!?』っと言って出て来ない。

手下は仕方なくそのまま狸七の屋敷に運ぶ。大きな部屋に木箱が一つ、狸七が『フンッ!』と鼻を鳴らす。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
nagamochi.jpg

「おい!いつまでそうしてんだよッ、出て来いッ!!」

ひいーーぃ、どうかご勘弁をーーぉッ!許して下さあぁーーいッ」

「そうか、出て来ないのか?まっいいさ。今、お前が居る所はどこだと思うよ?お前の箱は薪の上に置いてあるのよ。今から火を点けてきれいサッパリしてやろうよ。
おい!火を点けろッ!

狸七は鼻を摘(つま)むと、声色を使って一人芝居。


えっ!いいんですか~っ!?そんなことをしたら、中の九市さんが真っ黒焦げ!いやいや、黒焦げ前に赤剥(むく)れ、、、二度と再び見られた様じゃねえですよ。あ~恐ろしい。くわばらくわばら」

ひぃ"ひぃ"」

狸七は楽しくて仕方ない。弱い者いじめが大好きなイヤ~な奴なのである。

「いいからやれ!」

「それなら油を撒(ま)いたらどうです?一気に燃え上がりやすぜ」

「そうだな、あいつも油でギタギタしてるし、唐揚げだな」

ひゃ"ーーッ!ご、ご勘弁ぐだざあ"ーい゛ッ」

九市は矢も楯もたまらずに木箱から飛び出す、飛び出すと狸七以外誰も居ない。騙された事に気が付いて又、木箱に隠れようとするが首根っこを掴(つか)まれ引き摺(ず)られる。


ぎゃーッぎゃーッ


九市を放り投げ、狸七は木箱の上に座る。どこにも隠れる場所が無い九市は頭を抱え震えてる。

「どこまで性根が腐ってるんだッ!」

(お前も同じと言ってやりたい!!)震える九市は返事も出来ない。

「九市よ~、そんなことしてても事態は悪い方に向かっているだけだぜ。いいのか?このままならお前は【葛花(くずはな)川】には居られない。ああ、忘れてたよ。其れ処か、きゅー助とか云うガキに『親の敵討ちー!』とかなんとか、、、(フッフ)」

「なッ、なんで、そんな事を言うんですッ?誰か聞いてでもしたら、、、」

きょろきょろして周りを見る。

フン!とっくに手下は下がらせてるよ。俺様の一人芝居も気が付かねえんだから頭が悪いだけじゃないね」

「大きなお世話ですッ!私はもう嫌ですッ!金輪際(こんりんざい)嫌ですッ!元は狸七様が兄貴を『殺せ!』と唆(そそのか)して、、、」

「五月蝿い!いくら俺が言ったとしても、本気でやったのはテメエだろがッ、罪はお前にあるんだよ!兄殺しという大罪を犯したのはキサマさ!

なっ、何を言うんです!?あんたがあの鏃(やじり)を私に寄越したくせにッ!
あっあれさえなければ、あんな事はしなかった、、、」

どこまでも醜い言い争いを延々と続ける狸と獺。殴り合いにならないのは痛いし、疲れるからで性根までとことん似てる二人であった。しかしさすがに言い合いにも疲れお互いが黙り込む。






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第十章 開道 狸七と九市2

前回

狸七(りしち)に呼び出されても九市は長持(ながもち)に隠れ出てこない。今では木箱だけが九市の安心できる唯一の場所になっていた。そんな木箱ごと燃やしてやると脅され、九市は飛び出す。まんまと騙された九市、いつものように狸七と不毛な言い合いを始める。


はじまり、はじまり



「九市よ~。考えてもみろよ~、お前は俺の言う事を聞くしかないんだよ」

「どうしてですッ?」

「だってそうだろ?俺とお前は立場が違う。立場がね~。俺は【陽の神様】に愛されている【王族】だけどお前はよ?

思い出してみな、あの頃をよ。人望もない、嫌われること山の如くのつまんねえ獺(かわうそ)。九太夫ばかり陽に当たり輝いていた。

『ヒネク』れ『イジケ』るお前によッ、燦々(さんさん)と光が当たるようにしてやったのは何処のどなた様のお陰よ?え?」

「ングッ......」

「いくら恩知らずのロクデナシのお前だって、ここまで言われたら気がつくよな?どなた様のお陰で族長なんて分不相応な立場になれたのよッ!え?聞こえねえよッ」

「ぅッ・・ぅ゛う゛・・・・・」

「まだ言えねえのかよッ!まっいいさ。そのお前はこのままだとどうなるのかね~?どうなるのかなぁ~?人足どもの怨嗟(えんさ)の的(まと)!!唯の小汚い獺に逆戻り、、、

あ~~あ、それどころか命を狙われる身だったりして~~ぇ。あッ!もうそうなっていたっけ?ヒヒ」

「うっうぅ・・・」

泣いている。狸七は優しげに九市の肩に手をやる。

なっ!ここで一発逆転の案が俺様のここにあんのよッ」

狸七は自分の頭を指差す。

「聞きたいだろ?堪んなく聞きたいよなーぁ?今まで通りの暮らしを取り戻す機会を逃す程、馬鹿じゃないよな~?」

「・・・」

「どうすんのよッ、悩む事はないだろう!俺様にお願いしてみなッ。俺様だって、可愛いお前がみすみす奴らに殺されるのを見ているのは辛いよ。

あ~~辛いッ、あ~辛い!辛くて泣ける~

「でも私が兄を殺したって証拠がどこにあるんですッ?絶対にばれるもんですかッ

「なぜさ?これを見なよ」

狸七はいつも首にぶら下げている巾着袋から何かを取り出した。それを見た九市は声もない。

「そッ、そ、それは、、、」

「そうさ、お前が九太夫を殺した矢の先に付いてた鏃(やじり)だよ」

「あの時、、、あんなに探ったのに見つからなかった鏃.....どッ、どうしてここにッ!?」

「ふふ、蛇の道はなんとかだよ。あのナサが九太夫から離れてお前がナサを白々しく慰めていた時に、後ろで九太夫の死体から引っこ抜いたんだよ」

「だけどあの時は私と子分だけだったのに、、、」

「お前が首尾よく出来るか、陰で見ていたのさ~」

「そうだったのか・・・」

狸七はまんまと嘘をついた。元々、二つあった内の一つに過ぎない鏃に勝手に物語をこさえたのだ。九市はすっかり騙された。

「ふふ。これを奴らに見せたらどうするよ?それも物語付きでだ。お前はすぐにも地獄行きだよ。

あ~ぁ哀れだねえ~、可哀相な獺が葛花(くずはな)川に浮いてるよッ!ヒヒ」

「あんたって、、、あんたという狸は、、、悪戸(あくど)過ぎる....ッ」

「ふふ、九市~そこで相談だよ。このままじゃ辛いだろ?だからもう一度、此の鏃を使うんだよ」

え"ーーーッ!そんな、そんなーッ

「何だよ?親に出来たんだもの、子供にも出来るだろーが」

きゅー助をッ!?

「そうだよ。あいつさえ居なけりゃ、後は烏合(うごう)の衆だよ。今までだって言う事を聞いていたんだ。幾らでも丸め込められるさあ。そうだろ?俺だって勿論手伝うし、後押しもする」

「だッ、だけど、きゅー助の奴をどうやって呼び出すんですよ?」

「任せなよ。だけどなんだねぇ~、こうお頭(つむり)の弱い奴を相手にしていると疲れるよ」

「?"・・・・」

「肩が凝るさぁねぇ~」

九市はせっせっと肩を揉みだす。

「なんだか喉もカラカラしてきたなぁ~~」

「そうですか?」

「そうですかじゃねえッ!てめえの長持に取って置きがあんだろよ!みなまで言わせるんじゃねえよッ」
挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
bakashiai.jpg

「はっ、はい。すみません、気が利かなくて」

「フン!早くしなよッ、お前にもわけてやろうよ」

(私のですが・・・)

「あいすみません」

九市が取って置きの酒を注いではお代わりと言われる。

「あの...注いでばかりじゃ、私は呑めませんよ、、、」

「誰が呑んでもいいと言った?」

「分けてくれるって・・・」

「余ったらだよ、馬鹿だぁねぇ~~」

「ひどいッ、、、」

狸七は楽しくて仕方がない。

「首も凝ってきた」

「首なんかありゃしないでしょ?」

「へえーーー、そんな口をきいていいのかね~~?」

「お揉みします!」

「黙ってやりゃいいんだよッ。まったく、みなまで言わせるんじゃないよッ!」

狸七に散々にこき使われ、へろへろになった九市はいつしか逆らう気力もなくなっていた。何もかも狸七の思うがままになる。




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第十章 開道 雪の中1

前回


覚悟を決め「まま子川」に漕ぎだした二人。

一日めは開道に翻弄(ほんろう)され驚きもしたが、概(おおむ)ね旅は快調だった。そろそろ一週間が過ぎようという時、桃吉が不気味な音を聞く。

オロの反応は素早かった、急いで川に飛び込む。桃吉も綱に引っぱられるように飛び込んだ、大カマスに寸でのところで食われそうになりながらも逃げ延びる。

疲れ果て力が抜けたように眠った、寒さに目覚めた二人を出迎えたのは寒風吹きすさぶ冬景色だった。



はじまり、はじまり



狸七と九市がとんでもない悪企みを相談している頃、オロと桃吉は【地獄三山】に差し掛かっていた。

「あ~~ぁ、腹減ったぁ~」

「何でも食べ物に見えるょぉ」

「へへ、本当だね~」

「あれは岩魚の薫製(くんせい)だよ」

葉を落とした楓(かえで)や櫟(くぬぎ)を見て言う。

「似てる、似てる~!あっちは天魚だね?」

あはははー

二人はあれからチーズの欠片(かけら)以外、何も口にしていない。食べ物を本気で探せば、いくら冬枯れの森とは云え何か見つける事は出来ただろう。

だが二人は気が急くのでそんな事は出来ない。一刻も早く【十字じゅうじ】に会いたいのだ。ようやく森を抜けると目の前には一面の雪景色。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
kakugonoasa.jpg


そびえ立つ地獄の三山が急峻(きゅうしゅん)な姿を見せている。二人は何も言わずに歩き出す。この雪山で【十字】を探そうとしている自分達がどうしようもなく無謀な気がした、ひと言でも声を発したら引き返したくなりそうだ。

雪の冷たさで足の感覚が直ぐになくなる。桃吉は裸同然のオロを見た、がたがた震えている。

「ねえ、オロ」

「にゃッ・にゃ・に・にょぉお」震えで声にならない。

「お前が此の雪山に入るのは無理だよッ。今にも凍死しそうだよ!ねぇッ、俺が探しに行って来るよ!さっきの岩魚の薫製に見えた木のとこに居てよ!」

「しょッ、しょんなこッ・事でッ・で・でけましぇんッ」

「どうしてよー?そんなに震えてさ!見てらんないよッ」

「だ・だッ・だっでデデ・じがだ(仕方)な゛いぃぃ」

「いいから、そうしなよ!」

や゛・やッ・厭だッ・ダッぁーツ

オロは桃吉の言う事を全く聞かない。桃吉は仕方ないのでオロの前にしゃがみ込む。

「ほら、おぶさんなよ」

「にゃッ・にゃん・でにょぉ?」

「少しでも暖かいよ。照れるなよ~ぉ、いいじゃん!」

しつこく言われおぶさる。桃吉は今まで出した事もない馬鹿力でオロを背負いながら歩き出す。オロは何も言わない、桃吉も歩く事に専念をした。少しづつお互いの体温で温まり出す。

「もッ・桃吉あ・あにがとぅッ」

「あれ?少し震えが止まったねー、良かったね!」

桃吉がオロを背負ってから一時間も経った頃、急に雪が降り出して来た。雪の上に点々と続いていた桃吉の足跡が見る見る内に消えて行く、無情にも雪はどんどん激しくなっていく。

遮(さえぎ)るもののない場所だったのでもろに雪と風が当たる。その内、横殴りの雪に息をするのも辛くなって来た。

「オロ!このまま歩いていても迷うだけだ。少し休もうよ」

「ぞッ・ぞぅじょ・ぞうじよ」

桃吉は足を取られながらも、木々の生えてる場所に辿(たど)り着く。オロは大分弱っている。休めそうな大木を見つけると急いで木のウロから雪をどかす。

どうにか二人が休める程度の広さになるとオロを中に入れる。体が氷のように冷たい、薄緑の身体が青くなっている。

オロ!寝ちゃダメだよッ。
オロってばッ!

「うッ?うっ、うん。ねッ、寝な・ないぃ、、、ぃ.....」

オロの顔や身体を一生懸命に擦(こす)るが目をつむったままだ。桃吉は自分の身体を精一杯膨(ふく)らます。濡れてはいるが毛が立ち上がる。

ぶるぶる』っと大きく身体を振り水滴を飛ばす。『ふわふわぁ』になった自分の毛皮でオロを抱え込み包んだ。オロに雪がかからない様に自分の背中を外側に向ける。

背中にはすぐに無情の雪が積もって行く。オロは目を閉じたまま、ぴくりともしない。
桃吉はきゅー助に心の中で詫びた。

(ごめん、こんなとこでぐずぐずしてる.....)

二人の意識が遠くなっていく。




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今日、とても嬉しいプレゼントを園長さんから頂きました。ブログのコメ欄でヘビ苺が欲しいーーとずうずうしくもねだったら、なんとすぐに使用できる焼酎漬けを送って下さいました。他にも梅酢やお煎餅も。

ヘビ苺はとてもよく効く虫さされのお薬なんだそうです。その他にも効能があるそうです。
園長さんはとても博識があるのでいろいろと勉強にもなります。

是非気楽に役立たZOOに訪問して下さいね。

クリックすると大きくなります
mushisasare.jpg

第十章 開道 雪の中2

前回

二人は無謀にも雪山に足を踏み入れる、オロはじきに寒さに凍えてしまう。桃吉はオロを背負いながら当てのない雪山を歩いて行く。

どんどん強くなる一方の雪、仕方なく歩く事を諦め大樹のウロに身を寄せる。背中に降り積もる雪。二人の意識は遠くなって行く。


はじまり、はじまり



yukinifurarete.jpg
挿絵参照↑↑↑  絵をクリックすると大きくなります

「うん?何だあれ?桃色??

桃吉の背中を揺する者がいた。何度揺すられても桃吉の意識は中々戻らない。

「おい!大丈夫かッ!」

一番に目覚めたのは桃吉だった。前に見たような光景だった。暖かい部屋に穏やかな明かり。薄ぼんやりとした意識が戻ると、桃吉は飛び起きオロを探す。

オロッ!オローッ!オロはッ?」

「その河童か?寝てるぞ。見つけたときは死んでいるかと思ったが、お前が暖めていたから生きとる」

桃吉は助けられた事にようやく気が付いて礼を言う。

「あの、、、本当に有り難う御在ます。ひっ!?てッ・て・天狗ぅーッ!」

「ふはあ~。お前、天狗(てんぐ)を見るの初めてのようじゃの」

「えっ?いッ、いいえ。見た事あるような、、、ないような・・・・・」

「わしは、大天狗の【おーてん】じゃよ。お前は?」

「あっ、失礼しました。俺、桃吉って言います」

「はて?『桃吉』とな、、、聞いた事あるような、ないような・・・」

「あれ?起きたようですね」

大きな【おーてん】の陰から山猫が顔を出した。【おーてん】は《赤ら顔》に《大きな鼻》《目は金色》で爛々としている。

顔を出した山猫は、はっきりとした《黄色と黒の虎柄》にやはり《目は金色》耳毛がふさふさしている。桃吉は助けられたのに怖くて声も出ない。


ひっ゛!


「困ったね、あたしはお前を食べやしないよ」

「しッ、しつ礼しましたッ!俺は桃吉です。助けて頂いてありがとうございます。こっちで寝てんのはオロです!」

「ふふ、桃吉か。桃色だからかな?」

「はっ、はいそうです!ご、五黄様が、、、あれ?・・・」

「どうしたの?」

「へっ?いえ、、、俺、猫になってからの事があんまり思い出せなくて・・・」

「お前、前があるの?」

「えっ?そんな~、前科みたいで厭(いや)だなぁ~。俺、悪い事なんかしてません」

「変な猫」

「俺は変じゃありません。あれれ?何か言ったような言葉だなあ、、、」

猫同士が噛(か)み合わない会話をしている時だった。オロが気が付いた。目をぱちくりさせている。

「河童が気が付いたよ」

「あっ、オロッ!オロしっかりしてッ!俺達、助けてもらったんだよッ!」

オロの意識もしっかりしてくると、オロもおーてんと山猫に礼を言う。

「ありがとうございます」

「良かったのお~。お前が死ななかったのは、そこの桃吉の御陰じゃよ。わしが見つけた時、お前をしっかりと包むようにしておったよ。

背中がカチカチに凍り付いておったわ。背中を外に晒(さら)していたからじゃろ。桃色で良かったのお~!目立ってたよ」

それを聞き、オロは桃吉に抱きついて『ありがとう!』と泣いた。

とんでもないっ!俺だってオロに助けられた命だものー!」

猫と河童はワァワァ泣いてる。おーてんと山猫は微笑ましい二人を見ている。

「のお、【十字じゅうじ】よ。何か温かいものを」

「はい」

【十字】は湯気の立つ鍋から白濁した液体を湯呑みに注ぐ。

「さっ、甘酒を飲みなさい」

桃吉もオロも山猫の名前を知って驚いた。

「じゅッ、【十字】さん?・・・」

「はい、あたしは『山家猫やまがねこ』の【十字】です。それより早く飲みなさい」

「は、はいっ!」

遠慮していた二人も、ぷぅーんと甘い薫りがする甘酒に抵抗できない。蕩(とろ)けるような顔をして、久しぶりに飲み物を口にする。

一旦、飲み物を受け入れた胃袋は、忘れていた活動を再開したと謂わんばかりにお腹をぐうぐう鳴らし出す。余り鳴るので恥ずかしくなって下を向く。

「ふふ、大分食べてないだろう。お粥を用意してあるからね。遠慮しないで全部お食べ」

【十字】は心のこもった食事を二人に振る舞った。温かい《お粥》、塩の利いた《梅干し》柔らかくて甘い《南瓜の煮物》

「美味しいぃねぇーー!」

「うん。堪んないねえーッ!」

美味しそうに顔を見合わせながら食べている。

「美味しそうに食べるのお~。【十字】も作った甲斐があるのお」

「本当に作り甲斐がありました」

二人は『アッ』っという間に鍋を空にした。腹がくちくなると二人の目は今にも閉じそうになる。

「オロも桃吉も寝なさい。今日はぐっすりと寝なさい。」

「はいぃ・・・そうします」

「おやすみなさぁぃい」

【十字】が雲布団を持ってきた。雲布団を見た桃吉は途端に目が覚めた。

あっ!雲布団!!」

「良く知ってること」

「だって、俺これで寝たことある!」

えーッ!そうなのッ?」

三人の会話を聞いていた【おーてん】が『うぅむ』と唸(うな)り出す。

「おお~、そうじゃ、そうじゃ、桃吉じゃ!【ノン吉】が必死に探してる猫じゃ!」

「えっ!?ノン吉って、、、ノン吉様が桃吉を探してる??俺達、ノン吉様に会いに猫宿に行こうとしてました」

「おお、そうか!ノン吉はなんでも桃吉が竜巻に巻き込まれて行方不明になったと、、、」

「桃吉がその竜巻から飛ばされたのを俺ときゅー助で助けたんです!」

「おおー!そうじゃったのか!それは、それは、ノン吉になり代わり礼を申す」

「桃吉って、ノン吉様とどう云う関係なんですか?」

「ノン吉の可愛い弟分らしいぞお」

え゛ーッ!俺ってそうなの!?」

すっとぼけたことを言う桃吉を皆が見る。(チロッ)桃吉を無視して話し出す。

ペラペラ




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第十章 開道 雪の中3

前回


二人はおーてんに助けられた。話をしているうちにノン吉が必死になって探している猫だと気がつく。記憶があいまいな桃吉はよくわかっていない。


はじまり、はじまり



「良かったですねー、見つかって!」

「おお!泣いて喜ぶぞーッ!」

「そんなに探していたんですか?」

「そうなのじゃよ!【うーてん】も【さーてん】も【ぐーてん】ものおぉ、子分達を総動員してなあぁー」

「そうだったんですかッ!?知らなかったーッ。桃吉は人間だった頃の事は良く覚えていたのに、猫に成ってからの事は【ノン吉】様の名前しか覚えてなくて、、、」

「ボケ茄子じゃのお~」

「俺はボケ茄子じゃありませんッ」

「ほっほー。生意気じゃのお~、ノン吉そっくりじゃ!」

「ふふ、やはり弟分だけありますね」

「これでノン吉の喜ぶ顔が見れると云うもんじゃッ」

「おーてん様も良う御在ました」

「しかしオロよ、【猫宿】とここは余りに離れておるが、、、」

あっ!大変な事を言い忘れていたッ!ボケ茄子の桃吉の事よりも」

「だから俺はボケ茄子じゃないってばぁー」

「五月蝿い、桃吉は黙って!」

「ぶーーッ」

「おい、桃吉!」

「何よ?」

「怒ってる場合じゃないよ。ほら、腹の中に有るもの出しなよ」

「へっ?あっ、そうそう。(ゴソゴソ)これッ!これ、見て下さい!」

桃吉は腹のポケットから桐箱を取り出した。蓋を開けると白く輝く鏃(やじり)が見える。

こ、これは・・・」

十字の顔が曇る。

「なぜ、これをあなた達がお持ちなんですか?」

「あのお・・・これは氷鋼(こおりはがね)の鏃ですか?」

「はい、これは間違いなく私がつくりました」

「うぅむ.....十字、どう云う事じゃ?」

「はい。これは私が狸七様に頼まれてつくりました。だいぶ以前に、、、」

「狸七にじゃと?」

「はい。何でも【まま子川】にいる【大カマス】を退治するとのお話で御在ました。それがなぜここに?」

オロと桃吉はその謎を話し出した。

【九太夫】殺害に使われた鏃である事、【きゅー助母子】の話、そして【開道】と人足達の話。山猫の十字は話を聞き終わると真っ青になり、ワナワナ震える。

おーてんは怒りで益々顔を赤くする。段々と顔の血管が浮き出て、金の目は今にも飛び出しそう。犬歯はズルズル延びてきた。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
OutenJuji.jpg


けしからん奴じゃーーーッ!


「私の鏃でそのような恐ろしい事を企てたとは、、、
山家(やまが)の十字を誑(たばか)りやがってッ!!


金色の目の血管がプチプチと切れ赤く染まる、毛は全て逆立つ。爪は黒く伸びていく。二人は【うーてん】と【十字】の変化(へんげ)に恐ろしく声も出ず、頭を抱えて目を瞑(つむ)る。


こッ、怖いよぉーー!


の・のの、ノン吉あじきぃーーッ!


桃吉は十字の変化がノン吉の姿と重なり、そのショックに因り全ての記憶が蘇(よみがえ)る。うーてんと十字は二人の怯(おび)えようを見て、やっと自分達が変化していることに気が付く。

「おっ?これはいかん、いかん」

「つい変わってしまいました」

二人は早速、元の姿に戻る。

「おい、もう怖くはないぞ!」

「ふふ、目を開けなさい」

オロは恐る恐る目を開ける。開けた途端に『ひっ』と言って、又目を瞑る。確かに元の天狗と山猫に戻っているのだが、このコンビ、元から恐い顔。

おーてんと十字が二人を覗(のぞ)き込むようにしていたので、尚一層迫力がある。

「しかし狸七がのお、、、」

「何の為にそのような事をしたのでしょうか?」

「そうじゃ、銭など必要もないじゃろ。狸国で幾らも造っているのだし、、、」

「はい、本当に不思議な事です。不思議と言えばこの鏃は一つだけですね?もう一つある筈ですが・・・」

十字の何気ないひと言にオロと桃吉は素早い反応をした。

十字さん!もう一つ鏃があるって、それって本当ですかッー!?」

二人は怖さも吹き飛んで十字に掴(つか)み掛かる。

「はい。狸七に予備も欲しいと言われていたので、二つこさえました」


たッ、大変だよぉーッ!きゅー助が狙われるーーーッ!!


どーうしよーぉ!どうしよぉーーッ!」


「何じゃ?どうしたのじゃ?ええいッ、説明をせんかーッ!」

「お三方、とにかく落ち着いて下さい!いいですか?オロ、あなたがきちんと説明しなさい。慌てるのはそれからです」

「はっ、はい!えぇとぉ、、、俺達の目的は何としても十字さんを探し出して、この鏃を誰に頼まれてつくったものかを尋ねる事。そして御係所に訴え出る事でした。

だけどこの旅をするには【九市】や【狸七】に知られてはまずいので、俺達は【まま子川】を船で行く事にしました」

「【大洞窟】に流されるかもしれないのにですか?」

「はい!間一髪でしたッ」

「大した度胸だ!」

「本当じゃ!大したものじゃッ」

「へへ、照れちゃうなぁ~」

「俺なんか、オロが水練が達者だから助かったんです」

「おお、河童じゃものなあ」

「大カマスに襲われて、あと少しで食べられるとこで、怖かったよねー!」

「うん、助かったのが信じられないくらいだね!」

「それで今度は凍死寸前か?たまげたのおー!」

「ですが本当に大胆過ぎます。私の住まいも知らないのに」

「はい。でもどの【地獄山】かわからなかったんです。急いでいたし、とにかく一か八かで・・・」

「ふふ。おーてん様が偶々(たまたま)散歩されていたから良かったものの」

「はい、俺は寒さで意識はとうに無くなっていました」

「桃吉は偉かったのお~」

「へへ、照れちゃうよ」

「照れる事ないよ、本当にありがとう!」

オロは桃吉の腹の温もりを思い出してジーンとしてしまう。

「あっ!いけないっ、話を元に戻します。それで俺達は考えたんです。狸七達の目が俺達に向いたら、どんな邪魔をされるかわからない・・・

それで、きゅー助があいつらの目を自分に向けるようにする!という事になりました。

きゅー助は開道の人足達に仕事をサボらせ、開道を渡る旅人達を味方につける為に『タダで旅人を渡らせたいので九市と交渉している、だからこうしてストライキしている事を理解して欲しい』って旅人達に話して味方になってもらうって、、、」

「それは旅人にとっては有り難い話ですが、銭を貰わないのは人足達にとって辛いことですね、、、」

「はい。でもそれを納得させて、一人の欠けもないように人足達を一枚岩に纏(まと)める事が出来なくては、きゅー助は親の敵討(あだう)ちも、ましてや、族長にもなれないと云う事になります。

俺も桃吉もきゅー助には絶対に出来ると信じています!」






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第十章 開道 雪の中4

前回


清廉潔白なおーてんと十字、オロの話に驚愕(きょうがく)し怒りのままに変化(へんげ)をする。見ていた桃吉は余りの恐ろしさに、どうやらノン吉を思い出したようだ。


はじまり、はじまり


「確かにそうかも知れないですね。きゅー助が人足達を纏(まと)める事が本当に大事ですね」

「だが九市と云う獺(かわうそ)相手なら何とかなろうが、あの小賢しい狸七(りしち)が出ばって来ると中々難しいじゃろ?」

「はい。俺も心配でしたけど、なんとかなるかな、、、って」

「どうしてです?」

「だって、きゅー助には間違いなく死んだ父ちゃんと母ちゃんの後押しが有る筈。だから今は考えがつかなくも、必ず狸七達が『ぐうの音』も出ないような知恵を授けてもらえると俺達は信じたんです。

だって間違った事をしようとしている訳じゃないし、それにヒコ爺や田平さん、耳子さんに覚一や六助それに他の者達も味方に付いていてくれるから、そう信じて俺達決断したのです」

「返す返すも大胆ですね。それであなた方は【まま子川】へ。そして、きゅー助は相手の気を引く作戦に打って出たのですね?恐れ入りました」

「それじゃあ、確かにきゅー助は奴らに憎まれとる筈じゃ。まして十字がつくった鏃(やじり)がどちらかの手元に有れば、間違いなく使おうとするな」

「だから俺達、今から戻ります!」

「何を言う?その体では無理じゃ。少しでも体力を取り戻さねばなるまいに」

「でも、ぐずぐずしていて、万が一でもきゅー助の身に何かあったらッ!」

「だから俺が行くよ。この雪山を行くのは無理だ。だけど俺には毛玉が有る。それに俺はもう回復してるし、気力体力ばっちりだぜ」

何を言っとる!どちらにせよ、お前達二人だけで行かす訳にはいかん。わしがきゅー助の元に運んでやる」

「それが良いです。おーてん様なら二、三日できゅー助殿の居る【刺抜(とげぬ)き村】まで行けます」

「そんなに早く!?」

「わしも久しぶりに張り切るかのおー!」

「でも、おーてん様がお運びになれるのは一人だけですよ。あっ、そうだ!桃吉にその役はやってもらいましょう」

「どうしてです?」

オロは不満そう。

「きゅー助殿に命の危険を知らせ、家から出ないように伝えるだけなら桃吉で十分です」

「何か褒(ほ)められてんだか、貶(けな)されてんだか・・・」

「ふふ。オロは私と一緒に【茂吉】様を直接お訪ねしましょう。【御係所】を通していたら暇が掛かりすぎます。あなたなら訴えも良く出来るでしょう」

「どうせ、俺は口下手ですよ」

「何、弄(いじ)けてんだよ。そうか~、体力勝負は桃吉に、頭を使うのは俺にって事ね?ふむふむ納得、納得~!」

ぶぅーッ

「確かに体力はいるぞ!わしと空を飛び続けるのは可成りの骨仕事だぞ、大丈夫かの?」

「やるとなったら、俺も男一匹!桃吉だーぁ!

「ほっほ。威勢の良さもそっくりじゃの~」

「ノン吉様のようですね」

「あっ!そう言えば俺はすっかりと思い出しました。十字さんのおっかない顔がノン吉兄貴そっくりで、それで思い出しました!」

「桃吉、本当かよッ!?」

「うん。オロにも随分心配かけたけど、すっかり思い出したよ!」

「たまには変化もするもんじゃのお」

「ふふ、怪我の功名ですね」

「よし!そうと決まれば行くかの?」

「そうですね。オロ、私の腹のポケットに入りなさい」

えっ?十字さん!入れって言ったって、そんなとこに、、、どうやって入れるんですか?」

十字はオロの頭に手を乗せる。あぁ~ら不思議。見る見る内に背が縮まり十センチほどになり、オロをさっとポケットに入れる。オロは横腹からチョコンと顔を出す。

「ぁったかぃょぉ~、ぬくいょぉぉー!ぉおーてん様~!桃吉の事ょろしくぅー!」

小さいオロがポケットから顔を出して、一生懸命に叫んでる。

「承知した!十字、頼むぞ!」

「はい!茂吉様と必ずそちらに伺います。それでは」

「十字さん、オロが窒息しないように気をつけてね」

「委細承知」

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十字は玄関に出る。この屋敷は一番高い【地獄山】の頂上近くに張り出している岩棚にある。元からオロ達が訪ねられる場所ではなかった。オロは吹き荒ぶ雪まじりの風に身を竦(すく)ませる。

「中に潜って居なさい!寝ている内に着きますよ」

はっ、はぃぃー!

十字はオロにそう言うと、一気にその岩棚からジャンプする。もの凄い跳躍力で見る間に姿が遠ざかる。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
jyuji.jpg

十字が玄関を開けたので強い風が部屋の中を駆け抜けた。


うわぁーーッ!寒ぶーーーッ!!


机の上に置いてある、大事な鏃の入った桐箱が風でコロコロと転がってしまう。とっさに桃吉はポケットに仕舞った。

「よし、桃吉!わしらも行くかの?」

「はいッ!」

「わしが後からお前の両脇に手を入れる。お前はわしの腕に体重を掛ければよいのじゃ。飛んでいるともろに風を受けるが辛抱するんじゃ、良いな?」

「はいッ、頑張りますッ!」

玄関から出ると強風でよろめいてしまう。おーてんが桃吉の両脇から手を入れて、その手をぎゅっと握る。桃吉は後ろから羽交い締めをされる格好になる。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
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バサッ!バサッ!


凄い勢いで羽ばたき始める。

「ひゃぁ~俺、幸せぇー!兄貴にも、うーてんにもこうして飛ばせてもらったけど、おーてん様は一段と力強いなあ~」

「ほっほ。桃吉は暢気(のんき)じゃのお~」

おーてんは地獄山の頂上に到達すると方向を西南に向ける。雪混じりの強風は桃吉に、玉となってぶつかって来る。強風が胸の中の酸素を吐き出させる。声どころか息をするのも大変になる。

「ぅぐぐぐッ...」

桃吉や!ここいら辺りを過ぎれば雪も風もなくなる。今、少しの辛抱じゃー!」

桃吉は声が出ないので大きく何度も頷(うなづ)いた。





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第十章 開道 どうなる?1

前回

桃吉は二人の変化により、過去の記憶をすっかり思い出す。

十字の何気ない一言が二人を驚かせた、なんと鏃(やじり)が二つあるという。一つは光を放ちながらここにある、だがもう一つは狸七の手元にあるというのだ。

四人はきゅー助の身を案じつつ、二手に別れる。
おーてんと桃吉がきゅー助に知らせ、方や十字とオロは茂吉に直訴に向かう。


はじまり、はじまり



十字の跳躍力はまるで空を飛んでいるが如く【地獄三山】をあっと言う間に越え、中有山、そして真ん中の一番大きい下界山に着いた。下界山の麓(ふもと)には《御係所おかかりじょ》に《魂納めの宮たまおさめのみや》がある。

そこから遠くない場所に【卍宿まんじしゅく】があり、そこには【恵み子の学校】がある。十字は茂吉とは親しいので、茂吉が居る場所は心得ている。

最後の跳躍をすると【恵み子の学校】の校庭に着いた。ホっと一息つくと学校に向かって歩き出す。校舎の近くでブランコをしていた《三吉》と《くるみ》が十字に気が付き駆け寄ってくる。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
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おじちゃーん!どこ行くのぉーー?


三吉が一番に声を掛けて来た。くるみがすかさず三吉の前にしゃしゃり出る。

もぅッ!礼儀がなってないんだから、黙ってなさいよ!」

くるみは三吉を押し止めるようにして、十字に向き合うとニッコリ微笑む。

「いらしゃいませ!私は《くるみ》この子は《三吉》です」

「とても礼儀正しいのですね、感心しました」

くるみは誇らし気だ。三吉は、くるみに怒られ馴れているので平気な顔である。十字のポケットからオロが顔を出す。

「十字さん、もう着きましたか?」

「あ!オロ、着きましたよ。さっ、出ましょう」

わあー!小ちゃい河童だぁ!ほら、くるみ見てよ!」

三吉がオロを見て騒いでる。

もぉーぅ!三吉は駄目でしょッ!お客様に失礼よ」

「ふふ、珍しいようですね。さっ、オロは苦しくなかったですか?」

十字がオロをポケットから出して頭を触ると見る見る内に元の大きさに戻る。

「ひゃーッ!やっぱ、小さいより大きい方が良いよ」

「辛抱させましたね、苦しくなかったですか?」

「全然大丈夫ですよ。それよりふかふかして、気持ちよく寝ちゃいました」


わぁーーッ!でっかくなったーッ!


「三吉は黙ってなさいよッ!あのぅ、お客様は何の御用ですか?」

「あっ、そうですね。すみませんが茂吉先生はいらっしゃいますか?」

「はい、先生は校長室だと思います。三吉!先生にお知らせして来て」

え~ぇ、何でよーぉ」

口を尖らす。

「いいから早くぅ!先生に『お客様がいらしてます』って言って来なさいよー!」

くるみは追い出すように背中を押す。三吉は仕方なく校舎に駈けて行く。

「すみません、あの子は来たばかりですの。本当に躾(しつけ)が行き届かなくて、お恥ずかしい限りですわ」

三吉と大差ない狐の子が、余りに大人びた口を利くので二人は言葉が無い。

「それでは、くるみちゃん。先生の所まで案内をお願いしますね」

「はい、承知いたしました。どうぞこちらへ」

くるみに案内され、二人は石造りの立派な校舎に入って行く。ホールは水晶のシャンデリヤがきらきら輝き、廊下は手の込んだ寄木細工で出来ている。

長く長く続く廊下を、太い尾っぽをクルクル回しながらくるみは先に駈けて行く。可愛らしい。廊下の終わりに大きな樫のドア、くるみが背伸びして開けようとすると先に開く。

ガッチャ

「先生!お客様をご案内しました」

「ふふ、感心ですね。良く出来ましたね」

「はい!あたくしも一人前ですわ」

「そうですね。それではご褒美(ほうび)に[クルクル飴]を上げましょうね」

「わぁ~ぃ☆」

くるみは跳ねて喜ぶ。やはり子供である。三吉はすでに茂吉から飴を貰い、ペロペロ舐めている。

あーッ!三吉、もう舐めてるぅーッ!!」

「へへ」

「さっ、ご苦労様でしたね。外で遊んでらっしゃい」

「はぁ~い」

三吉とくるみは十字とオロに『さよなら(ペコリ)』と、挨拶をして廊下を駈けて行く。茂吉はニコニコして二人を見送り、十字とオロを書斎に誘う。

「お久しぶりですね、十字さん」

「こちらこそ、突然にお邪魔しまして」

オロは茂吉を見てから、カッチンコッチンに緊張している。部屋にもう一人、ひどく大きなが居る。





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第十章 開道 どうなる?2

前回


十字に連れられ夢心地のまま恵み子学校に着いたオロ。二人の可愛い恵み子が楽しそうにブランコをしている。狸国の子供や大人達もこんな風に楽しく暮らせたらいいのにと思ってしまう。

茂吉はオロを見て優しく微笑む。部屋にはひどく大きな猫がどっかりと長椅子に座っている。



はじまり、はじまり



挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
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オロが見た事もない大きな猫である、十字はその猫を見ると驚いて平伏(ひれふ)す。

「またあぁ。十字、そういうのは止しにしなよ~」

「とんでもない事です!!お久しぶりでございます、五黄様!

(え"ッーーー!?)

オロは十字の言葉を聞いて驚き、自分も慌てて平伏す。

「ここに居るのは、オロと申します河童で御在ます」

オっ、オロで御在ますッ!」

五黄はたまたま茂吉の処に遊びに来ていた、相変わらず自分の屋敷には戻っていないようだ。

「困ったなあ~、俺はそういうの嫌いだって言ってんのによ、誰も聞いちゃくれないよ。茂吉~、言ってくれよ」

茂吉は柔らかな仕草で、平伏す二人を立たせるとソファに座るよう勧める。

「五黄様は普通がお好きなんですよ。気にしないでリラックスして下さい」

茂吉はコーヒーを煎(い)れ、二人に勧める。十字はそれどころではないと謂わんばかりに話し出す。

「五黄様、茂吉さん。さっそくで申し訳有りませんが、大変急ぎますので聞いて頂きたいのですが、、、」

「そうですか、、、でもコーヒーくらいはお飲み下さい」

「でっでも・・・」

「あなたがそこまで慌てている、余程重要な話なのでしょう。ならば尚更落ち着くことが大事ですよ」

「はっはい・・有り難うございます。さっ、オロも頂きなさい」

二人が薫り豊かなコーヒーを飲むと、やはり落ち着いた。

「五黄様、茂吉さん。これからこのオロが話す事を聞いて判断して頂きたいのですが、、、」

「はい、わかりました。あなたがオロさんですね」

はっ、はいッ!俺、オロです。よっ、宜しくお願いしますッ」

「こちらこそ。あたしは茂吉です。オロさん、余り緊張なさらずにね」

茂吉の優しい雰囲気と眼差しにオロの緊張も徐々に解(ほぐ)れていく。オロは今までの出来事と、これからの事についての不安を話した。

五黄も茂吉も終止無言だった。余りに黙り込んでいる五黄と茂吉を前にして、二人は段々不安になっていく。ようやく茂吉が口をきいたのは、オロが話し終わってから暫(しばら)く経ってからだった。

「すみませんでした。オロさんの話に衝撃を受けましたもので・・・

これは【狸兵衛りへい】様にまで波及(はきゅう)する問題です。【狸兵衛】様にはあたしでは余りに役不足。是非とも五黄様にお願いしとう御在ます。五黄様、お助け頂けますか?」

目を瞑(つむ)って黙っていた五黄が目を開ける。

「俺が狸兵衛に問い質(ただ)すより他無いだろう。だが裁定を下すのはお前の仕事だと思うが」

「でも、あたしには自信がありません」

「何を言う、お前は天より万物を裁く権利を許されたる者。何の遠慮も無用。狸兵衛とて例外ではない。奴がどこまで知っているのか俺が訊いておく、それでいいか?」

「はい、十分でございます。宜しくお願いします」

「あの~ぉ、、、俺、変な事を言ってましたか?」オロは不安になる。

「いいえ、あなたの命懸けの行動には頭が下がります。とにかくきゅー助殿が心配ですから、急いで参りましょう。五黄様、狸兵衛様の事を宜しくお願いします」

「あい分かった。用事が済んだら狸兵衛の屋敷に参るが宜しかろ」

「はいわかりました。それではお二方は、先に外でお待ちになっていて下さい」

「はい」

十字とオロは五黄に挨拶をして退出する。

「父様、これは有り得ぬ話です」

「俺も狸七(りしち)の噂は聞いている。お前とて同じであろうに」

「でも、、、王族たるものが.....有り得ません」

「お前が初めからそのような色眼鏡で見てどうする。良いか?人国の事もあるのだ。『もしや』とか、『有り得ぬ』と云うのは、今まで無かったに過ぎないことなのだ。

命懸けで訴えて来た河童の言葉にこそ、真実があるのではないかな。とにかく急げ。俺も狸兵衛に会うのは久しぶりだしな。

いいか、性根を据えて事に当たるがいい。下手をすれば狸国は消える」

「やはり、、、そういうことになりますか.....」

「ならぬようにしたいがな・・・」

茂吉は足取り重く部屋を出て行く。五黄にとって狸兵衛は大事な友であり、相撲の唯一無二のライバルでもあった。

「狸兵衛・・・」

五黄は悲し気にひと言洩(も)らし、部屋から姿を消した。

桃吉はその頃、風圧に必死に耐えていた。おーてんの速さは生半可ではなかった。おーてんも老体に鞭打(むちう)って頑張っている。

桃吉ー!頑張れよー!」

ふはぁ~~ぃ!

おーてんは【まま子川】の大河を遡(さかのぼ)り始めた。一日以上経つとさすがにおーてんにも疲れが見えてくる。ややもすると桃吉の足が水面に触れそうになる。

すかさずに巨大カマスが水面近くに浮いて来て桃吉を食おうとする。

ニ゛ャ゛ーーッ!食われるーーッ!!」足をバタバタする。

「おっといかん、いかん!」

そんなことを繰り返しながらも着実に【刺抜き村とげぬきむら】に近づいていた。





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昨日、嬉しいことがありました。
リン友のaunt llama's photoのllamaさんと日々を楽しむそんな日記のぶるーさるびあさんから、ステキなプレゼントを戴きました。ありがとうございまーーーーす。

llamaちゃんの地元産直野菜の数々です。ツヤツヤして季節が溢れているでしょ。
ありがとう~~枝豆が甘くて美味しかったぁ~~
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ぶるーさるびあさんがステキなバスタイムをプレゼントしてくれました。香りがいいのでござーーる。アロマは大好きなのでチョー幸せです。ありがとう~~
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第十章 開道 どうなる?3

前回


元から鏃(やじり)は二つあるのに作り話でまんまと九市を騙(だま)した狸七(りしち)。今や大恥をかかされたきゅー助への恨みだけで凝り固まっている。まるで周りを見ようとはしない。 ことは狸国の存亡にすら関わっていると云うのに・・・


はじまり、はじまり



こちらは狸七屋敷。
狸七は九市をうまく騙してから、ずっと考えていた。

「どうすれば、きゅー助をおびき寄せることが出来るか、、、今回は九市の犯行を隠す必要はない。それより九市がきゅー助を殺した後、奴を捕まえる。そして自分が犯人を懲(こ)らしめると衆目を納得させる。

口の上手い俺に取っては訳もない。次いでに目障りな九市を成敗してくれる・・・代わりの獺(かわうそ)だろうが、狸だろうがいくらでもいる。そうだ!奴には猿轡(さるぐつわ)でも噛(か)ませとけば問題ない。そうすれば自分の思うがままになるフッフフ。さて、どうするかな・・・」

狸七の悪知恵はその日冴(さ)えていた。

「ああ、これがいい!これに決めよう」

狸七に深夜に呼びつけられた九市は、眠そうな目をしょぼつかせている。狸七は優雅にローブを着てワインを飲んでいる。

「呼んだら直ぐに来い!

九市はペコペコして謝る。あれ以来、九市は狸七が怖くてならない。

「狸七様、今時分に何の御用でしょうか?」

「ふふ、良い案が浮かんだんだよ。それをお前に聞かせようと思ってな」

「へへ、それはご親切に。それで・・・」

「いいか?今回は俺様も手伝ってやるよ」

「えっ、何をです?」

「『何をです』だと?この野郎ーッ!

苛(いら)ついて狸七は九市を殴りつける。

痛てーーッ!何すんですッ!?」

ふん!ふざけた惚(とぼ)けをするからだよッ。俺は寝ずに考えていたというのに、それに比べてなんだ貴様の態度は!」

「申し訳有りませんッ」

九市は平伏している。

「まっ所詮、貴様は只の獺。俺様とは出来が違うのだから仕方も無いっか?俺様も一日でいいから、お前のように気楽でいたいよ~」

・・・・・

九市もさすがにムッとしたが黙っていた。一言返せば、後が大変になるからである。

「ほら見ろよ、これ」

狸七は長持(ながもち)の中から弓矢を取り出した。【氷鋼(こおりはがね)の鏃】を弓矢に仕立てたのだ。きらりと白く発光する鏃を見た途端に、九市はその輝きから目が離せなくなる。まるで魅せられたような顔をしている。

挿絵参照↓↓↓  絵をクリックすると大きくなります
warudakumi.jpg

「どうだ素晴らしいだろう?空気を切り裂いて飛んで行くぞー」

「美しいですッ!実に美しい!」

「今すぐ撃ってみたいだろ?」

「えっ?」

「今度もきれいに的に当てるんだ。お前は狸国随一の弓の名手だものなあ」

「へへ」

「どうする?終(しま)うか?それとも手に取ってみるか?」

「終わないで下さい、私に触らせて下さい!」

狸七からもぎ取るように弓矢を貰うと頬ずりをする。

「それはお前だけの物さ」


はいッ!


「いいか?さっきも言った通り、今回は俺も一肌脱ぐつもりだ。良く聞けよ」

「はい!」

「小賢しいきゅー助の奴は、いくら俺達が呼び出したとしても、絶対に出てきやしない」

「私もそう思います」

「ならば、出るしかないようにしてやればいいのさ」

「どうしますので?」

「ふふ、九太夫の屋敷よ」

「へっ?」

「未練たらしい獺連中は主の居ない屋敷を、今だに大事にしてるんだろ?」

「はい。ヒコ爺なんか、私に隠れて掃除してますよ」

「ふふ、火事でも起きたら大変だな~~」

「そりゃもう、大騒ぎで火を消しますよ」

「きゅー助だって、テメエの親の屋敷が燃えてりゃ、さすがに出て来るなあ~」

「もちろんですよ。あっ!そん時に?・・・」

「やっとわかったのか?巡りの悪い奴だよ」

「すみません。でも、そんなに都合良く火事が起きますか?」

「俺様が付け火をするのよ」


え゛ぇ゛ーッ!?


「いいか?俺様が狸国の秘宝である【飛び下駄げた】を履いて、九太夫の屋敷に行く。そして首尾よく付け火をして、一足飛びでここに戻る。こういうことよ」

「あの、、、【飛び下駄】ってそんなに飛ぶのですか?」

「当たり前だ!俺は氷鋼の鏃の為に、これを履いて地獄山の十字に会いに行ったんだ。この【飛び下駄】がなけりゃ、あんな山には行けねえよ。だからよーくわかってんだよ、この下駄の飛べる距離も高さもな」

「そうなんですか?」

「俺の事はどうでもいいさ。問題はお前だ」

「はっ、はい!」

「お前は火消しに夢中になっている獺の中から間違いなくきゅー助を狙う。あいつの額にはいい目印が付いてる」

「額の白い丸模様ですね」

「そうよ。深夜でも火事のお陰で明るいから見間違えようもない。そして心臓目掛けて撃つだけさ~。呆気ない程に簡単な仕事だよな~?」

「でも、その後は他の奴らに勘付かれますよ。そんな大勢が居るとこであの矢を撃ったら・・・私は、、、私は殺されますッ!
絶対に殺されますよッ!

「馬鹿だなあ~。俺が、この飛び下駄でお前を連れてこの屋敷に帰ればいいさ」

「だって火付けしたら戻るって、、、ご自分だけ・・・」

「それは言葉の綾(あや)だよ。気にするな」

「本当ですかッ?本当に連れて戻ってくれますかッ?」

「信じられないのなら、俺が火付けしたら直ぐにお前のそばに行くさ。それならいいだろが」

「それなら、、、いいです」




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第十章 開道 どうなる?4

前回


狸七の奸計(かんけい)にまんまとハマった九市は、魅せられたように氷鋼の鏃(やじり)に頬ずりをする。

頭の中は弓矢を射つことだけで一杯になっている。白く光りながら真っすぐに飛んでいく鏃・・・


はじまり、はじまり


狸七は国中に屋敷をいくつも持っていて、その内の一つがこの屋敷である。自分が留守の時は九市に管理をさせている。

狸七の屋敷から九太夫の屋敷がある【刺抜き村】まではそれ程遠くはない。二人は屋敷を誰にも気付かれないようにして出て行く。

人目に触れぬよう用心しながら森の中を抜け歩いた。小一時間も経つともう息が上がる。

「おい!まだ着かないのかッ?」

「はい、もう間もなくです」

九市が指差す先に黒いシルエットが浮かんでいる。近づくと立派な屋敷が目に入る。

「ここです」

「ふんッ!獺(かわうそ)如きが生意気な、、、」

「何ですか?」

「何でもないわい!それよりきゅー助を間違いなく狙えるよう、いい場所を探すんだ!」

「はい!」

二人が暗い中をよくよく探すと、ちょうどお誂え向きに『あこうの大木』があった。

「これはいい!ここなら狙うに問題ない」

「本当だ!ここからなら百発百中です!」

「よし。それなら登って待ってろ」

九市は弓を背負って木に登っていく。狸七は九市に持たせていた油入りの大徳利の口を開け、屋敷の板壁に少しづつ掛ける。巾着から襤褸布(ぼろきれ)を出し、火を点けて板壁に向かって放る。


ボッ!!ぼおッーーー!


あっという間に火が燃え上がり、辺りは一気に明るくなる。狸七はニヤつくと、急いで巾着(きんちゃく)から飛び下駄を出して履き、『あこうの大木』にジャンプをする。凄い勢いで大木に達すると枝にしがみ付き、よろけながら九市のそばに行く。

九市はすでに緊張をして、油汗を流している。

「おいッ、しっかりしろッ!初めてじゃなし」

「はい、わかってますから黙って下さいよ!」

「ふんッ」

火はゴオーーーッ!と凄まじい音を立てながら、乾き切った木造の屋敷を嘗(な)めていく。異変に気付いた獺達が集まって来て、その内の一人が火の見櫓(やぐら)にのぼり、半鐘(はんしょう)を勢いよく叩き出す。


カン!・かんッ・かんッ・かんッ・カン!カン!・かんッ・かんッ・かんッ・カンッ!


その音を聞いたきゅー助は寝床から飛び起きる。田平と耳子も慌ててる。

「きゅー助様!火事ですッ!どういうことでしょうかッ!?」

「皆はここに居てよッ、おいら行って来る!」

きゅー助が外に出ると、六助が急いで駆け寄って来る。


頭領ーーーッ!大変でーーすッ!!


六助達はあれ以来きゅー助を頭領と呼んでいる。本人が厭(いや)だと言っても誰もきかない。ざわざわと他の者達も寄って来る。

「案内して!」

「合点でえ!」

一団となって駈けて行く。

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kyusukenokiki.jpg

「だ、旦那様のお屋敷がぁーーっ!

ヒコ爺が泣いている。

屋敷を嘗め尽くす火柱が空まで赤く燃やしていた。バチバチ・ガラガラと凄い音がする。男達が竜吐水(りゅうどすい)から一生懸命に水を撒いているが何の助けにもなっていない。

火のまわりは余りにも速く、そばに居るだけで顔も体も熱い。燃え盛る炎が為す術もなく呆然と見守るきゅー助をテラテラと炙(あぶ)る。。

そのきゅー助を憎々しげに見る目・・・弓を番(つが)え思い切り振り絞る。心臓にぴたりと的を定めて息を整えた。

「今だ!撃てーッ!!

はいッ!

九市の手から弓が放たれた。

真っ白い光線が、きゅー助の胸に向かってまっしぐらに走っていく。その白い光に敏感に反応した者がいた。

桃吉だった。

おーてんと桃吉は燃え盛る炎に気が付いた。

「おーてん様!炎が見えるよー」

「なんじゃ?おーおー、何じゃあ?」

「なんかドキドキするよ、そっちに行ってよぉーッ」

「あいわかった!」

おーてんは死に物狂いで羽ばたいた。ちょうど屋敷の真上に差し掛かろうとした時に白い光を見たのだった。きゅー助にはわかりようがなかったが、空から見ていた桃吉にはよくわかった。

暗い茂みから輝く白い光。桃吉は見た途端に自分の体の力を抜き、手を上に挙げる。おーてんからスルッと体が離れた。すっぽ抜けたように桃吉はおーてんから離れると、自分から白い光に向かって落ちていった。


桃吉ぃーーーッ!!







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第十章 開道 桃吉よ永遠に1

前回

皆が火事で大騒ぎをする中、矢は放たれた。唯独り、白い光線に反応した桃吉。とっさに身体の力を抜き、きゅー助を貫こうとする矢に向かって落ちていく。



はじまり、はじまり



おーてんは突然落ちていく桃吉の後を追う。

白い光が一点に目指した先には、きゅー助の胸があった。貫く寸前に桃色の毛玉が邪魔をし氷鋼の鏃は吸い込まれるように桃吉の腹に突き刺さる。


ふんぎゃぁーーーッ!


ドサっ!と云う鈍い音、叫び声。

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sutemi.jpg

きゅー助のそばに桃吉が倒れている、驚いて抱き寄せるきゅー助。桃吉の腹には漆で塗られた禍々しい矢が一本、深々と突き刺さっている。


桃吉ぃーーーーーッ!!


皆が気が付いて、二人を取り囲む。おーてんは着地すると急いで桃吉の側に駆け寄る。


何と言う事じゃッ!


「てっ、天狗様・・・」

驚く者達におーてんは叱りつける。

ええいッ!今はそれどころでないわッ!!」

おーてんは桃吉の息を確認する。

「おおッ、まだ生きとるッ!よいか戸板を運んで参れッ!
何処の家でもいいから急いで運べッ!!


へっ、へーい!!


きゅー助は、オロオロして泣いている。縋(すが)るように運ばれる桃吉に付いて行く。すぐ近くの民家に運び込まれると、おーてんは桃吉の脈を診る。

桃吉は苦しそうに唸(うな)っている。きゅー助は桃吉の手を握っている。ヒコ爺は機転を利かせ、湯を沸かし晒(さらし)を用意する。おーてんが、桃吉の腹に痛々しげに突き刺さる矢をじっと見る。

「己、狸七めッ・・・ううぅむ、、、」

おーてんが徐(おもむろ)に桃吉の横腹のポケットに手を入れると矢が少し動く。何度かしているうちにおーてんがニヤリとした。

しめた!間違いない。よしッ!その方がきゅー助か?」

突然おーてんに名前を呼ばれて驚くきゅー助。

「はっ、はいッ!どうしておいらの名前を?」

「ええいッ、話は後じゃ!それより皆で桃吉の手足を押さえるのじゃッ!」

「はっ、はい!皆押さえてッ!!」


へーいッ!


心配そうに見守っていた者達が桃吉の手や足をがっちり押さえ込む。おーてんは血に濡れ、ぐっしょりしている桃吉の腹に突き立っている矢を見ながら、左手を桃吉の腹のポケットに入れる。

右手には天狗の宝刀である 【天雫刀てんしずくとう】を持つ。天をも切り裂くと云われ、黄金色に輝く宝刀である。その宝刀を矢に当て、スッと横に引くと音も無く矢は折れて倒れる。

よし!桃吉ッ、ちくっとするが耐えろよ!」

左手を入れていた横腹から何かを引き出すようにして、思いっ切り引き抜く。

ぎぃゃややぁぁーーーッ!

桃吉は余りの痛さに失神をする。おーてんの手に握られていたのは形の壊れた桐箱と中に入っていた氷鋼(こおりはがね)の鏃(やじり)、その鏃に突き刺さっているもう一つの鏃であった。

「なんとッ・・・」

そう言ったきり声が出ない、誰もが声にならない。おーてんは箱ごときゅー助に渡し、巾着から止血止めを桃吉の腹に塗り晒を巻く。手際良く桃吉の処置をすませると桃吉に痛み止めの丸薬を飲ませる。

ホッとしたのか、そばに居るきゅー助に微笑む。微笑んでもおーてんの顔が恐いのできゅー助にはわからない。

「きゅー助、取り敢(あ)えずはこれで良かろう」

「あっ、有り難う御在ますッ!!何てお礼を言っていいのか、、、」

「礼などいらんわ。わしにとっても大事なのじゃよ、ここな桃吉はな。それにしても、勇気ある猫じゃー、驚いたわ!」

「おいら、何が何だかわからなくて、、、」

「おお、わしも定かではないのじゃ。只、桃吉がわしの手からすっぽ抜けて落ちたと思い、急いで後を追うと倒れておった。だが、この鏃を見て合点したぞ!桃吉はきっと白い光を見たのであろう。

それでとっさにお主の危険を察して飛び降りたのじゃろ。我が身の事など忘れてな、、、」

え゛ッ!?もっ、桃吉ぃーーーッ!!

きゅー助は大泣きである。周りの者もこの厚い友情に泪する。

「これは奇跡じゃな。お主の父ごと母ごの守りがこうさせたのじゃろ。普通なら射抜かれてる体が九太夫を殺した鏃によって守られたのじゃ。

桃吉は大事に桐箱をポケットに入れておいたのじゃな、、、見事に鏃の中央に突き刺さっておる」

血に塗れた二つの鏃は、九太夫の命を奪ったが、息子の命は救った。そこに居た者達の誰もが桃吉の回復を願った。桃吉は酷い打撲も負っていた。空から降って来たのだから当たり前である。

猫のくせに着地も良く出来ない桃吉だったから仕方ない。おーてんもきゅー助も寝ずに看病をした。桃吉は傷と打撲に因り瀕死(ひんし)だった。辺りが明るくなると、皆が居る民家の戸を急いで開ける者が居た。

「静かにしろ!」

覚一が開ける者に文句を言う。戸が開くと河童と目が合った。

「覚一さん!きゅー助はッ?桃吉はッ??」

「あっ、オロさん!どうぞ」

オロは外に居る者に声を掛ける。

「どうぞ、こちらへ」

覚一とオロが先に行く。後には十字と茂吉が付いて行く。そこに居た者達は言葉もない。伝説の【山家猫やまがねこの十字】に【理(ことわり)知る茂吉】である。

奥には大天狗もいるのである。寝間にはおーてんにきゅー助、ヒコ爺も田平も耳子も雁首(がんくび)を並べて桃吉を見守っている。ぞろぞろ入って来たオロ達にきゅー助が気が付くと泪があふれてくる。

オロぉぉーーーッ!桃吉がッ、、、桃吉がぁ.....」

「ああ、六助さんに聞いたよ、、、」

茂吉がおーてんに声を掛けた。桃吉は目を閉じたまま、唸(うな)りながら痛みに耐えてる。

「おーてん様、桃吉の具合は?」

「ううぅむ...やるだけの事はやったのじゃが、、、如何せん体力がない。十字の家に連れて行った時点で憔悴(しょうすい)し切っておったし、、、それに、ここに来るにも飲まず食わずで、わしと空を飛んで来たからのぉ.....」

「桃吉はそうまでして...その上おいらをかばって、、、」

茂吉がきゅー助の肩に手を優しく掛ける。

「あなたがきゅー助ですね?」

話そうとするきゅー助を目線で制し茂吉は続ける。

「あなた達は己がやれるだけの事を精一杯なさりました。あたしは言葉もない程感動をしています。三人に恥ずかしくないよう、あたしもやれるだけの事はしたいと思います。

今から五黄様を連れて参ります。一刻も早くしなければ桃吉の命は尽きるかもしれません」

「そんなぁ.....」

「オロ、大丈夫ですよ。五黄様ならきっとお救い下さいます。何しろ、この桃吉を猫にしたお方なのですからね」

茂吉は十字と二人で矢のように翔んで行った。









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第十章 開道 桃吉よ永遠に2

前回


きゅー助の命を狙った矢は桃吉の捨て身の行為で阻(はば)まれた。だが桃吉は瀕死(ひんし)の重傷を負ってしまう。茂吉と十字は火の玉となって五黄に知らせに行く。間に合うのか・・・



はじまり、はじまり



茂吉も十字と同じようにジャンプが出来る。一人で行動する時は雲階段よりもこちらの方が速いし手軽なので跳んで行く。二人は飛ぶのと変わらぬ速さで駆け抜けて行く。

知らない狸国の者達は、二つの発光する雲がもの凄い早さで自分達の目の前を通り抜けて行った様にしか思えなかった。

「ありゃ何だんべよ~?」

「すらねえよぉ~」

焦る気持ちに尚、火を点けて猛烈に飛び跳ねた。半日も走り続けるとようやく狸兵衛(りへい)屋敷が見えて来た。火の玉になりながら一気に屋敷に着地する。

呼吸を整え、急ぎ狸兵衛の居室まで駈けて行った。屋敷の者に咎(とが)め立てられることもなく、十字の案内で狸兵衛の居室に辿(たど)り着いた。樫の木で出来た重そうな扉を思い切りよく開ける。

バッターン!

振り返る五黄と狸兵衛。二国の王が並ぶ様子に圧倒される。その場の雰囲気は穏やかではあるが、王達の威厳は光となり、眩(まぶ)しいばかりに放っている。

「五黄様!狸兵衛様!お話が、、、」

「茂吉、久しいの~」

「狸兵衛様・・・」

「行くかの?」

「あの、、、どちらに行こうとしているのかおわかりなのですか?」

「十字、茂吉。狸兵衛は身辺整理をしていたよ」

「え?」

「もしやしてお屋敷に来た時、誰にも誰何(すいか)されずに来れたのは、、、」

「狸兵衛がとっくに屋敷の者に暇を出していたようよ」

「そうでしたか、、、とにかく父様、いえ五黄様!桃吉の命が危のうございます。
お助け下さい!

「なんと!狸兵衛、お前も行くが宜しかろ」

「そうする。お伴させて頂く」

五黄は頷(うなづ)くと呪を唱える。一瞬にして四人は桃吉が居る民家の前に着いた。突然、目の前に現れた一行に驚いて腰を抜かす者や平伏する者様々だった。

六助が慌てて家の中の者達に知らせる。ドタバタと慌てたきゅー助達が表に出て来て、一行に向かって平伏(ひれふ)す。

「きゅー助、遅くなりました。桃吉の容態は如何ですか?」

声も出ないきゅー助の溢(あふ)れる泪が語る。

「五黄様!お願いします!」

「おお、任せるがいい」

五黄達は家に入って行く、きゅー助達も入りたかったが我慢した。余りに畏(おそ)れ多くそばに居る事ができなかったのだ。外で様子を伺っていた。

その場に居た者達の声が無くなる。これからどんなことになるのかと重苦しい雰囲気に包まれた。玄関の土間から、寝間が望める。

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桃吉は既に虫の息、苦しそうに呼吸をしている。おーてんは桃吉の額に濡れタオルをあてる、一行に目をやると首を横に振る。

「おーてん、すまなかったな、後は俺がやるよ」

「五黄か?桃吉はお主より他は助けられぬわ。今にも魂が抜けそうじゃ」

「よし、茂吉よ。俺の背なにある毛を一本だけ抜いてくれ」

「はいっ!」

茂吉は五黄の【火焔太鼓かえんだいこ模様】の中心の毛をそっと引き抜く。

「これを」

五黄はおーてんと反対側に座り、血が滲(にじ)んでいる晒(さらし)を取るように言う。おーてんが外そうとすると、狸兵衛がおーてんの肩を軽く叩く。

「わしにやらせて貰えまいか?」

おーてんは目で頷き、狸兵衛と場所を替わる。狸兵衛は丁寧に桃吉の晒を外していく。氷鋼(こおりはがね)の鏃(やじり)が通った腹の肉は、塞(ふさ)がるどころか赤い血を流しながらパックリ開いている。

茂吉も十字も思わず声を上げてしまう。

「なんと酷いッ、、、」

「これも氷鋼の恐ろしさよ。十字の念を込めて出来た鋼は、皮一枚の傷でも【身魂抜き】をしようとする。傷口も最初より広く深くなってきてる、、、何としても桃吉の魂を抜こうとしておる」

「私の氷鋼がですかッ!?」

「お前が命削(けず)って造るのじゃもの、恐ろしい程じゃ」


五黄様!私の鋼で桃吉が死ぬのは厭です!
そのような事になれば私は二度と氷鋼は造りませんッ!


「何を言う十字、俺に任せておけ」

五黄は桃吉の腹の開いた傷口に自分の毛を一本置く。毛は生き物の様にピンと立ち上がり、ズブズブと桃吉の腹の中に沈んでいく。あーら不思議!息も絶え絶えだった桃吉の呼吸が楽になる。

五黄が腹の上に手をやり、サッと撫でると傷口が塞がってしまった。

お"おぉーーーーーッ!!


周りの者が感嘆の声を上げる。


「これで桃吉は永遠の魂になったな」

「では桃吉は・・・」

十字と茂吉が同時に訊く。

「ああ、大丈夫だよ。但し大分無理してるからな~、かなり養生をさせねえといけないよ」

「五黄!ありがとう。わしには何も出来なかった、、、」

「狸兵衛よ、お前のすべき事はこれからしかない。今まで何もして来なかったお前の罪は深い」

「わかっている。どこなりとも従う」

「よし。それでは狸七の屋敷に赴(おもむ)く前に、きゅー助・オロより話を聞いておこう」

一行は外に出る。桃吉の世話を村の者に任せ、狸兵衛の屋敷に戻ることにした。








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第十章 開道 狸国顛末1

前回


瀕死の桃吉は五黄により救われ永遠の魂となる。妙に従順で大人しい狸兵衛、何やら心に屈託がありそうな。


はじまり、はじまり


近くで話を聞きたかったのだが、五黄と狸兵衛だけでも普通の民家は狭過ぎた。何よりも野次馬が多すぎるので無理だった。

五黄が呪を唱えると、一行は一瞬にして掻(か)き消えた。ヒコ爺も田平もその場に居た者は呆気にとられて声も出ない。耳子だけが落ち着いて、

「ヒコ爺さん、父さん!あたし達が出来ることは桃吉様の看病だけですよ。さっ、お世話させて頂きましょう」

「おお、そうじゃ!皆々様はご自分のやれることを精一杯なさっているのじゃものな」

「そうですよ。そら、皆も仕事があるでしょ!」

名残惜しそうにする野次馬達を覚一も六助も箒(ほうき)で追っ払った。

「耳子さん、あっし達も頑張りましょう!」

「そうしましょう」

一行は狸兵衛の屋敷に着いた。閑散(かんさん)とした屋敷の中を歩いていくと心寂しさに包まれる狸兵衛。力なく開けるドアの奥に平伏(ひれふ)した狸達が居た。

「旦那様ッ!!」

「喜平(きへい)、何をしとる?」

「旦那様にお暇を出されたのはわかっておりますが、この喜平も皆も、帰る家などとうに御座居ません。どうぞ置いてやって下さいませ!」

「ならぬ」

「狸兵衛よ、この者達に罪はない。喜平、久しいの~」

「おおッ、五黄様!お久しゅうございますッ!」

「狸兵衛には俺が何とでも言うから、安心しろ」

「はいッ!忝(かたじけ)のうございますッ」

「そしたらな、俺達に熱いお茶と飯の用意をしてくれ。何も食べていないのさ」

「畏(かしこ)まりましたッ!」

喜平達は用事が出来て嬉しいらしく、キビキビ働いている。茂吉や十字は食べる処ではないと思い、怪訝(けげん)な顔をする。一行に熱いお茶が振る舞われると、皆のささくれた心の角が少し取れた。

茂吉も十字もようやく五黄の気配りを悟る。喜平は喜び勇んで豪華な食事を用意した。喜平の作る料理は定評があった。

熱燗(あつかん)をかけ、ほんのり赤くなった酔っぱらい海老に蟹のすり流しスープ。揚げた青魚の団子と野菜の甘辛あん掛け・大きな鯛の蒸し物の上には生姜と葱の千切り。

煙が立つ程、熱々に熱した胡麻油を皆の前で大きな鯛に掛ける。『ジュッ!』と云う音と共に香ばしい匂いが辺りに漂う。


おお~~~ぉ!


歓声があがる。其れぞれが口にしたこともない料理だったので、アッという間に平らげてしまった。

「喜平の料理はさすがだよ、堪能(たんのう)をした」

「とんでもございません!私こそ楽しく作らさせて頂きました。ありがとうございます」

「ふふ。狸兵衛がこんな旨い料理を作るお前に懲(こ)りずに暇を出すようなら、俺が屋敷に参るがいいわ」

「五黄、、、」

「ふふ、狸兵衛よ。無理をするな」

喜平はお茶の支度を整え、部屋から出て行った。

「さて、オロよ」

「は、はいッ!」

「まずお前が話せ。そして足らぬ処を十字やきゅー助が補足すればよい」

オロは緊張からか、つっかえる処もあったが大体は要領よく話した。ナサの話に始まり、茂吉に訴えるまでの話。十字は、狸七に頼まれ氷鋼の鏃(やじり)をつくった事を話した。

きゅー助は、オロ達が居ない間の出来事を話した。全ての話が終わってからも、狸兵衛は『うぅぅーむ...』と唸(うな)ったまま声も出ない。しばらく沈思黙考していたが、突然皆の前に突っ伏して話し出す。

「申し訳なかった!このような非道が行われているとは、、、否、知らなかったとは言わん!薄々は勘付いておった。だが、わしは調べることもせずに目を瞑(つむ)っておった、何もしなかった、、、狸七を信じていたかったのかも知れぬ・・・否、違う...わしは狡(ずる)かった、、、」

「狸兵衛よ、目を瞑っていてはさぞや不安だったろう?」

「そうじゃな、狸七の事に一度でも目を瞑った。一度でも目を瞑ると今度は耳も塞(ふさ)ぎたくなる。そうして終いには口も閉じた。

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あいつはそれを予想していたかのように、この頃は明からさまになっていた。わしはその内に五黄か茂吉が来ると思っておった。このままで済みよう筈もなし、、、」

「狸兵衛様、あなたらしくもない事をおしゃいます」

「何故かな?これがわしそのもの・・・」

「なれど、それではあの覇気(はき)に満ちたあなた様は一体どこへ行ったと言うのですか?」

「茂吉よ、そんなわしは元々いないわさ」

「えっ、どういうことですか?」

「わしの性根は誠に臆病で情けない奴なのじゃ、、、遥か昔に人国が飛ばされた時もわしは黙っておった。【十二の国】の者達が騙されて奴隷(どれい)になっても、対岸の火事だった。

自国さえ良ければわしには関係のない事じゃった。しかし、五黄だけは別じゃったよ。己の何もかも振り捨てて、【十二族】の存続を【陽の神様】に願った。命を懸けて諫言(かんげん)をした。

わしには到底考えもつかぬ事だった。【陽の神様】が五黄を《王の中の王》としたのは当たり前なのじゃ。五黄にとっては何処の国も何族も関係ないのじゃ。

わしには及ばぬ懐(ふところ)の深さ、、、【陽の神様】が腰抜けのわしやお風、まま子から妖力の半分を奪われたのも仕方ないこと。わしらにはあっても仕様がなかったのじゃからな、、、

奪われた妖力は全て五黄に授けられた。じゃが、強大な力を持ったのに五黄はそれからも今までも何一つ変わらなかった。

わしなら・・・わしならば、とんでもない真似をしていただろう。権力と妖力を後ろにしてな。【陽の神様】は、そんなわしを良くご存知じゃったと思う。

わしは五黄を逆恨みし、やっかみ、そして僻(ひが)んだ。そんなわしの醜い心を奴は、狸七はよーく知っておったよ。わしの外面と内面の違いをよくよくわかっておった。

そこに乗じられた。否、違う、、、例えそうであったとしても、我が弟に一喝(いっかつ)さえ出来ぬわしの本性を見抜いていただけのことなのだ」

「信じられませぬ、、、」

「だが、事実なのじゃ。ここにいるきゅー助もオロもそして桃吉。普通の者達はこうして命を掛けてやるべきことをした。だのに、わしときたら、何もせずにこうして五黄が来るまで屋敷で縮こまっておった。

ほとほと情けない奴じゃ...わしがせめて出来うる事と云えば狸国を返上し、己と狸七の魂を天に返す事だけじゃ」

「狸兵衛よ、それでは何も償う事になってはいない」

「うむ...五黄の言う通りじゃ、、、わしは知恵なしじゃな。独りよがりな事を言ってしまった、、、五黄よ、教えてくれ。わしのするべき事を」

「主は憎い奴じゃ」

「えっ?」

五黄の言葉に誰もが驚く。






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